第9話 オートMリカバー

「う・・ん・・・あれ・・・?」





「銀次君!目が覚めたんだ!」





「えっ!もう意識が戻ったのですか!?」





目を開けるとそこには巨大な山が4つ・・・ってこれはまずい!





俺が倒れていた両脇には東雲さんとエリシア王女が心配そうに上から覗いていた。ちょうど膝枕の形になっているな。顔より先に見える巨大な4つの・・はもういいか、急いで起き上がらなくては。





「心配かけたみたいだ。申し訳ない。」





そう言いながら俺は頭を下げた。皆何度か魔法を使ってるのに一度魔力を出しただけで気絶してしまうとは我ながら情けない。





「デスクワークばっかりで体力0なんじゃないのか?銀次!」





亮汰にそう言われてしまうのも無理はないな。





「俺はどのくらい横になっていたんだろう。」





「2時間程でしょうか?回復魔法をライーザにかけて貰いましたが効果がなかった為、魔力枯渇状態だと思ったのですが・・・」





「違ったんですか?」





「いえ、症状的には間違いないと思われます。ただ普通魔力を全放出して枯渇状態になってしまうと1日~2日は全く意識は戻らず動くことも出来ないはずなのですが・・・」





エミリア王女はそういって首を傾げる。そうなのか。魔力は全部一度に放出しては危険なようだ。





「ちょっと待てよ!俺たちもいつ銀次みたいにぶっ倒れるかわかんねーぞ!」





「それは心配ないかと思いますよ。普通全放出する前に魔法が使えなくなるはずです。スドウ様は魔法でなく魔力そのものを全放出してしまったようです。」





「でも元気になってよかったやん!やっぱ同期が死んでしまったら葬式行くの嫌やもん。」





「勝手に殺さないでくれ。まぁまだ体も怠いしそんなに元気ってわけじゃ・・・ん?」





何だ?俺の体の中に何かが集まって入っていく感覚があるぞ。これは・・魔力か。


体からごっそり抜けた魔力を補うように次々と体に入ってくる。満タンになったのかしばらくすると魔力は集まらなくなった。これはもしかすると・・・





「エミリア王女。魔力は通常何で回復するのですか?それと魔力の最大量は増えるのですか?増えるとしたら方法はあるのでしょうか。」





「魔力は基本自然に回復させます。個人差があるので一概には言えませんが通常の魔法使いなら上級魔法を一度打てば半日は攻撃魔法は打てないと思います。幸い私は魔力最大量が多いようで上級魔法三度は使えると思います。やはり回復まで半日程度は要するかと。」





さすが王女。通常の三倍か。召喚魔法を発動させるだけあるな。





「他には希少価値の高いドラゴンの秘薬があれば一瞬で回復するそうです。見た事はあるのですが使用したことはありません。最大量はレベルアップで多少増えていくようですが・・・」





なるほど。つまり普通に生きている限り魔力を回復させる手段は時間経過しかほぼないという事か。間違って使い切ると数日寝込むと。





「皆。多分だけど俺のオートMリカバーは魔力を使った分周囲から自動で集めて補充してくれるスキルみたいだ。今回みたいに一度に全て使っちゃうと補充に時間がかかるみたいだけど。」





オートMagicリカバーなのかオート魔力リカバーかはわからないけど。





「チッ、なんだよそれ。反則みたいなスキルじゃないか。」





勇人は面白くなさそうに舌打ちした。俺からしたらお前の高ステ、聖剣技って方が反則な気がするんだけどな。





「いや、それが肝心の魔法がね・・・それ、<<フレイムボール>>」





ボフン





なんとなく魔法が使える様になった気がしたから打ってみたが、やっぱりな。


東雲さんや王女にもましてや亮汰にも及ばない小さな火球が出ただけだった。


何故か魔力を変換させる時に邪魔されてる感覚がある。まあ当たれば結構熱いし紙程度なら燃やせるだろう。





「え、詠唱をちゃんとすれば威力が出るんじゃないかな?!」





東雲さんがフォローしてくれるのでもう一度やってみようか。





「『熱く迸る火の精霊よ。標的を焼きたまえ!<<フレイムボール>>』」





ボフン





さっきより気持ーち威力が出たかな?くらいの差しかないな。


魔力の集まり方も恐る恐るというか何かにおびえてるような感じだ。





「しかも魔力を使うようなスキルも覚えてないみたいだしね。」





「ははっ。これじゃ役に立ちそうにないな。なんとなくだけど。」





勇人はさっきと変わって嬉しそうだ。もう少し隠した方がいいぞ。





「でも須藤がさっき出した赤いやつ凄かったなー!魔法打つよりあれ出した方が敵倒すの簡単ちゃうん?」





「んー、でもどうやったのかわからないし、出した途端倒れるんじゃ意味無いだろ。ホントなんだったんだろうな。」





もう一回やろうと思ったんだけどうんともすんとも言わなかった。





「ギンジ殿。申し訳ありませんがこの洋紙に魔力を込めて頂けませんかね。」





そこにギャレスがやってきて一枚の洋紙を手渡してきた。これに魔力を?リカバーがあるし別にいいけど。





「ええ。かまいませんよ。・・・これはなんですか?あ、これってステータス?」





「王女様。これを。」





「・・・ふぅ。よかったです。これはステータスを写す事が出来る洋紙です。王国にも数に限りがありますのでむやみに使えないのですが。」





「・・・っ!そ、それを使うような事態だったと。」





勇人が一瞬動揺したように見えたけど・・気のせいかな?





「はい。心配はなかったようですね。大変失礼を致しました。」





エミリア王女はそう言い頭を下げながらながら俺に洋紙を渡してきた。そこには自分でステータス魔法を使った時と同じ貧弱なステータスと転移者、勇者の称号が記載されていた。いじめかな?





「心配なかったとはどういう意味ですか?」





「先程ギンジ様の出したように見えた赤い魔力です。通常私たちが使っているのは青白い魔力なのですが赤い魔力を持っているのは魔獣、それも高位の物が扱うものであるとされております。」





「えー!なんや須藤!あんたモンスターやったんか!?」





「ケダモノですって!?」





「銀次君の犬・・・へへ。」





女性陣というか姫崎と東雲さんの反応はおかしい。って嘘だろ?俺は転移した際に魔獣になってしまったのか・・





「いえ。それは無いと断言できます。ステータス紙の右上に青い丸印がついていますね?これはそのステータス紙に魔力を込めた者の種族を表します。青は人族、黄色は獣人族、緑はエルフ族、赤は魔獣、白はそれ以外です。ステータス紙は削除や改竄は絶対に出来ません。そういった物なのです。」





そう言われて洋紙の右上を見ると確かに青丸が浮かんでいた。





「それにしっかりと勇者と記載されています。これがなによりの証拠です。先程の赤い魔力は見間違いか勇者としての力の一部だったのではないでしょうか。」





そこまでの証明力がこの洋紙にはあるのか。契約書とかこれで作ったら便利だろうな。





「そうですか。気になったんですけど獣人族にエルフ族ですか。やっぱり人間以外もいるんだなあ。」





「もちろんですよ?勇者様方の世界にはおられないのですか?」





「一応、判っている限りでは人間しかいないと思っていますね。そう決めているのが人間なので少し複雑な思いですが。」





エミリア王女はそうなのですね!と驚いていた。こっちの方が驚いているんだけどな。





「それにしても赤は魔獣といっていましたがどうやって調べたのですか?魔獣は意志の疎通が出来るって事ですか?」





「それは・・・」





「恐らく捕えて実験的な事をしたんだろう。酷いと思うがそれが確実なんじゃないか?」


勇人がさらっと答えた。こうもさらっと実験とか言われるとちと怖いんですけど。目も例の目つきだし。





「・・ジングウジ様がおっしゃる通りです。先人達の努力と魔獣の犠牲により研究を行った結果です。」





エミリア王女は申し訳なさそうに下を向いていたがやがてキッと前を見据えてきっぱりと答えた。王女というだけあって責任を負う覚悟みたいなものを感じるな。





「わかりました。それと最後に白はそれ以外と言っていましたがどう言う事なんでしょう?人間、獣人、エルフ、魔獣の他というと家畜とかの動物とか?」





「すみません。文献にそう書いてあるものを見ただけなので詳しくはなんとも・・。あ、それでしたら勇者様方はこの世界の事をしっかりと知った方がいいですよね?私の先生に色々と教えて頂きませんか?」





確かにそうだな。俺たちはこの世界について知らな過ぎる。


ここはゲームじゃない。なにかあってからじゃ遅いんだ。やっぱり情報は大事だしな。





「ありがとうございます。是非お願いします。」





「わたしも後で聞きたいと思ってたのでお願いします!」





トリップから帰ってきた東雲さんも同じ考えのようだ。





「マジかよ!勉強って事だろ!?やっと社会人になって勉強から逃げられたのに勘弁しろよ!」





「筋肉バカには頭の運動も必要ですわよ?」





「なんだと!このコネセレブが!学校も会社もコネと金で入りやがってよ!」





「それも実力のうちですわ!」





「二人ともやめろって。仕事でも異世界でも知らなかったで済まない事はたくさんあるんだ。しっかり聞いておこう。」





そういって勇人は二人をなだめてくれた。





「では、参りましょう!ライーザさんギャレスさん。ご案内お願いします。」





「はぁ・・メーシー・ローイングの所か・・・気が進みませんが仕方ありませんね。」

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