第8話 赤い魔力
俺たちは兵士と戦闘訓練を続けていた。まあなんというか勇者って凄いんだな。
「おいおい!俺はまだレベル1だぜ!そんなんでいいのかよ!オラァ![パワーナックル]!」
ドンッ!ガンッ!
「グッ!重っ・・・」
シュン!!キィン!
「ウチこんな早く動けたんや!それー斬!なんちって。」
「は、速い・・・!」
「おーほっほほ!!これがいいのかしら?それともこう?」
「お姉さま・・ブクブク・・ガク・・・」
「えーっと。ここかな?えいっ!」
ババババシン!!
「凄い・・!百発百中だ!」
全員レベル1のはずなのに各小隊長クラスでないと打ち合いにもならない。
亮汰のパワーナックルは自己バフらしく一般兵を2~3人まとめて吹っ飛ばしている。
西城はスピードで攪乱しつつ一撃を的確に入れている。姫崎はなんだろう、プレイかな?兵士の顔が若干紫色になりながら恍惚の表情で気絶してるんだけど・・おそらく毒の鞭で締めているんだろう。
東雲さんにいたってはどんな所からも弓で矢を的のど真ん中に全て当てている。お、連続で放った弓矢が上空正面同時に的に刺さったぞ。
で、肝心の俺はというと・・・
カン!カン!キィン!
「ハァ、ハァ、やりますね!勇者様!」
「フゥ、フゥ、銀次でいいぜ・・!」
「ありがたい!ギンジ殿、行きます!」
「来い!おおおお!」
キン!キィン!ガン!
「一本!」
「ハァハァ・・やった!」
熱血バトル物バリの熱い戦いを制した所だ。・・・一般兵との。
本来こんなノリはあまりしないのだが気づいたらこうなっていた。嫌いではないんだけどな。なぜだ?相手の兵もノリノリだったからかな?ちょっと楽しかったぞ。
「なんだ、銀次。やっと一本取れたのか。一般兵士相手に。」
「勇者様・・・」
休憩していたら勇人が絡んできた。勇人がこんな絡み方するなんてめずらしいな。
「勇人。彼も先日入団したばかりだそうで慣れていないんだ。彼の気迫ならすぐにでも小隊長クラスになれると俺は見たけど。」
「ギンジ殿!」
彼は勇人にザコ呼ばわりされて悲しそうな目をしていたが急に嬉しそうな目をしてこちらを見ている。しっぽがあったらフリフリしていそうだな。
「・・ふん。言い方が悪かったな。これから頑張ろうか。お互いにな。」
勇人は小隊長クラスとの訓練に戻っていった。異世界の力に戸惑いと興奮を覚えているのだろうか。
「ごめんな。あいつは悪い奴じゃないだ。ちょっと神経質になってるだけだよ。」
「いいえ!僕も勇者様と共に闘えるように精進します!」
俺たちはがっちりと握手をした。熱血だ。
とはいえ他の高ステの同期からしたら俺は明らかにやれていない。このままでは足を引っ張ることは明白だ。
前に出てタンクよりも後ろから援護が出来た方がいいんじゃないか?
よし、魔法をちゃんと使えるようにしないとな。普通に魔法を、なんて言ってる自分に少しだけ恥ずかしさがあるけど。
ある程度の武器での訓練を終え俺たちは魔法の訓練に向かった。
ここである程度魔法の感覚を掴まなくては。
「勇者様方。慣れない訓練でのご活躍本当に素晴らしく思います。魔法について助力出来る事がありましたらなんなりとお申し付けください。」
魔法の訓練場には俺たちを異世界に召喚したこの国の王女エミリアが待っていた。
謁見の間であった時とは違いピッタリとした戦闘服のような物の上にマントをつけている。
「エミリア王女はこのヴァルハート王国の中でも屈指の魔法の使い手でもあります。」
ライーザさんが補足する。
「おー!こりゃあすげぇな!」
亮汰が興奮しているが・・・
ああ、ドレスではよくわからなかったがこれは目によろしくない。かなりのサイズな様でピッタリした服も相まって相当胸が強調されている。
「よ、よろしくお願いします。」
俺も完全に動揺してしまった。高校生じゃないんだぞ!
「銀次君?」
「須藤君も男子ですわね。」
「ふん!なんやねん!男はちーっと胸が・・ゴニョゴニョ」
女性陣の視線が痛い。東雲さんにいたっては笑顔が怖いぞ。
違うんだ。東雲さん!東雲さんだって負けてないし・・・って変にごまかすのはよそう。絶対に墓穴を掘る事になるからな。
「それではまず魔力を操る訓練をしてみましょう。この世界にはたくさんの精霊がいます。その精霊たちから魔力を貸して貰う様な感覚で意識を集中してみてください。」
言われた様に意識を集中してみる。・・・・難しいな。なんかこう魔力的なものが集まるのを途中で邪魔されるような感じがする。
「お!なんかあったかいのがキタで!」
「俺もだ!これが魔力なのか!」
亮汰と西城もコツを掴んだらしい。ちくしょう、仲間だと思ってたのに。
勇人、姫崎は当然の様な顔をして魔力を出し入れしている。これだから天才は・・・って東雲さんの周りには玉の様な魔力がいくつも浮いてるんですけど。
「シノノメ様は本当に魔力の扱いが上手なのですね!私もこの量を操るにはかなりの集中が必要です!あら?シノノメ様?」
「・・・わあ!ごめんなさい!なんか集中しすぎてしまったみたいで。なんだか周囲から使うならもっとあげるよって聞こえた気がして・・・」
エミリア王女がちょいちょいと目の前で手を振るとぼーっとしていた東雲さんが我に返るようにはっとなってわたわたしていた。
「精霊の声?クス。素晴らしい集中力ですね。とってもかわいらしいし私たちお友達になれそうな気がします。」
東雲さんは、はい!是非!と王女と手を取り合っている。このコンビは素晴らしい。目の保養に。
「えー!まゆまゆはウチのもんやで!どうしもって言うならウチも友達になったるー!」
「ええ!もちろんです!」
どうやら西城は東雲さんを取られたくないようだ。
「では、次は詠唱です。その魔力の塊でも相手にダメージを与えられますがとても効率がよくありません。そこで詠唱により魔力を魔法に変えるのです。」
なるほど。魔力そのものを投げるより魔力を熱や氷に変えて放った方が効果が高いという訳か。
「同じ詠唱でもしっかりと最後まで詠めば高威力の、逆に短縮すれば低威力を連続して使えるように出来ます。」
「エミリア王女が謁見の間で見せて頂いたものは最後まで詠んだとおっしゃいましたね?」
「エミリアでかまいません。ジングウジ様。そうです。少しでも私の魔法を知って貰おうと思いまして。」
ふむふむ。詠唱短縮で連発出来るのか。詠唱無しだとどうなるんだろう?魔法にならないのかな?
「では、基本のフレイムボールの詠唱からやってみましょう!詠唱は最後まで詠みますが威力は抑えますね。」
「『熱く迸る火の精霊よ。標的を焼きたまえ!<<フレイムボール>>』」
ボウ!
王女が唱えた魔法は火の玉となって木偶に命中した。木偶は焼け跡がついており煙が上がっている。これで抑えたのか。結構な威力があると思うんだけど。
「シノノメ様。やってみていただけますか?」
「わたしも真弓でいいですから!じゃあやってみますね!」
「『熱く迸る火の精霊よ。標的を焼きたまえ!<<フレイムボール>>』」
ボワァァ!
東雲さんの魔力はしっかりと魔法になって木偶に命中した。一発でやるとはさすがだ。
しかも威力を抑えたと言っていたが王女の魔法よりも大きかった様に見えたぞ。
「出来た、のかな?」
「シノノ、ではなくマユミ様素晴らしいです!こんなすぐに魔法が打てるなんて!本当に頼もしい限りです!」
やっぱりこちらの世界でもめずらしいのか。東雲さんは凄いんだぞ。俺が自慢する事じゃないけど。
「これが魔法か。スキルより消費が多いみたいだけど使い方次第か。」
「真弓さんに出来てわたくしに出来ないはずありませんわ!」
「なんとか出来たけど趣味じゃねーなぁ。やっぱ殴ってなんぼよ!」
「んー。<<フレイムボール>> お!コツさえつかめばなんとかなりそうやん!」
他の連中も何度か失敗しながらも徐々に魔法の形になってきたようだ。
一方俺は魔力を扱う事に苦労しているんだけど。
「スドウ様は魔力の扱いに慣れましたでしょうか?」
「いえ・・なかなか難しくて・・・」
「銀次!剣で駄目なんだからこっちでは使えるようになれよ!」
「おほほほ!こうですわよ!こう!」
五月蠅いな。亮汰と姫崎が絡んでくるがこっちは集中してるんだ。
えーと、精霊さんよ。少しだけでも力を貸してくれないか?・・・・おっ。
胸のあたりが温かくなってきたような・・・あぁ消えてしまった。
「銀次君おしい!もうちょっとグッてやってみて!そうすればグワーってくるから!」
「才能ないのではなくて?こうですわよ!こう!」
東雲さんグワーって来ないよ。姫崎は相変わらず五月蠅いな。
おい!精霊!頼むから力を貸してくれ!俺だけ置いていかれる訳にはいかないんだよ!
────い
ドクン
えっ?
────くこい────
なんだ?
────速く来い────
ドンッッッ!!!
「出来たのか!・・・うわっ!」
バキィン!!!
突然胸の前に出てきた拳大の赤い魔力?の玉が急速にドッチボール程の大きさになって少し離れた場所にある木偶に向かって飛んで行き木偶に命中した。
玉を受けた木偶が跡形もなく消滅してるんですけど・・・いったい何なんだ?
「おい銀次!今のなんだよ!お前がやったのか!?」
「いや、わからない・・・け・・ど・・?あ、だ・・めだ・・」
急に体の力が抜けてバタンと意識を失い倒れてしまった。
「銀次君!」
「ちょっと須藤!大丈夫!?」
「赤い・・魔力?そんな・・・馬鹿な事・・・」
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