第5話 謁見

翌朝、日が出てきた頃にメイド、じゃなくて侍女の女性が運んでくれたフルーツと昨日の夜も貰った紅茶とコーヒーを合わせたような飲み物を飲んでいるとライーザさんが扉を開けて入ってきた。





「おはようございます。勇者様方。昨日は良く眠れましたでしょうか?」





「おはようございます。ライーザさん。良く眠れましたよ。ここの椅子は寝心地が素晴らしいですね。」





勇人はさわやかにあいさつしながらわかりやすく皮肉も言っている。そりゃ急に拉致されて椅子に寝ろとなれば一言いってやりたくなる気持ちもわかる。


彼女のせいではないだろうがライーザさんは申し訳ありませんと頭を下げるが逆に悪いなと思ってしまう俺は甘いんだろうな。





少し脱線するが経理や財務の仕事はもくもくと数字と向き合うように見えてかなり人とのコミュニケーションが必要になる。外からは支払の日にちや金額の確認が絶えないし中には必要書類の提出を呼びかけたりもする。ヲタク気質の自分にはなかなかツライ所だ。


よく経費で落とすという言葉があるがあれだって落とすための領収書やら申請書をもらわないと金額もわからないし勝手に現金を渡すことなんか出来ないのだ。


中には領収書をもらい忘れたけど物品を買ったから落としてくれと言ってくる輩がいるのだが普通はダメだ。しかしそれを伝えると怒る奴がいる。前は大丈夫だった、なんとかしろと。


それが先輩だったり(新入社員だから9割先輩だが)するとこちらは何も悪くないのに「申し訳ありませんが・・」と頭を下げるはめになるのだ。俺はいつも理不尽だなぁと思っていた。こんなことどんな職種でもあるとは思うけどな。特にサービスの人たちは神様か何かじゃないと務まらないと思う。





「なんでもいいですけれど早くわたくしたちを帰していただきたいですわ!」





「そうや!今日は帰ってお風呂入って寝たいんや!」





姫崎と西城も一夜明けて鬱憤がたまっているらしい。だが俺は何となくこのまますんなり帰れないという予感がしていた。





「とりあえず王と謁見をしてくだせぇ。こちらも仕事なんでさぁ。お願いしますぜ。」





後方にいたギャレスが頭を下げる。やはり頭を下げられると弱いな。





「なぁみn」





「みんな!とりあえずこの人たちの言う事を聞いてみない?わたし達も現状何も出来ないし少なくともライーザさんとギャレスさんは悪い人じゃないと思うの。だから・・・お願い!」





東雲さんにかぶせられてしまった・・俺の言いたかった事ほとんど言ってくれたし全然いいんだけどね。





「しかたねー!真弓ちゃんに言われると弱いぜ!銀次だったらムカついてたかもしれねーけどな!」





「やーっぱまゆまゆってずるいわー。」





他の連中も概ね納得したようだな。うん、俺が言わなくて良かった。





「勇者様方のご判断に感謝致します。では、謁見の間にご案内しますのでついてきて下さい。」





ライーザさんは心底ほっとした表情で俺たちの前を歩き始めた。





昨日の隊列を守りやはりかなりの大きさの建物だなぁと若干興奮しながら歩いた。


ライーザさんがこちらになりますといった扉は大層仰々しく造られていた。これ本当に現代技術で造れるのか?と疑いたくなるほどに。





「ヴァルハート王国騎士団長ライーザ・キューラック、並びに副団長ギャレス・ギュニン!勇者様ご一行をお連れ致しました!」





ゴゴゴ・・・と重厚な音がして扉が開く。めちゃくちゃ厚い扉だな・・





「よくぞ参られた勇者の方々。先日は急だったゆえ挨拶もろくにせんで失礼した。


 儂がヴァルハート王国第11代目国王、ガノン・M・ヴァルハートである。」





昨日偉そうに戦えやら外敵から守れやら言ってきたおっさんだ。


昨日より傲慢な感じはしない分威厳みたいなものがあるような気がするな。


その隣には昨日初めに挨拶をしてきたエミリア?だったかな?そんな名前を言っていた女の子が立っていた。


そこから中央に延びる赤い絨毯の両サイドにはゲームでよくいるモブ兵士の様な格好をした人たちがズラッと並んでいる。なんなんだこの凄い雰囲気は・・・





「まずは諸君の名を聞かせて貰ってもよいだろうか。」





とりあえず俺たちは名前を名乗るだけだったが自己紹介をした。





「6人の勇者諸君。貴殿らの同意なく召喚をしてしまった事については詫びる他ない。だが先日も言ったようにこの国、この世界には猶予がない。従って、古の秘宝により異なる世界から勇者を召喚する事しか道は残されておらんかったのだ。」





「なっ・・・!」





「銀次君の言ってた事が・・」





「なんやそのイベント・・・設定やろ・・?」





「馬鹿馬鹿しいですわ・・・」





「・・・・・」





みんな信じられないという顔をしている。もちろん俺も完全に信じているわけじゃない。こんなゲームじみた事が現実で起こってたまるか。でも、この人たちが嘘をついているようには見えないしこの雰囲気がイベント等で作ったり演じたりしてる感じもしないんだよな・・・





「なかなか衝撃的なお話ですがどうしてもその話を鵜呑みにすることはできません。


 私たちは一般的な勤め人です。なにをどうこう出来るとは思えません。」





「俺も何か証拠をみせて貰わなければ納得できません。ここは日本ではないんですか?!」





勇人に続いて俺も思いをぶつけてみた。どう返って来るのか・・





「ふむ、証拠とな・・・ニッポンというのはそなた達の国かの?古の伝承では勇者殿の世界には魔法が無いとされておる。間違いはないかの?」





「ま・・ほう・・?え、と魔法ですか?そんなものあるわけないじゃないですか。いい加減に目的を教えて頂けませんか!私たちも暇じゃないんです!」





「そうだ!いい加減に煙に巻くのはやめろよ!」





ジャキン!





「えっ・・?」





「・・・お二方それより先はご勘弁くだせぇ。」





勇人と亮汰が我慢ならないという様に自称国王のおっさんに突っかかろうとした瞬間に先程まで後方にいたギャレスが二人の目の前に抜身の剣を出していた。


いつ前に出たんだ!?しかも剣って・・作り物じゃないっぽいんだけど・・・





「こんなおもちゃでふざけr・・うっ・・」





「試してみますかい?そうなると自分も勇者殺しで死罪になりますがね。」





なおも亮汰は行こうとするがギャレスの気迫?に押されたのか動けないみたいだ。





「よい。ギャレス。知らないことに戸惑うのも無理はない。エミリア見せてやりなさい。 誰か!訓練用の木偶でくを持て。」





「すいませんね。勇者様方。一応仕事なもんで。」





自称国王の言葉と同時にギャレスも剣を引き気配もさっきとかわらないものに戻ったようだ。亮汰は冷や汗をかいているな。なんだろう、達人の気迫みたいだったぞ。良くわからないがそんな感じがした。





その後モブ兵士の一人が木偶と呼ばれるマネキンの様なものを持って俺たちと自称国王の間にドスンと置いた。すぐにエミリアが一歩前に出て意識を集中させている、様に見える。見せてやりなさいって言ってたけどまさか本当に魔法なんて・・・





「・・・それでは行きます。『熱く迸る火の精霊よ。我に従い炎と化したまえ。我が標的を焼き穿て!<<フレイムランス>>』」





ゴバァァァ!!





「うわっ!!」





「あつっ!!」





エリシアが呪文のような言葉を唱えた瞬間に炎の槍の様なものがマネキンに突き刺さった。マネキンは真ん中に大きな穴をあけてジュウっと焦げて、いや溶けているのか・・・凄い熱量だったのだろう。





マジか?マジなのか?本当に魔法?





「もう一つです。『清らかなる水の精霊よ。我に従い氷と化したまえ。彼の者に静寂なる氷の牢獄を!<<アイシクルプリズン>>』」





カシャァァン!!





「今度はなんですの!」





「氷漬けになってる・・」





そう、お次は先程のマネキンの周囲がキラキラと輝いたと思ったら収縮しマネキンが氷漬けになっていた。





「ふぅ。詠唱も最後まで詠んだので少し威力が大きくなってしまいましたが勇者様方、これらが魔法になります。正確には精霊の力を借りて魔力を変換させているという形ですが。」





「・・・魔力?精霊?本当に?」





「マジかよ・・・!」





「CGやろ・・・」





「さて、勇者諸君。これを見て信じて貰えたであろうか。是非とも世界の為に力を貸してほしい。待遇の方は安心されよ。世界を救う鍵であるゆえ手厚くもてなそう。」





嘘だろ・・?信じられない。信じられないけど多分西城のいうCGとかじゃないって感覚でわかる。熱かったし。まさかとは思っていたが本当に異世界召喚されてしまったのか・・・


こんな事言ってる自分はどうかしてるが。でもそうなるとホントに勇者として戦わなければならないのだろうか・・・拒否した場合どうなるんだろう?聞いてみようか。





「すみません。先程の現象、・・・魔法はCGやトリックの類ではないと思いました。が、仮に申し出を拒否した場合どうなるのですか?あと、勇者として戦えとおっしゃいましたがどうすれば元の世界に返してもらえるのですか?」





同期のみんなもうんうんとうなずいている。





「ふむ・・・まず元の世界に返す方法は一つだけだ。諸君らをこの世界に呼んだのは我が娘が使った召喚魔法、逆に返す返還魔法を用いれば返す事は可能である。が、召喚魔法も返還魔法も莫大な魔力が必要になり一度使うと相応の年月使う事はできぬ。はっきりとは言えぬがおおよそ1年後あたりであろう。」





「・・・お父様・・・」





「次に拒否した場合だが先にも述べたようにおぬしらは我が国、世界の鍵である。野放しにしてはおけぬ。世界が勝利するか敗北するかまで軟禁させてもらう。恐らく後者であろうが。」





「実質選択肢あらへんやんか!」





「一年ですって?!」





皆ショックを隠せないようだ。俺も衝撃を受けているが出来るだけ平静を装って問いかけてみた。今必要なのは情報だ。





「もし返還魔法が使える時期になったら俺たちが召喚させられた要件を満たしていなくても還してもらえるのでしょうか?それと還すに当たって時間は指定できるのですか?」





時期まで待てば帰れるのか仮に帰れたとして1年後だ。普通は行方不明扱い、もちろん会社はクビになっている。俺たちが召喚されたあの飲み屋の時点に帰れるのなら一番いい。


「出来れば全てが終わってから帰還して貰いたいところだが望むのなら1年後に還すことを約束しよう。時間は約束はできぬ、が召喚魔法陣に刻まれた情報からなんとか導けるはずだ。」





「おおっ!マジか!」





「よかったぁ・・・」





亮汰や東雲さんも安堵したようだ。これで少し希望が出来たかな。








「それまで生きれおればな。」





国王がそう小さく言ったことを俺たちは気づかなかった。





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