第3話 ステータス

部屋の扉を開けるとどうやらここは客間のようだ。置いてあるソファーやテーブルなどは趣向がこらしてありかなりの値段がしそうだな。





「まずは勇者様方、お飲み物をご用意させて頂きましたのでくつろがれて下さい。」





ライーザがそう言うとメイドの様な格好をした女性がカップに入れられた飲み物をもってきた。





「メイドさんや!メイドカフェのイベントだったんか!?」





西城がメイドを見て言うが違うよな。ここで「さあ!一緒に萌え萌えキュン!」とかやらされたらドン引きだぞ。





「香織ちゃん。ちょっと落ち着こう。まずは一口頂こうか。」





勇人がそう言いながらカップの飲み物に口をつける。若干と言うかかなりあやしいが俺も少し貰うか。


勇人の言葉に皆同意したのか各々飲み物をすすり始めた。


味はなんだろう。コーヒーと紅茶を混ぜたような味だ。うん、悪くないどころか俺は結構好きな味だ。





「ふー。なんだか落ち着くね。」





「そうだな。でもよ!冷静に考えてみても全くわけがわかんねぇ!」





「心なしか体も温まってきましたわ。わけがわからないのには同意ですけれど。」





「まぁメイドカフェのイベントではなさそうやなぁ・・・」





「・・・」





皆一応は一息ついたようだが・・・いい加減きちんと説明をしてもらわなきゃな。





「えーと。ライーザさん?でよかったでしょうか。これはなんのイベントでしょうか?私たちも明日も仕事があるので出来れば早く帰りたいのですが・・・」





「銀次!お前なんでそんな下手に出てんだよ!いくらイベントでもこんな強制拉致みたいなの半分犯罪だろ!俺はこの後もう一軒行くんだよ!早く帰らせろ!!」





「もう一軒て」





「まて亮汰。相手の話を聞いてからでも遅くない。」





「でもよぉ!」





おいおい亮汰よ。せっかく俺が和やかに話してるのに・・お前の言う半分犯罪者だとしてここまでするやつらだぞ何するかわからんだろ。





「混乱されるのは当然です。勇者様方。正直わたしも伝承を知ってはいましたが実際にお目にかかるのは初めてなのです。」





「あのー先程から勇者って言ってますが、何の設定なんですか?ちょっとついていけないんですけど・・・」





「そこまで疑うんでしたら『ステータス』と念じてみてくだせぇ。称号欄に勇者と出てるはずでさぁ。出てないとこちらも困りますがね。」





ステータスってゲームじゃあるまいし・・・まあ思うだけなら見られて恥ずかしいものじゃないけどさ。んじゃあ『ステータス』ほら、なんにもならないじゃな・・・!?





「なんやこれ!目の前になんか窓が・・!」





「で、出た!嘘だろ!」





「わたくしも・・!このレベルとは?」





「ユウト・ジングウジって俺たちは名前も名乗ってないのに名前が表示されてる・・・」


「あ、下の方に勇者ってあるよ!それに転移者だって。」





なんなんだこれは!?俺同様やはり全員に表示されているらしいが・・同期のやつらのウィンドウは見えないな。自分専用なのか?・・・ギンジ・スドウ。レベルは、1。物攻、魔攻、防、敏等RPGお馴染みのまさにステータスが記述してある。下方には勇者、転移者とも。





「勇者様方、いかがでしょうか?唐突に、一方的で申し訳ありませんがあなた方には勇者として我が国、いえ、世界を救って頂きたいのです!」





ライーザは右手を胸にあて深く敬礼をしていた。ギャレットもそれにならい同様に敬礼の姿勢でいる。


いや、待ってくれよ。確かにゲームは好きだけど現実にこんな事あるか?でも念じただけで目の前にウィンドウが表示されるなんて現代技術で可能なのか?あの飲み屋で急に誰かがVRのようなものをかぶせた?全員に?そんな馬鹿な。そもそも仕事はどうする?それに他には・・・





「・・・・・・・・」





一同皆固まってしまった。俺もうまく言葉が出てこない。





「勇者様方、今宵はもう遅い。急ごしらえで申し訳ありませんが食事を摂って頂き少し勇者様方で状況を整理してもらい明日の王との謁見に備えて頂きたく思います。


その際に詳しい話がされると思います。納得して頂けるかどうかはわかりかねますが・・・」





ライーザはそう言いながら申し訳なさそうな顔をした。それはそうだろう。何だかわからないがそちらの都合で拉致しておいておかしな設定につきあわされているのだからよっぽどの理由がなければ納得など出来ないよな。よっぽどの理由があっても現代日本ではアウトだろ。


どっちにしろ明日の仕事は絶望っぽいな。同期6人、全員それなりの戦力の新人が一斉に無断欠勤とは。下手しなくても首が危ないぞ・・・





「わかりました。ライーザさん、顔を上げてください。明日には解放してくれるのでしょう?仕事の遅れの一日や二日すぐ取り戻してみせますよ!」





勇人はそういいながらさわやかにほほえんだ。これに当てられない女性はいないだろうと思うくらいのさわやかさだ。





「まぁ勇人が言うならなんとかなるかもな!」





「そうですわ!仕事なんて別になんとでもなりますわ!」





「うちは納期が無いんやけど・・はぁ、残業や・・・」





「幸い明日のアポイントは少なかったはずだけど・・銀次君は大丈夫なの?」





おいおい。みんないいのか。今の所、変に暴力を振るわれたりもないしどちらかと言えば友好的ではあるけど・・うーん。





「いやぁ、なんとかなるとは思うけど・・・」





では、また明日お迎えに上がりますとライーザとギャレットは部屋を出ていきその後メイドらしき女性がパンのようなものとステーキ風の肉?(だと思う)とフルーツのようなものを持ってきた。俺たちはそれを食べながら状況整理をしだしたが・・・








「それにしてもよぉ。仕事はなんとかするしかねぇがコレほんとに大丈夫なのかよ!」





「どうなんだろうな。相手の目的が見えない。額面通りに受け止めるなら俺たちをどうこうするとは思えないけどね。でもやっぱり信じろって方が難しいな。」





「このステータスって念じるだけで出てくる窓はどう説明するんだろう?」





「CGや!まゆまゆ!CG!」





「CGでこんなこと出来るなんて聞いた事ありませんわ!」





「実際なんやねん!芸能人でもないうちらを拉致ってテレビの企画でもしとるん!?」





西城がそういうとみんなキョロキョロ周りを確認したが何もないし誰も出てこない。まぁテレビ局が無許可で一般人にこんな事するはずは100%ありえない。誰かがキレて訴えでもしたらまず勝てないしイメージガタ落ちだからな。





「ホント何が起きてるんだろうな・・」





「・・・・・」





また沈黙。まぁそうだよな。もし強制拉致だとしたら目的はなんだ?拉致は犯罪だ。だがあの強烈な光、王や王妃と名乗る者、酒を一瞬で抜いたやわらかい光、そしてステータス、もしこの考えが当たったとしたら・・・いや、俺だってもう20歳超えてるんだぞ。学生でもない。企業戦士という名のサラリーマンだ。・・・でも・・・まぁあくまで一つの考えとしてだ。


ここでヲタク知識を出すのは恥ずかしかったが思った事をぶつけてみよう。





「・・・もしかしたら、されちゃったのかな?異世界召喚ってやつ。」





「いせかいよーかんってなんや?」





「・・・・」





「香織。」





「ごめん。」





「・・・いいけど。読んで字のごとく異なる世界に召喚されるって事。俺がよくやるゲームや読んだことある漫画なんかであるんだけど俺たちの住んでる世界とは違う世界に強制的に飛ばされるってやつ、一番多いのがそこで冒険してレベルを上げて徐々に強くなって魔王を倒すってパターンかなあ。」





「銀次君楽しそうだね♪」





ヤバ・・東雲さんはニコニコしてるがここぞとばかりにめっちゃ早口で話してしまったか?別にヲタク趣味を隠してるわけでもないけどリアルでこういう話題は慎重にならなくては。





「銀次。異世界召喚って。俺もそういった漫画少しだけ読んだことあるけどさすがに飛躍しすぎだろ。」





「ガハハ!銀次ヲタク過ぎだぞ!でももしそうだったら俺はいいけどな!もうノルマとか考えなくてもいいんだろ?!」





「わたくしはゲームとかはよくわかりませんわ。」





「うーん。うちもよくわからんわ。弟はゲーム好きやったけど。」





やっぱりみんな否定的か。それもそうか、俺だって自分で言ってて馬鹿なんじゃないかと思うぐらいだからな。





「わたしも詳しくはわからないけどこんな現実離れした事が起きてる以上何かみんなで対策とか話し合いをした方がいい気がするんだ。今日はもう帰れないみたいだし。銀次君、さっき言ってたゲームとかではこうした方がいいとかこれはやっちゃダメとかはあるのかな?」





東雲さん・・こんな馬鹿みたいな話を信じてくれるのか。さすがに完全に信じているわけじゃないと思うけど情報は大事だからな。とりあえず聞いてみようの精神という事かな。真向否定じゃないのは嬉しいぜ。





「うーん。そうだな・・・テンプレってのは難しいけど今俺たちにある情報はこのステータスだよね。みんなのステータスを知るのは大事だと思う。ゲームだと人によってステータスが違うから何をするかの役割も変わるんだ。」





「何をするかの役割かぁ・・・」





「おいおい、真弓。銀次のゲーム知識に感心してる場合じゃないぞ。今日は疲れてるしもう休んだ方がいい。」





「ううん。理解しておいた方がいいと思う。ちゃんと知らなきゃいけない気がする・・多分。」





「まあ、まゆまゆが言うならその方がええんちゃう?」





「自分の事を知っておくことはいい事だしな!」





「わたくしも勇人様の事良く知りたいですわ。」





勇人以外は協力的な様だな。俺が言っただけじゃダメだっただろうがさすが東雲さんだ。


「ふぅ。仕方ないな。じゃあさっさと打ち合わせするか。銀次、進行してメモ取っておいてくれ。」





勇人も折れたみたいだけど、俺が進行&書記かよ。いいけど・・・って紙とペンなんて持ってないぞ。持ち物全部無いし。


誰かいないか扉を開けてみると侍女がドアの脇で待機していたので伝えてみると羊皮紙と羽ペンのようなものを持ってきてくれた。貴重な物なのであまり多くは渡せないと言われたが。





「あ!メモはわたしが取るね。全部銀次君じゃ大変でしょ?」





「ありがとう東雲さん。じゃあ現状唯一の情報であるこのステータスってやつを各々確認してみよう。そこに書かれている事を全て話してみてほしい。」

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