第2話 拉致イベント
バキンッ!!
「えっ?」
ジョッキがぶつかる音とは明らかに違ったよな?光が強すぎて視界も真っ白で目を開けているのか閉じているのかも良くわからない。
そういえば先程最後の乾杯をした瞬間に俺たちの席の周りに円が描かれ強烈に発光しだしたような気がしたんだが・・・
「やったのか!?」
「おお!ついに!!」
「まさか・・ほんとうに・・・」
体感で30秒程だろうか、ざわついた雰囲気と共にふと視界が開けた。
「なにが起こったんだ・・」
「ちょっ、おい!なんだよこれ!勇人!どうなってんだ!?」
「どうなってるんですか勇人様!」
「え?なんや?ここ」
「うーん、目がちかちかするよ~あれ?」
他の5人も唐突に起こった出来事に混乱してるな。
かくゆう俺も何が起きたかさっぱりわからん。飲み屋には一定時間ごとに店員が扮するゾンビが客に手錠をかけて驚かすというイベントをやったりする店があるけどあの飲み屋はそんなイベントなんてやっていた記憶もないぞ。
「良くぞ顕現なさって下さいました。勇者様方。」
「はい?」
きょろきょろと周囲を見ながら反射的に声のした方へ顔を向けながら自分でわかるほど間抜けな声で返事をしてしまった。
女の声だったよな?声の主を見ると水色を基調としたドレスに半分透けている白い羽織の様なものを着ている女性が立っていた。
顔はかなり綺麗に整っているな。色も真っ白で・・というか青白いし額には汗が浮かんでいるが大丈夫なのか?
「わたくしはヴァルハート王国第一王妃の長女エミリア・ミーサ・ヴァルハートと申します。」
そう言いながらドレスの端を摘んで少し広げながら丁寧におじきをした。
うん。かなりの気品にあふれてる感じがするな。疲れの色が濃いみたいだけど。
それに王妃ときたぞ。
「諸君らには勇者として戦いヴァルハート王国を外敵から守り世界を平和に導いてもらいたい。」
その自称王妃の言葉から間髪入れず隣にいたりっぱな顎鬚のおっさんが低い声で言った。勇者?ヴァルハート王国?外敵?戦うって・・・何言ってんだ?
よく見ると周りは薄暗いが石造りの部屋で広さは自分の部屋の倍程度の大きさか。
髭のおっさんの両脇にはいかにも西洋の騎士って感じの鎧と兜を着た男に同じような恰好で兜をかぶっていない金髪の女の2人が立っている。コスプレだとしたらえらい作りこみようだな。
その後ろにこれもまたザ・魔術師というローブを着た背の低いじいさんがいたんだがふと目が合うと消えてしまった。なんだったんだ?
「おい!おっさんにねぇちゃん!いきなり何言ってんだ!?訳わかんねーよ!」
「そうや!明日も朝早いし家帰って寝たいねん!」
「イベントにしてはちょっと強引だと思う。しっかりと説明して下さい。」
亮汰、西城、勇人がまくしたてる。そりゃそうだ。アフター5に飲んでて急な拉致イベント、極めつけには問答無用で戦えって俺たちは企業戦士だぞ。さっきまで戦ってたんだよ。
あれ?東雲さんはまだ酒に当てられてるのかぼーっとしてるな。俺も若干だが酒を帯びて顔が赤くなっているし、他の連中も同じだろう。
「勇者様方のお怒りはごもっともです。・・おや、勇者様方は少しお酒が入ってるご様子。ライーザ。」
「はっ。『清らかなる水の精霊よ。彼の者達を健やかなる安寧を。<<キュアライト>>』」
ライーザと呼ばれた女騎士の手に淡い光が集まり、その光が俺たちに向かって降り注いできた。やわらかくもあたたかい光だな。
おや?顔の火照りがなくなって頭がすっきりしてきたぞ。なんだこれ・・もしかして魔ほ・・・いやいやそんな馬鹿な。いくら俺でもゲーム脳すぎだろ!でも手が光ってたんだけど・・・
「おい・・なんだ・・?酒が抜けた・・・?」
「俺だけじゃなかったのか・・亮汰、勇人、みんなも?」
「うん。なんか頭も体もすーっとしてきたよ。香織も同じ?」
「ウチもや・・
「わたくしもですわ」
俺以外もか・・どうなってるんだ?
「頭は冷えたようだな。勇者殿。本日は部屋をとっておる。そこで一晩休息し明日にでも概要を伝えよう。ゆくぞエミリア。
ギャレス、ライーザ。客間に案内するのだ。あぁそうであった、ステータスも確認させよ。」
「かしこまりました。我が王。」
そういうと髭のおっさんは扉を開け一人多いな・・と呟きながら外で待機していたであろうメイドっぽい女と出て行った。その後エミリアと呼ばれた女も一礼して外へ出て行った。今度は王か。設定作りこみすぎじゃないのか?それに一人多いってなんだよ。
「それでは勇者様方、私は騎士団長のライーザ・キューラックと申します。こちらは副団長のギャレス・ギュニンです。」
「お初にお目にかかります。ギャレス・ギュニンと申します。ギャレスと軽く呼んでくれればかまいませんですぜ。」
「ああご丁寧にどうも。私は・・・あれ?」
と酔いが醒めた事もあって、相手が名乗ってきたのであわてて名刺を出そうと内ポケットをゴソゴソやる。反射で動く企業戦士の悲しいサガだな。が、無い。名刺も財布もタバコもないぞ。
他の連中も同じようでポケットをゴソゴソしている。ちなみに俺たちの服装は仕事帰りのスーツのままだ。西城だけは工場の作業着では恥ずかしいと私服に着替えてきたと言っていたので私服だな。
「わたくしのバッグがありませんわ!していた時計も!あれお気に入りでしたのに!」
「ほんとだ・・・スマホも何もないよ。」
「・・・」
姫崎はキレるし東雲さんも涙目だ。ん?勇人は何を考えているのだろう。難しい顔をして一瞬例の人を見下すときの冷たい目をした、ように見えたが・・・。
「まぁ勇者様方ここでは話も弾まんですよ。ひとまずお部屋に参りましょう。そこであらためて説明しますぜ。」
「はぁ・・・」
ギャレスと言った騎士がさあさあと追い立てるので皆不振がりながらも扉を抜け外に歩いて行った。そんな中俺は明日締め切りの支払どうしようかなんて考えていた。
仕方ないだろう今までそれで飯食ってきたんだからさ。
扉を抜けるとそこは馬鹿みたいにデカい城だった。いや、城なんて実際に入ったことはないんだけどさ。良くゲームに出てくる城のようなものだと感じた。床は大理石の様な素材でピカピカだし通路の幅は二車線道路くらいある。壁には絵画なんかが並んじゃってもう城でいいだろう。
「すっげぇ・・・」
「わたくしの実家とも比較にならな・・・」
「なんやねん・・ここ・・・」
「うわぁ~広いね~!・・あっ!!銀次君たちは前歩いてて!姫崎さんと香織はこっちね!」
「ああ。やっぱりさっきまでの居酒屋・・じゃないよな・・・おっと。これはこれは。」
皆その城の広さ、豪華絢爛具合にあっけにとられていると東雲さんが急に歩く順番を指定しだした。なんでだろう。勇人は気づいたようだけど。
「なんや~まゆまゆ。お姫様は男子に守ってもらいたいんか?こいつらよりウチの方が何倍も頼りになるで!」
「なんだ西城!俺に喧嘩売ってんのか!俺の筋肉に勝てんのかよ!」
「余裕や!よゆー!」
袖をまくって筋肉アピールする亮汰とシュッシュッとシャドーボクシングっぽい動きをする西城。こいつら今何が起こってるのか理解してるのだろうか。
「ち、違うよ!喧嘩しないの!ほら、ここの床ピカピカでしょ?私と姫崎さんスカートスーツだから・・その・・香織はロングだからまだ・・・ね?」
あぁなるほど。たしかにピッカピカ過ぎてウユニ塩湖みたいになってるからスカートの中も・・・勇人のやつ気づいたって事は誰かしらの中を・・姫崎と西城に関してはどっちでもいいけど。
「東雲さん。ごめん。全然気づかなかったよ。じゃあ俺たちは先に行くから。」
「あっ・・銀次君ありがと。頼むね!」
「チッ・・・」
今舌打ちが聞こえた気がしたんだが。勇人か亮汰かはわからなかったぞ。
「お疲れ様でした。こちらがお部屋になりますぜ。」
割と長く歩いた気がするがようやく部屋についた。どんだけ広いんだ。とりあえず座るかして休みたい。なんだか異常に疲れたよ。
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