第8話 死神の名前は『ナターシャとラルク 』

『パパおはよう、今日からバイトだからご飯の仕度遅くなるからね 』


まなほ穂の作る料理は、だんだん沙樹が作ったものに近づいてきたと感じる

『頑張れよ、まなほ穂』

『うん!!パパもがんばれ!!』

まなほ穂の仕草や声は沙樹にますます似てきた、慌ただしく玄関を飛び出していく娘の後ろ姿を見つめながら沙樹の事を思い出していた。


俺が愛した人は愛穂の中にも俺の心の中にも今も生きているんだ…



沙樹が末期ガンで緩和ケア病棟に入院する前から、父と娘は再び一緒に生活するようになっていた。沙樹と離婚したあとも、父親の姓を名乗っていたことは彼女にとっては良かったのかもしれない、あの日の事を思い出すと辛くなる


***

賢太が予想した通り沙樹はあの思い出の場所に1人で佇んでいた。

『沙樹 』

振り向いた沙樹の目からは涙が溢れていた

『 どうして?ここにいることわかったの?まなほ穂は?あの子はどうしてる?』


沙樹の隣に静かに腰を下ろした賢太は


沈黙のあと沙樹の目を見つめながら

『沙樹…俺と結婚してくれないか? 』

あの夏の日に伝えた言葉を呟いた

『 愛穂の為だけでなく、俺の為に一緒にいて欲しいんだ』

『 何があったかは知らないけど、沙樹がいなくなったと愛穂から聞いた時、今まで感じた事のない自分の本当の気持ちに気がついたんだ』


沙樹は静かに病気のこと、残された時間に限りがある事を賢太に話した


『 沙樹、お前が死んでも俺と愛穂は生きるしかない、どんなに辛くても生きるしかないんだ、どんなに泣きわめいても生きるしかないんだ……もう一度この場所から始めよう、俺と結婚してくれないか? 』


沙樹は賢太にそっと寄り添い優しく口づけた


そのかたわらには死神の男女が優しい眼差しで二人を見つめていた。



親子3人の優しい日々は沙樹の不安を少しだけ和らげてくれた


ある日沙樹は愛穂に小さなノートを渡した

そこには沙樹の作る料理のレシピが事細かに書いてあった…


それから約半年後

ナターシャは静かにハンコを押し、自らにも別れを告げた。




***

ラルクは小さく呟いた、ナターシャまたいつか会えるといいな…


死神だって恋するんだ…



***

【次回予告】

クレイジー・ダイヤモンド(クレッち)の苦悩

と佑都の初恋


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