第2話 その男、不幸につき……
「……ったく、俺はどうすればいいんだ!?」
クリスマスを前にした週末の、終電間近のターミナル。幸せオーラを最大限に放ち、2人の世界に迷い込んだカップルや、景気の良い業種だろうか、サンタ帽を被り、さらにネクタイを額に巻いた5人程のサラリーマン達が上機嫌で肩を組んで人目もはばからずジングルベルをバラバラな不協和音で放歌しながら歩いている。
そんな中、1人だけこの世の不幸を重い十字架のように背負ったと言わんばかりの表情で、フラフラとアルコールの匂いをまき散らしながら歩いているのが先程の怒鳴り声の主、
彼は「スーパーストア
販売価格1個5,000円……それが30個なので全部で150,000円。売れなければ自腹の世界……このままではせっかく手にした冬のボーナスの半分がケーキになってしまう。
さらにこの男、間もなくクリスマスというこの時期に彼女にもフラれている。原因はやはり仕事……元々恋愛ベタは自覚しているようだが、その反面仕事は熱心で、かつ会社はケーキの自腹を強制する環境……
昨今ある意味流行っている、文字通りの『滅私奉公』に励んだ結果、せっかく友人のつてで知り合った、勝間田が理想とするお世話好きで包容力のある優しい保育士の彼女と会う時間も無くなり、あえなく破局したのである。
「あー、もう、バカばっか!」
勝間田も『仕事バカ』なので他人のことを『バカ』とは言えないが、それでも周囲の幸せオーラはこの男にとってはかなりの毒気だった。
フラフラとターミナルのコンコースを南から北へ抜けた勝間田は、北口に併設された高速バスターミナルのベンチに腰掛け、解毒剤を服用するかのごとく本日4本目の500ml缶ビールを開け、一気に飲み干した。
この高速バスターミナルはトンネル状の構造をしているため、冬場は風向きによっては凍えるような寒さだが、今の勝間田は深酒の影響もあり心地良く感じるようで、やがてウトウトし始めた……
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