第二十二話:安らかに眠れ、戦士たちよ

 何時間俺たちは寝ていただろうか。

 地下空間は勿論光が差し込む事はなく、温度と湿度もある程度一定に保たれている為、いつ朝が訪れたのかわからない。

 ともあれ、俺は目を覚ました。

 既に焚火は消えている。

 まだ燻っている熾火を拾って種火とし、道具袋から火の魔法が込められた野営用の薪を取り出して火を点ける。

 この薪は小さく手のひらに乗るような木の棒であるが、数本ほどあれば一夜を明かす事が出来る優れもので、旅や迷宮探索をするにはもってこいの素晴らしい道具だ。

 火はあっという間に勢いを増し、煮炊きをするには十分な火力をもたらしてくれる。

 俺は水を沸かす為に小鍋に水を張って火にかけていると、アーダルが目を覚ました。


「……朝、ですか」

「多分な。軽く朝食を取ったら次の階層に行くぞ」


 水を沸かして茶葉を入れてお茶を作り、目覚ましに飲む。

 荷物袋から干し肉と麺麭パンを齧り、胃に流し込む。それと調合した薬草も飲む。

 怪我した時によく飲まされたり傷に塗ったりするが、実は栄養もあるのだ。

 味は望むべくもないが。

 迷宮探索は体力が要る。しっかりと体調を整えるのが肝要だ。

 アーダルも麺麭パン牛酪バターを塗り付けて齧ってはお茶を飲んでいる。


「薬草も食べろよ」

「ええ……苦いから嫌なんですよね」

「口に含んだら無理やり茶で流し込めばいい」

「はーい……」


 薬草を口に含み、何度か噛み、茶を流し込み、あまりの苦さに顔をしかめる。

 だがそれで元気が出てくるものだ。苦みで目もより覚める。

 

 朝食も終わり、焚火を消して外していた装備を付けて地下三階への魔法陣へ俺たちは足を踏み入れる。

 何度経験しても俺は慣れない転移の感触を感じながら、俺たちは地下三階へと移動した。


 

 俺たちの体を包んでいた光が消え、目を開けると地下二階とはまた変わった様子の壁と床が俺たちを出迎える。

 地下二階は白色だったが、地下三階は灰色の壁と朱色の床。

 血がしみ込んで古くなったかのような色合いの床は、元々は色が違ったのではないかという気がしてくる。

 普段の盗賊の迷宮探索もとい、盗賊の技能を上げる為の探索では地下三階へは足を踏み入れない。と言うのも、地下三階には罠が存在しない。

 だから行く必要が無いとも言える。物好きでもない限り。

 俺は物好きなので一人で探索した時に地下四階まで行ったがな。

 

 地下三階はこれまでのような幅の狭い通路ではなく、六人ぐらいが並んで通れるくらいの通路が延々と続き、時折通路の両端に墓が並んでいる。

 それは過去、この土地を統治していた国に仕えていた戦士たちの墓だ。

 彼らは部屋ごとにまとまって眠るのではなく、侵入者が来ないかをこうやって見張っているのだ。

 よって、この階層には部屋はなかった。

 通路を延々と歩き、最奥に地下四階へと続く階段があった。かつては。


「それで、地下三階の変化はありますか?」

「俺の記憶では通路だけだったはずだが、地図を見てみたらいくつか通路の合間に空白地帯が出来ているな」

「新たに部屋でも出来たんですかね」

「恐らくはな」


 そこに何かが待ち受けているのは確実だろう。

 魔法陣から俺たちが一歩を踏み出すと、何かが組みあがる音が遠くから聞こえてくる。

 この迷宮では随分と聞き慣れた音だ。


「どうやら骨人スケルトンが起き始めたようだな」

「早速エルフの人からもらった武器の出番ですね」


 アーダルは懐から水晶の儀式剣を取り出す。また彼はエルフの短弓ショートボウも背負っている。

 儀式剣は短剣ショートソード程度の長さだが、これがどれだけの力を持っているのか。

 剣は水晶特有の透き通った、青色の刀身を輝かせている。

 俺はいつものように打刀を抜き、右手に持って歩く。

 通路を進むにつれてカタカタ言う音は大きくなってくる。

 通路の曲がり角だ。

 曲がり角の先をそっと覗くと、骨人スケルトンが徘徊しているのが見える。

 曲がり角の先の通路には墓が並んでおり、その墓の前には穴が開いていた。

 骨人スケルトンはそこから這い出してきたのだろう。

 いつもの長剣ロングソード革盾レザーシールドを持った骨人スケルトンだが、のろのろと動くサルヴィの迷宮で見るものとは動きが違う。

 どの骨人スケルトンも剣を構え、注意深く周囲を警戒している。

 おそらく彼らはここに眠る戦士たちだったのだろう。

 俺たちが来たのを感知して目覚めたわけだ。

 

「いつものスケルトンとは雰囲気が違いますね」

「手練れだな。骨人はある程度生前の技量や経験によって強さが異なる。この階層は戦士が眠る墓地だ」

「となると、より警戒して戦う必要がありますね」


 アーダルもわかってきたじゃないか。

 一応隠し通路など無いか探してみたが、やはりなかった。

 となれば、小細工抜きの正面突破だ。


「行くぞ!」

「はい!」


 曲がり角を一気に二人で飛び出す。

 飛び出してきた侵入者に気づいた骨人スケルトンは一斉にこちらを向き、がちゃがちゃと骨を鳴らして走ってくる。

 いち早く突進してきた骨人スケルトンを頭から一刀両断する。

 そして俺の後ろからアーダルが儀式剣を構えて突撃し、一人の骨人スケルトンの剣戟を躱して肋骨に剣を当てる。

 当てた瞬間、ピィンと細い鋼線を弾いたかのような音が響き渡り、骨人スケルトンは動きとピタリと止めて崩れ落ちたかと思うと灰になってしまった。

 アーダルは剣と灰を交互に見て目を丸くしている。


「これ、すっごいな……」

「おう、感心している場合じゃないぞ」


 異常事態に気づいた他の骨人スケルトンが、墓から次々と這い出している。

 この通路一帯には次の曲がり角まで墓がずらっと並んでおり、その数を数えるのすらうんざりしてしまう。その墓全てから骨人スケルトンが出てくるのだから、倒すのは骨が折れそうだ。

 俺一人だったらかなり時間を喰いそうだったが、今はアーダルも居る。

 水晶の儀式剣の威力を見た今なら、それほど時間はかからないだろう。

 

 次々と這い出してきた骨人スケルトンの中には槍や弓を装備した奴もいる。

 特にここから遠い所に弓兵を配置している。

 いやらしい配置の仕方をよくわかっているじゃないか。

 遠くへの攻撃は俺も出来なくはないが、少し霊気のタメが要るので現状では厳しい。

 

「アーダル。その弓で通路の向こうの骨人を撃てるか?」

「ええ。ショートボウですけどもあそこまでなら何とか」

「俺は前に出てくるのを片付けるから、弓兵を片付けてくれ」


 恐らくその弓、或いは矢に何らかの仕掛けがあるだろう。

 前に出て来た長剣ロングソード骨人スケルトンを横薙ぎで一刀両断する。

 しかし次々と押し寄せてくる。一体幾ら居るんだこいつら?

 アーダルは狙いを定め、奥に数人居る弓兵を撃つ。

 水晶の矢は骨人スケルトンの間を意思を持つかのようにすり抜け、弓兵の頭に刺さった。瞬間、儀式剣と同様に灰になる。

 

「弓も凄いなこれ……」

「いいぞ! これなら思っていたよりも早く片付きそうだ」


 骨人スケルトン達は所詮不死の魔物であり、個々人の技量はさておいても統率の取れた動きというものは中々出来ない。

 各々がバラバラに来るので、俺はそれを一人ずつ切り伏せていく。

 弓兵の数はそこまで多くはない。

 アーダルの弓の腕前は猟師をやっていただけあり、狙いを定めれば確実に獲物を射ぬいていく。

 エルフの短弓ショートボウとその矢にも不死を滅する魔法が付与されているようで、次々と骨人スケルトンを灰にしていく。

 



 どれだけ斬っただろうか。

 通路には一面に骨の残骸が散らばり、どれだけ骨人スケルトンが居たかを物語っている。踏み出すたびに骨の折れる音がする。

 

「やれやれ……。一つの角の先にこれだけ墓があるとなると、次の曲がり角の先にはどれだけの骨人が埋まっている事やら」

「でも、僕の武器なら何匹来てもいけますよ!」

「自惚れると危険だぞ」


 胸を張るアーダルをよそに、俺は次の曲がり角の先を見る。

 通路はまた延々と続いているが、今度の墓の数は十くらいしかない。

 そこから何人出てくるかは謎だが、この程度なら楽だろう。


「よし、次の角を行くぞ」


 二つ目の曲がり角を行くと、また墓から骨人スケルトンが這い出して来る。

 しかし今度の骨人スケルトンは持っている武器が異なった。

 両手大剣クレイモアを構えた骨人スケルトンだ。

 彼らは目に青い鬼火のような光を宿している。

 先ほどの連中と違い、不用意にこちらには近づいて来ず、俺たちの様子を伺っている。

 

「なるほど。高位骨人ハイスケルトンだな」

「初めて見ます。何か違うんですか?」

「俺も二回くらいしか遭遇したことはないがな」


 不死の魔物は明確な意思を持たないものが多いが、中には古く高貴な屍リッチのように意思を保ったものもいる。

 高位骨人ハイスケルトンもその例外の一つで、現世に何らかの執着が強い魂が骨に憑りつくと発生する魔物だ。よく死霊術師ネクロマンサーが護衛として操り死体ワイトと共に連れている場合が多い。

 この場合は眠っている王とやらの護衛の兵、つまり王直属の近衛兵の魂が宿って動き出していると見るべきだ。

 それも他人の体ではなく、自らの体に再び宿っているとなれば自分の体を動かすのはたやすい事だろう。例え骨とはいえ。

 

「いつもの骨人と同じように思うなよ。厄介な相手だ」

「は、はい」


 両手大剣クレイモアを構えた高位骨人ハイスケルトンはまず二人組で俺に向かってくる。持っている武器と装備を見て、俺の方が厄介な相手だと判断したのだろう。

 一人目の高位骨人ハイスケルトンが突きを繰り出す。

 俺がそれを躱すと、二人目はその背後から横に滑りこむように現れて剣を切り上げる。

 剣を受け流し、蹴りで俺はまず二人目の高位骨人ハイスケルトンを吹き飛ばす。

 そして俺の背後から音も無く現れたアーダルが、儀式剣の一撃を叩き込む。

 

「……!」


 目を丸くしたかのように体をこわばらせた高位骨人ハイスケルトンは、やはり音も無く灰となって床に散らばった。

 二人目の方は起き上がろうとしたところを刀の一撃で両断した。

 

「やっぱり大した事ないですよ。いけます!」

「あ、おい待て!」

 

 勇んで一人で高位骨人ハイスケルトンの中に突っ込んでいくアーダル。

 しかし、


「うわぁっ!」


 という悲鳴が聞こえたかと思うと、あっさりと三体の高位骨人ハイスケルトンに囲まれてしまっている。

 儀式剣と革小盾で凌いではいる物の、鋭い斬撃を矢継ぎ早に繰り出してくる相手に攻める隙を見いだせていない。


「言わんこっちゃない」


 すぐに俺はアーダルの下に追いつき、囲んでいる三体の高位骨人ハイスケルトンを背後から一体切り伏せると、残った二体がこちらに顔を向けた。

 流石に反応が早い。だが注意がこちらに向いた事で、アーダルへの攻撃が一瞬緩む。


「このっ!」


 アーダルはすぐさま儀式剣を構えて高位骨人ハイスケルトンの背骨に当てる。

 またも高位骨人ハイスケルトンは灰に崩れ、残った一体も俺が頭、胴体、腰骨を分断する事で何とか倒した。


「調子に乗るなと言ったろうが」

「すいません……」


 しょげるアーダルだが、そのまま落ち込んでいる暇はない。

 残った五体の高位骨人ハイスケルトンが俺たちが思った以上に強いのを見て、ひとまず距離を取って陣形を組む。

 その中の一人の高位骨人ハイスケルトンは更に他の者とは装備が違った。

 両手大剣クレイモアではなく大曲剣を持っており、更に兜と鎧も着用している。

 彼が恐らくはこの戦士たちの長なのだろう。

 大曲剣の高位骨人ハイスケルトンは後ろに下がり、他の高位骨人ハイスケルトンが前に出て壁を作る。

 

「……!!」


 戦士たちの長が剣を振るって指示をすると同時に、四人の両手大剣クレイモア高位骨人ハイスケルトンが揃って突撃を繰り出してきた。

 四人による波状攻撃。

 どれも生前の技量を伺わせるような斬り込みで、一人目は鋭い突き、二人目は右に回り込んで袈裟斬り、三人目が左からの斬り上げ、そして四人目は上から跳躍して飛び込み斬りを仕掛けて来た。

 俺は突きを右に皮一枚で避け、袈裟斬りは刀でかちあげて跳ね除け、斬り上げは篭手で受け流しつつ蹴りを加えて吹き飛ばし、跳躍斬りは逆に相手の懐まで飛び込んで刃の間合いより内側に入り込んで逃れる。

 最後に俺の一連の行動を見ていた、戦士たちの長が飛び込んで転がった俺たちごと斬るべく、振り下ろし攻撃を繰り出そうとしていた。


「アーダル!!」


 俺の叫びと同時に、アーダルが弓を構えて戦士たちの長を狙い撃つ。

 その瞬間に長は振り下ろしを辞め、即座に矢を大曲剣で切り払う。

 俺だけを狙えば後は何とかなると思っていたようだが、そうはいくか。

 だが戦士たちの長は、アーダルの様子を見定めると大曲剣を両手に持ち、いきなり駆け出して来た。


「!? うわっ!!」

「しまった!」


 どうやら持っている武器が自分たちにとって厄介だと判断されたか、狙いをアーダルに変えて来たか!

 慌てて儀式剣と革小盾を構えて突きを繰り出すが、未熟な剣戟は難なく左手の篭手で弾かれる。

 弾かれたアーダルは大きく体勢を後ろにのけ反らせ、スキをさらけ出す。

 戦士たちの長の目の光が、より大きく輝いたように見えた。

 大曲剣が鋭く空を裂く。

 アーダルの体が宙に舞う。


「アーダル!!」

「くうっ!」


 背中から地面に落ちて肺の空気を吐き出し、ごほごほとむせる。

 しかし斬られて出血している様子は見られない。

 代わりに真っ二つに斬られた革小盾が、アーダルの左腕から投げ捨てられた。

 とっさに盾で斬撃を防ぎ、かつ背後に跳躍する事で深手を負わずに済んだのだ。

 それでも革の篭手にまで斬られた痕跡が見られ、斬撃の鋭さが伺える。


「し、死ぬかと思った」

「まだ来るぞ、何とかもう少ししのげ!」

「ええっ!?」

 

 まさか小童に斬撃を防がれると思わなかったのか、目を丸くしていた戦士たちの長だが、すぐに距離を詰めて次の一撃を決めに掛かる。

 俺はその間に両手大剣クレイモア高位骨人ハイスケルトンを二人叩き斬ったが、まだ二人残っている。

 この二人も連携が非常に良く、片方が一撃を振るともう片方がその隙を打ち消すかのように続けて剣を振るってくる。

 両手大剣クレイモアの一撃は重い。

 故に打刀では少々対処が難しい。

 俺は野太刀を抜いて、剣戟を受ける。

 弾き、弾き、弾く。

 弾くたびに剣と刀がぶつかり合い、火花が生じる。

 相手は俺の弾きに焦れて来たのか、わずかに大振りの縦斬りを繰り出してきた。

 野太刀ごと叩き斬るつもりの、西洋の剣を使う者たちにはよくある、力と剣の重さに任せた一撃だ。

 それを待っていた。


「奮!」


 俺はその一撃を受け流し、高位骨人ハイスケルトンは大きく前のめりに体勢を崩した。

 そこを逃さず、即座に三連斬で三つに体を分断し、行動不能にする。

 もう一人の高位骨人ハイスケルトンが構わず突進してくる。

 今度は俺が正眼に構え、上段から力を込めて野太刀を振り下ろす。

 猿の甲高い鳴き声のような、叫びと共に。

 高位骨人ハイスケルトン両手大剣クレイモアで受けきろうとするが、逆に刃が鈍い音を立ててぶち折れる。

 そのままの勢いで刀を振り下ろし、剣ごと高位骨人ハイスケルトンを叩き斬った。


「斬る、とはこういう事だ」

 

 さて、アーダルはどうなっている?

 急いでそちらを見ると、何とか残された儀式剣で大曲剣の重い剣戟をしのいでいる。

 自分から斬りに行かない事で相手の動きをよく見て、避けと受けに徹しているからこそ生き延びているが、それでも限界に近いようだ。

 腕と足に浅いながらも切り傷を受けて出血がある。

 加えて、重い剣を短い剣で受ける事で腕に衝撃が伝わり、次第に握力が無くなっている。

 その証拠に腕が震えていた。

 戦士たちの長が笑ったかのように肩を震わせる。

 とどめの振り下ろしの斬撃を加えようとした所で、俺は即座に打刀を鞘から抜いて投げつけた。

 飛翔物に反応した戦士たちの長は大曲剣で刀を弾き、忌々しそうに俺を見る。

 それが奴の最後だった。


「……!?」


 背後から儀式剣の一撃を加えられ、驚いて振り向いた瞬間に崩れ落ちた。

 アーダルは息も絶え絶えに俺に向かって歩いてきて、膝をついて倒れる。


「流石にヤバかったです。……ありがとうございます」

「あれだけしのげるとは驚いた。良く持たせたよ。だが、俺もさすがに疲れた。一旦地下二階の泉に戻ろう。幸いここからそんなに歩かずに済む」

「そうですね。いきなりこれだけの戦いになるとは考えても居なかったです」


 疲労の色が濃いアーダル。

 地下二階の泉の部屋に戻ると、泉の中に頭を突っ込むように水を飲み始めた。

 俺も手に水をすくい、喉を潤す。

 鉛のように重い体が徐々に軽くなっていく。

 薄く金色に輝く水は疲れ以外にも傷を癒す効果もあるようで、それなりに傷を受けたアーダルの体が瞬く間に治っていく。

 水を探索に持っていきたいところだが、水筒に入れても即座に蒸発してしまう。

 何らかの特別な入れ物が要るらしい。


「ああ、水がおいしい」

「もう少し休んだら三階にまた行こう。通路の先に扉が見えた」

「という事は、何らかの守護者が居るわけですね」

「出来れば何もいない事を願うがね……」


 その願いが通じる事は恐らくないだろうがな。




 休息後、俺たちは再度地下三階に足を踏み入れる。

 先ほど倒した骨たちはいつの間にか全て消え去っていた。

 通路を進むと、果たして地図の空白地帯にぶち当たる。

 扉があり、その先には大きな空間がありそうな気配だ。


「さて、何がお出ましかな」


 俺が重い鋼鉄製の扉を肩で押し開けると、そこは闘技場的な広さを誇る部屋だった。

 広いが、観客が座るような座席は無い。

 円状の空間は天井も高く、魔法による明かりが煌々と部屋を照らしている。

 そして空間の遥か向こう側には先へ進む扉があるのだが、勿論その前には行く先を阻む者が立っている。


 それは、死体を寄り集めて作られた巨人だった。

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