第30話 錬金術師のレッスン【1】



 なぜか昨夜から機嫌のよくないブレッドを構いつつ、朝ごはんを済ませた。

 昨日しゃぶしゃぶを食ってたときは変わった様子がなかったのに……影に入るか聞いたら嫌がられ、契約を解除するか聞いたら頭突きされた。

 普通に朝ごはんは食ってたし、鑑定で見ても具合が悪いわけじゃなさそう。謎だ。


 そろそろ宿を出たい俺はテーブルの上で駄々をこねるブレッドに手を伸ばす。


「ほら、出発するぞ」

『キュウゥ……』

「うふふ。きっとルディちゃんに構ってもらえなかったのが嫌なのよ」

『キュ!』

「ほらね」

「えぇ……お前食った後爆睡してたじゃないか……」

「あらそうなの?」

「そうですよ。行かないのか? 留守番してるか?」

『キュウゥ……』


 渋々といった体で手のひらに乗ってくるブレッドを首元まで持って行くと、モソモソといつものポジションに収まった。

 弁当を受け取った俺は急ぎめでギルドへ向かう。

 余裕を持って着きたかったのに、ギリギリになってしまった。



 ギルド前にはすでにゴーリーさん達三人が待っていた。


「遅くなってすみません」

「大丈夫だよっ♪」


 メグさんにあのネカマバージョンの方で返され、一瞬面食らう。

 あ、今日はそっちなんですね。


「んじゃ行くか」

「はい」


 今日は俺の希望でちょっと遠出をして野営をする予定だ。

 野営をしたことがない俺が三人にコツや注意点を聞いたら、体験した方が早いと三人が一緒に行ってくれることになったんだ。


 昨日とは違って従魔は呼ばず、門を出たら身体強化を使って走る。


「基本的に野営は安全面を考えて道沿いにすることが多い。以前使われた場所にはたき火の跡なんかがあるから、そういう場所を狙え」

「はい」

「今回は出先での野営として森に行く」


 昨日ちょっと話して決まったことだが、ちゃんと俺のことを考えてくれていたらしい。

 優しい三人だ。

 三人は俺にスピードを合わせてくれていて、途中何回か魔力や疲れは大丈夫か聞かれた。


「へぇー、体力あるんだね」

「あ、戻したんですね」

「今はボク達以外に誰もいないからね」

「なるほど。体力はエヴァンさんのおかげですね。最初に『体力がねぇ!』ってひたすら走り回されたんで。鎧が重くて大変だったんですよ」


 俺の発言を聞いたメグさんは「うげぇ」と顔を顰めた。

 そんなメグさんを見たゴーリーさんが「ガハハ!」と大声で笑っている。


「おいゴリラ、笑ってないであっちに魔物がいるから狩ってこい」

「なんだ?」

「おそらくスライム系」

「おぉ! スライム!」

「もしかして見たことないのか?」

「はい」

「薬草の群生地の周辺にもいなかったか?」


 笑顔で答えたオレにユジーロさんが質問してきた。


「全然。群生地どころか途中でも魔物一匹も見ませんでした。唯一遭遇したのが降ってきたブレッドと鳥ですね」

「なるほど。(そういうフラグもあるのか)」

「え? なにか言いました?」

「いや、大したことじゃない。面白いと言っただけだ。見たことないなら一緒に行くか? 」

「ぜひ!」


 元気よく返事をしたら「プッ」と笑われてしまった。

 だってさ、スライムだぜ? ゲームじゃ定番物だぞ。見たいに決まってるじゃないか。


 ユジーロさんの案内で着いた場所には緑色の丸い玉が三つあった。

 あれがスライムらしい。

 水色じゃないし、もない。あの可愛いもない。

 見る限りでは直径二十センチほどのである。ただ、ポヨンポヨンと動いているから生き物なんだとわかる。


「あれはグリーンスライム。大人しい魔物だ。攻撃をし向けると逃げていく。スライムの中には襲いかかってくるやつもいる。スライムだからって安心は禁物だ。基本的にスライムは物理攻撃耐性を持っていて、ただ攻撃しただけでは時間がかかる」

「今ゴーリーさんが一撃で倒してましたけど……」

「あの筋肉バカ……! おい! 説明できないだろう! 加減をしろ、加減を!」


 ゴーリーさんをバカ呼ばわりしたメグさんは、声を張り上げて注意した。

(普通にバカってNPCも言うんだな)


「いいか、ゴリラの攻撃力が高すぎるからああなったが、普通は時間がかかる。ユジーロの方を見てみろ。真ん中辺りに色の濃い玉が見えるだろう。本来はを狙う。ユジーロ、いいぞ!」


 メグさんがユジーロさんの名前を呼ぶと、ユジーロさんが大剣を突き刺した。

 中の玉を狙った気もするが、大剣が太くてぶっちゃけわからん。

 するとスライムはエフェクトを放ち、消えてしまった。最後の一匹はいつの間にかゴーリーさんだ倒していたため、討伐完了だ。


「まぁ、なんとなくは理解できたか?」

「はい。真ん中の玉を狙うんですね」

「そうだ。理解できたようだし、先へ進もう。あと一時間もすれば着くハズだ」

「はい」


 再び走り出し、目当ての森に無事到着。

 途中、現れたウサギやネズミはゴーリーさんが率先して倒してくれた。


「まずは採取だ。この森は魔物もそこそこ出る。採取しながら索敵をすることに慣れた方がいい。そうすれば攻撃に備えられる」


 メグさん監修の下、全員で薬草を採取していく。

 索敵ね……チュートリアルでやったな。あれ? クック鳥狩るときに索敵すればもっと楽だったんじゃね? あんなに苦労したのに……


「失敗は成功のもとってことにしよう……」

『キュ?』


 機嫌が直ってきているっぽいブレッドを撫で、索敵と探査サーチを同時に展開する。

(難しいな……これどうすればいいんだ?)

 何回か同時展開を試して失敗。

 今回はメグさんがサラッとやってくれていたが、一人なら移動中も索敵しなければならない。

 ようやくその考えに思い至り、先に索敵をしてから探査サーチをしてみると成功した。

 欲張るなってことか。


「さっきからやたら魔力を使っているが大丈夫か?」

「え、そんなのわかるんですか?」

「あぁ。慣れればキミにもできると思う。魔力は多少なりともんだ。それを読み取る」


 え……それ抽象的すぎません? 感覚で掴めってことだろ? 動きを読み取る……ん゛ー?


「アハハ。すごい顔になってるぞ。そんな難しく考えなくていい。今教えるべきじゃなかったな。魔法や錬金術に興味があれば、また今度別な機会に教えてあげよう」

「え!? いいんですか?」

「ボクが大丈夫なときなら構わないよ。薬草の採取の仕方もキレイだしな」


 メグさんは俺の中で先生として定着しつつある。しかも理系で白衣を着ているイメージだ。あのネカマバージョンは別として、話し方が淡々としている。

 ふと、索敵の方に反応があり、なにかが近付いていることに気が付いた。


「気付いたようだね」

「はい」


 俺たちが話しているに現れたのはアライグマ。目付きが鋭く、可愛さのカケラもない。


「あれは【ウォッシュベア】、低レベル帯の森ではよく出る。しっぽの付け根が弱点だ」

「全部頭に入ってるんですか?」

「……アハハハ! その顔……! あぁ。だが戦いまくってたら嫌でも覚える」


 俺の質問やな一瞬虚をつかれたように目をパチクリとさせたメグさんは、爆笑。笑いすぎて目に涙が溜まっていた。

 そんな面白い質問じゃなかったと思うんだけど……笑いのツボがわからんね。



 昼休憩を挟んだあとも移動しながら採取を続け、薬草の在庫は結構溜まった。

 ちょいちょい現れる魔物はもれなく、図鑑に載っていないこともメグさんが説明してくれたため、今日だけでかなりの知識が得られたことだろう。

 先日ギルドでゴーリーさん達に聞いた魔物も出てきたし、何匹かは俺も戦闘に参加させてもらってトドメの刺し方をユジーロさんに教わった。


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