第27話 ゴリラとグリズリー【1】



 昨夜ログを確認してたら、いつの間にかNPCフレンド欄に昨日飲んだメンバー四名が登録されていることに気が付いた。

 やっぱNPCなんだよな……あんなに自然だったのに。

 どの時点で〝フレンド〟となったのかわからんが、NPCとはいえ仲よくなれたのは嬉しい。ご馳走してくれたしな!

 


 朝、機嫌よく朝ごはんを食べに下りたら、リンダさんに「今日はご機嫌ね」とからかわれた。

 そんなにわかりやすかったんだろうか……


 ギルドへ向かうと、ちょうどゴーリーさんとユジーロさんが入り口のドアのところに立っていた。


「あ、ゴーリーさん、ユジーロさん、お二人ともおはようございます」

「ん? あぁ、おはよう。依頼か?」

「はい。まだ慣れていないので」

「ん? ほう……面白いな……それにちょうどいい」


 よくわからないことを呟いたゴーリーさんと、ユジーロさんが目配せしている。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもねぇ。ルディ、オレらと一緒に狩りに行くか?」

「一緒にですか? たぶん迷惑かけちゃうと思いますけど……いいんですか?」

「おう! パーティ組むぞ。付いてきな」


 上機嫌のゴーリーさんに腕を引かれ、ギルドに入る。

 ギルド内はそこそこ混んでいたが、強面コワモテの二人にみんな避けていく。

 おかげで、早々にカウンターに着いた。


「こいつとパーティを組みたい」

「は、はい。ギルドカードをお願いします」


 受付嬢が緊張の面持ちで何かを操作すると頭の中でお知らせ音が鳴り、目の前にウィンドウが現れた。


 ――ゴーリー、ユジーロとPTを組みました。


 なるほど。こうやってNPCとパーティを組むんだな。


「これでパーティ登録は完了しました。説明は大丈夫でしょうか?」

「あぁ、オレらがするからいい」

「かしこまりました。頑張ってくださいね」

「え、あ、はい。ありがとうございます」


 最後やたらと真っ直ぐ目を見つめられ、困惑しながらお礼を伝える。

 え……ヤバい人達なの? 昨日エヴァンさんが何も言ってなかったから大丈夫だよな?


「ほら行くぞー!」

「あ、はい!」


 すでにギルドを出ようとしていたゴーリーさん達を慌てて追いかける。

 街を出たところでゴーリーさんが振り返った。


「よし、ここからは従魔に乗って移動する。タイショー」

『ゴルァァ!』

「テディ」

『グルァァ!』


 ゴーリーさんとユジーロさんが続けて名前を呼ぶと、影からニョキッと赤色のゴリラと薄茶色のクマが現れた。

 デカい。従魔なのにマッチョだ。

 俺よりデカいゴリラとクマに見下ろされ、ビビった俺は声も出せなかった。

 そういえば従魔は影に入れられるって図鑑に書いてあったな……


「どうだ? すげぇだろ?」

「そう、ですね。ビックリしました。すごく強そうです」


 お二人にピッタリの従魔ですね……とは思っても言えなかった。


「おう、強ぇぞ。オレのは一人用だからユジーロに乗せてもらえ」


 ササッと乗ったユジーロさんに腕を引っ張ってもらってクマの背中に乗る。

 意外にも毛並みは柔らかく、思っていたより安定していた。


「んじゃ行くぞー」

「うわぁぁぁ!」

『キュキュ~♪』


 早い! むちゃくちゃ揺れる! 全然安定してない! 後ろからユジーロさんが支えてくれるのを嫌だなんて思ってごめんなさい!

 俺とは違い、首元で楽しそうに鳴くブレッドに腹が立ってくる。

 心の中で謝る俺を安心させるかのように「真っ直ぐ前を見てれば慣れる」とユジーロさんが教えてくれた。


 それに従って前を見ていると、コツがわかった。ジェットコースターみたいな感じだ。岩や木などを見て、ある程度クマの動きを予測。それに合わせれば、そこまでグワングワン動くことはない。


 慣れてきたころ、ユジーロさんがパーティについて説明してくれることになった。


「まず、パーティを組むと利点があるんだ。一人じゃ倒せない敵も協力すれば倒せるからな。Hランクと言っていたから、ルディはレベルが低いだろう? そういった場合、高レベル者とパーティを組むとレベルが上がりやすい。優先的に経験値が振られるからだ。強敵と戦えばその分ボーナスも付く。ここまでは大丈夫か?」

「はい」

「では次は欠点だ。通常の魔物では一匹につきランダムでドロップ品が一つ、運がよければ二つ出る。レア物を引いた場合、誰がそれをもらうかで揉めることが多い。ワガママなやつもいる。そういうときはギルドへ報告した方がいい。わかったか?」

「はい」

「ギルドや領主からの緊急依頼で参加しなければいけないクエストボスは、参加さえすれば何かしらのドロップ品がもらえる。それくらいか」

「なるほど」


 自分がレベル高くて低レベル者を連れて行く場合だとあまりうま味はなさそうだと思ったが、レアドロップ率が上がると言われているらしい。よくできてるな。

 最後のやつはレイドボスみたいな感じだろう。



 説明が終わってちょっと経ったころ、目当ての狩り場に到着した。

 ユジーロさん曰く、ここに彼らが街にきた理由であるものをドロップする魔物がいるらしい。


「昨日も来たが出なくて諦めたんだ」

「なんの魔物なんですか?」

「【マレリザード】っていうトカゲだ。この先に沼があるんだが、その沼から現れる」

「なるほど。トカゲですね」


 まだここは森の入り口、近くに魔物の気配はない。


「注意点はありますか?」

「泥を吐いてくる。物理の方が効きやすいと言われているが魔法が効かないわけじゃない。タイショーとテディに守らせるから離れるな」

「はい。気を付けます」


 どうも〝大将〟に聞こえるし、〝テディベア〟みたいな可愛さはない気がしてしまう。それを考えるとユジーロはユウジロウに聞こえてくる不思議。

 ゴーリーさんとユジーロさんが武器を構え、先を歩く。俺も慣れない片手剣を握り、後ろから付いていく。しんがりは従魔の方のゴリラとグリズリーだ。

 沼に近付くにつれてなんとも形容のしがたいニオイが漂ってきた。それと同時に魔物の気配も察知した。

 先頭を歩いていたゴーリーさんが木陰から確認し、小声で呟く。


「お、今日はいたな。あれだ」

「えぇ……あれですか?」


 沼のほとりに茶色くヌメっとした質感のコモドドラゴンサイズのオオサンショウウオが五匹ほどズルズルと這いずり回っている。

 トカゲってよりオオサンショウウオじゃないか! しかも想像よりデカい!


「んじゃ、行くぞ……!」


 目と目を合わせて頷き合ったゴーリーさんとユジーロさんが木陰から飛び出す。

 するとそれに気が付いたマレリザードがポッコーンと何かを吐き出した。

 それをゴーリーさんが避け、その何かは真っ直ぐオレの方に飛んできた。


――ボキッ!


 咄嗟に隠れた木が恐ろしい音を立てて揺れる。


「うおぉぉ……マジかよ……」


 確認してみたら、泥まみれの幹が陥没していた。

 泥を吐き出すとは聞いていたが、こんなに威力があるなんて聞いていない。木を破壊する泥団子なんて、当たったら骨折どころじゃない。

 ここに来るのは明らかに早すぎだったんじゃないかと考え始めた俺はゴリラに突き飛ばされた。


――ボキッ!


 嫌な音に倒れたまま顔を上げると、さっきまで俺が立っていた場所は泥まみれで、二発も破壊力抜群の泥団子を喰らった木はメキメキと音を立てながら倒れてしまった。


「タイショーありがとう!」

『ゴルァァァァ!』

『グルァァァァ!』


 俺を守るように立った頼もしい従魔達。

 タイショーもテディも手にはいつの間にか木を抱えていて、ブンブンと振り回して泥団子攻撃を弾き始めた。

 俺のブレッドはテディに乗っている間散々はしゃいでいたからか、首元で爆睡中。

(この差!)


 二匹の背後から様子を窺うと、ゴーリーさんとユジーロさんの二人は現在二匹目に取り掛かっているっぽい。

 守られているだけは申し訳ないから、俺にもできることをしよう。

 幸い、昨日魔法を使っていたから感覚は忘れていない。


「援護します! タイショー、テディ、頼むぞ」

『ゴルァァ!』

『グルァァ!』


 二人に向かって叫び、目の前にいる二匹に頼む。二匹は返事をしてくれた。

 泥団子を吐き出したタイミングに合わせ、オオサンショウウオの口の中に水球を送り込む。

 俺の目論見通り、むせて咳き込んでくれた。


「ルディ、ナイスだ!」


 攻撃してこなくなったマレリザードをゴーリーさんとユジーロさんの二人が文字通り叩きのめす。

 その間、他のマレリザードからの攻撃は例の木を使って二匹が防いでくれている。

 ゴーリーさん達の方はドゴバゴと激しい音を立てていたが、さほど時を置かずエフェクトが現れて消えた。

 あ、これなら俺でも倒せるかもしれない。


「ルディ、次行くぞ!」

「はい!」


 ひとまずゴーリーさん達が向かったマレリザードの口の中に、今度はウニのように尖らせた氷を送り込む。

 続いてゴーリーさん達から一番離れたマレリザードが口を開けたので、そっちには火球を飛ばしてみた。

 火球を飲み込んだマレリザードは数秒の後、爆発。


「おぉ!」

「なんだ!?」

「一匹仕留めました!」

「よくやった! 魔力は大丈夫か!?」

「大丈夫です!」


 大声で話しながら最後の一匹にも火球を飛ばす。

 そいつが爆発するのとゴーリーさん達の戦闘が終わるのはほぼ同時だった。

 戦闘が終わったのがわかった俺は息をつく。


「ふぅ。タイショー、テディありがとう……ってケガしてるじゃないか! ポーションあるから飲んでくれ!」


 急いで無限収納インベントリからポーションを取り出すと、二匹は寝転がり俺に向かって大口を開けていた。

 その口の中にポーションを流し込む。


「ごめんな。守ってくれてありがとう」

『ゴルァ』

『グルァ』


 お礼を言う俺にタイショーがサムズアップし、テディは頷いた。

 そんなこともでるのか……器用だな。


「おう、おう、おう! すげぇじゃねぇか! お前連れて来て正解だったな! ガハハ!」

「い、痛い……」

「おう、悪ぃ、悪ぃ」

「どうやったんだ?」

「泥吐き出したあと口閉じるまでがあったんで、一番最初は水魔法使って、二番目は氷魔法使ってみました」

「あの爆発は?」

「あれは火魔法ですね」

「そうか、ルディは魔法が得意なんだな」


 機嫌のいいゴーリーさんと冷静に分析するユジーロさん。二人とも肉体派ではあるが、バランスが取れているのかもしれない。


「お二人は魔法は使わないんですか?」

「あー、オレらは身体強化以外からっきしだな。剣で戦うのに慣れちまった」

「一応生活魔法は使えるから困ってはいない」

「そうなんですね」


 なるほどな。見た目通り筋肉で解決してきたんだろうな。やっぱNPCはそんなにスキルを持っているワケじゃないのか……


「オレのせいでケガしちゃったので、タイショーとテディにポーション飲んでもらいました。事後報告になってすみません」


 謝るオレに二人は「律儀なやつだな」と笑ってくれた。


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