第24話 癒し要員ゲットだぜ
「あ! お前……!」
俺の苦労も知らず、あろうことかパンダは俺が残したサンドイッチを食っていた。しかもすでに一つない。
俺が戦っている間に二つ目に手を出していたらしい。
首根っこを掴むとアワアワと手足を動かし、可愛らしく小首を傾げてくる仕草に気が抜ける。
「腹減ってんの? パンダって笹食うんじゃねぇの? それハムサンドだぞ? 俺お前のせいで変なカラスと戦うハメになったんだけど」
『キュ?』
「はぁ……とっておこうと思ってたけどしょうがない。腹壊しても知らないからな。それやるからもう襲われないように気を付けろよ?」
下ろしたパンダに食っていたハムサンドを渡し、
午前中にそこそこ採取したし、初戦闘でちょっと疲れた。
もう街に戻るかと歩き始めると、後ろから『キュ』と鳴き声がした。
振り返ると、パンダが俺が渡したハムサンドを咥えてトテトテと追いかけて来ていた。サンドイッチのせいでバランスが取れないのか何回も転びながら。
追い付いたパンダはサンドイッチを抱え直して、俺の足に体をこすり付けてくる。
「ぐぬぬ……可愛い……お前俺と一緒に来るか?」
『キュウ』
「一緒に来るなら従魔契約することになるぞ?」
『キュッ』
つまみ上げたパンダは俺を見て鳴いた後、そのまま状態のままハムサンドを食べ……落とした。
『キュウゥ……』
「はいはい。食うのね」
ひとまずパンダを下ろし、その隣りに腰を下ろしてから鑑定をかけてみる。
【ステータス】
【種族】ボンバンダ(幼体)
【レベル】3
【状態】空腹・メロメロ
【スキル】癒しのオーラ
【ワンポイントアドバイス】
「種族はパンダじゃないのか……メロメロって意味がわからん。なつき度ってやつか?」
スキルを見た限りでは戦闘向けではなく、完全に癒し要員だろう。
俺的には……
「行け!」
「よくやった! エラいぞ~」
「ハハハ。お前モフモフだなぁ」
なんてのをやりたかったんだが……
モッフモフの狼のような魔物とじゃれあう妄想を頭の中で展開していた俺は、目の前でハムサンドにかぶりつくパンダに視線を戻した。
ホワホワの毛玉がプルプルと動いている。
うん。モフモフには違いない。しかも怒っている人も和ませそうなくらい可愛い。戦えなくとも、癒しが欲しかった俺にはピッタリかもしれない。
『キュ』
「ん? あ、食い終わったのか? ちょ、引っ張るな。ハムサンド二つも食っただろ」
『キュキュキュ~』
「わかった、わかった。後で串焼きでも買ってやるから。それより名前だよ、名前」
『キュ?』
不思議そうに首を傾げるパンダを撫でながら考える。
見た目は完全にデフォルメされた手乗りパンダ。体長は十五センチもない。
俺は昔、弟が世話していたハムスターをボンレスと呼んで怒られたことがある。名前のセンスがないと散々言われてきた。
そのままパンダって呼ぶのもな……オスかメスかもわからないし。
「よし! お前は今日からブレッドだ。男っぽいけど、パン食ってたしちょうどいいだろ」
『キュ~!』
嬉しそうに鳴いたパンダはホワッと光りを纏った。
一応確認してみたら、種族の前に名前が表示されていた。ちゃんと契約できたみたいだ。
「んじゃ戻るぞ。首輪買わないとな」
『キュッ♪』
「え、お前そこに入るの? まぁいいけどさ」
ゴソゴソと服の中に入り、首元から顔を出したブレッドはそこが気に入ったらしい。
アゴに毛が当たって少しくすぐったいが、機嫌よさそうに鳴いているからそのままにさせておくか。
街に戻った俺はそのまま冒険者ギルドへ。
今回の薬草納品の代金は一万五千ゼニ。状態がかなりよかったらしく、高額で買い取ってもらえた。
その金で従魔用の首輪を買おうとしたら、予想外に高かった。三万だぜ、三万!
初っ端に余分に金をもらってたからいいものの、ただでさえ外に出られなかったため宿代がかかってるのにマイナスもいいところだ。
「お前……依頼手伝えよ?」
『キュウ?』
「うふふ。可愛い。このボンバンダはなかなかお目にかかれない魔物で、癒されると女性に人気なんですよ。可愛がってあげてくださいね」
ギルドの売店の女の子に撫でられたブレッドは嬉しそうにじゃれついている。
じっとしていないブレッドに四苦八苦しながら首輪を付け、首元の極小の石に魔力を流した。
「はい、これで魔力の登録がされました。次にギルドカードをネックレスに近付けます。あ、今文字が波打ったのがわかりましたか? こうなるとギルドカードに〝従魔:有〟と記載されているはずです。確認してみてください」
「あ、ちゃんと載ってます」
「よかったです。これで従魔の登録は終わりになります」
「ありがとうございます。ほら帰るぞ。バイバイしろ、バイバイ」
『キュキュ』
「「「はぁ……可愛い……」」」
ブレッドに手を振らせると、カウンター内から女の子のうっとりした声が揃った。いつの間にか注目されていたらしい。
気まずい俺は会釈をしてそそくさとギルドを後にする。
いや~、エヴァンさんがいなくてよかった。いたら絶対文句言われただろうからな。
途中いつものおっちゃんの屋台で串焼きを買い、宿へと帰った。
「戻りました」
「おかえ……!? ちょっと! ルディちゃんケガしてるじゃない! ポーションはどうしたの!? ないの!?」
「あ、もう痛くないんで忘れてました。ポーションはありますけど、これくらいで飲むのも微妙じゃないですか?」
「本当に痛くないの?」
「はい。忘れてたくらいなので」
「……でも顔よ? 傷が残ったらどうするの?」
「男だし大丈夫ですよ。それより、リンダさんとトーマスさんに報告がありまして……」
「報告?」
「はい。こいつです」
「……キャァァァァァ!!」
俺が首元からブレッドを引っ張り出すとリンダさんが目を丸くさせて叫んだ。
その声を聞いてトーマスさんが包丁を片手にバタバタとカウンター裏のドアから飛び出してきた。
「なんだ!?」
「ボンバンダじゃない! え? なんで!? 契約したの!?」
トーマスさんを気にも留めず、俺から引ったくるように奪ったブレッドを撫でながら質問してくるリンダさんにかいつまんで説明する。
「空から振ってくるなんてラッキーだったわね。きっとその鳥が運んでたのを落としちゃったのね」
「そうだと思います」
「んもう可愛いわぁ。名前はなんていうの?」
「ブレッドです。あ、そうだ。トーマスさん、こいつトーマスさんのサンドイッチが気に入ったみたいなので、ご飯のときに何か作ってもらうことはできますか?」
「わかった。待ってろ」
トーマスさんはすぐにドアの中へ入ってしまった。
ご飯のときって言ったんだけどな……串焼きはとっておくか。
リンダさんはブレッドに夢中らしく、「ブレッドちゃ~ん」と呼びながら撫でたり頬ずりしたりとモフモフを満喫してらっしゃる。
当のブレッドはそんなリンダさんに臆することなくじゃれついている。
手持ち無沙汰になってしまった俺はトーマスさんが料理を運んできてくれるまで、その光景を見守ることになった。
トーマスさんが料理を持ってきた途端、トーマスさんに向かって両手をパタパタさせるブレッド。
そんなブレッドに、普段は無表情のトーマスさんまで口元を緩ませている。
「ルディにはこれをやる。使え」
「これは?」
「傷用の軟膏だ」
「あ、そうね! それがあったわ。その軟膏は小さな傷ならすぐに治るから、顔の傷にはちょうどいいわね」
「もらっちゃっていいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
小さな缶の入れ物を受け取り、
今すぐ使わなきゃいけないらしい。
リンダさんが「アタシが塗ってあげましょうか?」と言うのを断り、急いで濃緑色の軟膏を頬に塗る。
かなりピリピリしたが、一分ほどでそれもなくなった。
これで明日には治るらしい。
ゲームってすげぇな。後で腕と足にも塗らないと。
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