第23話 常設依頼



 結局その後、またもや黒い狼に追われ、次の日からは武器の扱いの訓練が追加された。

 ブートキャンプの日々を過ごすこと十日。なんとか武器の扱いに慣れ、エヴァンさんから「まぁ、いいだろう」と声がかけられた。

 彼曰く、「妥協に妥協だからトレーニングをサボるんじゃねぇぞ!」とのこと。

 だけどさぁ、こんなにキツいトレーニング毎日やってたら冒険者として活動できなくないか? トレーニングで一日終わっちゃうんだぜ?

 ちゃんとドミニクさんに確認したけど、隠しステータスは上がることはあっても下がることはないって言われたからね! まぁ、呪いとかデスペナとか受けると下がるらしいんだけど。ポーション同様、この情報も非公開らしいから、聞けた俺はラッキーだと思う。


 俺のが大丈夫なのかは未だに聞けていない。

 なぜか神殿に行くとそのことが頭からスポッと抜けるんだよ……ドミニクさんの話術かわからんが……聞くなってことなのかね? ログアウト方法がわからないから、聞けたところで……って気もするが……


☆ ◇ ☆


 無事にブートキャンプを卒業した俺は、翌朝初めてギルドの依頼が貼り出されてる掲示板の前に来た。

 この街は始まりの街。初心者向けだけあって依頼書には簡単な内容のモノが多い。


「やっぱ定番は薬草採取かな?」


 張り出されている薬草採取は常設依頼。依頼書を剥がして受付けで受注しなくても、内容をこなしてギルドに納品すればいい。

 結局、ログインしてから街の外に一度も出られていない俺にはちょうどいいだろう。


「ヒール草と解毒草と魔力草か。ポーションに使う感じかな? 自分の分も一緒に採取したいな……」

「あら?」


 俺が依頼書を見ていると、後ろから女性の声が聞こえた。

 振り向くと、先日迷子になってた女性だった。

 彼女とはあれ以来、街中やギルドで遭遇したときは挨拶する間柄になっている。


「あぁ、クロエさん。おはようございます」

「ルディ君、おはよう。あれ? ここにいるってことは今日は依頼なの?」

「はい。薬草採取でもしようかと」

「じゃあ、ついに外に出られるんだ! おめでとうー!!」

「ありがとうございます。ちょっと気恥しいですね」

「うふふ。ん?」

「どうかしました?」

「う、ううん。えーっと……この街の北東に薬草の群生地があるからオススメだよ」


 俺と話している最中にくうを見つめ、首を捻った女性は気を取り直したように教えてくれた。


「おぉー! ありがとうございます。早速行ってみますね」

「うんうん。初依頼頑張って!」


 笑顔で手を振ってくれたクロエさんに感謝しながらギルドを出ようとすると、彼女が何か呟いていた。

 振り向くと再び笑顔で手を振ってくれたから気にしないことにしよう。悪口じゃないといいな……



 ギルドを出たその足で街の門へ向かうと、顔馴染みになった街の門番に話しかけられた。


「よう! ついに街の外に出るのか?」

「ええ」

「昨日、エヴァンから許可下りたんだろ? しっかし、よくあのエヴァンの特訓耐えたよなー。えらい、えらい!」

「ど、どうも?」

「んじゃ夕方までには帰って来いよ!」


 頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、背中をドン! と押されてよろめきながら街を出る。


 このゲームの世界での成人年齢にしたし、あの門番より俺の方が背が高いのに、なぜか会う度に背伸びして頭を撫でてくる。

 エヴァンさんのお達しで、俺が街から出られないようにされてたことも原因の一つだろう。

 前に街の外に出ようとしたら「エヴァンから出すなって言われててよー。諦めて?」って言われたときの俺の恥ずかしさはハンパなかったよ。

 ガックリとした俺を撫でたあの日以来、遭遇すると話しかけられるようになった。絡み具合がたまに面倒だけど、屋台で奢ってくれたり、おやつをくれたりする気のいい青年だ。



 ギルドで聞いた北東目指して走っていると、森の近くに草が生い茂っている場所を発見。ここだな。

 スキルの探査サーチをかけてみると頭に情報が一気に流れ込んできて、俺は物の見事にぶっ倒れた。


「ぬぉぉぉぉ……めちゃくちゃ頭と目がガンガンする……これ慣れないと厳しいな……」


 二時間ほどどうやれば頭が痛くならないか試して、ようやく使い方がわかった。薬草の種類や探す物のレア度を指定しないとダメらしい……特にこういった群生地は。

 その間、俺は草むらを叫びながらゴロゴロと転げ回り、傍から見たらかなり怪しい人物だっただろう。


「気を取り直して、採取、採取。しっかし、ここはすごいな~。めちゃくちゃ生えてるじゃないか。クロエさんにお礼言わないとな」


 何回も読んで大まかに覚えた簡易図鑑に載っていた通りに採取していく。

 腹が鳴って、トーマスさんに作ってもらった弁当を食べる。


「あぁ~……天気のいい日に原っぱで弁当食うとか、眠くなってくるな……」


 多めに用意してくれた弁当は腹いっぱいまで食べたが、サンドイッチが二つほど残ってしまった。

 ゴロンと横になり、気持ちよさに目を閉じる。

 起きなきゃなと思いつつ、ウトウトしていると……


――ギャァァ! ギャァァ!

「!」


 しゃがれたカラスのような鳴き声が聞こえてガバッと体を起こすと、上から腹目がけて何かが降ってきた。


「イッテ! ……ん? なんだこれ?」


 おなかに落ちて来たものを持ち上げてみると、直径十センチほどの白と黒のホワホワの玉。

 その白黒の玉はもそもそと動いて……鳴いた。


『キュゥ……』

「え!? パンダ!? パンダって鳴くの!? え? なんでパンダ? ――ッ!?」


 ぬいぐるみのようなデフォルメ手乗りパンダに気が取られていた俺は、頬を掠めるように何かが通ったことに目を見張った。

 ツーっと頬を伝う感覚がして手で拭うと、案の定血だった。

 上を飛んでいる鳥が何か攻撃をしてきたらしい。


「ゲームの血も赤いのか……」

――ギャァァ!


 のんきなことを考えていた俺は、空からヒュンヒュンと何かが降ってきて逃げ惑う。


「うおおおお! ――イテェ!」


 腕にぶっとい針でも刺さったのかと思ったら、羽根だった。

 流石ゲーム。鳥が羽根撒き散らして攻撃してくるとは……! フェザーカッターってやつか!?

 その羽根が足にも刺さり、転んだ俺は最後の悪あがきとばかりに、咄嗟に手に触れた物を鳥に投げつける。


「これでも喰らえぇぇ!」


 立て続けに投げた三つの石のうち、一つが偶然にもクリーンヒット。

 ボトッと音を立てて落ちてきた。

 や、やったか?

 恐る恐る近付くと、首の長いカラスのような鳥がピクピクと痙攣していた。


「やべぇ……どうしよう……」


 血は見たくない。グロいのは遠慮したい。一発で仕留めなければそれは叶わない。

 悩んでいる間に鳥が動き出しそうなのを察知した俺は、咄嗟に手を伸ばす。

 掴んだのは首。


――ギャッ!

「うるさいって!」

――ギャ……


 間近で叫ばれたうるささに、片耳を塞ぎながら握っている右手に力を込める。するとポンッと音が鳴り、キラキラとしたエフェクトと共に鳥が消えた。


「え……死んだ?」

――ピロロロン♪

「ん?」


 何かお知らせでもきたのかとログを確認すると、レベルアップしていた。

 しかも、この鳥は格上だったらしく、格上ボーナス、さらに素手で仕留めたボーナス、初討伐ボーナスが付き、一気にレベル十へ。

 仕留めた鳥はドロップ品へと変わり、自動で無限収納インベントリに収納されている。

 これは討伐した瞬間に他のプレイヤーに盗まれないようにする措置だ。ログは残るから、パーティを組んでいるときに誤魔化しはできない。

 チュートリアルでも思ったが、こういうところはゲームならではだ。

 素手は完全に偶然なんだが……まぁ、ラッキーってことにしとこう。っつうか、あのパンダどこ行ったよ?


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