第20話 時と場合を選ぶポーション



 昨夜フラフラで帰ってきた俺は、トーマスさんに支えてもらいながら部屋に戻った。

 夜ご飯も食べる気力は残ってなかったけど、【クリーン】をかけてからベッドにダイブした自分を褒めてあげたい。


 朝起きると案の定筋肉痛。

 ベッドから起き上がるのもひと苦労で、ヨロヨロな俺の足は生まれたての小鹿バンビのようにプルプル。


「マンガのヨボヨボ爺さんみたいじゃないか……こんなところまでリアルを追求しなくても……」


 試しにポーションを飲んでみると、なんとか動けるくらいに回復した。

 ポーションすげぇな……


 朝ごはんを食べに下りると、リンダさんに昨日はどうしたんだと問い詰められた。


「……そうだったのね。大変だったわね。今日も行くの?」

「えぇ。明日も来いって言われたので。ポーション飲んでとりあえず動けるようには回復しましたし」

「あ! そうそう! ポーションだけど、筋肉痛にはあまり飲まない方がいいわよ」

「そうなんですか?」


 ワケを聞くと、動くようになった筋肉が元に戻ってしまうらしい。俺の場合は筋肉の損傷が激しすぎたから飲んで正解だけど、ちょっとの筋肉痛は我慢しないといつまで経っても成長しないんだそう。

 NPCはわかるが、俺達プレイヤーもそれに該当するんだろうか? せっかくキャラメイクに時間をかけたのに変わるとか悲しすぎる。

 またドミニクさんに聞きたいことができてしまった。



 トーマスさんがお昼ご飯用に作ってくれたおにぎりを持ってギルドに到着すると、エヴァンさんが仁王立ちで待ち構えていた。


「来たな。ほら、行くぞ」

「はぁ……」


 地下の訓練場に着くと、またもや重い鎧を身に付けるように言われた。


「あ! そうだ。リンダさんからエヴァンさんにお手紙預かったんですよ」


 鎧を着る前に思い出せてよかった。

 昨日の今日だからと言って、鎧を着るのはひと苦労。こんなところも現実的だ。ゲームなんだから一発装備したいと思うのは俺達だけじゃないと思う。

(タンク職希望のプレイヤーは大変だな……)


「やっと着れたか。今日も体力用メニューだ」


 昨日と同じく重たい鎧を着て走らされる。黒い狼みたいな魔物に追われているのも変わらない。

 俺を走らせている間に、エヴァンさんは昨日はなかった壁際のベンチに腰掛けて手紙を読んでいる。

 走っては休憩、走っては休憩。ひたすらその繰り返しが昼休憩まで続いた。


 どこの陸上部の合宿だよ! とは思っても言えない。通じないだろうしね。

 気のせいか、昨日より休憩が多い気がする。そのおかげか、昨日ほどは疲れていない。

 お昼ご飯のおにぎりと水を飲んだら、また午前と変わらないメニューが始まった。



 エヴァンさんの「もういいぞ」の声でようやく終わり、俺はまた地面に倒れ込んだ。

 昨日よりはマシだと言っても疲れるものは疲れる。

 エヴァンさんには「明日も来い」と言われたけど、「神殿に行きたいので明後日でお願いします」と断らせてもらった。


◇ ☆ ◇


 朝、再び筋肉痛に襲われた俺はポーションを飲んで動き出した。

 串焼きを手土産に神殿を訪れると、前回とは違ってすんなりと応接室に通された。


「お待たせしました。来て頂けて嬉しいです」

「今日お仕事は大丈夫ですか?」

「はい。ルディ様でしたらいつでも歓迎致します」

「ありがとうございます」


 サラッと女の子がときめくようなセリフを微笑みながら言うドミニクさんは、男の俺から見てもかっこいい。

 好きなNPCランキングでもあれば上位間違いなしだと思う。少なくとも今の俺はドミニクさんを推すよ! キレイでアハーン、ウフーンの巨乳エルフとかが出たらわかんないけどね!


「今日もリンダさんから献上品預かってるんですけど、どうすればいいですか?」

「ではまたあの部屋へ参りましょう」


 前回と同じ最奥の部屋で片膝を床に着けてお祈りをすると、また温かな気配に包まれた。

 今回はちゃんとあの串焼きを献上品として祭壇に置いたからね!

 屋台のおっちゃんが神様も神殿の人も好きらしいと伝えたところ、気をよくして今回もサービスしてくれた。


「あれ?」

「いかが致しました?」

「いや、筋肉痛が治ってて」

「なるほど。おそらく回復して下ったのだと思います」

「ありがたいですね」


 ゲームだから日本の神様とは違うけど、感謝の気持ちを伝えるならと柏手を打ってお礼を伝えてから応接室に戻った。



 応接室に戻ると、今日はどうしたのか聞かれたのでワケを説明した。


「……ふふっ。ご心配なさらずとも姿は変わりませんので、ご安心下さい」

「そうなんですね。よかったです」

「はい。ポーションについてですが、ルディ様はステータスをご覧になったとき、不思議に思われませんでしたか?」


 不思議? 不思議なことなんてあっただろうか?


「通常のテレビゲームとは違い、あるものが表示されていなかったと思います」

「もしかして……攻撃力とかのパラメーターですか?」

「はい。正解です」


 首を傾げていた俺に、ドミニクさんがヒントを出してくれてようやくわかった。

 パラメーターも表示されてしまうと、プレイヤー同士で強さが全て筒抜けになってしまうため、PK行為に発展しないようにとの措置から表示されないんだそう。

 ちなみに、称号は元々鑑定されても他人に見られることはないらしい(加護の有無で問題にならないため)が、俺のステータスが隠蔽されているのはナビっ子の加護のせいなんだと。

 隠蔽する意味あるのかね?


「プレイヤーのパラメーターは全て隠しパラメーターとなっております。キャラメイク時に選んだものから変化しないようになっておりますので、見た目は変化致しません。どうぞご安心下さい」

「そうなんですね。よかった……」


 俺がホッと胸を撫で下ろすと、ドミニクさんに「ふふっ」と笑われてしまった。


「リンダさんから筋肉痛にはポーション飲まない方がいいと聞いたんですけど、それはプレイヤーもなんですか?」

「はい。それは公示されていませんが、その通りです」


 隠しパラメーターとなっているから、プレイヤーにはわかりにくいが、ポーションはケガ以外ではあまり飲まない方がいいらしい。

 筋肉痛に耐えて自分の力とした場合と、ヒールなどの回復やポーションを飲んで治してしまった場合では、明らかに隠しパラメーターの差が出るんだそう。


「今回ルディ様は絶対神が治癒しましたので、全てルディ様のチカラとして定着しております」

「ありがたいですね。昨日と今日起きたときはまともに動けなかったので」

「あまりにひどい場合はポーションを飲んでも大丈夫ですが……そんなに大変なトレーニングをされているのですか?」


 心配そうに聞いてくれるドミニクさんに、あの眼帯男――エヴァンさんの鬼畜っぷりを説明した。


「なんと! 身体強化なしですか!? それは大変でしたね……」

「せっかく鍛えてもらってるので、文句を言うのも違うかなと……何か考えがあるのかもしれないですし」

「ふむ。それでしたら二、三日に一度、神殿にいらしてください。わたくしが影響が出ないように回復致します」

「それはありがたいですけど……いいんですか?」


 神殿長であるドミニクさんの手を煩わせるのも悪いと思って聞き返したら、「もちろんです」と返された。しかも「わたくしも絶対神もルディ様にお会いできるのは嬉しいですので」なんて言われてしまい、無下にもできなくなってしまった。



 お昼ご飯にドミニクさんに串焼きとスープをプレゼントして、城のような神殿を案内してもらった。

 神殿は見た目もデカいけど中は入り組んでいて、マップとドミニクさんがいなければ確実に迷子になる。立ち入り禁止区域もあったし、神殿に勤めている人達の居住エリアもあったからあまり徘徊はできないと思った。

 祈りの間もあの最奥だけではなく、目的によって使う場所が違うらしい。ちなみに俺は絶対神の加護をもらったため、あの最奥の間に勝手に入っていいんだそうだ。


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