第19話 眼帯男の特訓
定期メンテで神殿に避難していた俺は、神殿から戻った次の日、丸一日宿で過ごした。
ログアウトできないことにヘコんでたのを察知したのか、リンダさんが「ルディちゃん、負のオーラがすごいわ!」と宿から出してくれなかったんだよ。
気分転換ってことでトーマスさんに料理を教わったり、リンダさんに裁縫を教えてもらったり……手伝いにもならない手伝いだったが、二人共褒めまくってくれるわ、優しく教えてくれるわで俺のメンタルは見事に復活した。
☆ ◇ ☆
今日は普通に朝ご飯を食べ、リンダさんから許可が下りたから街に出てきた。
プラプラと歩いていたら、街の真ん中の広場でキョロキョロと挙動不審な女性を発見。名前の横にマークがないからNPCだ。
女性は街に着いたばかりで神殿への行き方がわからないらしい。
神殿への行き方を教えてあげると、笑顔でお礼を言って神殿へ向かって行った。
NPCも迷子になるなんて手が込んでいる。さすがリアルマネーで三十万もするだけある!
ちょっといいことした気分で街を散策。
武器屋や防具屋があるのはもちろんのこと、カフェやケーキ屋さんなんかもあり、中世と現世がごちゃ混ぜになっている印象を受けた。
ご飯は基本的なものは全て存在していた。パン・ラーメン・中華料理・日本食・パスタ・グラタン……
ただ、ラーメンは醤油ラーメンのみ。塩ラーメンや味噌ラーメン、濃厚豚骨ラーメンはない。他の料理も限定的だった。
なんとも不思議な食べ物事情だ。
まぁ、ゲームだから運営会社のスタッフの好みもあるんだろう。もしかしたら、食べたければ自分で作りなさい! という意図かもしれない。
あっちへブラブラこっちへブラブラと歩き回って何となく街の全体像が掴めた。
ただ、始まりの街なのにめちゃくちゃ広いんだよ。じっくり見て回るなら最低でも数日はかかる。
いくらマップで何の店かわかっても、何を売っているのか詳細はわかんないし、武器や防具なんかもその時の仕入れで売っているものが違うらしい。ちなみにこの情報は道具屋のおっちゃんからだ。
おっちゃん曰く、「運がよけりゃ、レアなもんが安く手に入るぜ」とのこと。
不審者ばりに一日中ウロウロして歩き疲れて帰ると、リンダさんがマッサージの出張サービスを呼んでくれた。
ツボ押しとストレッチを受けた俺はご飯もそこそこに部屋で爆睡することになった。
☆ ◇ ☆
ドミニクさんにも「しっかりと準備してから旅立ったほうがいい」と言われていたので、眼帯男の稽古を受けようと、今日はギルドを訪れた。
「おう。ちゃんと来たのか。その心意気は褒めてやる。付いてこい」
現れた眼帯男……エヴァンさんに案内されたのは、ギルドの地下にある訓練場だった。
土の地面で競技場のように観覧席がある。
「得意武器はなんだ?」
「うーん。特に思いつかないですね」
得意武器なんか俺にあるのか? チュートリアルでは全部どっこいどっこいだったし……日本人的には刀に憧れるんだけど、刀ってあるのかな? チュートリアルでは見なかったから、そうなると……やっぱ花形の剣か?
「はぁ!? お前武器使えるって言ってたよな!?」
「はい。全部似たり寄ったりですね」
「はぁ…………とりあえず好きなの取れ」
エヴァンさんが持ってきた箱を開けると、いろんな武器が入っていた。
やはり刀は見当たらなかったので、片手剣を手に取る。
刃は潰されていて、練習用なのがわかった。
「片手剣か。理由は?」
「え、理由ですか? なんとなくイメージですかね」
「イメージねぇ……振ってみろ」
振る……って素振りってことか?
剣の重さを確認するように振ってみると、チュートリアルで体験した剣とは違い、なんと言うかブレる感じがする。
一度素振りを止めて確認してみると、重心がズレていた。あまり質がよくないものらしい。
「なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
おそらく、俺が気が付いたのはチュートリアルで武器鍛冶を体験したから。
ここでの練習だけなら安い武器で充分ということだろう。重心がズレていると、変な癖が付いちゃいそうだから気をつけないと。
「そんなんじゃ魔物は殺せないぞ! ちょっと貸せ。見せてやる」
エヴァンさんが俺から剣を受け取ると、振り方を見せてくれた。
ふむふむ。刀と違って斬るよりも重さを利用して叩き潰す感じか。やっぱ刀とは違うんだな。刃が潰されているから余計にそうなのかも。
「こうやって……っ突くのも練習しろ。的があった方が良ければコレを使え」
俺に突きを見せた後、エヴァンさんは壁際にあったカカシのようなものを運んできた。
カカシに向かって剣を叩きつけ、刺突を繰り返す。
重みのある剣を振り続けて腕はパンパン。明日は筋肉痛になりそうだ。
「もうバテたのか? そんなんじゃフィールドに出たらすぐ
もう一時間は振り続けている。
戦闘ってこんなに長引くの? 俺、やっぱり武器使うの向いてない気がする……
「まだまだだが、休憩していいぞ」
エヴァンさんから許可が下りた俺は地べたに座り込んだ。
あぁー……身体強化でもしたらもうちょっと楽にできるんだろうな……ってちょっと待て。エヴァンさんに身体強化使うななんて言われてなくね?
「あの~、エヴァンさん。身体強化って使ってもいいんですか?」
「あ? んー………………ダメだ。それに慣れると基本ができなくなる」
「はぁ……そうですか。わかりました」
結構な
「休憩は終わりだ。立て」
「……はーい」
再びカカシに向かって剣を振る。
ふと、剣に魔力を纏わせて振ると斬れ味が増すってマンガで見たことを思い出して試してみた。
――――ザシュッ
「おぉー!」
「なんだ!? 今何した!? あぁん? 吐け!」
「え……ちょ、落ち着いてください」
勢いよく詰め寄られ後ずさる。
「剣に魔力を纏わせて切ってみただけです」
「…………そんなことでこうなるのか……しかし……そうか、そうか」
「えっと……エヴァンさん?」
「オレは魔力使うなって言ったよな? 師匠の言うことを聞けないやつは……鍛え直してやる」
身体強化は使うなって言ってたけど、魔力使うななんて言われていない。しかもいつの間に師匠になってたんだ!?
ニヤリと笑うエヴァンさんに、顔が引きつってしまう。
「そうだな……オレが間違ってた」
「え?」
「お前は体力がない。基礎の基礎から教えてやろう」
「えぇ……」
☆
武器を取り上げられ、重い鎧を着させられ……俺は今、訓練場を走らされている。……真っ黒な狼のような魔物に追われながら。
「遅い! 追い付かれるぞ!」
「ひえぇ」
ちょっと試しただけなのにー! 確かに体力はないけど!
それからお昼までノンストップで走らされ、終わった瞬間に床に倒れ込んだ。
「食わねぇと持たねぇぞ」なんてエヴァンさんが言ってるけど、気持ち悪くて食欲なんて湧かない。
鎧は重さも然ることながら、めちゃくちゃ蒸れるんだよ!
中のTシャツはもちろん、神殿でもらったボクサー型パンツまでビッショビショ。
結局、水だけ飲んで昼飯を食べないまま午後も走らされ……吐いた。
吐いたからって甘くなることはなく、水を飲んでは走って吐くのループだった。
終わったころには疲労困憊。「明日も来い」とエヴァンさんに言われ、疲れた体に鞭を打ってフラフラのまま宿に戻った。
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