第18話 サブキャラのステータス
ふと、意識が浮上して目を開けると、ドミニクさんがベッド脇のイスに座って本を読んでいた。
そういえば神殿に泊まらせてもらったんだっけか……
「あ、おはようございます。起こしてしまいましたか?」
「いえ……おはようございます。今何時ですか?」
「夕方近い時間になります。もう少しお休みになられても大丈夫ですよ」
「もう大丈夫です。起きます」
「スープを用意してありますが、食べられ……」
――グゥー……
ドミニクさんに言われた瞬間、食い気味で俺の腹が鳴った。
腹の音で返事するとか子供かよ! 恥ずかしすぎだろ……
「……すみません」
「いえいえ。食欲があってよかったです」
ドミニクさんはクスクスと笑いながら、俺が食べやすいようにテーブルを動かしてくれた。
ドミニクさんがメンテ前のソファのようにどこからか丼を出して蓋を開けると、ホワッと中華スープみたいな香りが漂ってきた。
ごま油のいい香りで、空腹を余計に感じる。
「こちら薬膳スープとなっております」
「ありがとうご、ざ……!?」
「ふふっ。見た目はあれですが、味は保証致します」
「あ……そう、なんですね……」
取り皿によそわれたスープが濁った紫色で、意図せず固まった俺はドミニクさんのセリフに頬が引き攣った。
ドロドロの液体の中に緑色の薬草らしきものが混ざっているスープは決して美味そうには見えない。ぶっちゃけ飲みたくない。
飲まなきゃマズイよな……わざわざ用意してもらったんだし……いや、でも……これは流石に……
俺の心の葛藤もつゆ知らず、ドミニクさんは微笑みながら見守っている。
そうだ。温かいスムージーだと思えばいい。これは健康にいいものなんだ。男は度胸……!
意を決してスプーンで口に含むと、予想外の味が口の中に広がった。
口当たりはコーンスープのようにトロミがあり、味付けは匂いの通り中華系のスープ。だが、普通の中華スープとはちょっと違う。
なんと言えばいいのかわからないが、とりあえず見た目からは想像のできない美味さだった。
「あ……美味い……」
「それはよかったです。まだありますのでおかわりなさって下さい」
「ありがとうございます」
お礼を伝えると、ドミニクさんは再び本を読み始めた。
特に会話はなく、部屋には俺がスープをすする音とドミニクさんが本をめくる音だけ。普段なら気にしそうな沈黙もドミニクさんの人柄のせいか気にならない。
「ごちそうさまでした」
「おや、もうよろしいのですか?」
「はい。おなかいっぱいです。残してしまってすみません」
「……ならいいのですが……女性だからでしょうかね?」
あ、そうか。俺今女キャラだった。声も違うのに普通に男キャラのつもりだったわ。
半分ほどしか食べなかった俺を心配そうに見つめるドミニクさんに笑ってみせると、一応は納得してくれたらしい。
「ティーナ様にはお話しておいた方がいいでしょう」
スープを片付けたドミニクさんの説明を簡単にまとめると……メインキャラとサブキャラの連動されているシステムについてだった。
アイテムやお金なんかは同期され、どちらのキャラでも出し入れが可能。キャラによっては使用不可のアイテムもあるが、これは選択できなくなる。更にキャラを変更した際、最後にいた場所か別キャラと同じ場所に行くか選べるらしい。
他にもちょこちょことした注意点はあったが、大きく特筆すべき点はこれくらいだろう。
「へぇ~! そんなに便利な仕様なんですね」
「はい。ですが、使えるものと使えないものをよく確認していないと、いざというときに使えない……なんてことになりかねません。キャラ変更時も目撃されないよう気を付けていただければと思います」
「あぁ、そうですね。気を付けます」
「ポーションなどの普通のアイテムもそうですが、素材や装備品も同様です。買取価格は街や店によって異なります。それを踏まえてご活用いただければと思います」
「なるほど。売買時に別キャラを応用すれば安く買えて高く売れるってことですね。わかりました」
「はい。では、奥の祈りの間に参りましょう」
ドミニクさんに連れられ、最奥の間に入った瞬間に思い出した。
(これ、ぶっ倒れたりしないよな? ドミニクさんが何も言ってないから大丈夫だよな?)
緊張しながら足を進めたが、前回と同じように特に何も異変はなかった。
ドミニクさんの
まさか……な。
☆
最奥の間を出た俺はドミニクさんに言われた通り冒険者登録を済ませ、再び神殿へ戻ってきた。
「何か違和感などはありませんか?」
「視点が低いなって思うくらいですかね? これは慣れだと思うんで大丈夫です」
「それならばよかったです。そうそう。こちらをお受け取り下さい」
ドミニクさんに渡されたのはホワイトバッファローのピアスと水晶のブレスレットだった。
何も考えずに受け取ったけど、理由がわからない。
「ナビっ子がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。
「えっと……」
「こちらピアス型をしておりますが、穴を開けずとも装備できますのでご安心下さい」
ドミニクさんのせいじゃないことがわかってる俺が言い淀んだのを、装備できるか否かってことと勘違いしたらしい。
気にしているドミニクさんの気持ちを汲んで遠慮しない方がよさそうだと踏んだ俺は、お礼を伝えてから装着。
ピアスホールなんかないのに、耳たぶに当てたらスッと通った。さすがゲーム。
それを見ていたドミニクさんはホッとした様子だったから、これで正解だったと思おう。
「よくお似合いです。ティーナ様はすぐにルディ様に戻られますか?」
「はい。そのつもりです」
「かしこまりました。でしたら今のうちにアイテムとステータスの確認をしておいた方がいいかと思います」
「そうですね。そうします。じゃあ……先にステータスを」
心の中で言うと同時にブォンと現れた半透明な画面を見てみる。
【ステータス】
【名前】ティーナ・リュンヌ
【種族】龍族
【年齢】18歳
【職業】見習い冒険者
【レベル】1
【状態】普通
【ユニークスキル】(*隠蔽中)
・
・鑑定
・全言語理解
・念話
・メッセージ
・隠蔽
【スキル】(*隠蔽中)
生活魔法・火魔法135・風魔法135・水魔法135・土魔法135・光魔法135・闇魔法135・空間魔法135・無魔法135
家事354・付与115・鍛治115・木工115・薬学130・錬金115・身体強化115・索敵115・探査115・武器術186・武闘術191・礼儀作法151・芸術58・社交ダンス174
【耐性】
物理耐性・呪文耐性・精神耐性・状態異常耐性
【従魔】――
【称号】(*隠蔽中)
・真面目
・ナビっ子からのお詫び
・神殿長からの祝福
・絶対神の加護
さら~っと見て、まず目に止まったのは最後の称号。
まさかとは思っていたが、本当に絶対神からまた加護をもらってるとは……今回は串焼き買ってきてないのに。あれか、このキャラでも持ってこいってことだな?
龍族は魔力が豊富だと聞いた通り、魔法に関しては男キャラより微妙に数値が高い。武器と武闘がちょびっとだけ低いのは女だからか、はたまたこのキャラに慣れていないからか……基準がよくわからん。礼儀作法に関してはあの教育ママのせいだろう。芸術だけやたら低いのは……
「俺には化粧のセンスがないことがわかりました」
「おや。それこそ慣れだと思いますよ」
「いや~……慣れたら慣れたでちょっと複雑ですね……」
「ふふっ。では、アイテムの確認をしてみて下さい。疑問があればお答え致します」
ドミニクさんに促された俺はメニューから
(か、金が増えてる……これもまたお詫びってやつか? 他は……うげ! カツラなんかあったのかよ! まだハゲてねぇぞ!)
全部を確認する前にまとめて
全体的にポーションなどのアイテム類が増えていたが、それよりも装備品の名称に引っかかった。
〝魅惑の谷間ブラセット〟や〝悩殺ベビードール〟なんてのがあるかと思えば、〝セクシーキャットスーツ〟に〝新妻エプロン〟。最早悪意があるとしか思えない。いや、悪意しかないだろう。
さらにヘアピンやヘアゴム、ネックレスや指輪などのアクセサリー類……と、使う予定のない装飾品が入っていた。
「あいつは俺をどうしたいんだ……」
「何か不都合なことがありましたか?」
「あの……装備品がちょっと……」
この装備品の名称を言葉にするのもはばかれ、言葉を濁してしまう。
それだけで伝わるハズもなく、結局装備名を羅列することになった。
「……そうですね……ナビっ子なりのお詫びなのでしょう。全て過去のイベント報酬となっており、防御力など著しく低いものもありますが、今ではレア物として扱われています。
「ちなみに返品は……?」
「申し訳ありませんが、神殿で回収はできかねます。神官には刺激が少々……」
「あぁ……なるほど……」
苦笑いを零すドミニクさんは言いづらそうに肩をすくめた。
そりゃそうか……神殿に勤めているくらいなら清廉潔白な生活をしているNPCだろうし……ドミニクさんが変態だと思われるよりは、秘匿したまま俺が肥やしにしておいた方が被害はないよな……
「申し訳ございません」
「あ、いえ。俺にはネカマスキルはないんで見なかったことにします」
俺の返答を聞いたドミニクさんはフッと笑みを浮かべた。
ナビっ子はキャラメイクとチュートリアルの担当っぽいからもう会えないかもしれないが、次会ったら絶対に文句言ってやる!
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