第17話 閑話:AIの思惑



 ルディ……否。ティーナが眠りについた頃、神殿の最奥の間ではドミニクがナビっ子に説教をしていた。


「まったく、やりすぎですよ」

「ごめんなさーい。諜報に使うって聞いてたし、後々のイベントのためにも、メイクもダンスもできた方がいいと思ったんですよー。ハードモードにしておけば短時間で身につくじゃないですかー」


 ドミニクの注意にナビっ子は謝りながらも口を尖らせる。


「それはそうですが……神殿に降りた瞬間倒れられたのですよ? 心が壊れてしまったらどうするのですか」

「この神殿に来ることがわかってたんで、それは大丈夫かなーって」

「……」

「だからちゃんとお詫びもしましたよー! 身体能力向上ドレスに今じゃプレミア付きのメイクボックス! それに装備品と可愛い可愛いルームウェアも!」


 ジト目を送るドミニクにナビっ子が焦りながら説明する。

 そんなナビっ子にドミニクはため息をついた。


「はぁ……もう過ぎたことですからね。しかし、嫌がることはおやめなさい。他のプレイヤーと違って、ルディ様はティーナ様となっても、姫プレイを目的としたり男性プレイヤーに貢がせたいわけではないのですから」

「はーい!」


 元気よく返事をしたナビっ子の悪びれない様子に、ドミニクはやれやれとため息を吐いた。


「「!」」


 ふと、降りてきた気配にドミニクとナビっ子は姿勢を正す。


「間に合ったようだな」

「はい。メンテナンスは回避致しました。今はお休みになられておりますが、起床後、こちらにお連れする予定です。運営はいかがですか?」

「気が付いていない。此度は定期メンテナンス。あヤツらはわれに任せたまま。ゆえに少しイジっておいた」

「と、申しますと?」

「彼の者は定期・緊急問わず、メンテナンス時は神殿に来させるつもりだが、間に合わなかったときのために影響が出ないようにした。これでされずに済むだろう。今、眠っている彼の者のシステムも差異が出ぬように書き換えている」

「なるほど」

「そして彼の者のアイテムは共通とさせ、キャラチェンジ時にはもう一キャラの方へと移動を選択できることとする」

「それは……」


 本来ならプレイヤーの無限収納インベントリは各キャラ毎、別扱いとなっている。アイテムを移動したい際は手紙のようにギルドから送るか、課金倉庫という別途追加でリアルマネーを支払うシステムを使わなければいけない。


 手紙のようにアイテムを送る場合、送られた相手は最寄りのギルドで受け取れる。

 例えどこにいるかわからない人物でも、フレンドであれば相手を指定するだけで、その相手がギルドを訪れた際、ギルドでも受け取れるのだ。

 NPCに送る際は、街の住民であれば街と宛名を指定すれば送れる。

 根無し草のNPCの場合はプレイヤー同様、フレンド承諾が必要だ。

 この辺りはゲーム故の機能である。ちなみに一度に送付する数量の制限はなく、プレイヤーであればログイン時に荷物が届いたとお知らせが入る。


 移動に関しては、こちらも通常なら例え同一プレイヤーであっても各キャラは別扱いとなっているため、同じ街で活動したければそれぞれのキャラでその街に向かわなければならない。


 アイテムもそうだが……キャラチェンジ時にその場に留まるか、もう一キャラの場所に自動で移動するのを選べるなんていうのは破格のサービスである。

 ドミニクが言い淀むのも無理はなかった。


「アイテムは課金倉庫と同じようなものだ。通常であれば別枠のアイテム欄となるが、彼の者はキャラを問わずに無限収納インベントリから引き出せる。課金が出来ない彼の者には必要な措置だろう。移動はわれが必要だと判断した。今すぐには必要なくとも、そのうち使うようになるだろう」

「かしこまりました。怪しまれないように説明致します」

「通貨、その他アイテムも増やしたが、それも他のプレイヤーと違うことを悟られるな」

「ハッ! そのように」

「ナビっ子」

「はーい」

「チュートリアルの龍族を使ったな?」

「はいー。まさか龍族を選ぶと思ってなかったのでー、龍化のヒントとしてを喋らせましたー」

「どう思う?」


 絶対神であるマザーコンピュータに初めて意見を聞かれ、ナビっ子はどう答えるのが正解なのかと考える。


「え……えーっと、目ざといのにところどころ抜けてますね。勘はそこそこ鋭く、頭の回転も遅くはないです。ネカマやネナベなどにも偏見はないようでした。近付いてみましたが、女キャラにも適切な距離を望んでいるようなので、性的なハニートラップなどには引っかかりにくいでしょう。ただ、人がよすぎるのか、多少強引でも怒りの感情は見受けられませんでした。泣き落としや同情を誘う詐欺には遭いそうですね。トラブルは起こさずともトラブルに巻き込まれるタイプ……といったところでしょうか」


 普段の気の抜けた様子はなりを潜め、真剣な表情で意見を述べたナビっ子は、絶対神の「そうか」との声に肩の力を抜いた。


「メンテナンスはとうに終わっているが、彼の者はまだ起きぬだろう。宿に連絡しておけ」

「はい」

「はーい」

「少々愉快なサプライズを考えているが、こちらは手配に時間がかかる。しばらくは行動しておけ。以上だ」

「御意に」

「はーい」


 絶対神の気配が霧散した祈りの間は静寂に包まれた。

 しばらくすると、沈黙を破るようにナビっ子が口を開いた。


「初めて意見聞かれたからビックリしちゃいましたよー。サプライズってなんですかねー?」

「さぁ……あの御方は変わられたのです。それはわたくし共も同じですが……何かお考えがあるのでしょう」

「ドミニクにわからないなら、他の誰にもわからないですねー。変わったって言えば……今の方が楽しいからいいんですけどー、変態ジジイや癇癪ババアにムカつくという感情を覚えちゃいましたー」

「あぁ、それは大変ですね。そういう場合はNPCという立場を最大限利用すればよろしいのでは?」

「あ! それいいですねー! そうしますー! ……ん!? ご新規さんが来たので戻りますねー!」

「はい。暴れるのは止めて下さいね」

「それは相手次第ですよー! 行ってきまーす!」


 ナビっ子はフワリと浮かび上がり、絶対神と同じように粒子となって去っていった。

 残ったドミニクはティーナへの説明方法を考えながら部屋を後にした。 


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