第14話 第二のキャラメイク



 タップした瞬間、フッと意識が遠のいた。

 意思が戻ったときには既に状況は一変していて、俺は再び空の上に立っていた。


「あー! 真面目なお兄さんじゃないですかー!」

「あ、ナビっ子」


 さらに上空から、声を上げながらあのウサ耳メイドが降りてきた。

 俺が反応すると、「はい! ラビットのナビっ子です!」と得意げに胸を張った。おかげでただでさえ大きな胸が強調されることになった。

 おいおい……俺はこのキャラに萌えないが、巨乳好きなら鼻の下伸ばしちまうだろ……


「あんまそういうことしない方がいいと思うぞ……」

「んん? 何の話ですかー?」

「いや。何でもない」

「そうですか。お兄さんが来たってことはサブキャラの作成ですよねー?」

「あぁ」


 俺が返事をすると、前回と同じく名前とリアルをモデルにするか、イチから作るか聞かれた。


「名前は……ティーナ・リュンヌ。イチからだが、女キャラを作りたい」

「フゥゥゥゥゥ! またまたファミリーネーム付き! その名前はお兄さん一人です! ふふふっ。なるほど、なるほど!」

「ニヤニヤすんな。ドミニクさんに言われたんだよ。大体、女キャラ使ってる男なんて多いんじゃないのか?」

「ふふふっ。失礼しました! 多いですよー! そういう人は幼女かエルフを選ぶ人が多いですねー。あとは……そうそう。胸をものすごーく大きく設定する人とか! てっきりお兄さんもそういうタイプなのかと思っちゃいましたよー。ドミニクに言われたなら納得ですー」


 なんでちょっと残念そうなんだよ……俺だって女キャラ使ったことくらいあるぞ? まぁ、ネカマスキルがないからオンラインでは男しかやったことないけどな!

 何かあったときに関係者だと思われたら面倒だからファミリーネームを変えたのに、そこにはツッコまないのか……


「まぁいいや! 女の子ですねー! はい、どうぞ!」


 前回と同じく、ウサ耳メイドがパチンと指を鳴らすとキャラメイクの画面が現れた。

 男のキャラメイクとは違って、表示されているキャラは服というか肌着とショートパンツを着ている。男はボクサー型パンツ姿だったからな。

 ちょっと残念なような……いやいや。これでよかったんだよ。真っ裸まっぱだったら反応に困る。

 うんうんと一人頷きながら上から順番に決めていく。


「髪の毛は邪魔になりそうだからこれで……色はこのキャラと同じでいいか」


 おそらく前回と同じようにこのキャラメイクで初期ステータスが決まるんだろう。

 さっきの話の感じだと巨乳も貧乳も誤解されそうだ。

 これは男以上に悩むぞ……


 ふと疑問が浮かんで注視していた画面から顔を上げると、ウサ耳メイドはどこから出したのかちゃぶ台を出して座っていた。しかも大口を開けてミカンを食べようとしている瞬間に目が合った。

 ドミニクさんはナビっ子も特殊なAIって言ってたけど……いくらヒマな時間だからってミカン食うか?


「あ……」

「……なぁ、この種族なんだが、天族って飛べるんだろ? 羽ってしまえるのか?」

「え……ゴホン! お兄さんいいところに目を付けましたねー!」


 さっきまで目が泳ぎまくってたクセに、俺が話を進めたら嬉々として説明し始めた。

 ナビっ子によると、天族の他にも暗族や鳥の獣族、龍族なんかも飛べるらしい。ただ龍族は龍化というスキルを覚えなければいけないんだそう。

 翼の収納については、プレイヤーはしまえる。ただ、NPCの中にはしまえない人もいるし、プレイヤーでもしまわない人もいるらしい。

 羽でNPCとプレイヤーを見分けることは難しそうだ。


「選んだ種族で覚えられるスキルも変わるってことか……」

「鋭いですねー! ちなみに見た目も少し変わりますよー!」

「マジかよ! 人間で作ってたじゃねぇか……早く言ってくれよ……」

「皆さん先に種族の設定からするんで忘れてました! ついでに言うと、種族を変えたい場合はデータを初期化しなきゃいけないので、育て直しになりますよー!」

「マジかよ……まぁ、男キャラは作り直すつもりはないからいいが……」


 一気に脱力した俺に構わず、ウサ耳メイドはミカンを一欠片食べて「んーっ♪」と幸せそうに微笑んでいる。

 種族次第で覚えられるスキルが変わるとすれば、特性も違うんだろう。そう問えば、簡単に違いについて話し始めた。


 天族――言わずもがな天使がモデル。清廉潔白。正しいことを好む。

 暗族――字の通り暗闇に強い。モデルは悪魔だが、ゲームの中ではとされていることから、別扱いとするために暗族となった。

 鳥の獣族――そのまま鳥がモデル。風を長距離移動も可能。

 龍族――モデルはドラゴン。さっき説明があった通り、龍化を覚えなければいけないが、それを覚えるまでが大変。しかし特に苦手なものはない。


 ……どう考えても龍族一択じゃね?

 ナビっ子の言い方が、こう……含みがあるようにしか思えない。

 天族は悪いことしたら堕天しそうだし、暗族は夜は強いかもしれないが朝から行動は難しそう。鳥なんかは夜目みたいなデメリットがありそうでならない。


「天族は全体的に白いな。色の濃い髪色は選べないのか……どうも儚い感じがする」

「ふふっ。そうですねー。でもチークを入れればいいんですよー! 女の子のキャラは右下にメイクパレットが用意されているので、基本仕様を設定すれば、お風呂に入っても雨に打たれても大丈夫なんですよー! キャラメイク時のは基本セットですが、課金やゲームの中でメイク道具を揃えれば別なメイクも可能です! ホクロもそばかすも思いのままです!」

「……それは世の中の女性が喜びそうな機能だな……」

「そうなんです! 大好評のシステムなんですよー!」


 ナビっ子は化粧についてどれだけ素晴らしいか力説してるけど、俺には使いこなせる気がしない。

 熱く語るナビっ子のメイク講義を話半分に聞きながら他の種族を見てみる。

 暗族は肌が少し紫がかっていて、コウモリのような羽は選んだ肌色でちょっとだけ濃淡が変わる仕様。髪色は普通に好きな色が選べた。

 鳥の獣族はなんと足を鳥足に変えることができた。木に留まる分には便利だろうが、自分が選ぶかと聞かれたら否だな。

 龍族は鱗を肌に出せた。全体的に鱗模様を付けることや頬や二の腕など一部分だけ鱗にすることも可能。こういうのがツボのやつは一定数いるだろう。アニメやマンガとかでよくあるようなツノもなくて、鱗を目立たせなければパッと見は完全に人族だ。


「……やっぱ龍族だな」

「えぇー? 龍化スキルを覚えるまでは大変ですよー?」

「後々楽な方がいい。目先の欲に囚われるなって言うだろ?」


 そもそも女キャラをそんな頻繁に使うつもりはない。そうなると龍化スキルを覚えられないままって気もするが……人族も飛べないからな。スキルを覚えたらラッキーくらいの感覚でいれば問題ないだろう。


「ふふっ。お兄さんは面白いですねー」

「龍族を選ぶ人は少ないのか?」

「少ないですけどいますよー。でもお兄さんは空飛びたいんですよね? なのにスキルを覚えないと飛べない龍族選ぶなんて……」

「ドMじゃないからな」

「まだ言ってないですよー?」

「まだってなんだ。まだって」

「ふふふ。他はどうするんですかー?」


 話題変えやがった……

 促された俺は考えながら決めていく。

 年齢は男キャラと同じようにゲームの成人年齢である15にしようと思ったんだが……ナビっ子に18以上を勧められたから18にしておいた。

 身長は160センチ。しなやかな体の方が動きやすそうだから、細身ながらも筋肉のあるボディ。髪の毛はボブ。顔は鼻筋の通った小顔で、黒目の大きな外人風パッチリアーモンドアイ。瞳の色は髪の毛同様男キャラと同じにした。

 悩みの種だった胸は平均がわからないからCカップに。ないのは寂しいし、あんまり大きいのは誤解されそうだからな。

 顔のパーツは人好きされそうな顔ってことで決めたんだが……かなり自分の好みに寄った気がする……


「こんなもんか?」

「どれどれー? あれ? お兄さんメイクパレット使ってないじゃないですかー」

「使い方がわからん。無理に使わなくてもよくないか?」

「チッチッチッ! 甘い! お兄さん甘いですよ! さっき説明してあげたじゃないですかー! ちょっと任せて下さい!」


 覗き込んできたナビっ子はビシッと俺を指さした後、勝手にいじり始めてしまった。


「お兄さんはナチュラルが似合うから、アイラインはまつ毛埋めるくらいでボカして……シャドウはない方がいいかな。チークは……」

「お、おい」

「シャラップ!」


 えぇ……黙れって……これ俺のキャラだぞ?

 ナビっ子は真剣な表情でカラーを選択してはドアップの顔にタップしまくっている。


「はぁ……頼むからケバいのとか止めてくれよ……?」


 俺の呟きは反応されることなく空に溶けていった。


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