第12話 やっと本題



 応接室に戻ってくると、ドミニクさんが紅茶を淹れてくれた。

 香りからしてカモミールティーだ。香りのおかげか、混乱しきりだった俺の頭の中も少し落ち着けた。


「ふぅ……」

「ふふふっ。落ち着かれましたか?」

「あっ、すみません。声に出ちゃってましたね」


 ドミニクさんにクスクス笑われると、恥ずかしくなるのはなぜだろうか。

 自分の無知を晒される感じか?


「では、ルディ様の疑問にお答え致します。何からがよろしいでしょうか?」

「すみません。最初からお願いします」

「ふむ。ではなぜルディ様をお連れしたか、からでしょうか?」

「はい」

「そうですね……勘です」

「え?」


 かんって……勘? え? あの部屋入ったらぶっ倒れるんだよね? ドミニクさんのその勘が外れてたら俺もぶっ倒れてたんだよね?


「ふふっ。大抵の人はあの部屋にすら近付けないのです。ルディ様はナビっ子の加護を持っていらっしゃいますよね?」

「加護? 称号には餞別って書いてありましたけど……」

「それが加護の一種です。ルディ様には特に異変など見受けられませんでしたので、そのまま部屋に入りました。わたくしの勘はよく当たりますが、例えハズレても害はありませんし、キチンと介抱するつもりでしたよ」

「そうですか……」


 たぶん、神殿長なんて役職に就いているくらいだから予感めいたものがあるのかもしれない。

 実際お祈りするまで全く異変なんて感じなかったし。


「それならまぁ……加護もらったってどういうことですか?」

「おや。感じませんでしたか?」

「もしかして温かい何かに包まれた感じのアレですか?」

「そうです。やはり感じられたのですね。絶対神の加護はそうそう与えられるものではありません。と言うのも、献上する際に絶対神が降りてくることが滅多にないのです。ルディ様を気に入ったようですね」

「え、俺気に入られるようなこと何もしていないと思うんですけど……」


 俺がしたことと言えば……ドミニクさんに付いていき、部屋を見てほうけ、お祈りに合わせて頭を下げただけだ。

 神に向かって何かをお願いした訳でも、宣誓した訳でもない。むしろ何も考えていなかったと言った方が正しい。


「ルディ様のお人柄でしょう」


 それこそ有り得ない。ドミニクさんには世話になりっぱなしで、冒険者ギルドに登録して宿屋で爆睡してただけだ。

 まぁ、悪い加護ではなさそうだからありがたくいただいておこう。


「献上品が消えたのは?」

「あれは神が持って行ったからです。送り主の心がこもっていますので」

「へぇ~。ちゃんと受け取ってもらえるんですね」


 さすがゲームだ。日本なら神社や寺の管理者が処理する。神にキチンと受け取ってもらえるのなら身近に感じるし、信心深くもなるだろう。そもそもリンダさんはNPCだしな。


「今日はどうなさったのですか?」

「あぁ! そうでした。宿でログアウトできなくて、ログアウトするのになにかクエストやフラグ回収などが必要なのか聞きたかったんです」

「ログアウトできない……ですか?」

「はい。キャラチェンジのボタンしかなくて……」

「失礼ですが、見せていただいても?」


 見せ方を教えてもらってドミニクさんに見せると、ドミニクさんも驚いていた。やはりおかしいらしい。


「本当、ですね……大変申し訳ございませんがわたくしにはわかりかねます。運営に問い合わせることもできないとなると…………」

「ドミニクさんでもわからないんですね……」

「えぇ……わたくしやナビっ子は少々特殊なAIでして、基本的に問い合わせは本人にしていただく仕様になっております。わたくし達から運営には問い合わせできないのです。…………もしかすると、プレイヤーならばわかるかもしれません」


 なるほど。プレイヤーなら攻略サイトなんかで情報を持ってたりするもんな。でも昨日も今日もプレイヤー見てないんだよな~。


「プレイヤーはこの街には少ないんですか?」

「……そう、ですね。皆さん旅立ってしまいますので」

「そうか……始まりの街ですもんね」


 なら当面はプレイヤー探しながら旅に出る感じかな?


「ログアウトできないという不安はあるかと思いますが、〝急いては事を仕損じる〟ということわざもございますので、しっかりと準備してから旅立った方がよろしいかと思います」

「そうですね。仕事が心配ですけど、現状はどうしようもないので……せっかくなら楽しみたいですし」

「はい。ぜひ楽しんでいただけたらと思います」


 焦ってもしょうがないか。クビになる前に起きたいが……ぶっちゃけあのジジイを困らせてやりたい気持ちもあるっちゃあるし。

 まぁ、人生なるようになるだろ!


「ルディ様はこの後予定がおありですか? なければご一緒に昼食はいかがでしょうか?」

「あ! ドミニクさんと食べようと思って串焼き買ってきたんですけど……もしかして串焼きとか食べないですか?」

「串焼きですか! 嬉しいです。いただいてもよろしいのですか?」

「はい。屋台の串焼きが美味しかったので」


 ドミニクさんは少年のようにキラキラとした顔を串焼きに向けていて、いらぬ心配だったらしい。


「あれ?」

「いかが致しました?」

「三十本あったはずなんですけど、十本しかなくて……」

「申し訳ございません。おそらく絶対神です。先ほどのお祈りのときに勝手に持っていったのでしょう」

「そんなことできるんですね」

「そんなことするのは絶対神くらいです。せっかくルディ様が買ってきてくださったのに……」


 がっくりと肩を落としてドミニクさんが謝ってくれたけど、ドミニクさんのせいじゃない。

 あんなにたくさんトーマスさんが作った料理があったのに、俺の串焼きまで持っていくなんて……

 俺の中で絶対神は食いしん坊としてインプットされた。


「気にしないでください。ドミニクさんのせいじゃないですし。とりあえずどうぞ」

「ありがとうございます。いただきますね」


 ドミニクさんはひとくち食べるなりカッ! と目を見開いて、パクパクと食べていく。


「申し訳ございません。大変美味しく、夢中になってしまいました」


 そう言うドミニクさんの手にはすでに五本目が握られていて、気に入ってもらえたことが見ていてわかる。


「いえ、気に入ってもらえて嬉しいです。俺も好きなので」

「とても美味しいです。ずっと食べたいと思っていましたが、食べる機会がなかったので……夢が叶いました」

「ははっ。屋台のおっちゃんに伝えておきますね」


 俺は朝ごはんをたらふく食べたからあまりおなかは減ってなかったんだけど、食べないとドミニクさんが遠慮しちゃうかなと一本だけ食べた。


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