第10話 ウサ耳メイドのサービス
目が覚めると外は薄暗かった。時間を確認すると、朝け方の四時。爆睡していたらしい。
「やべぇ……めっちゃ腹減った」
生活魔法である【クリーン】をかけると風呂に入ったようにスッキリした。
ありがたい魔法だ。
チュートリアルで体を慣らしたとはいえ、やはり
部屋で準備運動のように体を動かすと余計に腹が減った。
「昨日昼ごはん作ってくれるって話だったけど、爆睡してて食えなかったもんな……朝ごはんまで時間あるだろうし、昨日しなかったアイテムの確認でもするか」
ベッドに腰掛け、メニューから
「ん~。んん!? 多くね!?」
初期装備っぽい武器一式や防具一式はわかるが、テント・結界石・キッチンツール・食材・錬金術用や鍛冶用の道具など、これだけあれば買い物もしなくて済みそうなラインナップだった。さすがに食材は切れたら買わなきゃいけないだろうが……
「こんなもんなのか? ネットでも情報出てなかったしな……俺が見ていなかっただけかもしれないけど……他の人を知らないから比べようがないな」
まぁ、無くて困るよりはありがたいだろう。もしかしたらウサ耳メイドが言っていたサービスかもしれない。
「ん? 金も多くないか?」
アイテム欄とは別に右上に表示された金額に目を
「コンマがないと見づらいな。いち、じゅー、ひゃく、せん…………んなっ!? 500万!? 確かネットには10万って出てたぞ!?」
生活していくコツを掴むために、しばらく生活できるようにって10万だったハズだ。確かドミニクさんも10万と言っていたハズ。
昨日串焼きを買うのと、宿に泊まるのにお金を使ったから……正確には510万持っていたらしい。
「マジかよ! あのウサ耳メイドのサービス、超ありがてぇ!」
他にこんな大金をもらえる理由がわからないので、おそらくウサ耳メイドが言っていたサービスだろう。
「しっかし、
パンッと両手を合わせ、雲の上にいたウサ耳メイドに感謝を示した。
「手ぶらでもいいんだが、カバン持ってた方が冒険者っぽいよな~。なんかないかな?」
タップしてみると、“探したいものや系統を音声にて入力して下さい”と出てきた。
「なるほど。このマイクのマーク押してから言えばいいんだな。……アイテムバッグやカバン」
目当てのものを言うと、砂時計がクルクルと回り、画面にカバンが表示された。
リュック型、ショルダー型、ウエストポーチ型。型は三種類だが、シンプル、ゴツめ、フリフリとデザイン違いで入っていた。
「いや、フリフリはねぇだろ……」
シンプルな黒色のショルダーバッグをタップすると、説明書きが出てきた。
このバッグはマジックバッグで、ほぼ無限に収納できて時間経過もなし。しかも所有者登録制で、どこかに置き忘れても盗まれても、いつの間にか戻ってくる【カムバック機能】付きらしい。
しかもマジックバッグの中にはポーションやそのまま食べられるパンや干し肉など食材も入っていた。
「至れり尽くせり! 最高だな!」
早速ショルダーバッグを出して、まだ出かけないのに肩に掛けてみると、リュックカンみたいな調整金具も付いていないのに、サイズが勝手に調整された。
「おぉ! これが俗に言う【自動サイズ調整】ってやつか~。なんて便利な!
まだ日は昇っていない。朝ごはんまでは時間がありそうだ。そこで、昨日の眼帯男……エヴァンが渡してくれた簡易図鑑をベッドに寝転がって見てみる。
図鑑には、始まりの街の周りにいる魔物や薬草の効能なんかが載っていた。
「へぇ~。モリモリ草に毒々草ねぇ……毒々草は毒と毒々しい見た目にかけてんのかな?」
パラパラと
「おぉ! 従魔とか最高だな! 疲れた心を癒してくれるモフモフをぜひとも仲間にしたい!」
従魔契約するには懐かれて魔物の方から望まれるか、戦いに勝って認めさせなきゃいけないらしい。
可愛いモフモフと戦いたくはないから、自分に懐いてもらいたい。
なんとなく見ていただけだったが、思っていたよりもページ数が多く、気が付くと日が完全に登っていた。もうそろそろ朝ごはんの時間だろう。
一階に下りると坊主のトーマスさんに目を丸くされた。
「起きたのか」
「えぇ、すみません。疲れて眠っちゃったみたいで」
「朝下りて来なかったら生存確認しに行くところだった」
「すみません」
「いや、いい。腹、減ってるだろ。そっち、座ってろ」
トーマスさんに目線で示されたテーブルに着くと、すぐに料理を運んで来てくれた。
「おぉ! めっちゃ美味そう!」
「おかわりある。言え」
昨日も少し思ったけど、トーマスさんは言葉が簡潔だ。ただ、邪険にされている気はしないから元々こういう話し方なんだと思う。
腹がさっさと寄越せと音を鳴らして訴えてくるので、「いただきます!」と手を合わせてスープから飲んでみた。
「めっちゃうめぇ……」
そこからは我慢できず、ガツガツと食べてしまい、行儀とかマナーとかぶっ飛んでいた。
食べ終わって食後の紅茶を飲んで、食べすぎてポッコリと出た自分のおなかを見て苦笑いがこぼれた。
我を忘れてご飯を掻き込むなんて社会人として恥ずかしい。そして苦しい。
「ふふふ。ルディちゃんたら、そんなにおなか減ってたのね」
落ち着いたところで、リンダさんに笑いながら話しかけられた。
「えぇ、すみません。あまりの美味しさに無我夢中になってしまいました」
「気に入ってくれて嬉しいわ。トーマスも喜んでるし」
「トーマスさんが?」
「えぇ。料理はトーマス担当なのよ。アタシは掃除や洗濯」
この美味いご飯はトーマスさんの手作りだったのか。
あの巨体からこんな繊細な味付けをするなんて想像しにくいが、リンダさんが言うならそうなんだろう。
こんな美味い料理なのに繁盛しているように見えないのは、トーマスさんの無骨さと……特にリンダさんの強烈さのせいだと思う。
「なるほど。分担しているんですね。ご飯、とても美味しかったです」
「ふふっ。その笑顔を見ればわかるわ。今日はどうするの?」
「神殿に行こうと思ってます」
「あら! ルディちゃんは信心深いのね! とってもいいことだわ!」
プレイヤーではないNPCのリンダさんにはログアウトのことは聞けない。
特に信心深いわけではないんだが、否定したら怪しまれるだろう。
「神殿に行くなら、差し入れを頼んでもいいかしら?」
「差し入れですか?」
「神への献上品みたいなものよ」
「構いませんよ」
俺が了承すると「ちょっと待ってて」とカウンターの裏のドアからどこかに行ってしまった。
紅茶を飲みながら待っていると、ファンシーなクッションやらエプロンやら……いろいろと抱えたリンダさんが現れた。
「これをお願いしたいの。このバッグに全て入るから、このバッグ使って?」
そういってデカいバッグも渡してくれたけど、蛍光ピンクにレースでふんだんに装飾されているバッグは、正直持ち歩きたくない。
「マジックバッグ持っているんで大丈夫ですよ」
「まぁ! そうだったのね! なら他のもお願いしたいわ!」
リンダさんに渡されたファンシー雑貨をマジックバッグに移していると、トーマスさんが料理を持ってきた。
「これも頼む」
「はい。わかりました」
結局、リンダさんからは大量のファンシー雑貨、トーマスさんからは大量の料理を頼まれた。
昨日聞けなかった宿の設備やご飯の時間などを聞いた後、二人に手を振られて宿を出た。
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