第7話 メニュー




 眼帯男の地図はわかりやすく、宿まで迷わなかった。

 中に入ると随分とファンシーな雰囲気だった。外見はゲームによくある普通の宿なのに、中は花やらリボンやらで彩られていて外と中のギャップが激しい。


 うん。俺がいちゃいけない空間だな。きっと建物を間違えたんだ。そうに違いない。それか眼帯男にからかわれたんだろう。ハハハ。いや~、お茶目な眼帯男だ。勘弁してくれ。


「おい」


 回れ右をして、入ってきたばかりの入り口から外に出ようとすると、ガシッと肩を掴まれた。

 ギギギッとぎこちなく振り返ると、坊主で巨体のオッサンに見下ろされていた。


「ヒッ!」

「すまん。怖がらせたか」


 俺が驚くと巨体なのにショボーンと落ち込んでしまった。

 振り向いたら上も横もデカいオッサンに見下ろされてたら怖いだろ? 俺より遥かにデカいんだぜ? 俺は悪くないと思う。思うが……落ち込まれると罪悪感を感じてしまう。


「んもぅ! また怖がらせたの? お客さん逃げちゃうじゃない!」


 どうしようかと考えていると巨体の後ろから男の声が聞こえてきた。

 はて? なんかおかしいな? 今男の声だったのに女口調だった気がしたんだが……

 声のヌシを探したいが、目の前に巨体があり視界がほとんど塞がれているため全くもって見えない。


「えっと……」


 苦し紛れに言い淀むと、巨体が後ろに下がり、似たような巨体が現れた。

 顔のパーツも身長も横幅も坊主のオッサンにそっくりなのに、髪の毛がショッキングピンクのツインテールでフリフリのエプロンを着ているオネエ様でした。


「んまぁ! 可愛らしい坊やね! 泊まりかしら?」

「いや~、たぶん間違いです──ヴッ!」


 人の好みはどうこう言わない。個人の自由が一番だと思う。俺の友人にトランスジェンダーもいるし偏見はないつもりだ。男が男好きでも、女が女を好きでも、男だけど女装が趣味でも構わないと思う。ただ俺が女性が好きなだけ。

 しかしな、初対面の人間に抱きつくのはアウトだと思うんだ。そして頬ずりとサワサワと俺のケツを撫でないで欲しい。


「いいわ~! 若くて張りのある肌! たまらないわ!」

「おい。怖がってる。やめろ」

「あら?」


 最初に現れた坊主のオッサンが注意してくれると、ようやくオネエ様が離れていった。自分の貞操の危機を感じ、ブルッと震えてしまったのは仕方ないと思う。


「あらぁ? ごめんなさいね。あまりにも可愛いから我慢できなかったの」

「い、いえ……」

「間違いだと言っていた。怖がらせた詫びに案内してやる」


(坊主のオッサン優しい! ビビってごめんなさい!)

 俺はオネエ様からササッと離れて坊主のオッサンの隣りに移動して、ギルドの眼帯男に書いてもらった地図を見せた。


「これはココだ。誰が描いた?」

「えっと、冒険者ギルドの眼帯の人です」

「エヴァンか……」


 眼帯男はエヴァンって名前だったらしい。名前聞いてなかったから知らなかったよ。


「エヴァンの紹介なら安くしてやる。泊まるか?」

「あら! エヴァンちゃんの紹介なんて珍しいわね! 期待の新人なのね!」


 期待の新人って言葉に引っかかり聞いてみると、眼帯男のエヴァンが気にいった新人をこの宿に紹介しているらしい。わざわざ地図を書いてまでの紹介は初めてだと言われた。

 あの登録時のどこに気に入られる要素があったのかは謎だが、安く泊まれるのはありがたいのでお願いすることにした。


「エヴァンちゃんの紹介なら朝と夜のご飯込みで銀貨二枚でいいわよ!」


 あの眼帯男に“ちゃん”付けは違和感を感じるが、触れない方がいいと俺の勘が訴えている。

 銀貨二枚は2000ゼニだ。一泊二食付きでこの値段は破格の値段だろう。まだ相場をイマイチわかっていないが。


「とりあえず十日お願いします」

「十日なら金貨二枚だ」


 ポケットからお金を出すフリをして無限収納インベントリから金貨二枚を出して坊主のオッサンに渡した。


「オレはトーマスだ」

「アタシのことはリンダって呼んで」

「俺はルディです。お世話になります」


 オネエ様のリンダさんのウィンクをスルーして自己紹介をすると、坊主のオッサン改めトーマスさんが早速部屋に案内してくれることになった。


「ここだ。三階の二番。今日は朝食を食べていないから昼食を出す。昼になったら下りてこい。その時に他のこと説明する」

「わかりました。ありがとうございます」


 トーマスさんから部屋のカギを受け取り中に入ると、ベッドと机とイスがあるシンプルな部屋だった。


「ふぅ。なんとか宿までこれたー。地味に緊張しっぱなしだった。街の人もNPCのはずなのに普通の人間みたいに話ができるとは思ってなかった……さて、確認しないとだな」


 ドサッとベッドに横になり、メニューを開いた。

 頭で「メニュー」って思えばいいだけだから楽チンだ。


「んっと、まずはやっぱりステからか」


 目の前に現れた半透明な板を確認しつつ独り言を呟く。

 ステータスは頭に「ステータス」って思えば開けるが、初めての確認だからメニューから開いてみた。



【ステータス】


【名前】ルディ・レーン

【種族】人族

【年齢】15歳

【職業】見習い冒険者

【レベル】1

【状態】普通

【ユニークスキル】(*隠蔽中)

無限収納インベントリSP

・鑑定

・全言語理解

・念話

・メッセージ

・隠蔽

【スキル】(*隠蔽中)

 生活魔法・火魔法125・風魔法125・水魔法125・土魔法125・光魔法125・闇魔法125・空間魔法125・無魔法125

 家事354・付与125・鍛治125・木工125・薬学125・錬金125・身体強化125・索敵125・探査125・武器術207・武闘術213

【耐性】

 物理耐性・呪文耐性・精神耐性・状態異常耐性

【従魔】――

【称号】(*隠蔽中)

・真面目

・ナビっ子からの餞別

・神殿長からの祝福



「ふーむ。普通なのかすごいのかよくわからんな。念話とメッセージがユニークスキル扱いなのはビックリだな~。現実リアル器用さが影響するってネットに書いてあったし、家事がやたら高いのは悲しいかな現実リアルでの一人暮らしの恩恵か。武器と武闘がちょっと高いのはわかんないけど……まぁ、高い分にはいいか!」


 なんで勝手に隠蔽中になっているのかもわからないが、そういう仕様なのかもしれない。


「よし! ステ確認したし、ログアウトだな。ログアウト、ログアウト……」


 メニューからログアウトを探すが、所定の場所にログアウトの表記がない。


「あれ? なんでだ? キャラ変更しかないぞ?」


 他の場所も思いつく限り探してみるが見つからない。


「なんでないんだ? なにかしないとログアウトできないのか?」


 フラグ回収とかだろうか? そんなこと一言もネットには書かれていなかったのに。


「どこにもないんじゃ俺にはわからん。明日ドミニクさんに聞きに行くか……少し寝ないと頭も働かないしな」


 掛け布団をかけるとすぐに眠りに落ちた。

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