第6話 始まりの街



 ドミニクさんに見送られて街の中を歩く。

 メニューから時間をチェックすると昼近かった。キャラメイクやチュートリアルでオールしたらしい。

 オールしたと思うと途端に眠くなってくる人体の不思議だ。

 

 街は中世ヨーロッパというか、ファンタジー物あるあるな街並みだった。

 石畳の道に石造りの家。馬車も走っている。

 通りを歩いているのは人族が多いものの多種多様だ。チラホラと獣族特有のケモ耳の人もいるし、鳥の羽が背中に付いている人もいた。おそらく鳥の獣族なんだろう。


(すげぇ……本当に人の熱気や匂いまで感じる)


ゲームの世界に入ったみたいだと思ってから、ゲームの世界だったと一人苦笑いが零れた。

 雑貨屋・食堂・カフェ・八百屋・肉屋といろいろな店があるけど、俺に訴えかけてたのは屋台だった。

 スパイシーな匂いでめちゃくちゃ食欲を刺激してくる。

 匂いの元の屋台に近付くと串焼きだった。見た目は鶏肉だけど現実リアルの焼き鳥より大きく、ヤキトンサイズ。あらびきコショウようなスパイスみたいなモノがかかっていて、それがいい匂いの元らしい。

 俺は今にも腹が鳴りそうだ。


「いくらですか?」

「3本で銅貨1枚だよ!」

「1セットお願いします」

「はいよっ!」


 お金をポケットから出すフリをして無限収納インベントリから店主に渡すと、すぐに串焼きを油紙のような紙でできた袋に入れて渡してくれた。

 ちょうど屋台の隣りに木のベンチがあったので、座って早速ひと口食べてみる。


「美味いっ!」


 見た目通り鶏肉だった。少しピリッとするスパイスだけど、カレーとは違う。

 なんて言えばいいのかわからないが、とにかく美味い! これが銅貨1枚なんて素晴らしい!

 腹が減っていたのもあるが、あまりの美味さに夢中で食べてしまった。


「ふぅ。腹いっぱい」

「クックック。気に入ったみたいだな。足りたか?」


 屋台の店主に笑いながら話かけられた。


「えぇ。美味しかったです」

「クックック。美味そうに食ってくれてたからな。次また食いにきてくれんならサービスしてやるよ」

「いいんですか?」

「おうっ! 男に二言はねぇよ」


 店主がゴミを回収してくれ、また食べにくる約束をしてギルドに向かって出発した。

(1ゼニが1円だとしたら串焼き3本で100円だろ? 安くて美味いなんてコスパ最高だな! 串焼きがこんなに美味いなら他の料理も楽しみだ!)


 いい気分で冒険者ギルドに到着すると、建物はでかかった。俺が現実リアルで住んでいる三階建てのアパートより大きい。

 中に入るとこれまた広かった。ホテルのエントランスみたいだ。

 入り口正面にはカウンターがあり、忙しなく応対している受け付け嬢が五人いた。うち一人は坊主に眼帯姿の現実リアルの俺と同じ年齢……三十路手前くらいの男だったけど。

そのカウンターに冒険者が並んで順番待ちをしている。

 右側を見ると、酒場兼食堂と思われるエリアがウエスタンドアで仕切られていた。左側は地下と二階に行く階段があった。


 一番並んでいる人数が少ない眼帯男の列に並んでいると、他の受付嬢より進むスピードが早い。

 隣りを見てみると受付嬢との会話を長引かせようと頑張っているのに、見事にあしらわれていた。懲りずに話しかけていて受付嬢とお近付きになりたい必死さが伝わってくる。

 俺が並んでいるおっさんの列は、要件が終わり次第みんなさっさと離れて行く。効率を求めるタイプが並んでいるらしい。


「要件は?」

「冒険者登録をお願いします」

「そうか。おーい! コルテシュ! 受付け代わってくれ!」

「承知しました」


 コルテシュと呼ばれた白髪の中年のおっさんがカウンターの奥のドアから出てきて眼帯男と場所を代わり、俺は眼帯男に「お前はコッチだ」とカウンターの隅に移動を促された。


「冒険者登録だな。この紙に記入してくれ。全て記入する必要はない。細かく書いた方がパーティに誘われるが……まぁ、書ける範囲で構わん」


 眼帯男に渡された紙を見てみると、日本語で書かれていないのに書いてある文字が理解できた。

 渡されたペンで記入すると、日本語で書いたハズなのに勝手に文字が変わった。そういう仕様らしい。



【名前】ルディ・レーン

【種族】人族

【年齢】15歳

【得意スキル】魔法



 他には出身地や既婚か未婚か、なぜかスリーサイズの項目まであったが、スルーさせてもらった。


「これで大丈夫ですか?」

「あぁ。このカードに血を垂らしてくれ」


 眼帯男に渡されたのは名刺サイズの茶色い金属のカードと針だった。

 針を指先に刺してカードに血を垂らすと、一瞬ボヤっと光って垂らした血が消えた。


「そしたらそのカードに魔力流してくれ」

「はい」


 指示通りに魔力を流すとポワンと光り、茶色から水色に変わった。


「それで登録は終わりだ。今日からお前はHランク冒険者だ。冒険者ギルドの説明は必要か?」

「お願いします」

「ほう。聞くのか」

「え? 聞かない方が良かったですか?」

「いや、悪い。そういう意味じゃない。聞かないやつが多いから驚いただけだ。じゃあ説明するぞ。まずは……」


 まとめると……

 

1:主に冒険を家業とする者が所属しているギルド。

2:ギルドカードは身分証。

3:冒険者にはランクがありSSが最上位で次にS、その下が上から順にA~Hランク。

4:依頼をこなしランクを上げていく。

5:パーティランクはパーティを組んでいる全員の冒険者ランクの平均。

6:冒険者ギルドは全世界共通。

7:指名依頼や強制依頼などもある。指名依頼は任意なので受けるかどうかは本人次第。強制依頼は魔物大量発生スタンピードなどの際に発令される場合が多い。条件が厳しいこともあるがやむを得ない事情(ケガをしていて戦えない、妊娠中であるなど)の際は断ることもできる。ただ、断る場合は罰金が課せられることもあるので要注意。

8:受けられる依頼はランクによって決まっていて、自分のランクの一つ上のランクまでしか受けられない。

9:選択依頼と常設依頼がある。選択依頼は依頼書を掲示板から剥がし、受け付けに持っていき依頼を受ける。常設依頼は受け付けで依頼を受けなくても依頼内容をこなせば大丈夫。両方とも、依頼を遂行したら受け付けで完了の報告をする。

10:依頼は失敗すると罰金ペナルティが課せられるため、吟味しなければいけない。


 ランクが上がるとギルドカードの色も変わる。Sがブラック、Aがゴールド、Bがシルバー、Cがブロンズ、SSを除いたその他は水色。SSランクのカードの色が気になるならSSランクを目指せと言われてしまった。

 SSは世界を救うくらいの実力が必要で、今現在SSランクの冒険者はいないらしい。

 冒険者ギルドの初回登録は無料だが、ギルドカードの再発行には金貨3枚かかるから紛失しないように注意。

 ギルドカードは報酬のお金を電子マネーのようにチャージして、カードで買い物ができる。銀行兼電子マネーだ。


 大まか想像通りだったから、そんなヘマはしないで済みそうだ。


「――と、まぁこんなもんだ。依頼書が貼ってある掲示板はあっちだ。なにか質問はあるか?」

「今は特に思いつきません」

「そうか。真面目に聞いたお前には餞別として簡易図鑑をやる。得意スキルは魔法と書いてあったが、武器は使えないのか?」

「ありがとうございます。武器は使えなくはないですが、慣れていません」

「そうか……」


 眼帯男はなにか考えこんでしまった。


「ふむ。今日この後は依頼を受けるのか?」

「いえ。宿屋に向かうつもりです」

「そうか。なら次ギルドに来たら俺を呼べ。鍛えてやる」

「え……」

「わかったな?」

「……はい。わかりました」


 眼帯男の圧に負けて了承すると満足そうに頷かれた。


「ちなみに宿は“揺り籠”がオススメだ」

「その宿はどこにありますか?」


 眼帯男が地図と紹介状を書いてくれたので、それを持ってギルドを後にした。

 最後は半ば追い払われるようにギルドを出ることになり、親切なんだかぶっきらぼうなんだかよくわからない人だった。


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