第5話 降り立った場所は




 高速で落下していたのにフワッと速度が緩くなり、胃が口から飛び出るかと思った。


「オェ……気持ち悪ぃ……」


 瞳を閉じて深呼吸していると、落下が止まり硬い地面に足がついた。

 目を開けると白を基調とした広い神殿に立っていた。


「ここは? 神殿か?」


 目の前には噴水があり、水しぶきがキラキラと輝いている神秘的な場所だった。


「ようこそ、始まりの街へ」


 後ろから男の声が聞こえて、バッ! と振り返ると白いローブを着た渋くてイケメンのおっさんが立っていた。

 いや。おっさんとは言っちゃダメだな。色気ムンムンだし、〝おじ様〟って言葉が似合う。

 高身長に設定したはずなのに俺より背が高く、ローブを着ているのに引き締まった体つきなのがわかった。


「えっと……どうも?」

「初めまして。わたくしは神殿長をしておりますドミニクと申します」

「初めまして。えーっと……あ! ルディです」

「とりあえずこちらをどうぞ」


 自分で名付けたのに一瞬リアルネームを言いそうになってしまった。

 ドミニクさんにシャツを渡されそうになり、首を傾げると「体が冷えると思いますので」と言われた。

 冷えるってなんでだ? と自分の体を見てみるとなんと


「うわぁ! すみません!」


 奪うようにシャツをひったくり、急いで着るとクスクスと笑われてしまった。

(キャラメイクんとき服着てたはずなのになんで裸なんだよ! 初対面にとかめちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇか!)


「こちらへどうぞ」


 変わらずクスクスと笑いながらドミニクさんが案内してくれた先は、ウォークインクローゼットだった。


「お好きなものをお召しください」

「え……」

「そのまま神殿の外に出て襲われたりしたら大変ですので」

「んなっ!?」

な方がいらっしゃいますので。もちろん服の代金は結構です」


 男だから襲われるとは思わないが、ぶっちゃけ彼シャツ状態の俺にはたいへんありがたいので好意に甘えることにした。

 変態に間違えられてブラックリストに載りたくはない!


 ウォークインクローゼットには多種多様な服がいっぱい。魔法使い系のローブ、戦士系の鎧、武闘服、踊り子の服、サーカスのピエロみたいな衣装まであった。さすがゲームといった品揃えだ。

 下着やブーツまであり、全身好きな服に着替えた。服はピッタリサイズだった。


「たいへんお似合いです」

「ありがとうございます。本当にもらっちゃっていいんですか?」

「はい。こういう時のために揃えてありますので」


 俺が選んだのは黒を基調とした盗賊シーフ系の服だ。派手派手な服が多く、俺の好みに合うシンプルなのはこれくらいだった。


 続いて案内してくれたのは執務室だった。そこで、ここ始まりの街のことを教えてくれた。

 この街はゲームを始めたプレイヤーが必ず一番初めに訪れる街で、全体的に良心的。他の街や国ではぼったくりとかもあるらしい。


 始まりの街という名の如く、武器や防具は初心者向け。ポーションなども初級ポーションと呼ばれている、軽度の傷を治すものしか売られていない。


 この街に限らず宿にはランクがあり、ランクが上がれば値段も上がる。高ランクの宿では、一見さんお断りならぬ高ランク冒険者や金持ち以外お断りの宿もあるらしい。

 ご飯は食べなくても死にはしないが、お腹は減る。


 通常のNPC|(ノンプレイヤーキャラクター)はプレイヤーとNPCを分けて考えておらず、全員このゲームの住人だと思っているんだそうだ。そういう理由でNPCに対してはって言葉は禁句らしい。

 プレイヤーとNPCの違いは頭の上に表示される名前の前にマークがあるかどうかで区別される。プレイヤーはマークがあり、NPCはマークがない。

 ウサ耳メイドとドミニクさんは普通のNPCとは少し違うらしい。


 ログアウトは教会、宿屋、セーフティエリアですることをオススメされた。

 宿屋はログアウトしている間の料金は発生しないらしいんだけど、ログインした時に他のプレイヤーとかち合うことはないらしい。不思議だ。


 プレイヤーは死に戻り……死んでも拠点登録地点で復活ってやつができる。レベルに応じてお金が取られ、死んだペナルティとして一定時間ステータスが低下する。所謂いわゆるデスペナってやつだ。


 最後にとりあえずの生活資金として10万zと、初期装備用の武器が運営からのプレゼントとして無限収納インベントリに入っているから、ステータスと一緒に確認して欲しいと締めくくられた。



「習うより慣れろということわざもありますし、実際体感した方が身になると思います。ただ、ステータスの確認は安全な場所でしてください。ステータスに気を取られて注意力散漫になることがありますので」

「わかりました。ご丁寧にありがとうございます」

「なにかあれば神殿に来ていただけたらと思います。もちろん遊びに来ていただいても構いません」


 微笑まれながら言われて、どう返せばいいのか悩む。

 神殿長というからにはお偉いさんだろう。そんな気軽に接してもいいものなのか……


「ふふふ。聞いていた通りの真面目なお方ですね。神殿長というのはシンボル……そうですね。マスコット的なものだと言えばわかりやすいでしょうか? わたくししかできないこともありますが、基本的に時間に余裕がありますのでルディ様がお暇なときに話し相手になっていただけると嬉しいです」

「なるほど。大丈夫ならお邪魔させていただきます」

「はい。ぜひ」


 ドミニクさんに冒険者ギルドの場所を聞き、お礼を言って神殿をあとにした。



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