第3話 ウサ耳メイドとキャラメイク





 耳の横にあるスイッチを押せばREDの世界の始まりだ。


――――キュインッ


「おぉ……」


 俺は雲の上のような場所に立っていた。


「リアル・ファンタジー・ドリーマーの世界へようこそ! 私チュートリアルのナビゲーター、兎族のナビっ子です。ラビットのナビっ子です!」


 ウサ耳のメイド服を着た胸の大きな可愛い女の子が上空から降りてきて、パチンとウィンクをしながら自己紹介を始めた。


「……」

(これはどう反応すればいいんだ?)


「うーん……真面目さんかなぁ? まずやっぱり一番最初と言ったら名前ですよね! お兄さんのお名前はどうしますか?」

「うーん。じゃあ、ルディ・レーン」

「へぇー! ファミリーネームも付けるなんて珍しい! 大丈夫ですよー! ファミリーネームを付ける人は中々いません! もちろんその名前はお兄さん一人だけ! うふふ。お兄さんは面白そうですねー!」


「……」

(それはどういう意味だ? ディスられてんのか?)


「お兄さん反応が悪いですねぇ。まぁいいや! 名前を決めたので次は設定ですよー! キャラメイクから始めます! お兄さんはリアルを主体にしますか? イチから作りますか?」

「イチからで」

「フゥゥゥ! バッチリご自身の好きなように作って下さいね!」


 テンション高くウサ耳メイドが指を鳴らすとウィンドウが現われた。感覚的には普通のTVゲームのキャラメイクをしている感じだ。

 ただ髪型の種類も色も豊富過ぎてものすごい考えてしまう。

 悩みながらもモブよりはちょっとマシ。でも際立ってイケメンではないそこら辺にいそうな顔立ちに決めた。

 髪型と顔のパーツを決めたら身長やボディも決めていく。

 まさか筋肉の付き具合も選べるとは思わなかった。


 リアルの俺は仕事に追われて筋トレもしていない。

 メシも食ったり食わなかったりと適当に済ませているからデブではないと思うが……

 やはりそこそこ筋肉という引き締まった体に憧れる。



――――ザザッ。ザザーッ。ザッザッ。


 キャラメイクに悩んでいると、ウィンドウだけではなく視界全体が乱れ始めた。


「ん? なんだ? バグか?」

「お……いさ……だいじょじょじょぉぉ」


 ウサ耳メイドも乱れたホログラムのようになり、セリフがおかしい。


「なんだ? どうなってんだ?」

「おに……おにおにお………」

「怖ぇよ!」


 壊れたスピーカーのように呼ばれても今の俺にはどうしようもない。

 乱れたホログラムに壊れたスピーカー状態で俺に手を伸ばさないで欲しい!


――――プツンッ


 困惑していると、電源を落としたように真っ暗になってしまった。


「おーい! おーい! もしもーし! 誰かいないのかー!?」



  俺は真っ暗な空間に浮いたまま大声をあげたが、視界が明るくなることはなくさっきのウサ耳メイドも現れない。


「これ、ログアウトってどうやるんだ? もしかしてブラックリストに入れられたとかじゃないよな? 俺何もしてないよな? キャラメイクに時間かけすぎとかか? 時間制限があるなら最初に説明してもらえるよな?」


 メニューもステータスも開けず、途方に暮れる。


「あぁ……欲に負けて仕事終わらせる前に始めるんじゃなかった……」



 どれくらい時間が経ったかわからないが、暗闇全体がピカーっ!と突然白く発光して眩しさに目を閉じた。


「お兄さーん! 大丈夫ですかー?」

「ん?」


 声が聞こえて目を開くと、ドアップのウサ耳メイドが視界いっぱいに現れた。


「うおっ!」

「あっ! 大丈夫そうですね。いやー。焦っちゃいました」


 ビックリして後ろに下がったけど、気にしていないらしい。


「なんだったんだ?」

「わからないんですけど、もう大丈夫です!」

「わからないのに大丈夫なんて断言できるのか?」

「はい! ご安心ください! 私にかかればちょちょいのチョイです!」


 自信満々に胸を張るウサ耳メイド。

(まぁ、何が起きたのかわからないが、信じるしかないんだろうな)


「じゃあ、キャラメイクの続きから始めましょう!」


 ウサ耳メイドに促され、各パーツを決めていく。


 髪色は透明感のあるブルーグレージュ。簡単に言えば青みがかった灰色だ。

 髪型はショートでサイドパートソフトツーブロのアップバング。ダンスでもやっていそうな青年スタイルを想像してもらえればいいと思う。

 瞳はロイヤルブルー。身長はリアルより高く183センチ。年齢はゲームの中の成人年齢である15歳。体型はソフトマッチョにした。


 足のサイズや手の大きさなど設定が細かく、全てが決まった頃には結構な時間を消化してしまった気がする。

 ちなみに、足の長さも決められたから海外のモデル並みに長くしてやった。リアルじゃありえない理想だからな!

 少し疲労感はあるが、好きにカスタマイズできるのは楽しい。



「これでお兄さんのキャラの設定が終わりました。お兄さんに反映しますねー!」


 体が光り眩しさに目を閉じる。

 目を開けて体を確認すると先程より目線が高くなり、体も引き締まっていた。


「おぉ!」

「顔も確認しますかー?」

「頼む」


 俺が言うと、どこからか鏡を出して渡してくれたので確認すると、先程決めたキャラメイクそのまんまだった。


「おぉー!」

「お兄さんさっきから反応が同じですねー! お兄さんはリアルとあまり変わらないから大丈夫だと思うけど、これから始まるチュートリアルで体の感覚を慣らしてもらいまーす!」


(さっきまでのはチュートリアルじゃないのか……)


「さっきまでのは基本設定とキャラメイクですよー」

「!」

「いやいや。何驚いているんですかー。お兄さんがわかりやすいだけですよー。正直者なお兄さんには教えちゃいますけど、キャラメイクで初期ステータスが決まりまーす! お兄さんは万能型! もしくは器用貧乏型!」


(最後のは聞きたくなかったぞ……)


「うふふ。基本的な武器は使えると思うし、お兄さんの努力次第では化けると思います! きっとお兄さんなら大丈夫!」


(適当過ぎるだろ……)


「ふふっ。さっき混乱させちゃったのでお兄さんには特別サービスも付けてあげますね! じゃあ頑張って慣らしてくださいねー! 行ってらっしゃーい!」


 ナビゲーターが言うとシャボン玉のような物に包まれて体が浮いて急降下し始めた。



「うわぁぁぁ! って……あれ?」


 落ちたと思ったら広い体育館のような場所にいた。


「ふぅ……マジ焦った。フリーフォール系は苦手なんだよ……」



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