第31話籠の中へと閉じ込められたけど2
朝早い時間、目覚めた私は窓の外をぼんやりと見ていた。
格子の嵌められた窓は10センチほどしか開かない構造になっていて、蘇芳が私を逃がさないようにする為だと実感させられてしまう。
明るくなって私の置かれた状況が分かってきたが、今いる部屋は屋敷の三階の一画らしく、窓からは中庭を隔てて離れらしき建物が確認でき、離れの屋根の後ろには、古びた塔の先端が微かに見えた。その奥には林が広がっているらしく、遠目に緑があるようだった。
敷地はとても広そうだ。でもどことなく殺風景で淋しい場所に思えた。
あんな塔の中で、彼はどんなに淋しい思いをしただろう。
「リナ、起きてる?」
ノックと共に蘇芳が入ってきて、サッと緊張が走る。
「…………良く眠れた?君にお客さんだよ」
強張る私に気づいていながら、何喰わぬ顔をした彼は、後ろにいた人物を部屋へと促した。
「あ、アマナ様!」
「リナ様」
腕に触れて、彼女が注意深く私の全身に視線を巡らせてから、彼を振り返る。
「少しの間、リナ様と二人だけで話をさせて下さい」
「それはできません。話がしたいなら、僕の前でしたらいい」
警戒しているのだろう。腕を組んで動こうとしない蘇芳に、アマナ様は諦めたのか、再び心配そうに私を見た。
「何か酷いことはされていませんか?無理強いはないですか?」
「だ、大丈夫です。心配かけて、すみません」
「こちらの方こそ、聖女たる貴女を守るのが神殿の務めだというのに」
「神官長」
アマナ様の強い眼差しにも無表情で蘇芳が割り入った。
「リナには、ここにいてもらいますが、それ以外に彼女を傷付けるようなことはしません」
「………………あなたが、このようなことをするとは思いもよりませんでした。帰りたいというリナ様の意思を、あなたは尊重するべきでしょうに」
「僕が?なぜ?」
「あなたがリナ様を愛していればこそ」
蘇芳が、フッと可笑しそうに笑った。
「そんな安っぽくてお綺麗な感情に当て嵌められるとでも?僕の気持ちを、あなたが理解できるとでも思っているなら、それは傲慢だ」
「蘇芳、やめて」
小馬鹿にした口調に、驚いた私が止めようと声を上げるが、アマナ様は悲しげに顔を曇らすだけだった。
「あなたの行いこそ傲慢だと、なぜ分からないのです?リナ様を閉じ込めたところで、真に彼女があなたを見ることはないでしょうに」
「話はそれだけですか?昨晩から、神殿の者達が我が屋敷の前に居座り煩かったから、恩人であるあなただけならとリナに会わせたというのに、そんなことを言いに来たなら帰っていただきます」
部屋の前に控えていた護衛騎士が、蘇芳の合図でアマナ様の両脇を固めて退出を促す。
「アマナ様、ヤトさん達にもごめんなさいと伝えて下さい」
「リナ様、我々神殿は、神から遣わされた聖女を決して見捨てたりしません。だから貴女も自らの意思を大事に」
扉が閉まると、静寂が訪れた。
私と蘇芳だけの残された部屋は、息苦しかった。
「………………リナ。あとで朝食を運んでくるから、一緒に食べよう」
神殿にいた彼は別人だったかと思うほど、今の蘇芳は自分の意思を良くも悪くも迷わない。
アマナ様の言葉が引っ掛かる。
私の意思を尊重するのが愛情なら、彼の私へ向ける感情は何なのか。彼の心を覗いた時は熱ばかりを感じたが………
自分の手のひらに視線を落とす。
知りたい、知らなければ私自身も身動きが取れない。
「リナ?」
「……………蘇芳、アマナ様に会わせてくれてありがとう」
私がそう言えば、意外だったのか蘇芳が目を瞬かせた。それから探るように見つめてきた。
「何を考えているの?」
「ううん、何でもないの」
笑って誤魔化そうとしたらできず、泣きそうになって慌てて目を伏せた。
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