第2話
窓の外に暗闇を隔てる体育館にて、コートを駆け巡るバスケットボールは地響きを轟かせる。
「零音ッ!!」
DFに捕まったPFがダブルチームの奥から私を呼んだのを合図に、私は敵陣へと走り出した。私の未来位置を予測したパスは、私の手中にすんなり収まると、一気に展開したドライブと共にコートに轟音を響かせる。
迫り来るDFを次々と抜き去り、スリーポイントラインの上で跳び上がれば、最高地点に達すると共に離れて行く掌中の重み。弧を描いたボールがやがてゴールネットを潜り抜けると、『0』を示した電光掲示板がけたたましく音を立てた。
「零音ナイッシュー!」
「零音先輩ナイスです!」
「...ん、ありがと」
コート内の仲間達とのハイタッチの後、マネージャーからドリンクボトルを受け取った私は、冷たさを保ったままのそれを一気に喉に流し込んだ。そんな私の横で、流れる汗を拭った主将が
「よし、今日はこれで終わり!今日は顧問がいないから、後は各自解散って事で」
とコートを見渡して部員に告げる。
「...私は九時まで残ってくので、ついでに鍵もやっときますよ。明日からはテスト期間ですし、それぞれ学業に支障の無いように」
「やったあ、零音ありがと!」
「零音もテストに影響しないようにね!」
感謝の言葉も口々に、部員達は一人、また一人と体育館から出て行く。やがれ最後の一人もいなくなると、まだ熱気の籠る天井を見上げて「ふぅ...」と息を吐いた。
「おや、今日も自主練ですか。桐崎さんが先に帰ってしまったというのに、彼女らしく追い掛けたりはしないんですねぇ」
「...ッ!」
突如、誰もいなくなったはずの体育館に響いた声。驚いて振り向けば、開け放たれた鉄扉の横でニヤニヤと笑みを浮かべる男子生徒の姿が目に入る。
「...汰月」
「さり気なく鍵当番も請け負うあたり、流石は天才SF、
「...」
「っていうか零音先輩、そろそろ俺ともワン・オン・ワンして下さいよ。桐香さんとか水鏡さんとかだけじゃなくて」
「...私があの二人としか戦わないのは、私と対等に渡り合えるのがあの二人だけだから。確かにアンタは名の知れたSGだけど...私と戦うには、あまりにも力不足」
「...つれないですねえ。そんな事、実際にやってみないと分からないじゃないですか。確かに俺はあの二人には劣りますけど、零音先輩と戦うのに過不足は無いはずですよ?」
おどけたような笑みを浮かべると、汰月は「それじゃ、また今度お願いしますね」とだけ残して体育館から出て行く。
...どれだけコートを舞い、ボールを操り、ネットを揺らしても...なおリフレインするのは、あのいけ好かない後輩の言葉。
『彼女らしく追い掛けたりはしないんですねぇ』
『流石は天才SF、御厨零音先輩ですねえ』
『零音先輩と戦うのに過不足は無いはずですよ?』
いつからなんだろう。それまで大人しかったはずの彼が、私に対して当たり強くなったのは。それに、『彼女』や『天才』という言葉をやたら皮肉げに言って来るし...。
...でも、そんな事関係無い。どれだけ嫌な奴でも、所詮はただの『後輩』に過ぎないのだから。
___そんな彼との出会いは、数ヶ月前...新しく一年が加入した四月に遡る。
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