Ruin

槻坂凪桜

第1話

...雨が、降っていた。


空一面の淀んだ灰色が、体育館のガラスに隔てられて初夏の夕暮れを覆い隠す。





しとしとという微かな音の中で、私はふと息を吐いた。


脳裏に蘇るのは、一年前...幼馴染に決別を告げた雨の日。自分の都合で『彼』を切り捨てて、傷付けて...。


...なんて、薄闇の広がる天井に自嘲げな笑みを零した。






「零音」


開け放たれた鉄扉の奥で、茶髪の男が私の名を呼ぶ。


ボールを籠に投げ入れて駆け寄れば、「帰ろーぜ」とおもむろに差し出される、骨ばった手の平。


「ねえ、碧」

「ん?」


「.....大好きだよ」

「...おう」


繋いだ手に力が入るのを感じて、私は口元を綻ばせた。





...時折、ふと考える。絡め合う指先も、熱の溶け合う掌も、いつか私から離れて行ってしまうのではないかと。


それでも...今はただ、彼の隣を歩める事が幸せで。








___例えそれが、誰かの犠牲を厭うものだとしても。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る