彼等は全員で風呂敷を畳む①

 「なぁ、そろそろつっこんでいいか?」頭痛をこらえながらアキユキが口を挟んだ。「ええ、私も情報量が限界です」彼の背後では、アキユキの秘書の豹耳がへろりとうなだれていた。


 げんなりとした表情の大人組四人――アキユキ、アキユキの秘書、ハロディ、ハロディの秘書であるコマチ――は、揃って額を押さえた。対して、当事者達はそれぞれ気まずげながら笑顔を浮かべていた。黒髪メイドのツグミは申し訳なさそうだが、ワタライは既に開き直ったような満面の笑みだ。


 ハロディはぐったりしながらもなんとか気を取り直したようで、「ここでお話をするのも何ですから、応接間へ参りましょう」と皆に声をかけた。その声に全員が頷くのを見た彼女は、魔方陣を起動させた。


 「お帰りなさいませ」転移先――応接室――では、オカミが恭しく頭を下げていた。「便利なもんだなぁ。そろそろ俺の執務室にも転移陣つけるか?」アキユキが感嘆した。「ボスの部屋につけても二、三回使ったらあとは『運動代わりだ』とか言って歩くでしょ」素早くツッコミを入れたワタライ。「ワタライちゃんの言うとおり、費用対効果が見込めないので却下します」アキユキの秘書もさらりと毒を吐く。「お前ら俺の事をなんだと思ってるんだ・・・・・・」とうなだれるアキユキに「「脳筋兎」」と無情なハーモニーが降り注いだ。


 そんな三人に吹き出しながら、ハロディは彼らにソファに腰をおろすよう勧め、自分も座った。アキユキの秘書と、ハロディの秘書・コマチも同席した。ツグミとオカミのメイド二人は手慣れた様子でカフェイン抜きの飲み物を用意するべく動いていた。ハロディが「お酒を召し上がる方はいらっしゃる?」と尋ねる。その声に目を輝かせたワタライがもふもふの耳とおさげを揺らしながら元気よく挙手して、アキユキに頭をはたかれた。

 「すまん、ワタライは酔うと酷いんだ。ここで呑ませるのはまずい。無視してくれ」と眉を下げるアキユキ。ワタライは頬をふくらませて思いっきり不満を表現してから「えー!そんなことないよ!おぼえてないけど!お酒は楽しいよ!」と抗議した。

 くすくすと笑いながら「なら、また今度にしましょうね」とワタライを宥めるハロディ。「ちぇー。じゃあ、また今度実験に付き合ってね?」可愛らしく首をかしげながら上目遣いでねだるワタライに、先ほどまでの余裕はどこへやら、表情を固めたまま首元を押さえた。そこに、主の窮地を救うべく「こちらからお出しします」とオカミがティーカップを差し出した。ハロディはそそくさとカップに口を付け、「ありがとう、どうぞ、皆さま楽になさって」と、話を逸らした。


 「さて」と、一口ハーブティーをすすったアキユキが声をあげた。すっと表情を引き締めた彼は、「ワタライが相当暴れたようだが、事の顛末を教えて貰えるか」かちゃり、とソーサーにカップを戻した。


 「あぁー・・・・・・」目を泳がせるワタライ。ティーセットの側に控えていたツグミは「はう・・・・・・」と胸の前で手をぎゅっと組み合わせた。


 「えーと、まず・・・・・・うちのツグミが・・・・・・ツグミは偏食で炭ばかり食べるのだけど・・・・・・炭で黒くなった体色にふさわしい活動を考えるとか言って、スパイごっこをしていたのよね・・・・・・」と、テーブルの上にぐったりと伏せたハロディ。もはや体勢も口調も保つ気力もないようだった。それを聞いたアキユキもげっそりとした顔で「あー、なんかもうスタート時点からおかしいな?」と肘掛けにもたれた。ハロディは「休憩時間に街をパトロールするくらいなら今日の日替わりメニューを教えて貰えて便利、くらいで済んだんだけどね・・・・・・」とテーブルに伏せたままもにょもにょ口を動かした。「あ、それは便利ですね」思わずといった感じで声を上げたアキユキの秘書。ハロディの隣に腰掛けていたコマチは、それに対して「そうなんですよ!まだ行ったことないお店の情報とか上がってきて便利なんです」と勢いよく頷いた。


 「まさかと思うが・・・・・・その、スパイごっこ中に見かけた俺についてきたとか・・・・・・?」アキユキが恐る恐る口を開いた。ハロディは「その通りよ、残念ながら」と、ぐりぐりと腕に額を擦りつけながらやけっぱちのように返した。「で、それをスーパー天才美少女ワタライちゃんが発見して問い詰めたのだよ!」と胸を張るワタライ。


 「待て、それから此処に来てハロディの首を切るっていう流れが全く分からんぞ。というか分かりたくない」アキユキは手で顔を覆った。

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