彼女からの呼び出し

 白く長いその耳をぴんとそばだて、アキユキは思案を巡らせていた。浮遊板フローティングボードから飛び降りるなり、待機していたスタッフに「報告は!」と叫んだ。あまりの気迫にびくり、とスタッフの肩が揺れた。それを見てすっとアキユキの頭が冷静さを取り戻した。ぽん、と優しく肩に手を置き、「すまん、気が急いた」と詫びた。

 それに対し、「いえ、心配なのは私たちも同じですから」と首を振るスタッフ。「警備隊にも問い合わせましたが、いまのところそれらしい情報は何も。ただ、特に傷害事件なども起きていないとのことです。捜索願いは出しておきました」と続け、目を伏せた。「そうか・・・・・・対応ありがとな。続報があったら、すぐ知らせてくれ」険しかったアキユキの表情は、ほっとしたような、困ったような曖昧なものになった。


 数時間後。アキユキ達の病院ホーム前に、情報屋ハロディグループのマークが入った浮遊板フローティングボードが停まっていた。「夜分遅くに失礼致します。主より、ドクトル・アキユキをお迎えに上がるよう指示を受けております。ご多用とは存じますが、何卒ご同行願います」慇懃に頭を下げたメイド。


 戸惑うスタッフ達を押しのけ、アキユキは彼女の前に立った。「そっちから呼び出すってことは、何か掴めたんだろうな」うなるような低音が周囲の者達の耳朶を打った。「はい」と軽く頷く金髪に桃色の目のメイドに、怯えた様子はなかった。そのまま「本来であればあるじたるハロディ、あるいは名代を務める秘書のコマチが参上するべきですが、執務室を離れられないとのこと。手前どもの勝手ではございますが、私がご案内を仰せつかり、急ぎ参った次第です」と柔らかな表情を崩さないまま口を動かした。


 「あのあるじにしてこの部下あり、か。肝の据わりようが半端じゃねぇな」とアキユキは苦笑した。ひょい、と浮遊板フローティングボードに飛び乗り「案内頼むぜ」と声をかけた。「承りました」と恭しく頭を下げたメイド。

 メイドが操縦席につき、ふわり、と浮遊板フローティングボードが離陸した。その時「待って下さい、わたくしもご一緒します」と、秘書が人垣の間を駆け抜けてきた。操縦席の彼女は、助走をつけてひょい、と跳び乗ってきた秘書にも顔色を変えなかった。淡淡と「お二人ともご案内、ということでよろしいですか」と確認を取った。

 「ああ、頼む」とアキユキが応じた。「畏まりました」メイドはすい、と前に向き直り、操縦を再開した。


 寝静まった住宅街の上空を抜け、眠らない彼女の街、地上の天の川に向かって浮遊板フローティングボードは滑っていった。

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