彼らの会合
「ボス、着きました」秘書が
アキユキは肩をすくめ、せめてもの抗議とばかりに「兎と豹の血が泣くぜ、こんなちんたらしたもんに頼ってたらよ」とその場で足を強く踏みならした。秘書はその艶やかな黄色と黒の耳をひくり、と震わせ「
「薬屋の。着いたなら遊んでないで早く入りな」と
酒屋、大工、呉服屋、問屋、樽屋、
「その前に、良いか」アキユキがそのバリトンを響かせた。「おう、薬屋の。どうした」酒屋が鷹揚に頷いた。「うちのモンが居なくなった。ここに来てる奴は皆見たことがあるだろうが、ワタライって
水を打ったように静まりかえる室内に、とん、と指でテーブルを叩く音が響いた。音の主は、焦げ茶の髪をシニヨンにして、黒いハイネックのタイトワンピースに身を包んだ女性だ。背後には女性秘書を従えている。
「皆さんから特に情報提供がないようなら、先に会議を済ませてしまいませんか?その後なら、うちでお役に立てるか考えましょう」
その後の会議は、定期報告に終始した。その平和さがアキユキを苛立たせた。
会議終了後、街衆は口々に見舞いの言葉をかけながら去って行った。それを半分聞き流し、つかつかとハロディに近付くアキユキ。「ハロディ、何か耳に入ってるんだろ。何でも良い、教えてくれ」書類を秘書に手渡していたハロディは、ゆるり、と視線を動かした。「ドクトル・アキユキ。私も遠出からこの会議所に直行したのです。まずは戻って、お調べしないことにはなんとも」小首をかしげて困ったように眉を下げるハロディに、アキユキの苛立ちは頂点に達した。
「ご託は良いんだよ、どうせ俺がお前のシマで嗅ぎ回ってたことは耳に入ってるんだろうが。お前の気分を害したなら詫びは入れるが、お前んとこは不審な動きが多すぎるんだよ」黙って聞いていたハロディの眉間に、かすかにしわが寄った。「ドクトル、仰ることが分かりかねます」アキユキは「はっ」と鼻で嗤う。続けざまに「仰ることが分かりかねますは良いじゃねぇか。その調子だと、お前のシマで暴れた連中が失踪していることや、妙な薬の噂も分かりかねるんだろうなぁ?」と低くすごんだ。
その顔を暫し眺めていたハロディは、ぷっと小さく吹き出した。そのまま答えるでもなく、くすくすと笑い続けるハロディ。彼女の肩を掴むアキユキ。それぞれの秘書が慌てて止めに入るが、がっちりと食い込んだアキユキの手が外れることはなかった。「あぁ、可笑しい。ねぇ、ドクトル。まず、『失踪』した人なんていないんですよ?
一息ついてから「それと」と続ける。「妙な薬ってなんです?妙って言えば、貴方の所に入荷される食料品の方がよっぽど妙じゃないですか?いつから兎の主食が笹や
「ドクトルは頭に血が上っているようね?スライムと言えど、レディの肩を変形するまで掴むなんて、お医者様のなさる事じゃなくってよ。冷静になってから出直して頂戴」そう言い捨てて、ひらひらと手を振って出て行くハロディ。
その背中を睨みながら、アキユキは「聞いたな」と秘書に確認した。秘書は「は、確かに」と頷いた。「あいつ、ワタライの正体に気がついてやがる。今回の事にも、無関係じゃねぇ」そう呟くアキユキの声が、会議所の空気をかすかに震わせた。
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