彼のホーム
「ボス、真夜中に出歩くのは関心しないぞぉ?」
眠らない街を抜けた辺り。住宅街の静かな路地から現れた若い女が、アキユキにそう声をかけた。彼は意味も無くジャケットの襟を正しながら「・・・・・・ワタライ、そう言うお前こそ何をやっている」と、ばつが悪そうに言い返した。
「ふーん、ボスのお迎えに来てあげた私にそういうこと言っちゃう?」ひょい、と、ワタライと呼ばれた女がアキユキの側に寄ってきた。彼女の頭上では、熊のそれより少し大きめの、黒く丸いもふもふの耳がぴこぴこ動いていた。うなじの辺りで纏めたゆるい三つ編みが流れる先は、オフホワイトのパーカーに、ピンクのショートパンツ、黒タイツとスニーカーというカジュアルな出で立ちだった。
アキユキはその耳を軽く引っ張った。続けて、「どっちの意味でもお迎えの心配をする年じゃねぇよ。希少な
「む」わずかに狼狽したアキユキは、自分たちの
白い壁と、薬品の香り、白色灯の青ざめた光。それまで歩いていた夜の道とはあまりにもかけ離れた眩さに、反射的にアキユキの目が眇められた。「ああ、ボスとワタライちゃんでしたか。お帰りなさい」穏やかに声をかけてきたのは、アキユキの秘書。彼に軽く頷いたアキユキは、ワタライからの追求を聞き流してそそくさと自室に戻った。
彼の人柄を反映したようなこざっぱりとした部屋。常にきっちりと片付けられているデスクの上に、秘書の几帳面な文字で明日の予定が書き出されたメモが残っていた。ぺらり、とつまみ上げて軽く目を通すアキユキ。「明日は・・・・・・そうか、街衆の会合か。ちょうど良い、
やがて就寝の支度を調え、深い眠りについたアキユキが、ころころと転がって部屋を出てゆく墨色のスライムに気がつくことはなかった。
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