第2話

 やな奴、やな奴、やな奴、やな奴。

沙由佳はとても不機嫌だった。

何よあいつ、私をおばさん扱いして。

あれ以来沙由佳は帖文堂書店に行くたびに直人の姿を探し求めていた。

まあ、名前と学年が解っているんだから。

会いに行けば会えると思うけど。

でも、それだと私がわざわざ違う階に行ってまで。

彼に会いに来たと思われるじゃない。

まるで彼が気になるみたいな。

違うわ、違うのよ、この感情は。

そう、この感情は怒り。

乙女を年寄り扱いした事に対する怒りよ!

そして殴り足りないだけなのよ。

もっと殴ってやらなくちゃ。


そして沙由佳の執念は実り。

直人との再会を果たした。


あっ、見つけた。

沙由佳は喜び、駆け寄りたい衝動にかられるが。

だめよ、ここでは、まずは後をつけて。

人気のない所で背後から突然襲うのよ。

もう既に犯罪者の心境である。


あら、一人じゃないようね。

見ると隣には割と可愛目の女の娘が居た。

制服から同校生と解る。

もしかしたら同学年の彼女かしら?

二人は楽しそうに会話をしていたが。

女の娘の方は帰っていった。

別れたみたいね。

よし、つけよう。


沙由佳は勉強の糧になる様な書物以外はほとんど読んだことが無い。

しかしミステリー小説はいくつか読んだ事がある。

自分が優秀だという事を自負していたので。

読者との知恵比べと言われるミステリー小説が。

どれほどの物かと試してみたかったのである。


結果は。

駄目ね、どれも独りよがりで作者の考えた筋書きを。

作者の考えたキャラクターが作者の考えたように動くだけ。

ロンドン府警がコナンドイルに迷宮入り事件の解決を依頼したけど。

一つも解決出来なかったと言うけど。

当然だわ。

それでも理にかなっている点がある物もあるから。

それは私の糧にさせてもらうわ。

才女は何も見逃さない。


まずは携帯電話の電源を切る。

何の拍子に振動が伝わって音が漏れるかもしれないからマナーモードでは駄目。

鈴はもちろんのこと金属類の鍵や小銭がカチャカチャ鳴るのを防ぐため。

小銭は少なく、鍵もキーケースに入れて音漏れ厳禁。

太陽の位置もしっかり確認して影に気を付ける。

相手に姿が見られなくても影が見えればバレるからね。

街角にはカーブミラーや店先に大きな鏡がある所もあるから振り返らなくても。

鏡に映ればバレてしまうから気を付けて。

あと服装には気をつけて、音がしなくても光が反射する素材の物を。

身に着けていれば光の反射で気がつかれるかも知れない。

簡単にだけど尾行時の注意点はこんな所ね。


と、沙由佳が色々気を配りながら尾行したかいも無く。

直人はまったく気にせず家に帰った。

沙由佳は他愛もなく彼の家を突き止めた。

「首を洗って待っていなさい!」

「あなたの全てを暴いてあげるから!」

なぜか探偵気取りの沙由佳であった。







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