第42話 見えるのに

『ねぇなんで?』

 昨日まで一緒に寝たよね。

『ねぇなんで?』

 今日は撫でてくれないの?

『ねぇなんで?』

 なんで…泣いてるの?

 ここを開けてよ…見えてるのに…見えてるよね?

 ワタシのこと見えてるのに…泣いている顔が見えるのに…


 カリカリ…カリカリ…ガラスを引っ掻く子猫が鳴いている。

 隔離された部屋で、あの子が泣いてる。

 何も聞こえないけど…あの子の香りも解らないけど…見えてるよ。

 ガラスの向こうで手を伸ばしてるあの子が見えるよ。

 冷たいガラス越しじゃ伝わらないの?

 ワタシの声、届かないの?

『嫌いになったの?』

 いい子にしてるよ…だから撫でてよ。

 そこから出てきてよ、一緒に散歩しようよ…一緒に遊ぼうよ。

『ねぇ…一緒にいてよ…』


 ずっと…ずっと…一緒に…


 泣かないで…


 隔離された子供が、悲しそうに手を振る。

 子猫が小さくニャンと鳴く。


『なんで一緒にいれないの?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る