第40話 今行くから

「さよなら…大切にしてもらうのよ」

「にゃ~ん」


 会社の転勤…会社の寮に入ることになって猫は飼えなくなってしまった。

 とりあえず実家に預かってもらうことにした…というか…押し付けて置いてきたのだ。


『ここどこ?』

 なんだか落ち着かない…

『早く帰ってこないかな?』

 もう夜だよ…寂しいよ…不安になるよ…

『独りにしないでよ』


「困ってるのよ…ご飯も食べないし…隅っこでジッとしているけどね…可哀想で」

 母から電話があった。

 そう言われても…困る。

「じきに慣れると思うから…水とご飯だけはお願い」


 気にはなる…だけど…仕事を辞めるわけにもいかない。

 預けてから2週間、1日だって考えなかったことはない。


「すっかり痩せちゃって…可哀想でね…うん…少しはね、食べるんだけどね…」

 にゃ~ん…

「もう、仕方ないじゃない‼ 毎日電話しないでよ…」

 にゃ~ん…にゃ~ん…

 電話の向こうで小さく鳴いてる…声が聴こえた…。


『声がするよ』

『どこにいるの?』

『アタシ、ここにいるよ』


 夜…

『ここから声がした…』

 猫は電話機にスリッと擦り寄る。

『これは…あの子の声がする…』


 窓から外を眺める。

 大きな月が空に浮かんでいる。

『寂しいよ…逢いたいよ…なんで一緒に居られないの…』


 翌朝…

『やっぱり…アタシ…』

 窓の隙間からアタシは外に飛び出した。

『逢いに行こう、あの子も待ってるはず…だからアタシ…アタシから逢いに行こう』


 きっと…こっち…アッチかも…


「ごめんね、窓から出ちゃったみたいで…ごめんね…」

「……休みの日に…探しに行くから…」


『きっと待ってるから、あの子も待ってるはずだから、今、行くからね』

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