第38話 いても、いいですか

『ここにいてもいいですか?』

 雨は体が濡れるから…雨が当たらない場所に居たい。

『雨が止んだら…出ていくので…今だけ…ダメですか?』

 小さな野良猫がガレージを追い出される。

 外は激しい雨が降る。

 冷たい…冷たい冬の雨。

『寒いな…冷たいな…』

 トボトボと道路の隅を歩く…ずぶ濡れの野良猫など誰も見向きはしない。

 車が真横を走り抜ける。

『怖いよ…怖いよ…』

 激しい雨の夜、車から小さな野良猫の姿など見えはしない。

 いないと同じ…小さな子猫。


 小さな体を震わせながらトボトボ…人を避けて、車を避けて…どんどん、どんどん人のいない道へ歩いていく。


 どこに身を寄せても雨で濡れていて、冷たくて寒くて…。


 田んぼの、あぜ道でトスンッとうずくまって…雨に打たれたまま眠ってしまった。


『寒いな…』

 雨はあがった朝、体は濡れたまま…冷たいまま…寒いまま…。


 気持ち悪い…体が動かない…


 お昼になっても…体は冷たいまま…

『寒いよ…寒いよ…』


 また夜が来ると…白い雪が体に積もる。

『冷たいな…』


 体は動かないまま…

『お腹が空いたな…気持ち悪いな…』


 雪が小さな体を包むように降り積もる。

『……暖かくなった…?』


 雪が積もって体を包む風が当たらないから少しだけ暖かく感じる。


 ウトウト…ウトウト…眠くなる。

 良かった…暖かくなって良かった…。


 震えながら眠る子猫…

『暖かいな…暖かいな…』


 風が止んで、目を開けた。

『見知らぬ場所…知らない匂い』


「目を開けたよ」

 小さな男の子が僕を見ている。

 ヨロヨロ…ヨロヨロ…

『ごめんなさい…すぐ出ていくから…もう歩けるから…ごめんなさい』


 僕をギュッと抱きしめた男の子。

「キミの名前は…」

 暖かい場所…暖かいミルク…

『いても…いいですか?』

 か細い鳴き声。

『僕は…此処にいていいんですか?』


 冬の出会い…ずっと…ずっと…続く白い道…

 その先にあったんだ。


『僕が居てもいい場所が…』

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