第36話 この場所で

「にゃぁー」

 月の出る夜、誰が決めた訳でもないのに、ココに猫が集まる。

 誰に呼ばれたわけでもない…不思議と猫が集まってくる。

 そんな夜…野良ネコも家ネコも、此処に集まる、そんな夜の話…そんな猫の話。


 夜空を見上げる猫

『そろそろかな…』

 大事な…大事な…日が迫っているのです。


 ソワソワ…ソワソワ…

 今朝から、なんだか落ち着きません。

『今日かな…今日かな…』

 月が顔を出して、辺りが暗くなる…


「にゃあー」

 誰かが鳴いた…

「なぁーっ」

 誰かが応えた…


 幾度か、そんなことが繰り返されると…知らぬ間に、1匹…また1匹…空地へ顔を出す。

 野良ネコ…家ネコ…声を聞いた猫達が集まりだした。

 思い思いの場所で丸くなって、好き勝手に鳴いている。


 アッチで喧嘩が始まる。

 コッチでアクビしている奴がいる。


「さぁ…会議の始まりだ」


「にゃー」

「にゃー」

「にゃーにゃー」

「にゃー…にゃ?」


 皆、好きに鳴いている。

 皆、好きに寝転んでいる。


 此処は好きにしていい場所、いい夜…


『僕も行かなきゃ』

 そっと家を抜け出して、月の光を身体に浴びる。

 グーンッとノビして

「ニャー」

 と鳴く。

 何処かの誰かが

「にゃー」

 と鳴く。


 沢山の猫が思い思いに鳴いている。

 僕も好きなように鳴く。

 誰かが応える。

 僕も誰かの声に応える。


 誰が始めたのか解らない。

 誰かに呼ばれてきたわけでもない。


 どうして集まるのか?


 不思議な夜…猫にしか…いえ猫にも解らない不思議な夜。


 月が傾く頃、1匹…また1匹と消えていく…

 フラリ…フラリと現れて、フワリ…フワリと消えていく…

『みんなどこから来たんだろう? みんなどこに帰るのだろう?』


 不思議な夜が更けていく…

『僕も帰ろう…眠くなってきた…』


「にゃん」

 と、ひと鳴き、僕は家に戻った。


 隣の空き地の不思議な夜…

 隣の空き地の特別な夜…


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