第34話 ヒャクシキ 裸足で駆けてく愉快な女編

『やってみるさ』

 海岸沿いの道路、いつも車やバスが行き交う危険な場所…そう此処は観光地。

 いつもの鮮魚センターの横でチャンスを伺う。

 狙うは…サバだ。

 小骨が少なくて食べやすい。

 じっと身を屈めて待つ…。

 店員がサバの切り身を並べた。

『そこぉ!!』

 金色の野良ネコ『ヒャクシキ』

 誰が名づけたのか?

 この観光地では有名な猫だ。


 サバを1パック咥え戦線から走り去る。

『迂闊だったな…』


 ゾクッ…

 ヒャクシキの背中に悪寒が走る。

『妙だ…このプレッシャー…誰だ?』


 後ろを振り返ると、女が走ってくる。

『何者だ? 早いな…』


 女はグングンと迫ってくる。

 ヒャクシキは女から全力で逃げた。

『追いつけるものか!!』

 後ろを振り返ったヒャクシキは言葉を失う…

『あの女…正気か?』

 女はサンダルを脱ぎ捨て裸足で走ってくるではないか。

『笑っている…だと…』

 御陽気に地元民の声援を受け手を振っている。

『ココは戦場だぞ!!』


 ヒャクシキは身を翻し路地へ駆け込む。

 狭い路地、女とはいえ人間が全力で走れる場所じゃない。

『戦いは非情さ…』

 ピシッ!!

 油断したヒャクシキの咥えていたサバの切り身が弾き落とされる。

『なに!!』

 女が小石を投げのだ。

 バシッ…バシッ…

 狭い路地が仇になった。

 跳弾しながらヒャクシキの身体へ浴びせられる礫。

『ええい…後退せねばならんとは…』

 落としたサバの切り身を取りに行く余裕はなかった。

『打ち所が悪いとこんなものか…』


 路地を抜けたヒャクシキ、その姿を笑う女。

 変なパーマをあてた女。

『手厳しいな…』


『だがな…』

 ヒャクシキは塀を一飛び、鮮魚センターへ戻った。

『まだだ…まだ終わらんよ』


 観光客の袋を一閃!!

 落ちたパックを咥えて走り去る。

 唖然としている女。


『戦士は生きている限り戦わねばならんのだ』


 根城に戻ってパックを放す…

『イカじゃねぇか…』


 隣の家の窓辺に小さなサボテン。

『サボテンが花をつけている…』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る