第33話 移りゆく世に

「また明日ね」

 幼い女の子が友達と別れて家に帰って行く…

『また明日…』

 小さな子猫がポツンと独り夕焼けに取り残される。

 いつからだろう…この空き地で暮らすようになって、子供達と遊んで、ご飯や水を貰う。

 毎日…毎日…誰かがやってきて、私と遊んでくれる。

 夜は寒いけど…だけど子供達が作ってくれた寝床で寝る。

 毛布やタオルをダンボールに敷き詰められているから大丈夫。


 幸せなのかな…

 時々、考える…夜になると考える。


 独りの寂しさを知る事が幸せなのか?

 そんな事を考えるようになった私は、もう子猫じゃなくなっていた。

 子供達は相変わらず、私によくしてくれる。

 だから…幸せなんだと思う。

 夜が明ければ…私は幸せなのだ。

 ほんの数時間だけ、孤独じゃなくなる。

 それが幸せ…だから…1日の大半は幸せじゃないのかもしれない。


 そんな事を考えるようになった私は、もう年老いていた。


 ダンボールから出るのが難しくなったような気がする。

 ゴトン…ゴトン…

 地面が揺れる。


 見た事ない大きな機械が空地へ入ってきた。

『止めてよ!! みんなが来れなくなっちゃう』


 色々なモノが運ばれて空き地が、空き地じゃなくなっていく…。

『止めてよ!! 私の場所が無くなっちゃう』


「なんだよ、この猫…邪魔だな~」

 汚い靴、私を足で乱暴に退かす男。

『止めてよ…止めてよ…』


 私は毎日、鳴き続けた。

 その度に、道路に投げ出された。


『無くなっちゃう…無くなっちゃう…』


「何なんだよ…ホントによう!!」

 汚い靴で、私は蹴られた。

 身体が浮いて、道路に投げ出された。

『痛い…痛い…』

 身体が痛い…動けない…

『もう…空き地に戻れないのかな』

 身体が動かないよ…


 私は道路の真ん中で蹲る。


「ホント、あのキタネェ猫、邪魔なんですよね~」

「工事が終われば、また、そこらで暮らすだろ?」

「いや…俺、猫嫌いですわ」


 夕方になった。

 私は、這うように空地へ戻った。


「おい、柵に鍵掛けとけよ」

「はい、お疲れした」


 汚い靴の男が、私に近づく。

「オマエさぁ…ホント邪魔なんだよね…俺、今日、機嫌悪いんだわ、親方に怒られてよ!!」

 男が私を蹴る。

「もう…鳴けねぇようにしてやる」


 翌朝

「なんだ、今日は猫いねぇな?」

「そうっすね、引っ越したんじゃないすか」


 空き地は駐車場に変わった。

「昔ね…お母さん、ココでよく遊んだのよ」

「ママ、駐車場で遊んじゃダメなんだよ」

「昔はね、ただの空き地だったの…公園なんて無くてね、空き地が皆の遊び場だったのよ」

「何して遊んだの?」

「ん、色々よ…猫が住んでてね…皆で世話してたの…タオルとか持って来たり、ご飯をあげたり…楽しかったな」

「その猫は?」

「さぁ…工事が始まって、空き地に入れなくなってね、皆、自然と来れなくなって…姿を見なくなったわ…」

「猫、かわいそう」

「そうね…」

(あの猫…どうしたかな…)

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