第27話 薄れても

 いつも眠っていた箱が広く感じる。

(こんなに大きい箱だったっけ?)

 なんだか今日は、寒い気がする。

(陽の光が当たってないからかな?)

 ノソッと箱から這い出て、日当たりの良い部屋に行く。

 なんだか、誰かがいるような気がしたけど…誰も居なかった。

(気のせいかな?)

 部屋の真ん中で陽の光を浴びてグ~ンと伸びてみる。

 気持ちいい朝だ。

 ポカポカと良い陽気、そとではスズメが鳴いている。

 だけど…なんだか物足りないような…寂しいような…

 少しだけ…少しだけなんだけど…いつもと違う。

 この部屋も、上ってきた階段も、廊下も、窓から見える木もスズメの鳴き声も、いつもと同じ…だけど、いつもと違う…何かが違う。


 鏡に映る、僕…

(はて…何かが足りないような…なんだろう?)

 昨日もそうだった?

 その前は?


 いつからだろう…何かが違う、何かが変わった…何が変わった?


 カリカリを食べる、いつもと同じ…カリカリ…カリカリ…

(となりの空のお皿……僕が食べたんだっけ?…何だろう…なんだか寂しいな)


『ミャーオー』

 何で鳴いてるんだろ?

 誰に鳴いているんだろう?

 この時間は誰もいないのに…


(誰もいないのに…誰もいない…そうだっけ…本当に誰もいないんだっけ?)


『ミャーオー』

 誰かを呼んでみた。

 誰かが来るような気がしたから…


 誰かが…誰かが…


 不思議な感じ、いつからだろう、不思議な感じ…寂しい気持ち、悲しい気持ち…。


(このクッション…僕の匂いと…誰かの匂い…)

 とても懐かしい、誰かの匂い。

 とても悲しい、誰かの匂い。


 悲しい気持ちのまま、僕は眠る。

 桜の花びらが窓の隙間からヒラヒラと舞い落ちる。


 眠る僕を抱き上げる。

「ほら…姉さんにサヨナラしなさい」


 桜の季節は、姉さんの季節…サヨナラした、僕の姉さんの季節がまた終わる。

『サヨナラ…またね』

 また桜が咲いたら姉さんのこと少し思い出すよ。

『その時まで…サヨナラ』




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