第23話 選べなかった。
「署長ー!! 署長はどこいったぁー?」
観光地の警察署で署長が行方不明になる…大事件であり、怪事件である。
「またですか?」
署長が行方をくらますのは初めてではない。
毎週のよう起っている大事件なのだ。
「また、物置じゃないですか?」
先週は物置で発見され無事に保護された。
「いや…窓から外へ…」
以前には窓から飛び降りて逃げ出したこともある。
署長室には帽子が転がっている。
寝床代わりのソファはボロボロに引っ掻かれている。
『まったく…こんな天気のいい日に部屋の中にいれるかよ』
ブチ猫がクワーッと大きくアクビをする。
ココは屋上、警察署の屋上である。
高い金網に囲まれた屋上、金網の隙間から空を眺める。
『いい天気なのに…空は狭いな…』
バンッと扉が開いて、大きな声がした。
「署長!!」
身体がビクッと強張る。
ジリッと目を逸らさぬまま後ろへ下る。
「扉を閉めろ!! もう逃げられませんよ…署長」
3人の警官がジリジリと距離を狭めてくる。
『はぁ~』
俺は諦めて、渋々と扉の方へ歩き出す。
「署長、捕獲」
グデーッとナマコのように身体が伸びて、俺は抱きかかえられて署長室へ戻される。
「まったく…リードを付けますか?」
「いやいや…なんか拘束しているみたいでイメージが悪いだろ」
「しかし…また逃げ出したら…」
「制服をキツくしてみてはどうでしょうか?」
「それだ!!」
ダボダボだった服にボタンが付けられ、俺の丸まっている背骨がギュンッと伸ばされる。
『うっ…動きにくいな…』
ギクシャクとしか動けない。
「これはいい、これならすぐに抑えられる」
「帽子持ってきました」
「さっ、署長、視察の時間ですよ」
女性警官に抱っこされて俺は署長室を出た。
「うわぁー」
歓声と拍手
『ウルサイ…騒がしい…逃げたい』
無意識に爪が出る。
「署長、コチラが交通課ですよ」
全員がバッと立って敬礼する。
『どうでもいい…怖い…逃げたい』
およそ30分をかけて警察署内を巡回してやった。
『もういいんじゃないだろうか…』
「はい署長、お水ですよ」
ペタペタと舌で水をすくって飲む。
緊張したせいか…背筋が伸びきっているせいか、喉が渇く。
「さっ、署長、子供達が待ってますよ」
『子供……嫌いだな…』
警察署の庭に小学生が集まっている。
「わぁーかわいい」
撫でられる…尻尾を掴まれる…強制的に抱っこ地獄。
『もう…クタクタだ…』
新聞記者にTV撮影…
慌ただしいままに夕方になっていた。
「署長、お疲れ様でした」
『うん…』
服を脱がされると、背中が痛かった。
しばらく、上手く歩けなかった。
腹いせに帽子を思いっきり噛んでやった。
ソファの上に敷かれた毛布の上で丸くなる。
『終わり?』
「署長、また来週もお願いしますね」
警察署に保護されて3週間…もうちょっと普通の人達に拾われたかった。
窓から差し込む夕日の光、オレンジの空に小さく鳴いた。
『公園に戻りたい…』
「はい署長、チュールですよ」
『チュール…』
アグアグと食べる、コレ大好き。
『もうちょっと…いてもいいかな?』
猫署長は、観光地で頑張っている。
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