第22話 鬼の猫
「もうダメだ…お頭…」
「バカ野郎、諦めるな、バイキングはどんな北風にも負けない!!」
「お頭ー!!」
嵐に飲まれ、引き千切られたようにバラバラになったバイキングの船…あの嵐から4日が経っていた。
「おい…生きてるか?、おい!!」
2人のバイキングが砂浜に打ち上げられた。
帆に絡まった板や樽と一緒に流され、一命を取り留めたバイキング2人。
砂浜には残骸が散らばっているが、人影は見当たらない。
小屋があることから、人は住んでいるようだ。
「無人島じゃないらしいな…」
「あぁ…お頭たちは、無事かな?」
そう言ったバイキングの足元には、彼らのお頭が被っていた立派な角飾りが付いた兜が転がっていた。
「無事さ…あのお頭が簡単にくたばるかよ」
バイキングは小屋に向かって歩き出した。
ソロリと小屋の中を伺う…誰もいない。
おそらくは漁に使うのであろう道具が適当に積まれているだけ。
仕方ない…
バイキング2人は、使えそうな物を拾い、1樽だけ転がっていた葡萄酒を担いで川を探すことにした。
喉が渇いた…
漂流した海で赤く焼けた肌がヒリヒリと痛む。
まずは水を飲みたい。
綺麗な水が欲しい。
ほどなくして川を見つけ、頭を突っ込んで水を飲む。
(なんじゃ…アレは?)
その様子を川へ洗濯に来た、老婆が見ていた。
なにやら大声で叫び、川で暴れる大男、頭からは牛のような角が生えている。
毛むくじゃらの身体、赤黒い肌…
(恐ろしい化け物じゃ…)
老婆は、気づかれぬように川から遠ざかり、村長の家で、その話をした。
半信半疑で聞いていた村長は老婆に言った。
「解った…猟師の五平が山から降りてきたら、狩りに行かせる」
村で唯一、鉄砲を持っている猟師の下山を待って化け物を狩らせるつもりでいた。
その夜、バイキングは山へ向かった、身を潜めるように…
どんな人種が暮らしているのか解らないからだ。
襲われても斧と棍棒はあった、屈強な戦士といえど、今は2人しかいないのだ。
たき火で暖を取り、葡萄酒を開けた。
途中で犬に追われていた猫を拾い、なんとなく寂しさから連れて歩いた。
向かってきた犬を仕留め焼いて、久しぶりの食事を摂った。
「お頭…」
バイキングは兜を被って、お頭の真似をして不安を紛らわそうとしていた。
「テメエら、俺より前へ出るんじゃネェ!! 敵と間違えるじゃねぇか!! まったく弱いくせに」
そんな勇敢に戦うお頭の真似をして笑っていた。
ダンッ!!
兜を被っていたバイキングが倒れた。
胸からゴボッと血が溢れる。
「この化け物が!!」
たき火の灯りを見つけて、ソッと近づいてきた下山途中の猟師がバイキングを撃ったのだ。
喰っていた犬は猟師が飼っていた猟犬だった。
「うわぁあぁぁ!!」
座っていたバイキングが立ち上がり、棍棒を手に猟師に襲い掛かる。
ゴキンッ!!
次の弾を撃つ前に猟師は棍棒で首の骨を折られて倒れた。
「おい…しっかりしろ」
兜を被ったバイキングはすでに絶命していた。
「みゃお…」
隠れていた猫が死んだバイキングの横で小さく鳴いた。
何日か山で猫と暮らしていた、ある日…
「あれが噂の鬼か…なるほど」
猟師の死体を見つけた村の者が村長に話し、村長は領主に化け物退治を頼んだのだ。
集められた侍は8名、いずれも鬼退治を任せるに足る腕の持ち主であった。
バイキングは不意を突かれ、3人の侍を倒すも、討ち取られたのであった。
太い首を落とされ、酒に浸けられ領主に差し出された。
首の無いバイキングの躯の横で「みゃあ…」と猫が鳴いて擦り寄った。
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