第21話 ゆらゆら…

『お姉さん、今日も遊びに来たよ』

 僕が最近、見つけたお家。

 静かで人がいない。


 庭が広くて、虫が沢山いる。

 散歩中に偶然入った庭、お家の中にはお姉さんがいる。

 そっとお家に入ってみた、お姉さんは僕を追い出さなかった。

 少しずつ、お家の中でも遊ぶようになった。


 お庭で虫を捕まえる。

 お家でお昼寝する。


 暗くなる前に、僕は塀を歩いて、自分のお家へ帰る。

『バイバイ、またね』


 お姉さんはお家の中でユラユラしてる。


 お家に帰ると、亜紀ちゃんが帰ってくるのを庭で待つ。

 僕のお家の庭は、お姉さんの家の庭より狭い。

 亜紀ちゃんと一緒にお家へ入る。

『ただ今』


 朝になると、玄関で鳴く。

「にゃあ」

「トラちゃん、今日もお散歩?」

 お母さんがドアを開けてくれる。

『行ってきます』


 僕は塀を歩いてお姉さんのお家へ行く。

『僕、来たよ』


 今日も暗くなるまで、お姉さんのお家で遊ぶ。

 雨の日は、お外に出してもらえないから、晴れた日しか来れない。

 お姉さんは雨の日には何をしているんだろう?


「明日、日曜日だからトラちゃんとお散歩に行く」

 亜紀ちゃんが、お母さんと話してる。

「いいけど、トラちゃんにリード付けてね」


 朝、いつものように玄関で「にゃあ」と鳴く。

「トラちゃん、今日はコレ付けるのよ」

 お母さんが僕にヒモを付ける。

『なんだかコレ好きじゃない』

「トラちゃん行くよ」

 亜紀ちゃんがヒモを引っ張る。

『なんだよ、今日は塀を歩けないの』


 なんだか、歩いたり止まったり…疲れる散歩だ。


『亜紀ちゃん、バイバイ』

 僕はスルッとヒモを抜け出して、塀の上にピョンと乗る。

『僕、お姉さんの家で遊ぶから』


 そのまま庭へピョンッと飛び降りる。

「トラちゃん、入っちゃダメ」

 亜紀ちゃんが塀の向こうで僕を呼んでる。


 しばらくお庭で遊んでたけど、亜紀ちゃんがウルサイから、今日は早めに帰ることにするよ。

「トラちゃん!!」

『今、戻るよ…バイバイ、お姉さん、また明日』

 お姉さんが窓の向こうでユラユラ…ユラユラ…


「もう、トラちゃんたら、他人の家に入っちゃうんだもん」

「あらあら…いつも、そうなのかしら? だとしたら、ご迷惑を掛けてるんじゃないかしら…」

「空家だよ、ほら、角のお家」

「えっ…アソコに行ったの?」

「うん…アタシは入らないけど、トラちゃんは入ってっちゃうんだもん」

「そう…アソコに行っちゃダメよ亜紀」


「そうなのよ…アソコの家に出入りしているみたいなのトラちゃん」

「そう…まぁ、空家だから…問題ないとは思うけどな」

「アナタ…でも」

「解ってるよ、首つりのあった家なんて近寄らせたくはないさ…まぁ、散歩は控えてもらって、トラちゃんには、家で退屈しないようにさせるしかないだろう」

「そんな、アタシ、トラちゃんと遊んでられる程ヒマじゃないわよ」

「コレ買おうよ、キャットタワー、トラちゃんも喜ぶよ」

「コレ…高いじゃない!!」

「いいじゃないか、なぁ、トラちゃんも欲しいよな~」

 お父さんが僕を抱っこする。


「アナタの小遣いから出して頂戴ね」

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