第20話 静眠家
『揺れた…揺れてるよ…』
いつものように丸まってサンルームで昼寝をしていた猫が飛び起きる。
『どうしたの…どうしたの…怖いよ…怖いよ…』
僕は走って、お爺さんを探した。
お爺さんは倒れていた。
手から血が出ている。
『恐いよ…怖いよ…お爺さん…起きてよ…僕、怖いよ』
僕は倒れて動かないお爺さんの脇で丸まった。
『お爺さん…お爺さん…』
僕は必死で鳴いて、お爺さんを呼んだけど、お爺さんは動かない。
しばらくして、揺れなくなって…僕はソロリ…ソロリ…と家の中を歩いてみた。
家の中なのに…外にいるみたい。
屋根が無くなって、家の中からお空が見える。
『何があったの…怖いよ…お爺さん』
僕は、お爺さんの所へ戻った。
お爺さんは倒れたまま。
なんだか、人が沢山やってきて、お爺さんは、どこかへ運ばれていく。
『お爺さんを連れてかないで、僕も一緒に行くよ』
僕は必死で鳴いたけど、お爺さんだけ連れて行かれた。
僕は独りになった…。
ずっと、崩れた家で待っていたけど…
お爺さんは帰って来ない。
昨日も…今日も…
ずっと独りだ。
お家は、大きな機械が壊してしまった。
僕は怖くて逃げたけど…静かになって、また、ここへ戻ってきた。
『お家が無くなってしまった…お爺さんのお家が…』
僕の、お皿も無くなった。
何も無くなった。
もう…お爺さんは戻ってこないのかも…
だってお家も無いんだもん。
僕は行くところも無いから…ここに戻ってきた。
お家は無いけど…
ずっと…ずっと…待っている。
昨日も…今日も…明日もね。
どれくらい待ったかな?
お水を飲みに行くときも、走って戻るんだ。
お爺さんが待っているかもしれないからね。
ずっと…ずっと…待ってるよ。
『お腹が空いたな…今日は誰も、ご飯をくれない』
もう…夏だよ…お爺さん。
暑いな…今日は暑い…
日陰で待ってるよ。
お爺さん。
なんだか…懐かしい…匂い…
「待っててくれたのかい…」
僕の頭をそっと撫でるシワだらけの手、懐かしい匂い…
病院に運ばれたお爺さんが帰ってきた。
「ごめんな…」
お爺さんが泣いている。
『待ってたよ、僕、ずっと待ってたよ』
新しいお皿、前より狭い家…だけど…前よりお爺さんが傍に居る。
『ずっとだよ…ずっと一緒に…』
お爺さん…もう独りにしないで…
お布団で何日も動かないお爺さんの脇で、僕は丸くなる。
昨日も…今日も…眠ったまま…
『ずっと一緒だよ…』
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