第17話 残夏
「にゃぁー」
夏の終わりに海辺で鳴く子猫。
『誰かいませんかー』
誰かを呼ぶように子猫が鳴く。
『僕、今日も来たよー』
それを少し離れた所からジッと見ている大きな野良猫がいる。
『やれやれ…夏は終わったのに…』
暑い夏だった。
フラフラと水を求めて熱いアスファルトを歩いていた子猫を抱き上げた水着の女性がいた。
「かわいい、喉が渇いているの?」
水着の女性は海の家の日陰で水を飲ませてくれた。
初めて歩いた砂の上、不思議な感覚だった。
潮風はなんだかベタッとして好きじゃないんだけど…
子猫は初めての海にドキドキしていた。
「バイバイ」
夕方になると水着の女性は何処かへ行ってしまった。
夜は海の家の隅で眠った。
明るくなると、人が沢山来た。
子猫にご飯を食べさせ、水を飲ませてくれた。
『ココはいいところだ』
子猫は海の家の隅で過ごす様になった。
「客引きみたいだな」
海の家の人も猫に釣られて客が来るので邪魔にはしなかった。
寝るところを作り、専用の水飲み皿と、ごはんの皿を用意した。
海の生き物は面白く飽きなかった。
いつも誰かが子猫の傍にいた。
なんだかワシャワシャとした日々が続いて、夜は夜で騒がしく、落ち着かないときもあるけど、誰も子猫を虐めない。
『明日も暑いのかな?』
少しだけ、暑くなくなったような気もする。
少しだけ、人が少なったような気がする。
『今日は雨だ』
雨の日は人が来ない。
ずっと眠る。
晴れた日は人が来る。
雨の日が多くなったような気もする。
静かでいいけど…
「ありがとな、また来年おいで」
子猫の頭を海の家の人が撫でた。
子猫のお皿が無くなった。
『僕のお皿だよ、お水は?ごはんは?』
誰も居なくなった海で子猫が独り…
熱くない砂浜は歩けるけれど…
誰も居ない。
『僕はココだよ』
大きく鳴いて誰かを探す。
海の水は飲めない。
ただ、うねるだけの波は怖くて近づけない。
人がいなくなった夜の海は波の音が大きく聴こえる。
黒くうねる海は毛が逆立つほどに怖く感じる。
また独りになったのかな…
また晴れたら来てみよう。
誰かいるかもしれない。
トボトボと夜の海岸を歩く子猫のすぐ後ろを、大きな野良猫が付いて行った。
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