第16話 雨の日の…
雨が降る日、僕は空を見上げて雨宿りする。
空からの雨では濡れないけれど、地面は塗れているから、あんまり関係ないのかもしれない。
なんだか身体が重くなるようで、濡れるのは好きじゃない。
不思議なもので晴れている日には感じない孤独を、雨の日は強く独りだと感じる。
ボンヤリと子供の頃を思い出すことが多い気もする。
きっと、雨が止むまで何も考えることがないからだ。
気付けば独りだった…
だから寂しいとも思わないし、辛いとも思わない。
きっと幸せを知らないから…不幸も知らないんだと思う。
ずっとゴミ箱を漁って、人に追われて、人を避けるように生きてきた。
死ぬまでこうして生きていくんだ。
飼い猫ってヤツを見ると、幸せなのかなと疑問に思う。
あいつらは逆に野良ネコを不思議そうな顔で見る。
俺が、あいつらを不思議そうに見ているからだろう。
眠ることもできずに、ただただジッと空を眺める、黒い空が暗くなり月が出る頃にやっと雨が止んだ。
ノソッと身体を持ち上げると車がバシャッと水を跳ねあげた。
もとより、ずぶ濡れだ…気にする必要も無い。
いつものように、ゴミ箱を漁り空腹を満たす。
後は、どこか静かな場所で眠る。
『グエッ…』
今日、漁った残飯は悪かったようだ。
酷く気分が悪い。
寝床を探しながら幾度も吐いた。
フラフラとした足取りで、静かな場所を探す。
吐きながら歩いていると人間は誰も近寄って来ないから、隠れる必要も無い。
ずぶ濡れで吐き散らかす野良ネコには誰も近寄らない。
(今夜は此処で寝よう…)
大きな石が立ち並ぶ奥に木造りの小屋があった。
隙間から中に入ると驚いた。
大きな人間が座っていた。
ビクッとなったが、良く見ると木で出来た作り物だ。
人間は何で自分より大きな人間を作るのだろう?
大きな人間の膝の上で丸くなった。
なんだか懐かしいような気持ちになった。
子供の頃に……戻った様な…。
ウトウト…として眠ってしまった。
「住職…本尊に野良ネコが…」
「野良ネコ?」
「隙間から入って来たんですよ、追い出しますけど…汚してないかしら…」
「……追い出さなくてもいいですよ」
「はっ?」
「これから寒くなる…好きなようにさせておきなさい」
「はい…」
「出て行きたければ勝手に出て行きますよ…それと水とエサを置いてあげてください」
「はぁ…」
住職がそっと本尊を覗くと、仏様の膝の上で丸くなって眠る大きな黒猫。
「何かのご縁ですかな…御仏の膝の上で眠るとは…追い出さないでしょう…仏に使える私ではね」
ニコッと笑って住職は庭を掃き始めた。
『ブニャー』
それから…今も、住職がお経をあげる、その隣には黒猫がドスンッと座っている。
飼い猫でもなく、野良ネコでもない、ただの黒猫は今朝も住職の隣に座り、仏像の膝で眠る。
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