第13話 夜道
『僕、もう1人でおさんぽできるよ』
いつもヒモで繋がれて、いつまでも子供じゃないよ。
スルッ…
僕はヒモから身体を抜いて、1人で駈けだした。
『僕、もう子供じゃないから、追いつけないでしょ』
グングン走って、あの子を置いていく。
『ぼく、速いんだよ』
もう、あの子じゃ僕に追いつけない。
『置いてっちゃうよー』
タタタタ…
ぐんぐん、あの子と離れていく。
どんどん…どんどん…ぐんぐん…ぐんぐん…
昨日より、もっと遠くへ…
今日は昨日より遠くへ走るんだ。
どんどん遠くへ走れるようになるよ。
僕はもう大人なんだ。
高く飛べる。
速く走れる。
あの子は、いつまでも変わらないな…
足は遅いし…木にも登れない。
早く大人にならないと、どんどん置いてっちゃうよ。
ぐんぐん、あの子と離れていく。
どんどん…どんどん…ぐんぐん…ぐんぐん…
昨日より、もっと遠くへ…
「迷子になっちゃうよ、戻っておいでよ」
あの子の声が後ろで聞こえる。
あの子の声が離れて聴こえる。
あの子の声が遠くに聞こえる…
あの子の声が聴こえない?
立ち止まって首をかしげる。
少し後ろを振り返る。
『あの子がいないよ…』
少し待ってあげようかな?
少し早く走りすぎたみたい。
少しだけ、昨日より遠くへ来たみたい。
知らない場所。
オレンジの空。
『少しだけ、待っていてあげよう』
あの草むらで、少し待ってみよう。
アクビが出るよ。
少し眠くなったきた…
オレンジが少しづつ…黒くなっていく…
『少し眠るよ…起きる頃には追い付いてくるさ』
『まだ…来ない…』
真っ暗だよ。
草むらからヒョコッと顔を出して見回すけど…
あの子の姿は見えない。
『恐くないよ』
『不安じゃないよ』
知らない場所でも…此処が何処でもね
僕は、もう子供じゃないんだからね。
へいちゃらさ。
へいちゃらさ…暗くなっても…知らない場所でも…
ひとりぼっちでもね。
恐くないよ。
月が明るいもん
恐くないよ。
車が通っても
今…独りでも…
草むらから這い出てソロリ…ソロリと夜の道路を歩き出す。
恐くないよ。
赤い鳥居をくぐって神社に着いた。
なんか…来たことあるような?
フンフン…クンクン…鼻を鳴らして…
なんだろう懐かしいような…寂しいような?
賽銭箱の裏で丸まってみた。
変な気分…
なんだか寂しい。
月がポカリと浮かんだ空に、か細く鳴いた。
「みにゃー」
なんて言ったの?
誰かを呼んだの?
違うよ…ただ、なんだか寂しくて…心細くて…鳴いただけ。
眠ろうとしても、眠れない。
物音で身体がビクッと強張る。
『恐くないよ…子供じゃないんだ』
真っ黒な空、お家の窓から見る空とは違う。
四角く無い空
『広いんだ…』
小さな頃は、何もかも広かった。
今は、お家を広いと思わない。
お庭も広いと思わない。
お外は、グングン、グングン、歩いても端に着かない。
どこまでも…どこまでも…
お空もどこまでも…どこまでも…
『広いんだ…』
なんだか少し…恐くなくなった。
最初から恐くなんかないけれど…
少しだって寂しくなんかない…わけでも…ない。
『あの子は、お家に帰れたかな?』
わんわん、わんわん、すぐに泣くんだ。
いつまでも子供なんだ。
僕はもう大人なのに…変なの。
少しだけ眠ろう。
目が覚めたら、あの子を探しに行こう。
『迷子になってるよ…きっと』
困った子だな…
明るくなって、アクビして、ぐーんと伸びて、アクビして…
『さぁ、あの子を探しに行こう』
神社の赤い鳥居をくぐって、僕は走りだす。
グングン、グングン、速いんだよ
不思議だね
なんだかお家の場所が解るんだ。
大人になったから?
迷わずお家に戻って来れた。
不思議だね?
昨日は解らなかったのに。
「にゃぁー!!」
玄関で大きな声で鳴く。
『帰ってきたよ』
玄関がバタンと開いて、あの子が顔を出す。
僕は、あの子の顔にスリッと額を擦り付けて
『ただいま』
『この子は、まだまだ子供のままだ…僕は昨日より大人になったのにね』
もうしばらくは、この子に合わせて歩くとするよ。
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