第12話 アタシはエライ

「オマエは賢いね」

 女王がアタシを撫でて微笑む。

 アタシは賢い。

 ネズミを沢山捕れるから。

 毎日、毎日、眠ってヒマになるとネズミを捕る。

 それだけで、アタシは褒められる。

「オマエは偉いね」

 女王がアタシを撫でて微笑む。

 アタシはエライ。


 この、お城は広くてネズミが沢山いる。

 猫のアタシはエライ。

 なぜ人は猫に産まれなかったのだろう?

 賢くないからかな?

 猫に産まれれば、美味しい食べ物、綺麗な水、自由に生きて行けたのに…

 可哀想…きっと賢くないから仕方ないのだ。


 女王だけはアタシと同じくらいエライみたい。

 だけど…お城を自由に歩けて、お城の外にも行けるアタシほど偉くはない。

 きっと自分でネズミを捕れないからだと思う。

 アタシほど偉くないような気がする。


 ネズミが捕れる猫は偉くて、ネズミを捕れない人は偉くない。


 アタシはなんでネズミを捕るのだろう?

 食べもしないのに…

 チョロチョロ動くから、つい追いかけてしまう。

 アタシの方が早いけど、ネズミは小さいから隙間に逃げるとイライラする。

 なんで追いかけるのだろう?


 褒められるから?


 女王のことは嫌いじゃない。

 アタシと同じくらいエライし、アタシを撫でてくれるから。


 今日もネズミを捕りに行く。

 だけど…今日はお城がバタバタ落ち着かない。

 人がバタバタ、ネズミみたいに動いている。

 なんか邪魔で、ネズミが出て来ないし…ツマラナイ。


 アタシは窓で丸くなってアクビをした。

 今日は眠ろう。


 人がアタシをカゴに入れた。

『どこかへ行くのかな?』

 女王のところだと思ったから逃げなかった。


『ほら、やっぱり女王のところだ』

 アタシはピョンとカゴから飛び出て、女王の所へ走った。

 眠っていた。

 石の箱の中で眠っていた。

 小さく鳴いてみた。

 目を覚まさない。

 じゃあ、アタシも眠ろうかな…

 女王の顔の横で丸くなった。

 今日の女王は冷たくて気持ちいい。

 毎日、暑いから…


 ゴゴゴゴゴッ…

 石の蓋が閉じられた。

 真っ暗になった。

 だけど女王は目を覚まさない。

 まぁいいよ…冷たくて気持ちいいし…


 …………

『苦しい…』

 なんで…まだ眠っている?

 なんで蓋が開かない?

 なんだか苦しい…息ができない…


 女王は眠っている…

『ねぇ起きなよ!!』

 苦しいよ…

 おかしいよ…女王は目を覚まさない…

 頭が痛い…苦しい…

 石を引っ掻く…爪が割れるほど…

 もう…鳴くこともできない…


『アタシは…エライ…賢い…猫…』


「女王の埋葬は終わりました…可愛がっていた猫も一緒に…寂しくないように…」


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