第11話 何もしてないよ
「汚い猫!! アッチに行って!!」
毎日、毎日、僕はこの場所でジッと座っている。
走れなくなったから、ソロリ…ソロリと歩道の真ん中で座る。
座っているだけで皆に嫌われる。
『僕は汚いですか?』
『お母さんが動かなくなりました』
ずっと前のことです。
車に跳ねられました。
それからずっと僕はココにいます。
お母さんはいなくなったけど、僕はココにいます。
『蹴らないでください』
『石を投げないでください』
僕はココにいるだけです…痛いです…怖いです。
僕の後ろ足は上手に動かせなくなりました。
痛かったです…鳴いても…鳴いても…誰も助けてくれません。
痛くて丸まって、沢山、沢山、鳴いたけど…泣いたけど…
『僕は走れません』
昔は走って逃げれたけど…今は走れません。
ソロリ…ソロリと歩きます。
人にぶつからないように歩きますから…蹴らないでください。
小さく鳴きます。
お腹が空くから…時々でいいから…食べ物をください。
隅っこで食べるから…
もうスリッと身を寄せないから…ごめんなさい。
嬉しくて…近づいてごめんなさい。
「汚い」
僕は汚いから…スリッとしませんから…ごめんなさい。
目が合ったら小さく鳴きます。
『あなたは僕を嫌いですか?』
誰か…僕を嫌いじゃない誰か…
一緒にいてくれる誰かを探しています。
お母さんは、もういないから…
スリッとすると怒られるから…怒らない人がいたらいいな…
毎日…毎日…ココで座ってます。
夜になると人がいなくなるから…木の下で眠ります。
静かに眠ります。
足は痛くなくなったけど…上手に歩けないから遠くへ行けないから…
毎日…毎日…怖いです。
人は怖いです。
でも食べ物をくれる人もいるから…時々、食べ物を食べれるから…怖いけど…人の真ん中で座ります。
『何もしないから…だから…嫌いでいいから…食べ物をください』
小さく鳴きます。
大きく鳴くと蹴られるから…小さく…小さく…鳴きます。
目が合うと小さく鳴きます。
『あなたは、やさしい人ですか?』
ジュースをかけられたことがあります。
ベタベタしたけど…甘かったです。
美味しかったです。
だから逃げないでジッと座ってます。
何もしません…だから…
ココに居ていいですか?
今日は暑いです。
水をかけてください。
今日は寒いです。
水をかけないでください。
お腹が空きました。
今日はジッと座っていられませんでした。
丸まってしまいました。
ごめんなさい…すぐに立つから…隅っこに行くから…ごめんなさい…
少しだけ目を閉じていいですか?
蹴らないでください…すぐに隅っこに行くから…ごめんなさい…
『痛い…痛い…痛い…』
鳴いてごめんなさい。
蹴られなければ鳴かないのだけど…ごめんなさい。
少しだけ目を閉じていいですか?
もう少しだけジッと丸まっていていいですか?
とても痛くて…とても眠くて…目が開かないのです。
もう少しだけ…眠らせてください。
寒い…寒い…痛い…痛い…
また足が動かなくなるのかな?
隅っこに行けるかな?
『痛い…痛い…』
『汚くてごめんなさい』
もう…行くから…此処に戻らなくていいみたいだから。
『ごめんなさい…遠くへ行くから…ずっと…もっと隅っこに行くから…』
「汚い子猫…死んでるわ…誰が掃除するの…ホント迷惑!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます