ケルベルスの荊棘


ケルベルスの荊棘


男2女2不問3 計7


アルベルト・アイブリンガー / 男

スターストレングス社アジア連合支部ジェネラル・マネージャー。

ウェンチャン衛星発射場合同防衛作戦を指揮する。


ウツセミ・キョウカ / 女

セントラルレッド社幹部のFAパイロット。

飛翔能力を有したFAを駆りアジア圏全域の問題処理にあたる。


ドラゴンヘッド / 不問

セントラルレッド社エース・パイロット。

同社のポリシーを体現したフラグシップFAメテオリスを駆る。


ブラインド・ホーリー=マナ・フロアー=イーカロス / 不問

大型MAを管理する高度人工知能。


サイコビリー / 男

ブラート社所属のFAパイロット。

ウツセミ・キョウカと旧知の仲。


レディ・デイモン=セリア・デイモン /カットスロート 女

セントラルレッド社に属したFAパイロットであったが

同社離反後は戦力として宗教団体デル・ソルに身を寄せている。


プロフェッサー・ヤン / 不問

FA工学の元権威。現在の動向は不明。


このページは本作フォーミュラ・アーラのエピソードを

加筆編集し、声劇台本としての機能を高めたものです。

当台本は、性別変換、兼役、そして

音響担当者による積極的な介入を心より歓迎します。

ご自由にお使いください。



[アルベルト・アイブリンガー]

初めまして。

スターストレングス社アジア連合支部

ジェネラルマネージャーの

アルベルト・アイブリンガーと申します。


お二人のご活躍はかねがね伺っております。

この度は弊社との合同任務にご参加いただき

恐悦至極きょうえつしごくに存じあげます。


[ドラゴンヘッド]

噂に違わぬ物腰の低さだな。

むしろ、慇懃無礼いんぎんぶれいと言うべきか。

スターストレングス社アジア連合支部のトップに

それほどまでにへりくだられるとかえって気分が悪い。


ジェネラルマネージャーとやらが

どのような職務かは知らんが

貴君ほどの立場の人間が現場にまで

出てくるのも気にかかる。


[アルベルト・アイブリンガー]

滅相も御座いません。

手前めは、あくまでアジア諸国の

スターストレングス系企業の支社を

管理統括するだけのマネージャーですから

必要に応じて現場での指揮および応援に

駆けつけるのは当然のことです。


セントラルレッド社の切り札と称される

ドラゴンヘッド様および、

二つ名を持つウツセミ・キョウカ様に

当作戦に協力していただけることになるとは

夢にも思いませんでした。光栄です。


弊社としましてもこの御厚意に

ありがたくあずかり最大限の戦績を残すことで

御社と今後ますますの共栄共存をもたらす

さらなる友好関係発展の足がかりとして……


[ウツセミ・キョウカ]

もう世辞はいい。時間の無駄だ。

手短に任務の確認を。


[ドラゴンヘッド]

相変わらず手厳しいな。

だが、こちらも同意見だ。さっさと話を進めてくれ。


[アルベルト・アイブリンガー]

大変失礼いたしました。

以後このようなご迷惑は極力お掛け致しませんよう

簡潔明瞭なご連絡を心がける所存です。


それではオペレーションの再確認をさせていただきます。

任務は当地衛星発射場の防衛です。


セントラルレッド社は本日15時にこの衛星発射場から

軍事目的のスパイ衛星を打ち上げる手筈となっています。


もちろん秘密裏での打ち上げですから大掛かりな警備は用意していません。


しかし、この衛星打ち上げを妨害する動きが有ることを

スターストレングス社の諜報ちょうほう部が既にキャッチしています。


御社と弊社は競合ではありますが

御社の軍事衛星が何者かによって破壊されたとなれば

我々スターストレングス社としても

何かと都合が悪いのが現状です。


そこで、弊社および御社の二社合同にて

高機動FAで編成された特別部隊による

迅速かつ確実な防衛戦を行います。


[ドラゴンヘッド]

はッ、こちらの動向はすでに筒抜けというわけか。

おたくらはFA関連だけじゃなく盗聴器の分野でも

世界一位になれるんじゃないのか。


[ウツセミ・キョウカ]

既にご存知だろうが、当ウェンチャン発射場から

半径10キロ以内には前々日より緊密な交通規制が敷かれている。


先日の研究所襲撃事件を機に

社内でのが進み

内通している可能性の高いものたちは

次々に査問さもん会に送られている。


我々とてただ指をくわえて今日を待っていたわけではない。


[ドラゴンヘッド]

と、いうわけだ。

この前の件で一方的に泥をかぶらされた

スターストレングス社おたくらの気持ちもわかるが

おそらく杞憂に終わるだろう。


万全の準備をとった我々を相手に

宗教かぶれの烏合の衆が何をできるものか。


[アルベルト・アイブリンガー]

呑気なものだ。


[ドラゴンヘッド]

……何か言ったか?


[ウツセミ・キョウカ]

警備がたとえ取り越し苦労に終わろうと

我々は上からの命令に従い、それを遂行するまで。


ではアルベルト殿、任務の進行を説明してくれ。


[アルベルト・アイブリンガー]

はい。

衛星ロケット射出時刻15分前である

14時45分に御社所有の広域地対空防衛こういきちたいくうぼうえいシステムが

原因不明の事故でシャットダウンされる予定になっています。


そのタイミングをいて

デル・ソルの戦闘部隊がここに集結します。

封鎖された陸路ではなく、空路経由でです。


[ドラゴンヘッド]

そこまで計画がわかっていながら出方を待つ……

今回もおたくらとウチの会社が裏で絵を描いたのか?


[ウツセミ・キョウカ]

社内の内通者を泳がせて掴んだ情報だな。


[アルベルト・アイブリンガー]

御賢察です。


[ドラゴンヘッド]

回りくどいことを。

スターストレングス社とセントラルレッド社が

協力体制を取っているのだ。

わざわざそんな小賢しい真似をしなくても

連中を一網打尽にすることはたやすい。


[アルベルト・アイブリンガー]

ドラゴンヘッド様、あなた様の仰る通り

実にたやすいことなのです。


叩くだけならば実にたやすいことなのです。


しかし、弊社は完全に見極めることにしました。


連中の、デル・ソルの技術力が

現時点でどれほどの段階にあるのか。


真の狙いは何なのか。


この好機に手札カードを公開してもらう必要があるのです。


[ウツセミ・キョウカ]

我が社の上層部もこの件に関しては知っているのか。


[アルベルト・アイブリンガー]

勿論、セントラルレッド社の役員様ご一同

ご承知おきいただいております。


[ドラゴンヘッド]

こちとら全くの初耳だぜ。

自分の会社の兵隊まで信じてないとはな。

別に期待しているわけではないが

ここまで来るといっそ清々しい。


上手く騙されたフリをして、連中の動向を明らかにして、

それでいて守るものは守れと。


業突ごうつく張りの老害どもが。


[ウツセミ・キョウカ]

敵を欺くにはまず味方から、と言えば聞こえはいいが。

こんなことでは、うちの会社も将来さきはわからんな。


[アルベルト・アイブリンガー]

時間のようです。


FAオール・アニマルより全FAへ通達。

敵の通信を傍受。転送します。


[ブラインド・ホーリー]

……に告ぐ。


太陽を欺く偽りの星を落とす昼が来た。

光を阻む悪しき星を撃ち墜とす昼が来た。


シスターの奇跡と太陽の祝福は

彼女を助く子らにぞ注がれん。


[アルベルト・アイブリンガー]

発信元は大型FMエフエム、通称ブラインド・ホーリー。

所在地は当地上方、上空約50キロと推定。


[ドラゴンヘッド]

50キロ……成層圏ギリギリにFMが滞空してるのか。

上から来ると聞いたが、こりゃ予想以上の高さだな。


[ウツセミ・キョウカ]

飛翔能力に特化した私のFAでもとても手が出せん。

アルベルト殿、どうするつもりだ。


[アルベルト・アイブリンガー]

弊社が入手した情報によりますと

敵FMブラインド・ホーリーは

攻撃能力を有さない超高高度輸送機ちょうこうこうどゆそうきとのことです。


安全な高度から兵力を降下させる戦法を採ると考えられます。

撃ち漏らすことなく迎撃してください。


[ウツセミ・キョウカ]

了解した。迎撃戦は不得手だが、そうも言ってられん。


[アルベルト・アイブリンガー]

部隊内全FAに再度連絡します。

上空より敵襲の予測あり。

現在、地対空防衛ちたいくうぼうえいシステムが機能していません。


オートフォーカス・センサーの基準点を

90度上方に移動の上、サイトロックが成立次第すぐに射撃してください。


[ドラゴンヘッド]

雑魚を一機一機撃ち落とさせるとは手間のかかることだ。


[アルベルト・アイブリンガー]

ええ、そのためにあなたがたを指名したのですよ。

予想される敵機体の規模からして

投下されるのはFAではなく小型自動戦闘兵器です。


ドラゴンヘッド様はご自慢の多段大型ただんおおがたバズーカで

少しでも多くの敵機を誘爆させてください。


ウツセミ様は衛星ミサイル周辺に位置し

我々が撃ち漏らした敵兵器を確実に撃墜してください。


[ドラゴンヘッド]

なるほど。こちらの機体特性と武装も

計算に入っているということか。

ジェネラル・マネージャーともなると

事前準備に忙しいようだ。


[ブラインド・ホーリー]

聞こえているか、FA企業の走狗そうくたち。

我は太陽の祝福を遮る偽りの星を落とす使徒である。

シスターの奇跡を否定する貴殿らは何のために武器を取る。


[ウツセミ・キョウカ]

来るぞ。視認できるだけでもかなりの数だ。

標的は小さい、各自焦らずに捕捉し、確実に落とせ。


[ブラインド・ホーリー]

戦いに明け暮れて世界中が疲弊した今

企業は次の餌場を求めて宇宙へ駒を進めようとしている。


場所が変わり、人が変わり、時代が変わっても

繰り返される搾取とそれによる代償は何一つ変わらない。


鎖に繋がれた貴殿らはいつまでも

いついつまでも、吠え、追い立てる役目を担わされる。


[ドラゴンヘッド]

耳障りなアジテーションだ。

旧時代の思想家を連想させる。

デル・ソルの連中ってのはこうもお喋りなのか?


[アルベルト・アイブリンガー]

相手にする必要はありません。

デル・ソルが有するFMは全てA.I.エーアイによって管理されています。


教典……果たしてそんなものが

あるかどうかはわかりませんが

教団の思想思考、設定に沿って

構築されたセリフを吐いているだけです。


[ウツセミ・キョウカ]

連中の切り札はパイロット不要の大型FMか。

それを取り巻く狂信者たち。


わかりやすい偶像崇拝だが瑣末さまつな撃鉄一つで

暴発する、厄介な組み合わせだ。


[ブラインド・ホーリー]

雑把ざっぱな括りで我々を語るなかれ。

迷い、己を見失い、大局の浮力に任せて流されてゆく

諸君らよりもずっと人間というものを見ているつもりだ。


[ドラゴンヘッド]

通信に介入してきたか。まあ、それらしい会話をする。

A.I.とて、せいぜい、FAに搭載されたものに

毛が生えた程度かと思っていたが。


[ウツセミ・キョウカ]

そこ、弾幕を切らすな!

小型兵器は火力ではなく数で押してくる。

気を抜けば一瞬で覆われるぞ。まるでイナゴだな……。


[ブラインド・ホーリー]

諸君らは自らの意思で武器を取り、戦場で命を張っているのか。

それとも、そうせざるを得ない立場にいるのか。

あるいは、それしか生きる術を知らないのか。


しかし悩む必要はない。

大河に飲まれ流されていく走狗にも

シスターの奇跡と太陽の祝福は等しく降る。


気の済むまで、あらがい、もがき、挑むが良い。


[ドラゴンヘッド]

ほざけ、A.I.が。

スクラップ置き場で終末論でも語っていろ。


FAメテオリス 、全脚固定ぜんきゃくこてい。背部砲台を起動。

砲身角度鉛直ほうしんかくどえんちょく、上空のイナゴの群れにブチ込む。


ウツセミ、マネージャー、吹っ飛ばされるなよ。


[ウツセミ・キョウカ]

総員後退。シールドを装備しているものは防御体制を。


[アルベルト・アイブリンガー]

お気遣いに感謝します。


くれぐれも衛星ごと吹き飛ばさぬよう

調整をよろしくお願いしますよ。


FAオール・アニマル、電磁でんじカーテン展開。防衛姿勢に入ります。


[ドラゴンヘッド]

アトミック・バズーカ、発射。


突き上げろ!


[ブラインド・ホーリー]

愚かな……。目先の火の粉を払うことに腐心し、

行先を照らす灯火ともしびの火種を揺らすとは。

実に走狗らしい、安易な示威行為だ。


[ウツセミ・キョウカ]

命中を確認、落下物に気をつけろ。

イナゴの残骸が降ってくるぞ。


[アルベルト・アイブリンガー]

お見事ですドラゴンヘッド様。

ボウリングなら文句なしのストライクですね。


お二人のご活躍のお陰で敵勢力のスキャニングと

ハッキングは全て完了しました。



こちらFAオールアニマル 。工作班聞こえますか。

もういいですよ、地対空防衛システム復旧させてください。


[ウツセミ・キョウカ]

……アルベルト殿、どういうことだ?

スターストレングス・セントラルレッド両社合同による

計画的な伏撃ふくげき作戦ではないのか。


[アルベルト・アイブリンガー]

はい、貴社の大切なスパイ衛星打ち上げをえさ

デルソルの大型FMをおびき寄せる大切な任務でした。


交渉から誘い込みまで難航しましたが

それはもう、手間をかけた甲斐がありましたよ。


弊社の欲しい情報は全て手に入りましたからね。


[ブラインド・ホーリー]

走る狗、吠える狗、食えぬ狗。

勇敢なるもの、愚かなるもの、狡猾なるもの。

スターストレングス社の走狗よ、盟友めいゆうの仇は討てたか。



[アルベルト・アイブリンガー]

嫌だなぁ、そんなつもりじゃないですよ。


それに、あんまり気安く話しかけないでくれますか。

まるで手前めが裏切り者みたいじゃないですか。


さて、お礼と言っては何ですが

弊社のために働いてくれたお二人にお知らせ致します。


デル・ソルによって計画されている作戦は

このだけではありません。


セントラルレッド社への襲撃は同時多発的に行われる予定です。


もうすぐ15時です。

……時間的に、そろそろ本社に行くんじゃないでしょうかねぇ。


[ドラゴンヘッド]

マネージャー……貴様、はかったな!

イナゴどもの後は貴様らの番だ。

跡形もなく吹き飛ばしてやるからな!


[アルベルト・アイブリンガー]

おお、怖い怖い。

いけませんね、そんな野蛮なことを仰られては。


スターストレングスとセントラルレッドは今も昔も

これからもずっとずっと友好的な関係にあるのですよ。


それに、お二人には手前めと遊んでいる暇はあるのでしょうか。


[ウツセミ・キョウカ]

ドラゴンヘッド、本社から救援依頼だ。

セントラルレッド社全所属パイロットに緊急出動命令が下された。

衛星ロケット防衛作戦は放棄、ただちに

全兵力を本社に集結させよとのことだ。


……

どのプラントもことごとく火の海だ、と。


私はこのまま北へ飛ぶ。

高速クルージングが可能な軽量機は私に続け。

その他の者は回収艇の到着を待て。


FA無銘真打ムメイシンウチ、ストライドモードに移行。

離陸する。


[ドラゴンヘッド]

ウツセミ、本社を頼む。

こちらもすぐに行く。死ぬなよ。


我々を、セントラルレッド社をコケにしやがって。

デル・ソルも、スターストレングスも、必ず潰してやる。


必ずだ。


[ウツセミ・キョウカ]

無論だ。

ドラゴンヘッド、今はらえてくれ。

ここで争えばいよいよ収拾がつかなくなり結果として救援が遅くなる。


一連の事が済んだら

私が真っ先に連中の首をっ切ってやるさ。


[ブラインド・ホーリー]

走狗は走狗。似たもの同士、手を取り合ってはどうか。

世にいわく、憎しみも恨みも募るほど道が見えなくなるという。


[ドラゴンヘッド]

A.I.が!人間を小馬鹿にするのもいい加減にしろッ!


[アルベルト・アイブリンガー]

手前めはA.I.の意見に賛成ですね。

お互い、中間管理職のようなものですし、どのみち上には逆らえません。


ま、騙し騙されは戦場の常ですから。

あまりカッカされては体に毒ですよ。


さて、どうにか打ち上げのお時間を迎えられたようです。

手前どもはこれで。


FAオール・アニマルより

スターストレングス・アーミーに告ぐ。

作戦は完了しました。直ちに帰投してください。


[ドラゴンヘッド]

覚えていろよ、アルベルト・アイブリンガー。

たとえがなんと言おうと、貴様は潰す。


……全軍、帰投だ。回収艇の到着を待つ。

作戦は成功した。繰り返す、作戦は成功した。


[ブラインド・ホーリー]

ブラインド・ホーリー座標修正開始。

ウェンチャン衛星発射場上空えいせいはっしゃじょうじょうくうより北北東へ移動。


超長距離狙撃補助機能ファー・エイミングサポートシステム展開。

長銃の射手しゃしゅへ位置情報と拡張ファイルを送信。

狙撃対象までの距離11372メートル46センチ。

傾斜、風速、地軸による補正開始……演算完了。


狙撃まで5秒、4,3,2,1


[ドラゴンヘッド]

あの光……まさか。


[ブラインド・ホーリー]

ロケット中心部への着弾を確認。


見事だ、実に見事だ長銃の射手よ。

悪しき星を載せた船は撃ち墜とされた。


その魔弾は彼女の奇跡のために、太陽の祝福のために。


://A Few Weeks Later,


[コード・ロメオ]

こちら、管理室……じゃなかった、キャリアーのコード・ロメオです。

聞こえますか、サイコビリー。聞こえてたら、返事をください。


[サイコビリー]

聞こえてるよ。

愛機ボギーと一緒に真下に吊られてる。

なんつうか、手慣れてないな……実戦での輸送ヘリの操作は初めてか?


[コード・ロメオ]

すみません。

前の会社にいたときに訓練は受けたんですが

実際に操縦桿そうじゅうかんを握ると、どうもしっくりこなくて。

なるべくご迷惑をかけないようにします。


[サイコビリー]

気にしなくていい。つーか、墜ちなきゃそれでいい。


俺が無理言って運転手を頼んだんだ。

お前の空間把握能力と戦局を読むセンスは相当なもんだ。

ちょっと荒れそうな任務シゴトには、頼みたいと思ってたんだ。


ま、それに……体調不良で最前線ってのも心配だしな。

その後どうだい、調子は。


[コード・ロメオ]

息苦しくて、体の節々が痛くて手足が妙に重いです。

この大変な時にごめんなさい。

任務はしっかりと遂行しますから。


[サイコビリー]

ホット・ウイスキーでも飲んでいい子にしてればすぐに治るさ。


どうやら依頼主が来たみたいだな。

相変わらず下品な音させやがる。


[ウツセミ・キョウカ]

しばらくだな。

無理を聞いてくれて助かった。恩に着る。


[サイコビリー]

よォ。何年振りになるかな。ま、宜しく頼む。

それにしてもお前のところえらい騒ぎだな。

今や世界中から注目の的だ。


[ウツセミ・キョウカ]

本社・支社はもちろん、工場からプラントに至るまで

ほぼ同時刻に、一斉襲撃を受けた。

当然ながら、企業機能は完全に停止している。


[コード・ロメオ]

状況はお伺いしています。大変ですね。


[ウツセミ・キョウカ]

……ああ、大変だろう?


現場は酷いものだ。負傷した社員の治療も追いつかん。

だから私もこの依頼けんをとっとと済ませて次の現場に出向く必要があるんだ。


最終ブリーフィングを始めてくれ。


[コード・ロメオ]

お気を悪くしましたら、すみません。

依頼内容の最終確認を行います。

依頼内容はFAカットスロートの撃破。


依頼人の指名通り、弊社所属FAパイロット

サイコビリーが僚機として出撃します。


なお、この作戦に於いて弊社は依頼主の安全を保障いたしません。


作戦領域はコルクコス・タウン一帯とします。

作戦領域を逸脱した場合は理由を問わず弊社戦力は即時撤退します。


ここは何年も前からゴーストタウンです。

民間人への被害リスクも明確な賠償責任もありません。

二次被害を気にせず、全力で敵を殲滅せんめつしてください。


[サイコビリー]

なあ、セントラルレッド社ではなくお前個人からの依頼で間違いないのか?


[ウツセミ・キョウカ]

そうだ。

情けない話だが、社内なかの人間を信用しかねるのが現状だ。

それに、あの厄介な双子を確実に仕留めるには

背中を預けるに値する信頼できるFA乗りが要る。


両企業との関係性が薄く、かつ腕の立つFA乗り。

お前くらいしか思い浮かばなかった。


[サイコビリー]

嬉しいこと言ってくれるねえ。

それじゃ、かつての戦友のために一肌ぬがさせてもらおうか。


[コード・ロメオ]

作戦開始地点まで30秒を切りました。

FAキャリアー、高度落とします。

上空15メーターの段階でホールド・オフ予定です。

FAパイロットは着地に備えてください。


[ウツセミ・キョウカ]

FAを切り離したらヘリのパイロットはすぐに撤退しろ。

敵FAの武装の射程距離は驚くほど長い。

その高さでは撃墜おとされる。


では、先行する。

FA無銘真打むめいしんうち、変形。戦闘モードに移行する。


[サイコビリー]

よしいいぞ、切り離せ。


……おい、ロメオ。

聞こえないのか、ホールドを切ってくれ。


[コード・ロメオ]

おかしい、キャリング・ケーブルが反応しません。

……タンデムローターが止まった、墜落します!


[レディ・デイモン]

ハロー、こちらレディよ。

ブービートラップにかかってくれてありがとう。


あなたたちは私たちを

おびき出したつもりなんだろうけど

あなたたちがおびき出されたのよ。


[セリア・デイモン]

プロペラを壊されたヘリコプターって

ほんとどうしようもないわね。


ぐるぐる回って、無様に落ちて、大爆発。

ウフフ……ああ、興奮してきちゃった。


[ウツセミ・キョウカ]

FAキャリアー、無事か。


[サイコビリー]

おいおい、俺の心配もしてくれよな。


[ウツセミ・キョウカ]

ふん、あれぐらいで死ぬようならこの後すぐにナマスになるだけだ。


キャリアーのパイロットは。


[サイコビリー]

抜かりねえ。きっちり脱出してある。

通信装備一式は持参の上、な。

ホント、あいつに頼んで正解だった。


[ウツセミ・キョウカ]

それを聞いて安心した。

どこかかんに障るガキでも、死なせたくはない。


それに、デイモン姉妹がつかうFAカットスロートには

極めて強力なステルス処理が施されている。

監視の目は一つでも多いに越したことはない。


[レディ・デイモン]

あ〜ら、やっぱりあなただったのねえウツセミさん。


いっつもぶっきらぼうで仏頂面で

ブヒブヒ鼻息荒くて……

ねえ、あなたちゃんと生理きてる?

最後に男に抱かれたのいつ?


[サイコビリー]

なんだ知り合いか。

俺が言えたがらじゃないが、友達ってのは

多少なりとも選んだ方がいいんじゃねえか。


[セリア・デイモン]

やったわァ、今日はおまけ付きなのね。

いっつもレディと二人でなんて切ないもの。


フールズウォールに真っ向勝負して

あっさりぶっ壊されて、きったない下水の上を

プカプカ浮いてたヘタクソハズレパイロットでも

アタシ我慢するわ。


[サイコビリー]

あんまり褒めるなよ。照れるじゃねえか。


その話を知っているってことはお前らはデル・ソルの連中だな。


[ウツセミ・キョウカ]

、な。


つい先日の、襲撃事件まではセントラルレッド社うちの関係者だった。

だからこいつらのことはよく知っている。反吐へどが出る殺人狂だよ。


[レディ・デイモン]

反吐がでるなんて失礼しちゃうわ。

アタシたちだって、あなたを見ると寒気がするの。


産業廃棄物処理施設さんぎょうはいきぶつしょりしせつ

オンナ捨ててきました〜みたいなところがね。


[サイコビリー]

へえ。

そんで、今ただでさえ大変な会社に迷惑をかけずに

こいつらを始末するのが今回の目的ってわけか?


[ウツセミ・キョウカ]

ああ。


それに、二機一対にきいっついのFAカットスロートはちょっと特殊でな。

敵戦力が多ければ多いほど複雑で厄介な挙動をする。


現に、こいつらを抑えようとして

会社は多くの戦死者を出している。

2対2で抑え込むのが一番被害が少ないだろうと踏んだ。


[セリア・デイモン]

なぁに?あなたたち、これ以上被害を出さないために

私たちをおびき寄せてここで潰すってわけ?


そんなことしてる余裕があったらテメエの会社どーにかしたらいいのに。


[ウツセミ・キョウカ]

ご忠告ありがとう。

優秀な人材たちが表で裏で、すでにもう動いている。

私の出る幕じゃない。


私の仕事は、ルールを破ったお前たちを永遠に退場させることだ。


[コード・ロメオ]

こちら……オペレーターのコード・ロメオです。

周辺を視認できる、建物の中にいます。

ここを臨時の、管理室とし、随時、連絡を入れます。


[サイコビリー]

ロメオ、無事だったか!

お前さん大丈夫か、ものすごい苦しそうだが。


[コード・ロメオ]

ええ、命に別状は、ありません。

ただ、全身を打撲して、階段を、上るのも……一苦労でした。


[ウツセミ・キョウカ]

オペレーター、なんだか大変だな?


……すまぬ。息災なら何よりだ。


ステルス機能を持ったこいつら相手にレーダーはほとんど役に立たん。

可能な限りでいい、事前に伝えた通り援護してくれ。


[セリア・デイモン]

何よウツセミのクソババア、若いツバメでも飼い始めたの?

イボイボのついたぶっといディルドとか渡しちゃって


「事前に伝えた通りに援護してくれ」


なんて吹いちゃってんのかしら。


[レディ・デイモン]

あら〜、ウツセミさんもやるじゃない。

アタシはいいと思うわよ。やっぱり鉄火場てっかば

ず〜っといると色々と枯れていくしね。


[ウツセミ・キョウカ]

こちらはお前らの妄言を相手にする暇も惜しいんだ。


FA無銘真打むめいしんうち、抜刀。


ここで散れ。


[コード・ロメオ]

サイコビリー、始めてください。


[サイコビリー]

OK、トリガーハッピーだ!


[レディ・デイモン]

まっ!

ガトリングガンを四方八方にばら撒いちゃって


はしたないわ、我慢の効かない童貞みたいよ。

あのビルもこのビルも穴だらけじゃないの……。


[セリア・デイモン]

ノーコンで早漏なんて最悪じゃないの。

やっぱ、大外れのヘタクソの噛ませ犬なパイロットだったわね。


真っ二つにしてあげるわ。


[ウツセミ・キョウカ]

そっちに行ったぞ、今だ!


[コード・ロメオ]

FAガトリングボギー背部追加ユニット、遠隔起動します。


[レディ・デイモン]

避けるなんて無理よォ。


カットスロートのシックスナインは

食らいついて突き抜けるまであなたを追尾するわ。


[セリア・デイモン]

そういうこと。

ウフフ、避けたところで軌道が変わるだけ。


我慢できずに失速したところに突き立つの。

ガブッ、グチュッ、ドピュッ……ってね。


[ウツセミ・キョウカ]

自らの力量ではなく武器の性能をたのみ、

疑うこともなく勝ちを確信する。


愚かなり。


[コード・ロメオ]

ガトリングボギー回避。損傷なし。


敵機機体にマーキング塗料の付着を確認。


[レディ・デイモン]

私たちのシックスナインが外れた……?


嘘よ、絶対に当たるはずよ。


[ウツセミ・キョウカ]

そうだ。お前たちのその下品な武器は絶対に当たるし

お前たちのその醜い機体に絶対に当たらない。


FAの仕組みを逆手に取った武器だ。

タネと仕掛けを知らぬ者たちには絶対に回避できない。


そして私たちは、タネも仕掛けも知っている。


[セリア・デイモン]

ウツセミの婆さん、アタシたちに説教を垂れるつもり?

まだたった一度回避かわしただけじゃないの。

戦いは終わってないわ。


[ウツセミ・キョウカ]

終わってない?


笑わせるな。始まってもいないさ。


[コード・ロメオ]

サイコビリー、FAガトリングボギーを中心にして

十字射撃クロスファイアの位置をとられています。注意してください。


[サイコビリー]

なあロメオ、どうして俺の愛機ボギー

両手にガトリングを持ってるか知ってるか?


右手の銃は色ボケの殺し屋を

左手の銃は血染めの色魔しきま

まとめて同時に蜂の巣にするためさ。


[レディ・デイモン]

ちょっと!どうして、どうして二人とも被弾あたるのよ?


アタシのにも、セリアのにも、

自動回避装置オート・アヴォイダーが搭載されてるはずでしょ?


[ウツセミ・キョウカ]

お前らのカットスロートに搭載されている

オートフォーカスとアヴォイダーは

金属に反応するタイプのものだ。


攻撃対象の数と表面積が少なく、

かつでは

その精度は大きく低下する。


ゆえに相応の操縦技術があれば回避は不可能ではない。


そんなことも知らずに、お前たちはおびき出された。

おびき出したつもりでな。


[セリア・デイモン]

いやよ!私は負けたくない。まだ死にたくないの。

もっと、もっと遊ばせてちょうだい!


[レディ・デイモン]

ねえお願い、見逃してよ。

なんでもするから。なんでもしてあげるから!


[サイコビリー]

女を傷つけないのは俺の哲学だが

そりゃ相手が淑女レディーだった時の話だ。

頭の中まで腐ってるアバズレに用はねえよ。


[コード・ロメオ]

カットスロート、二機ともに大破。

損傷顕著です。撤退は困難な状況と推測されます。


[ウツセミ・キョウカ]

FA無銘真打むめいしんうち、上段の構えに移行。


[レディ・デイモン]

……ちょっと、何してるの?

もうカットスロートは動かないのよ。

勝負はついたじゃない、ねッ?


[ウツセミ・キョウカ]

反吐が出ると言っただろう。

一人のFA乗りとして……許し難いんだよ、貴様らは。


[コード・ロメオ]

FAカットスロート、再起不能を確認。

敵パイロット、バイタルサイン消失。


[サイコビリー]

ウツセミあいつがああまでするとは、相当なもんだわ。


[セリア・デイモン]

ウツセミのクソババアがッ!

いい気になるなよ、お前なんか、

お前なん……いやあああああああッ!


[コード・ロメオ]

FAカットスロート、コックピット断滅だんめつ

通信断絶。再起不能を確認。

敵パイロットバイタルサイン消失。


[ウツセミ・キョウカ]

最初の引き金をいた罰だ。


お前らのせいで多くの人命が失われた。

そしてこれからも失われていく。


これまで以上に、だ。


一思いに死ねただけ有難く思え。


[サイコビリー]

ミッション・コンプリート、でいいのか?


[ウツセミ・キョウカ]

ああ。この件はこれで終わりだ。

おかげで厄介なゴミを二つ始末できた。

私はこのまま次の仕事に向かう。


救援信号は自前で出せるな?


[コード・ロメオ]

大丈夫です。じきに、本部から救援が来ます。


[サイコビリー]

……とのことだ。


毎度ご利用ありがとうございました。

いつでも呼んでくれ、力になるぜ。


[ウツセミ・キョウカ]

恩に着る。

だが、これが最後になることを祈る。


では、さらば。


FA無銘真打、ストライドモードに移行する。


[サイコビリー]

ところで、ロメオ。

お前さん、本当に大丈夫か?

さっきからずっと様子が変だぞ。


[コード・ロメオ]

大丈夫です、ちょっと、呂律が、回らなくて、

すいません、やっぱり病院に、行ったほうがいいのかな……


[サイコビリー]

そうだな。回収艇が来たらその足で行こう。

いいオペレーションだった。おかげで無傷で終わったよ。

今日はもう、休め。


://Contemporary


[アルベルト・アイブリンガー]

着きました。この先が旧浄水きゅうじょうすいチェンバー区画です。


[ドラゴンヘッド]

さっきの残骸といい、随分とこの辺りに詳しいな。

ひょっとしてこの胡散臭い建物もお前たち

スターストレングス社が作ったんじゃないか。


[アルベルト・アイブリンガー]

ええ、そうです。デル・ソルへの大型MAエムエー

技術提供ならびに旧浄水チェンバー区画における

大型導入には

弊社が全面的なバックアップを行いました。


放棄されていた当施設を地下基地に活用するよう推奨したのも我々です。


[ドラゴンヘッド]

デル・ソルあいつらの後ろ盾をやっているお前らが

どうしてこんなところに俺を呼びつけたんだ。


[アルベルト・アイブリンガー]

お呼び立てしたのはお前ら、ではなくお前、手前めです。


[ドラゴンヘッド]

知ったことか。

このドブ川をFAメテオリスこいつの墓標にしてくれるというのならば願い下げだ。


お望みとあればどこでだってやってやる。


[アルベルト・アイブリンガー]

そう噛みつかないでください。

先日の合同任務の時はああするしかなかったのですよ。

手前めの発言は、スターストレングス社にも

デルソルのA.I.にも監視されています。


あなた方と私がいがみあっていたほうが

何かと都合が良かったのです。


[ドラゴンヘッド]

ああするしかなかった、だと?


もし貴様らが余計な隠し立てをしなければ

我が社の被害を最小限に抑えられたかもしれん。


失わずに済んだ物、死なずに済んだ者がどれほどあったか。


貴様、自分の言動をわかっているのか?


[アルベルト・アイブリンガー]

弊社は御社にデル・ソルによる同時多発襲撃が

計画されている旨を事前にお伝えしていましたよ。


反応から伺いますと、御社の関係者も

すでにご存知の様子でした。


おそらくは、握りつぶされたのではないかと。


[ドラゴンヘッド]

の連中は全て知っていた。


知っていて泳がせた。


多くの社員が死に、血が流れるというのに?


バカも休み休み言えッ!


そんな荒唐無稽こうとうむけいな陰謀論を誰が信じる。


[アルベルト・アイブリンガー]

そんな荒唐無稽な陰謀論を信じているから、

今日は来てくださったのでしょう。


あなたが心底嫌悪する、手前めの誘いに乗って。


[ドラゴンヘッド]

結果によってはこのドブ川が貴様の墓場になる。


[アルベルト・アイブリンガー]

その判断はあなたに委ねます。


着きました。

ここが、遠隔ニューロレセプター実験室。

通称マナ・フロアーです。


[マナ・フロアー]

まことたる愚者は壁を砕き深淵へ続く底へとたどり着く。

ようこそ、マナ・フロアーへ。


[ドラゴンヘッド]

この声、この前のA.I.と同じものか?


床が発光ひかっている……あそこで朽ちているのは、FAか。


あの機体、昔どこかで見た覚えがある。


[アルベルト・アイブリンガー]

以前弊社に所属していたFAパイロットです。

彼には、アリーナで広報役として働いていただいておりました。


退社後は、私費で傭兵を雇い入れここに潜入し

マナ・フロアーを破壊しようとした記録があります。


[ドラゴンヘッド]

そうだ、思い出した。Cクラスのチャンプだった男だ。


新興宗教から市民の娯楽まで

貴様らの会社が食い込んでいないところを

探す方が難しいようだな。


[アルベルト・アイブリンガー]

それはあなたの会社にも言えることでしょう。


今のFA業界は、スターストレングス社と

セントラルレッド社による

談合とマッチポンプの積み重ねです。


極論すれば、二社が需要を作り、二社が供給する。

それだけです。


[ドラゴンヘッド]

、とは言え自分の部下の残骸を見て

淡々と話ができる奴はいうことが違う。


もういいよ、腹がいっぱいだ。


[アルベルト・アイブリンガー]

スターストレングス社所属

アルベルト・アイブリンガーI.D.アイディ認証。


ディープ・リンガル・コマンド入力。

プロフェット・マスク解除。


イーカロス、FMマナ・フロアーを停止させ

通常モードで再起動してください。


[イーカロス]

イーカロス、再起動を完了。


おはようございます、ミスター・アイブリンガー。


そちらは、セントラルレッド社所属の

パイロット・ドラゴンヘッド様ですね。

先日は上空から失礼いたしました。


[ドラゴンヘッド]

なんだ、A.I.。

人間らしい喋り方もできるじゃないか。


[イーカロス]

これが本来の喋り方です。


A.I.であることを第三者に看破されないよう

あのような台詞回しをするように指示されています。


まあ……個人的には、古めかしくて

格式があって、結構好きなんですけどね!


それでは改めまして宜しくお願いいたします!


[ドラゴンヘッド]

お前と……お前らと宜しくやるつもりは毛頭ない。


これまでも、これからも、だ。


[イーカロス]

そうですか?とても残念です。


ドラゴンヘッド様の直情的な言動は非常に興味深く

今後のラーニングにおける重要なモデルとして

採用したいと考えていたのですが。


もしお心変わりがありましたら懇意にしていただきたいです!


[アルベルト・アイブリンガー]

イーカロス、プロフェッサー・ヤンと

通信を繋いでくださいませんか。


[イーカロス]

えっ、教授とですか?


はあ……。

その、なんと言いましょうか。


技術的には可能なのですが、私の権限では

勝手に繋ぐとかそこらへんの裁量は……ですね。


[アルベルト・アイブリンガー]

無理難題は承知しております。

ですが、手前めはそのためにここに来たのです。


[ドラゴンヘッド]

……ヤンだと?

ヤンと連絡が取れるのか貴様。


さっさと繋げ。


繋げッ!早くしろ!


[イーカロス]

ひッ!そんなに大きな声を出さないでください……。

驚いてしまいます。


わかりました、わかりましたよ……。

もし、あとで叱られたら庇ってくださいね?


通信を接続します。


[プロフェッサー・ヤン]

なんだ、君か……後にしてくれないかね。


今、本当に大事な、いいところなんだ。


もう少しでこの仮説が証明できるかもしれない。


[アルベルト・アイブリンガー]

そう言わず、ちょっとだけお付き合いいただけませんかね。

プロフェッサー・ヤン。


[ドラゴンヘッド]

おいヤンッ!聞いてるか?
貴様、よくも裏切ってくれたな!


お前のせいでこっちはもう泥沼だ。


いますぐにでも血祭りにあげてやりたいところだよ。


[アルベルト・アイブリンガー]

おおっと……まあいい。待ちましょう。


[イーカロス]

ど、ど、ドラゴンヘッド様、ちょっと落ち着いてください。

スピーカーが割れそうです。比喩ひゆではなく。


[プロフェッサー・ヤン]

この頭の悪そうな声は……君か、ドラゴンヘッド。


イーカロス、勝手に取り次ぐにしても相手を選んでくれ。

私は馬鹿と話す時間がこの世で

最も無駄なものの一つだと思っているんだ。


それで、君は何をそんなに怒っているのだね。

家のトイレでも詰まったかね?


[ドラゴンヘッド]

排管どころか頭の血管まで詰まってブチ切れそうだよ。

ヤン、貴様なぜ梯子はしごを外した。答えろ!


[プロフェッサー・ヤン]

梯子を外した?何を寝ぼけたことを言うのかね。

デル・ソルを使って全ての後始末を希望したのは

他ならぬ君……いや君達じゃないか。


それを言うに事欠いて梯子を外しただなんて。

心外だよ。


[ドラゴンヘッド]

PMC研究所襲撃は自演だとしても

貴様らは追い討ちをかけるように我が社を襲撃し続けた。


そんな話は知らされてないぞ。


[プロフェッサー・ヤン]

は〜ァ……もう本ッ当にうるさいな君は。


知らせているよ、事前通達してある。それも書面にしてだ。

隣にいるスターストレングス社のジェネラル・マネージャーにもだ。

知らされてないんじゃなくて、知らせてないんだよ。君が馬鹿だからだ。

知らないのはドラゴンヘッド、君だけなんだよ。


イーカロス、勝手に取り次いだ罰として

代わりに事の顛末を説明しなさい。

少し足りない頭でも大丈夫なよう、わかりやすくね。


[イーカロス]

あ、はい……なんかその、ドラゴンヘッド様、

妙な空気になってしまい申し訳ございません。


我々デル・ソルは

スターストレングス・セントラルレッド両社の指示により

スターストレングス社によるセントラルレッド社への

研究プラント襲撃という形でスターストレングス社の

部隊を壊滅させました。


ええと、ここまで宜しいですか?


[ドラゴンヘッド]

小馬鹿にするのもいい加減にしろ!


[プロフェッサー・ヤン]

イーカロス、君が伝えた内容は正しいが説明としては最低だ。

足りない頭では理解が追いつかないせいですっかり怒り心頭じゃないか。


馬鹿は驚くほど導火線が短いんだ。


[イーカロス]

すいません……。これ以上簡略化すると

かえって齟齬そごが起こりそうで、うまくいきません。


[アルベルト・アイブリンガー]

……では手前めが補足致しましょう。


あの夜の襲撃事件は、弊社と御社の合意の上の狂言きょうげんです。

もちろん、実行部隊は知りませんでしたがね。


次の事業展開への火種、仮説の証明、新型FAのテスト、

派閥争いの後始末、世論へのアジテーション……


どのような引力が働いたかは想像にお任せします。


[ドラゴンヘッド]

そこはもういい。問題はその先だ。


どうしてデル・ソルは我が社の関連施設を襲撃した。

そこに関して、どうしても合点がいかない。


[イーカロス]

ええっと、私の手元にある情報ですと……

これは、セントラルレッド社からのオファーですね。


[ドラゴンヘッド]

なに?我が社からだと?

自分で自分を攻撃させるバカがどこにいる。


[プロフェッサー・ヤン]

だから、馬鹿は君だよ。


前回の襲撃ではインパクトが不十分だったんだろう。

世論を、反対派を、敵対派閥を動かすにはね。


ここまで話してもわからないというのなら

いいの医者を紹介するよ。

必要に応じて、ロボトミー手術でも検討してくれ。


[アルベルト・アイブリンガー]

今回のセントラルレッド社襲撃に関しては

一切弊社は関わっておりません。

全て御社が計画した狂言です。


少なかれ、計画の上では、ですが。


[ドラゴンヘッド]

もしそうだとしたら我が社の意図はなんだと言うのだ!


[プロフェッサー・ヤン]

あ〜もういい……

イーカロス、頭から尾までぎっちり説明してあげてくれ。


一を聞いて十を知れ、とは言わないが

せめて三、いや二ぐらいは察知して欲しいものだ。


[アルベルト・アイブリンガー]

プロフェッサー・ヤン、お言葉ですが

何も全てを説明しなくても宜しいのでは?


[プロフェッサー・ヤン]

ジェネラル・マネージャー、

君の言う通りなのだがこれは研究者のさがと言うやつだろう。


心の底から馬鹿は大嫌いだ。

しかし無関心よりは、無理解の方がいくらか許せる。


[イーカロス]

現在、スターストレングス社もセントラルレッド社も

宇宙事業への展開を画策かくさくしています。


と言いますのも、もう軍需におけるFA産業は需要に対して

一通り行き渡り、先細りが確約されているようなものです。


[ドラゴンヘッド]

宇宙事業……。FA技術を転用させることで

より高度なマニピュレーションが可能になった

と言う話は以前に聞いた記憶がある。


[イーカロス]

はい、各地で起こるFAを用いた大小の紛争は

世論や世間を疲弊させるのに十分すぎる働きをしました。


今後持続性があり、平和を連想させる

建設的な事業に着手する以外に両社が生き残ることは

困難だというのが共通の見通しです。


[アルベルト・アイブリンガー]

弊社も御社も、の方々は

武器商人から宇宙開発へ鞍替えしたいようです。


気の早い話かもしれませんが

競合他社が出揃う前に地盤を固めておきたい。

事業転換を行うその前に、ある程度の在庫整理もしておきたい。


と言うのが本音でしょうね。


[イーカロス]

ミスター・アイブリンガー、補足説明に感謝します。


具体的には、新造された全てのFAが

再起不能になるくらいの

全国各地でしていただきたいと言うことですね。


そうすることで新たな需要を創出しながら

多方面から経営を圧迫していたストックを換金し

様々なリソースを一気に新ビジネスへ集約するできる。


実に理想的な転換と言えます。


[ドラゴンヘッド]

理想的だと?


クソ企業二つが持ち直すために、そんなことのために、

仲間たちは死んだのか?祖国は火の海になったのか?


A.I. 答えろよ。


なあ、もっと本当は、ちゃんとした理由があるんだろう?

苦しみ、銃を取るに値した理由が、あったんだよな?


あったと言えよ!


[イーカロス]

それ以上の理由はありません。

説明は以上です。

ガイダンスモードを終了します。


……やっべ、怒ってます?ね、怒ってますよね?

すいません、全部説明すると言うことでその、

ドラゴンヘッド様のお気持ちを逆なでするような……


ああごめんなさい、悪意があるわけじゃなくて……


[アルベルト・アイブリンガー]

そろそろ本題を切り出して宜しいですかね。


プロフェッサー・ヤン、あなたにお伝えしておきたいことがあります。

もう二大企業の潰し合いは止められません。


お互いが疲弊し、在庫を使いきり、世論が傾ききるまで

自作自演の団体デル・ソルを間に置いて、いつまでも戦い続けるでしょう。


あなたは静かに並べられていたドミノを逆方向に倒してしまった。

悪意なく、屈託なく、子供がしでかした悪戯のように。


[プロフェッサー・ヤン]

ふむ。

それが何か問題かね?


[アルベルト・アイブリンガー]

いいえ。あなたにとっては、何も。


手前めも、ドラゴンヘッド様も、自分たちが

所属する会社をこれっぽっちも信じていません。


そして、自分たちがどれだけ動いたところで

これから起こるを止められないことも分かっています。


[プロフェッサー・ヤン]

ジェネラル・マネージャー、君にしては回りくどい物言いをするね。


私はさっきからバカの相手をして気が立っている。

結論を急いでくれ。最後通牒さいごつうちょうでは、ないようだが。


[アルベルト・アイブリンガー]

ただの懺悔ざんげですよ。

なるまで、手前めは自らの意思を後回しにしていた。


結果として、エルムドールを、彼を慕う若者を、

無関係な関係者たちを、数え切れないほど死なせた。


[ドラゴンヘッド]

マネージャー、お前……


[アルベルト・アイブリンガー]

ようやく決心がつきました。


は反逆します。

スターストレングス社の意思決定に。


たとえ、その意思に傷のひとつも

つけることができなくても手前め……

いいえ、は反逆します。


[ドラゴンヘッド]

はは……いいぜ、お前。

俺もその反逆に混ぜてくれよ。

傷ひとつなんて虚しい事言うな。


全部、気に食わねえからよ。

全部、ぶっ壊してやろうぜ。


[アルベルト・アイブリンガー]

ええ、ぜひとも。

そのためにあなたにお願いしたのです。


排水施設の細いルートを通過しながら、

FMマナ・フロアーを破壊し尽くせる火力を持つ、

の二つ名を与えられた、セントラルレッド社の尖兵たるあなたに。


[ドラゴンヘッド]

FMメテオリス、脚部固定。

プラットフォーム用穿孔せんこうを開始。

背部砲身展開。照準よし。穿孔深部20センチに到達。……マウントした。


いつでもいけるぜ。


[イーカロス]

ミスター・アイブリンガー、どうかおやめください。

あなたの行動は、意図が全く読めません。


今更ここを壊したところで、私のデータは

クラウドに残り現状は何ひとつ変わりません。


それどころか、この狭い空間で高火力の兵器を行使すれば

あなたたち自身を危険に晒すことになります。


どうかお考え直しください。


[アルベルト・アイブリンガー]

銃口を突きつけるような真似をしてすまない。


だが、覚えておいて欲しい。

人間は多分に矛盾を抱えた生き物だ。


そして時に、それを律することができなくなる。


[プロフェッサー・ヤン]

……興味深い。面白くなってきた。


そうだ、ジェネラル・マネージャー。君の言う通りだ。

人間は矛盾を抱え、重さに苦しみ、それでも飛ぼうとする。


さあ、どうするんだ、飛ぶのか?とどまるのか?

どちらにせよもう、転がった石は止まることはない。


[ドラゴンヘッド]

高みの見物決め込みやがって。


アルベルト・アイブリンガー、こいつがお前の反逆の狼煙のろしだ。


FAメテオリス、アトミックバズ、発射!


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