イーカロスの影絵

所用人数

男2 女2 不問3 計7


コード・ロメオ / 不問

FAアリーナのプレイヤーとして

頭角を表したFAパイロット。

ブラート社にスカウトされる。


バッファロー・レヴ / 男

FAアリーナCランク・チャンピオン。

軍事FA企業スターストレングス社に

所属していたがとある事件を切っ掛けに失踪する。


イリーナ・ゴルベフ / 女

FAコンサルティング会社ブラート社CEO。

操縦技量の高さと冷静さを評価し

コード・ロメオをスカウトする。


サイコビリー / 男

アルファライト社所属のFAパイロット。

地下排水処理施設作戦をもって同社との契約を解除。

後に、ブラート社所属となる。


ジェイ・カプレーティ / 女

アルファライト社所属のFAオペレーター。

地下排水処理施設作戦をもって同社との契約を解除。

後に、ブラート社所属となる。


アナウンサー (コイントスと二役)/ 不問

FAアリーナの名物アナウンサー。


コイントス(アナウンサーと二役) / 不問

サイコビリーと長年タッグを組むFAパイロット。

特に長距離からの狙撃を得意とする。


フールズウォール(マナ・フロアーと二役) / 不問

壁面型の大型FA=FM。

宗教団体デル・ソルの拠点を防衛する。


マナ・フロアー(フールズウォールと二役)/不問

二つの巨大軍事企業によって生み出された

床面型のプロトタイプFM。


このページは本作フォーミュラ・アーラのエピソードを

加筆編集し、声劇台本としての機能を高めたものです。

当台本は、性別変換、兼役、そして

音響担当者による積極的な介入を心より歓迎します。

ご自由にお使いください。



[ジェイ・カプレーティ]

こちらアルファライト社第三管理室。オペレーターのジェイです。

通信状況を確認します。サイコビリー、応答してください。


[サイコビリー]

こちらサイコビリー。通信成立を確認。どうぞ。


[ジェイ・カプレーティ]

通信状態良好。コイントス、応答してください。


[コイントス]

通信成立。問題ない。


[ジェイ・カプレーティ]

通信状態良好。


それでは、今回のオペレーションの要諦ようてい

再確認させていただきます。


あなた方に行っていただくのは

地下排水処理施設ちかはいすいしょりしせつの探索です。


不審物や不審者を発見しましたらすぐに報告をお願いします。


[サイコビリー]

表向きの依頼は、確かにそうだったな。

排水処理施設の探索にFAエフエーを二機も派遣する……


この意味がわからないパイロットなんていない。

今更降りるなどとは言わん。話せる範囲で教えてもらえないか。


[ジェイ・カプレーティ]

サイコビリー、質問の意図が不明です。

当方の任務は地下排水処理施設の探索です。


下水溝の深さは7メートルを超えます。

FAが転落した場合、回収は困難です。

両機とも沈没には十分注意してください。


[コイントス]

爆発的な勢いで各地に支局を作っている新興宗教デル・ソル。


その資金源と政治力の背景の一つに

弱小国家を凌ぐほどの兵力の存在が噂されている。


連中は巧妙にその所在を隠し

ときに直接交渉の切り札として

ときに資金調達の手段として

世間の目をかいくぐり、運用している。


考えられる秘匿ひとく場所の条件は、

人目に触れず、広域に通路が伸び、

ある程度大型の兵器でも搬入が可能な広大な場所。


つまり……ここのような場所だ。


[サイコビリー]

補足説明ありがとよ、コイントス。


ということだそうだ。

俺たちだって、何も知らないで

こんなクサい依頼を引き受けたわけじゃない。


[ジェイ・カプレーティ]

作戦通りに任務をこなすことが

生存率を高める第一の条件だと

新人講習の際に教わりませんでしたか?


あなたたちの任務はお伝えした通り排水処理施設の探索です。


[コイントス]

アルファライト社そちら隠匿いんとく体質には

散々痛い目を見せられている。


せめて、落とし所くらいは話してもらおうか。


[ジェイ・カプレーティ]

…ではあらかじめ約束してください。

単独行動は慎んでいただく、と。


[サイコビリー]

単独行動の禁止とは、ますます探索任務とは思えない条件だな。

まあいいさ、約束しよう。

それで、話の大筋はコイントスのはなした通りで間違いないんだな?


[ジェイ・カプレーティ]

作戦内容はブリーフィングの通りです。

地下排水施設全領域の探索。


その依頼背景には先ほどの

考えられる……かもしれませんね。


[コイントス]

相変わらず煮え切らんな。

敵襲に遭遇した場合、迎撃は可か。


[ジェイ・カプレーティ]

無論です。

ただし、積極的な交戦は控えてください。


行政にとっても企業にとっても

非常にセンシティヴで手が出しづらく

回り回って我々に下りてきた依頼です。


余計な戦闘は極力回避してください。


[サイコビリー]

下りてきた、ねぇ。

押し付けられたの間違いじゃねえか。


誰だって悪役ヒールはお断りだ。


相手は世界各地で順調に信者を増やしている宗教団体。

ことによっては厄介なことになる。


[コイントス]

レーダーに反応あり。

ターゲットポイントが妙に巨大だ。


なんだ、こいつは。


[ジェイ・カプレーティ]

FAサードアイにデュアルモニタリング接続開始。

全機でレーダー情報を共有します。


……確かにFAにしては大きすぎますね。

地下排水施設という立地と構造上

運用するならFAが最適解さいてきかいのはずですが。


[サイコビリー]

影絵遊びしている場合じゃねえぞ。


ブリーフィング通り任務を遂行する。

オートクルーズ解除、システム戦闘モードに移行。


コイントス、フォローしてくれ。


[コイントス]

了解。対岸に移動し、ターゲットを補足する。

オペレーター、サードアイ当機のモニタを注視しろ。


[ジェイ・カプレーティ]

了解しました。随時データを解析に回します。


[サイコビリー]

見えてきたぞ……。


なんだあれは、壁なのか?

いや、違うな……長方形の……FAか?

それにしてもなんていうデカさだ。


[コイントス]

オペレーター、解析を急げ。


[ジェイ・カプレーティ]

今やってますよ!


全高15メートル45センチ

全幅ぜんぷく34メートル78センチ

ほとんどこの施設の排水路規格と

変わらない大きさ、壁のような形状のFA……


いえ、規模からしてFMエフエムと判断されます。


足元にあるホイールのような装置を使い

溝に沿って移動が可能なようです。


……先方より入電あり。各機に通信繋ぎます。


[フールズウォール]

ようこそ、招かれざる客人たち。

貴殿らは何者で、何をしにここへやってきた。


[サイコビリー]

喋る壁だったか。


俺たちは地下排水処理施設の

探索任務に従事しているPMSCピーエムエスシーだ。


不審者および不審物の発見を目的としている。

そちらさんは何者だ。


[フールズウォール]

を切るのが上手くない。


貴殿たちもこれまでの連中同様

の奇跡を阻みにきたのだろう。


奥で長銃ちょうじゅうを構えているFA。

次は、貴殿に問う。何を為しにここへやってきた。



……沈黙か。

回答と受け取らせていただく。


[ジェイ・カプレーティ]

こちらPMSC アルファライト社

オペレーターのジェイ・カプレーティです。


当社は行政機関より委託を受け

2機のFAを派遣し当施設の探索および警備を行なっています。


そちらの所属と目的を開示してください。


[フールズウォール]

なるほど、今度は傭兵か。

火薬の匂いのするうるさいガチョウだ。


誰も彼も、神聖なこの地に

土足で上がり込み、一方的に権利を主張する。


地上で行われている無慈悲な奪い合いを

ここでも再現しようという腹づもりだろう。


人とは、つくづく業深いけだものだ。


[サイコビリー]

宗教かぶれってのはどうも説教臭くてかなわん……。


御託ごたくはいい、あんたはどこの誰で

なんでそんな不細工な壁に乗っかってここにいるのか。

話してもらおうか。


[フールズウォール]

私は愚者ぐしゃを阻む壁。


奇跡を信じず、恩恵にだけすがりつき

愚かにもその神性しんせいの根本を

根こそぎ奪い取ろうとする

愚者を阻む、断絶の壁。


[コイントス]

アーマースキャニング完了。

装甲に目立った脆弱性ぜいじゃくせいなし。


熱源を伴う武装は現状では確認できないが

何かの射出口と思しき小さいあな

表面に散在している。


何が出てくるかわからん、気を抜くな。


[サイコビリー]

ありがとよ、コイントス。


なあ、よく喋る壁さんよ、

回りくどいのはお前さんの話だけで十分だ。


単刀直入に答えろ。

ここにデルソルの兵器ブツが隠されている。

それで間違いないか。


[ジェイ・カプレーティ]

サイコビリー、勝手な質問控えてください。


フールズウォール、あなたの所属とここにいる目的は?


速やかに明確な回答をいただけない場合

当方は武力行使によってあなたを排除する可能性があります。


[フールズウォール]

我ら太陽の子にして、シスターの盾。

三千世界の亡者もうじゃと愚者を塔よりたぐり落とすがさだめ。


[コイントス]

射出口がわずかに閃光ひかった。


サイコビリー、光線兵器だ!後退しろ!


[サイコビリー]

なに?


うおッ、なんだァこりゃ……

もうアラートが鳴り出しやがった。


[ジェイ・カプレーティ]

FAガトリング・ボギー、胸部装甲、融解しています。

速やかに後退してください。


[サイコビリー]

おい、交戦許可は降りてるんだったな。


好き勝手に妄言もうげん垂れられて

愛機の装甲溶かされて「ハイそうですか」って

退くわけねえだろう。俺が、ボギーが!


ツインガトリング、掃射!


[ジェイ・カプレーティ]

無駄です。

あなたの装備では敵戦力に有効打を与えられません。


[コイントス]

詳しいなオペレーター。


まるで、あの壁の化け物のことを

最初から知っていたような口ぶりだ。


[ジェイ・カプレーティ]

あら、そうですか?


あなたこそ不必要に私に突っかかるように感じますが。


[サイコビリー]

はーッ……マジかよ。

岩石だって砕ける俺のガトリングで

穴一つ開かないとはな、ちょっとばかしショックだぜ。


ボギー、リロードだ!


[フールズウォール]

無駄だ。


シスターの奇跡を守り太陽の子らが

塔に登るを支えるが愚者の壁の使命。


あまね魑魅魍魎ちみもうりょうを焼き払い

有象無象うぞうむぞう銃火じゅうかを弾くもまた、我がさだめ。


燃え尽きよ。


[コイントス]

ふん……。

この会社にどんな算段があろうと

私たちの知ったことではないが……


ジェイ・カプレーティ。

お前がやっているのはチェスではない。

それだけは覚えておけ。


スナイピングターゲットサイト、熱線発射口に固定。

……発射。


[ジェイ・カプレーティ]

違う、私は……。


……ご忠告に感謝します。


フールズウォール、壁面の一部に損傷を確認。

発射口周辺は、装甲が薄いようです。


[フールズウォール]

長銃の射手しゃしゅよ、見事だ。


愚者の壁に審判の目あり。

目はお前たちの総てを見通す。


誤魔化された善悪も、偽られた本心も。


いくら黒鉄くろがねの鎧でよそおうとも

白日のもとに晒されるだろう。


照射。


[コイントス]

クッ……


ノン・チャージの光線兵器が

あの位置からこちらにまで届くというのか。


[ジェイ・カプレーティ]

サードアイ、頭部・右腕部融解。

装甲限界間近です。撤退してください。


[サイコビリー]

コイントス、助かった。後は任せておけ。


ダブルガトリング、フォーカスを一点に集中。

撃ち尽くす!


……よし、壁野郎め、かなり割れてきやがった。


[ジェイ・カプレーティ]

フールズウォールの装甲中破!


砕けた壁の向こうに……無数の射出口?

いけない、サイコビリー、回避を!


[サイコビリー]

ダメだ!このチャンスを逃せば次はない!

ありったけの弾丸タマをぶち込んで押し切る!


コイントス、俺に続け!


[コイントス]

了解。

FAサードアイ、スナイピングモード解除。

フォーカス固定、バースト射撃開始、撃ち尽くす。


[フールズウォール]

勇敢なるもの、その蛮勇ばんゆうにより

翼は太陽に焼かれ地に落ちる。


[ジェイ・カプレーティ]

FAガトリング・ボギー、装甲もう持ちません。

緊急脱出装置を強制作動させます!耐ショック態勢!早く!


[フールズウォール]

賢明なる者、その狡猾こうかつにより

翼は羽ばたくこと無く痩せ細る。


[コイントス]

チッ、弾切れか。


[ジェイ・カプレーティ]

……間一髪にも程があるわ。


フールズウォール、攻撃停止しました。


至急、増援部隊とFA回収班を派遣します。

二人とも、無事ですか?


[サイコビリー]

ついでに救護班と鎮痛剤と車椅子も頼む。

鎮痛剤がなければバーボンでいい。

手足が繋がってるのが不思議な気分だ。


[フールズウォール]

賢明なるものよ。

よくぞ愚者の壁を破った。


狡猾の中でその知恵の翼を

痩せ衰えさせることなかれ。


[ジェイ・カプレーティ]

フールズウォール、

まだ戦闘を続けるつもりですか。


じきに当勢力の増援が来ます。降伏を推奨します。


[フールズウォール]

貴殿は戦局をひらくための駒ではない。

目先の利得のために走らされるいぬではない。

使い捨てられ死んでいく無名のへいではない。


これよりは使命のもと、彼女と奇跡を守護すべし。


[ジェイ・カプレーティ]

コイントスを引き抜くつもり……?


[フールズウォール]

愚者を産み落とし続ける雌犬めすいぬに告ぐ。

なんじ、良心を欺くことなかれ。


掻き消せぬ記憶を黙殺したところで

罪の意識はついぞ消えず、

おのずから罰へと赴くことになる。


[ジェイ・カプレーティ]

何を言って……。


[コイントス]

いいだろう。

今から1枚コインを投げる。

表か、裏か。


もしお前の読みが当たれば

その使とやらを受け入れてやる。


[サイコビリー]

コイントス、正気か?


……まあお前らしいっちゃお前らしいがな。


[コイントス]

さあ、選べ。


表か、裏か。


[フールズウォール]

是非も無し。

真理の下に在る太陽の子に裏はなく

ゆえに読みも選択も無用。


表だ。


ようこそ、新たなる同胞よ。


太陽の子よ、シスターの盾よ。


彼女の奇跡と太陽の祝福があらんことを。


[コイントス]

……いいだろう。


ジェイ・カプレーティ、報告だ。


FAサードアイパイロット、コイントスは

現時刻をもって任務を放棄。


もうアルファライト社おまえらの世話になることもない。

登録を抹消しておけ。


[ジェイ・カプレーティ]

自分が何をしているかわかっているのですか。


あなたは今後、デルソルに引き抜かれた

危険分子として各地で手配されるのですよ。


[コイントス]

願ってもない。


お前らの天糸てぐすで踊らされるのには

飽き飽きしていたところだ。


[サイコビリー]

相変わらず変わってんなお前。


ありがとよ。

もう会うこともないだろうが、最後まで世話になった。


[コイントス]

こちらこそ最後まで迷惑をかけてすまない。


もし次に会うときに敵同士だとしても、その時は遠慮なく殺し合おう。


[サイコビリー]

お前が言うと冗談に聞こえないんだよ。


ああ、じゃあな。


[フールズウォール]

愚者の壁は超えられた。

賢明なるものよ、奥へ進め。


[コイントス]

FAサードアイ、オートクルーズ起動。


[ジェイ・カプレーティ]

フールズウォールが後退……

違う、壁面に収納されていく。


そうか……この兵器自体が

大きな隠し扉になっていたのね。


[サイコビリー]

デルソルが急激に力をつけている理由はわからなくもない。


非正規のFA乗りは手駒のように扱われる。

命がけで仕事をしても機体の維持費と修繕費で

手元には、ろくすっぽ金も残らない。


そんな連中の不満が爆発寸前なのは紛れもない事実だ。


政府に、企業に、雇用主に……

行き場のない怒りと不満をデルソルの信者どもは

巧みに掬い上げるんだろう。


ジェイといったな。

お前さん、本当のところ、どこまで知ってたんだ。

責めるつもりはないが、こりゃちょっとばかり根深い話だぜ。


[ジェイ・カプレーティ]

はい。わかります。

あなたたちは、絶対に駒なんかじゃありません。


でも、私は、あなたたちに死んでほしくなくて、だから……


[サイコビリー]

おい、泣くな。泣くなって。

俺が泣かせたみたいじゃないか。


俺たちはチェスの駒じゃない。

ジェイもプレイヤーなんかじゃない。


だが、チェスが始まった以上

次の手を考え続け、駒を動かさなければ

ならねえのもまた、事実だ。


[ジェイ・カプレーティ]

私は、もう、誰も……


[サイコビリー]

わかった。もう泣くなよ。

今度飲みに行こうぜ。俺のおごりだ。


://A Few Years Before,


[イリーナ・ゴルベフ]

陸戦りくせんを立体化させたと称される

機動兵器フォーミュラ・アーラ、通称FAエフエー


軍事と医療のすいを結集して生み出された最新兵器は

発明から十余年の時を経て、もはや民衆の娯楽の一部にまで浸透した。


[アナウンサー]

レディース・エン・ジェントルメン!

今宵もFAへようこそ!


将来有望な若手がを削る

Cシークラスの頂点を決める大勝負が始まります!


[イリーナ・ゴルベフ]

FA同士を戦わせ、誰が一番強いかを決める。

そんなごく単純な見世物を

あるものは酒の肴に、またあるものは賭けの対象にする。


[アナウンサー]

青コーナー、Cランク2位!

挑戦者の名前はコード・ロメオ!


FAを所有しないパイロットのために

アリーナが貸し出ししているクソみたいなポンコツ……

じゃなかった、えーレンタルFAでここまで勝ち上がってきたという

異色中の異色プレイヤーです!


豆鉄砲みたいなライフルとびの浮いたロッドで

果たしてチャンプを倒せるのか!


[イリーナ・ゴルベフ]

人々にとっては単なるガス抜きであっても、

FAに関連する軍需企業としては

絶好のビジネスチャンスになる。


色とりどりのスポンサーロゴに埋め尽くされた

巨大な電光掲示板のまばゆい光が

質の悪いミラーボールのようにアリーナを過剰に照らす。


軍需企業の強力なスポンサードにより

人々は冗談のような安い値段でビールを飲み、出来立てのホットドッグを食べ、

FA同士のぶつかり合いに熱中する。



[アナウンサー]

赤コーナー、Cランク1位

チャンプ・


左手にナックル、右手にパイルバンカー

背中には巨大ショットガンを担いだ

近接特化型重量きんせつとっかがたFA

相手が大破するまで殴るのをやめないッ!


[イリーナ・ゴルベフ]

2機のFAがアリーナのリングに射出された。

ブースターの排気で砂埃が舞い、巨大なモニターに霞がかかる。


[バッファロー・レヴ]

お前が噂のか。


よくそんなあばら屋みたいな機体で勝ち上がって来れたものだな。

よほど運がいいと見える。


[コード・ロメオ]

そうだな。運はいい方だと思うよ。

Cランクの最後の相手があなたみたいなデカブツで助かった。


[アナウンサー]

開戦のゴングが鳴る前に、マイクバトルが始まるッ!

ディスリスペクトの弾丸!


お二人とも、セーフティーはまだ外さないでくださいよ。


さあ皆様ご注目ッ!確定オッズの発表です!


赤コーナーチャンプ1.2に対して

青コーナーチャレンジャー 4.6!!


[バッファロー・レヴ]

雑兵ぞうひょうが虚勢を張るのは構わんが……

見ろ、このオッズが答えだ。


ここにいる観客はみんな、お前が負けると思ってる。


[コード・ロメオ]

なんだ、思ったより低い。

5は行くかと思ったんだが……が外れたな。


[イリーナ・ゴルベフ]

オッズはFAパイロットのこれまでの戦績と

それ以上に、FAの機体能力差を考慮して決定される。


必要最低限のクオリティで構築されている

レンタルFAは必然的にオッズが高くなる。


単純に言えば、チャンプの駆るFAウェルダンは

チャレンジャーに貸し出されたレンタル機の

倍以上の戦力ともくされたというわけだ。


[バッファロー・レヴ]

まさかお前自分に賭けてるのか?


もしそうなら直ぐに俺に賭け直しておけ。

配当は少ないがな。


[アナウンサー]

えー、チャンプの発言には誤解があるようです。


アリーナ参加者自身のベットはルールによって禁止されています。

八百長やおちょう試合の原因もとみたいなもんですからね。


はい!間も無く締め切りです、

皆様、お手元のパネルで掛け金を入力してください!


[イリーナ・ゴルベフ]

先ほどのチャレンジャーの呟きが耳に残った私は

戯れに、賭けてみることにした。


席に備え付けられたパネルに適当な数字を打ち込む。


エンターを押した刹那せつなに、

ベット終了を告げるベルが鳴った。


[アナウンサー]

大変お待たせしました!

それでは、Cクラス・ランクマッチ


チャンプ・バッファロー・レヴ

ライド オン FAウェルダン


ヴァーサス


チャレンジャー・コード・ロメオ

ライド オン レンタルFA


キックオフ!


[バッファロー・レヴ]

シリンダー充填開始。

サイトロック狭小、ターゲットを固定。


心配するな、恐怖を感じる暇もない。

ウェルダン、だ!



[アナウンサー]

先に仕掛けたのはチャンプ!

機体の重量を感じさせない加速で前に出ました。


すでにメインウェポンを起動してあります。

いつも通り、あっという間の決着か?


[コード・ロメオ]

スタビライザー停止。

オートバランサー限定解除。

フォーカスをマニュアルに変更。

スラスターリミッター、カット。


[イリーナ・ゴルベフ]

私はチャレンジャーの言語入力リンガルコマンドに自分の耳を疑った。


スタビライザーを止めバランサーに制限をかければ

機敏に動くどころかその場に静止することすら難しくなる。


そんな状態で重量機のフルパワーの攻撃を受ければ

チャレンジャーのFAは容赦無く吹き飛ばされ

大破どころか再起不能に陥るだろう。


[アナウンサー]

チャレンジャー、開始早々まさかの

コントロールサポートを一斉にオフ!


これは誤作動か?それとも戦略なのか?

頼りない棒立ちでチャンプの突撃を迎えます!


[バッファロー・レヴ]

どうした、けないのか?


……ふん、降参も命乞いも認めん。

そのまま砕け散れ。


[アナウンサー]

チャンプ、パイル射出!


が、チャレンジャーこれを回避!


なんという動きでしょう。

ムーンサルトとでも呼べばよいのでしょうか。


[バッファロー・レヴ]

ほう、とは軽業師かるわざしの如き真似をする。


だが次は外さん。


パイルバンカー、再充填開始。

まっしぐらに突っ込むのが俺のやり方だ!


[イリーナ・ゴルベフ]

否、違う。

あれはドリフティングではない。


スラスターの噴出方向を即座に切り替えることで

機体そのものを瞬時に回転させるテクニックとも確かに見て取れる。


しかし、チャレンジャーがしたことは

機体のふらつきを逆手に取ったスラスターの回転による回避……

あの動きはむしろ、に近い。


[コード・ロメオ]

Cクラスチャンプ、バッファロー・レヴ。


パイルバンカー、ナックル、大型ショットガンと

高火力の白兵戦はくへいせんにこだわった戦闘スタイルを貫く。

そのストイックな姿勢に熱狂的な信奉者も多い。


[バッファロー・レヴ]

……俺のファンか?

ならばサインの代わりに一発くれてやる。


[コード・ロメオ]

アリーナCクラスプレイヤーとしては極めて異例ながら

アメリカ系FA企業から

強力なスポンサードを受けている。


[アナウンサー]

あ〜パイル2発目も空振り!

一方、チャレンジャーのライフル弾は

チャンプの機体を何度もます。


[コード・ロメオ]

スターストレングス社は単なるいちパイロットへの

スポンサードの枠に収まらないほどの支援をしている。


外側こそ同社が販売している製品ではあるが

その中身はほとんど別物に近い特注品。


これが、規格外に分厚い装甲と

アンバランスな重量装備で構成されながらも

爆発的な加速力を発揮できる仕組みだ。


[バッファロー・レヴ]

いやに詳しいじゃないか。

企業について嗅ぎ回るお前はあたりの刺客か?


……だとしたらレンタルFAなどに乗る訳もないか。


そこまで知っているならわかるだろう。


お前の持つその脆弱なライフルでは

たとえ弾倉全ての弾丸を撃ち込んだところで

このFAウェルダンを削りきることはできん。


[コード・ロメオ]

Cクラスにそぐわない圧倒的な高性能機に乗りながら

いつまでもCクラスの天辺てっぺんで止まっている理由は

実に単純だ。


いくら機体に恵まれようと、Cクラスそこより上では通用しないからだ。


それにスポンサーとしても、装備の貧弱なCクラスのFAを

自社製品で一気呵成いっきかせいに叩き潰してくれた方が

企業イメージに最適だ。


本人は気持ちよく生温い勝利に浸ることができるし

企業は理想的なプロモーションができる。


[イリーナ・ゴルベフ]

……なかなかに上手い。


FAはパイロットの神経系をヘッドギアを介して

リンクさせることで、その円滑な動きを可能にしている。


集中力を失い、自律神経的な乱れが生まれれば

動作は粗雑になり、その攻撃は著しく精度を欠くだろう。


そして、図星をつかれたチャンプは…さらに攻めてくるだろう。


[バッファロー・レヴ]

背部ショットガン、バーストモードに移行。

お前は、蜂の巣だ。


[コード・ロメオ]

どうしたチャンプ、パイルバンガーでひと思いに砕くんじゃなかったか。


[アナウンサー]

背部ショットガンの連射で障壁は穴だらけです!

チャレンジャーは被弾したら無事では済まないでしょう。


[コード・ロメオ]

残弾ゼロ、ライフルをパージ。

ロッド-アーム間のジョイント固定。


行くぞ。


[アナウンサー]

チャレンジャー、前方に踏み込んで

ロッドを真横に振り払った!


チャンプの胴体に命中……FAウェルダン、装甲破損ッ!


[バッファロー・レヴ]

ありえん!あんな爪楊枝のようなロッドで

この機体に傷がつくはずがない!


[イリーナ・ゴルベフ]

チャレンジャーのライフルの弾はいたんじゃない。


ただ一点だけを、一方向から狙っていたのね。


[アナウンサー]

2発!

3発!

4発!

チャレンジャーのロッドがFAウェルダンの破損部分に

何度も!何度も!打ち当てられます!


が、しかし……チャレンジャーのロッドがここで折れたッ!


[バッファロー・レヴ]

運の尽きだな。

お前のロッドが当たるということは

この俺の右手も届くということだ。


砕けろッ!


[ロメオ]

スタビライザー起動。

バランサー、耐ショックモード。

ブースト全開。


[アナウンサー]

FAウェルダン伝家の宝刀パイルバンカー、ついに、ついに炸裂ッ!


ぶち抜いたのは……自分自身の装甲だ!


[バッファロー・レヴ]

ぐあッッッ!

この、ウェルダンが…砕ける……!


[イリーナ・ゴルベフ]

体当たりで、パイル本体ごとチャンプの腕部を反転させた……

なんなの、あのパイロット。


[アナウンサー]

ジャスト・ア・ジャイアント・キリング!

大番狂わせが起こりました!


不動のCクラスチャンプ、バッファロー・レヴの乗る

FAウェルダンを大破させたのは

無名のパイロットとレンタルFA!


この奇跡のような戦いを祝福して

大量の高額紙幣がアリーナ中にばらまかれています!


……といってもホログラムなんですけど、

まあそこは雰囲気ということで。


それでは皆様、今日誕生した

盛大なる拍手をお贈りください!


[イリーナ・ゴルベフ]

……もしもし。私よ。人事課につないで。

すぐにコンタクトして欲しい人材がいるの。

ええ、FA乗りよ。バードネームは……


://Contemporary,


[ジェイ・カプレーティ]

ご利用ありがとうございます。


私はオペレーターの

ジェイ・カプレーティです。


あなたが依頼人のご本人ですか?


[バッファロー・レヴ]

そうだ。


[ジェイ・カプレーティ]

かしこまりました。

依頼内容を再確認させていただきます。


弊社FAによる当該とうがい施設探索の補助

ならびに有事の際の護衛。

こちらでお間違いありませんね。


[バッファロー・レヴ]

ああ。


[ジェイ・カプレーティ]

それではご指名いただきました

FAパイロットと通信を接続します。


[コード・ロメオ]

こちらFA1エフエーワン

合流地点到着は予定時刻通りです。


……チャンプ、あなたの依頼だったのですね。


[バッファロー・レヴ]

正確にはチャンプだ。

お前に敗れて俺はアリーナを去った。


久しいな、チャレンジャー。

お前の力を貸してくれ。宜しく頼む。


[ジェイ・カプレーティ]

依頼人、あなたの意図はわかりかねますが

私はこの排水処理施設でのFAオペレーティングを

過去に担当したことがあります。


浄水じょうすいチェンバー区画への入り口には巨大な……


[バッファロー・レヴ]

フールズウォール。


巨大な壁面へきめん型FAだ。正確にはFMエフエムという規格になる。


[ジェイ・カプレーティ]

……ご存知だったのですね。

差し出がましく失礼しました。


[バッファロー・レヴ]

ついでに聞いてくれ。


俺はフールズウォールを撃破しそのままチェンバー区画へ侵入する。


依頼に際して詳細を伏せていたのは

盗聴や情報漏洩を避けるためだ。

騙すような真似をしてすまない。


この依頼を引き受けてくれたことを本当に感謝する。


過日、セントラルレッド社のNMC研究施設が

襲撃されたことは知っているか。


[コード・ロメオ]

ええ。

大量のFAと戦闘車両による大規模な破壊工作が行われた事件ですね。


[ジェイ・カプレーティ]

世論では、スターストレングス社によって仕掛けられた

企業間抗争であると言われていますね。

当然、同社は公式に否定していますが。



[バッファロー・レヴ]

大方、その認識で間違いない。


本当は、セントラルレッド社も秘密裏に協力する

最低ののはずだった。


事件の首謀者ともくされる

スターストレングス社の元技術顧問であり、俺の恩人でもある。

アリーナで敗れ、行き場を失った俺を拾い上げ、鍛え直し、蘇らせてくれた。


あの夜、現場で何が起きたのかまではわからないが

マッチポンプのシナリオが変わった瞬間に

スターストレングス社は、メズドラムを切り捨てた。


俺は彼に着せられた汚名をそそぎたい。


[ジェイ・カプレーティ]

なるほど。


私はかつて、宗教団体デル・ソルの

拠点を探すためにこの場所の探索任務に参加しました。


依頼人、デル・ソルについては?


[バッファロー・レヴ]

よく知っているさ。

活動資金の出所と技術提供元まで、な。


ポッとの宗教団体がなぜ

あれだけの兵器を有していたか。

どの国のどの企業にも足跡を残さずに。


つまり、だ。


[コード・ロメオ]

ここまでの説明に不明点はありません。

壁面型FMを撃破し内部に侵入したその後は?


[バッファロー・レヴ]

証拠だ。証拠がいる。


セントラルレッド、スターストレングス、そしてデル・ソル。

三つどもえの癒着を示す証拠が。


それを強奪し、脱出する。


[ジェイ・カプレーティ]

……ハードな任務になりそうですね。

依頼人、僚機を追加されてはいかがですか。

今ならばまだ追って合流できますよ。


相場以上の金額をいただいておりますので

追加料金はサーヴィスさせていただきますが。


[バッファロー・レヴ]

無用だ。

奇襲の実行部隊は少数に絞れと、彼からそう教わった。


報酬は約束通り、

俺がこれまでに稼いできた賞金の全て。


作戦の成否に関わらず口座ごと支払おう。


チャレンジャー、改めて聞く。

引き受けてくれるか。


[コード・ロメオ]

ええ。断る理由もありません。


[バッファロー・レヴ]

フッ、感謝する。


目標地点をそちらに転送しておいた。

フールズウォールはそこにいる。

一気に畳み掛けるぞ。


[ジェイ・カプレーティ]

ねえロメオ。

あなたってさ、結構薄情よね。


こう、なんかこう、もうちょっと

言いかたってものないの?


あなたたち一応は面識あるんでしょ?


依頼人、結構アツ〜い話をしてたと思うんだけど。


[コード・ロメオ]

さあ、どうかな。

ただ、情にあつすぎるのは時に残酷だと思う。


チャンプ……いやバッファロー・レヴ、応答を。


目標地点到着まで10秒を切りました。初動は?


[バッファロー・レヴ]

壁をぶち破るのにこれ以上のやり方はないだろう。

一発でこじ開ける。続け。


パイルバンガー、充填開始。


まっしぐらに突っ込むのが俺のやり方だ!


[フールズウォール]

ようこそ、招かれざる客人たち。

そんなにいてどこへ向かう。


死に急ぐならば、それも一興いっきょう


[ジェイ・カプレーティ]

フールズウォール、レーザー射出口開きます!


[コード・ロメオ]

FA1、強襲レイドシステムに移行。

エクストラブースター、全開。


FAウェルダンから注意を逸らします。

その隙に、打ち込んでください。


[フールズウォール]

死角から飛び出てきたのは金色こんじきのスカラベ。


虫が愚者の壁を飛び越えるつもりか。

笑止。燃え尽きるが良い。


[ジェイ・カプレーティ]

連続光線第一群、来ます!

正面十二時じゅうにじの方向からついで二時にじ十時じゅうじの順です!


[コード・ロメオ]

オートバランサー遮断。


まだだ、ギリギリまで引き付けろ……


全ブースト緊急停止、第1ブースターから第4ブースターまで1秒ピッチで再始動する。


[バッファロー・レヴ]

ほう、キリモミ回転とは。

相変わらず軽業師かるわざしのような真似をする。


見事だチャレンジャー。おかげで射程内に潜り込めた。


FAウェルダン、だッ!


[フールズウォール]

阻む壁に立ち向かう愚者よ、

壁に打ち付けたおのこぶしの痛みを知れ。


[ジェイ・カプレーティ]

パイルバンガー、フールズウォールに命中。

壁面装甲へきめんそうこうは健在のようです。


FAウェルダン被弾、装甲の一部が融解。


依頼人、これ以上、近距離にとどまるのは自殺行為です。

距離をとって立て直してください。


[バッファロー・レヴ]

オペレーター、何を言ってる。

俺は一発でこじ開けると言っただろう。


左腕さわんナックルアーム、高速振動開始。

粉々に砕けろッ!


[コード・ロメオ]

そうか、パイルバンガーによる打突だとつ

強烈な振動が加われば……。


[ジェイ・カプレーティ]

フールズウォール壁面に亀裂を確認!

すごい、蜘蛛の巣みたいにヒビが広がっていく……。


[フールズウォール]

そびえる壁を越えようとせず打ち砕こうとするその姿。

まさに愚者の壁と壁の愚者。


見事、見事なり。


愚者は無知の知により壁を砕き深淵しんえんへ進む。

我々は諸君らを歓迎しよう。


[ジェイ・カプレーティ]

たった数十秒で……


フールズウォール大破、完全に沈黙。


壁面装甲へきめんそうこうが崩れます。

巻き込まれないよう離れてください!


[バッファロー・レヴ]

一息ついている暇はない。

あのFMが再起不能になればすぐに緊急体制きんきゅうたいせいに移行する仕組みだ。


中心部まで突っ切るには今しかない。


チャレンジャー、このまま真っ直ぐに突き進め。

そこが旧浄水チェンバー区画だ。


俺もすぐに追いつく。


[コード・ロメオ]

了解。FA1、オートクルーズを最高速度に設定。

先行します。


[ジェイ・カプレーティ]

依頼人、この壁の奥には何があるのですか。


ご存知なんでしょう。

教えてください。


私の、私たちの大切なパイロットが危険を顧みずに先行するのです。

全てを話してください。


[バッファロー・レヴ]

旧浄水チェンバー区画跡には

一つの試作機、一つの空間がある。


スターストレングス社とセントラルレッド社が

共同開発をしたFAの原型のようなだ。


[ジェイ・カプレーティ]

空間?自立型はおろか、兵器ですらないと?


[バッファロー・レヴ]

そうだ。FAにおけるNMコネクション技術を

超大型兵器へ最大限に適応させるための実験場。


奴らはそれをマナ・フロアーと呼んでいた。


[コード・ロメオ]

こちらFA1、旧浄水チェンバー区画とおぼしき場所に到着しました。


巨大な部屋全体が、淡い緑色に発光しています。

メインモニタのデータをそちらに転送します。


[ジェイ・カプレーティ]

データ解析完了。


……壁一面、天井にまで

が接続されている。

まるで、FAのヘッドギアの中身のよう。


[マナ・フロアー]

ようこそ客人たち。

よくぞ愚者の壁を打ち砕いた。


[コード・ロメオ]

さっきと同じ声……?

お前はどこから見ている。


[マナ・フロアー]

いつわりなる愚者を阻む壁の役目は終わった。


ここはマナ・フロアー。


まことたる愚者は壁を砕き、深淵に続く底へとたどり着いた。


[バッファロー・レヴ]

FAウェルダン、目標地点に到着。

待たせたな。


この空間自体が証拠の塊のようなものだが、持ち出すにはデカすぎる。

悪いが解体バラさせてもらう。


[マナ・フロアー]

よくぞ来た、壁の愚者よ。

壁を力強くてば壁は砕けその腕を壊すだろう。


水面みなもを力強くてば水面は波打ちその像を壊すだろう。


[バッファロー・レヴ]

……バンガー射出ガスが充填されないだと?


どうなっている。


……なんだこの腕の痛みは。

オペレーター、状況を報告してくれ。


[マナ・フロアー]

水音みずおとと共に飛び散った飛沫しぶきが顔を濡らし

経験がひとつの知恵を授ける。


[ジェイ・カプレーティ]

バッファローレヴとFAウェルダン間のNMコネクションが、低下しています。


同FAオペレーションシステム、異常を感知。

右腕周辺にアラート……?


FAウェルダン、右腕装備が急激に発熱しています。

すぐに武装をパージしてください。


[マナ・フロアー]

水面に映る己をち据えればどうなるか。

己の像は刹那に飛び散る。


[バッファロー・レヴ]

バカな、パイルバンガーが爆発しただと!


では、この腕の痛みも……


[コード・ロメオ]

にわかには考えにくい話ですが

遠隔でNMコネクションに干渉され

機能をハッキングされている可能性が高い。

攻撃は控えるべきです。


[ジェイ・カプレーティ]

遠隔操作?それも認証を受けてない外部から?


そんなの聞いたことないわ。

もしそれが本当なら、とてつもないオーバーテクノロジーよ。


[マナ・フロアー]

貴殿らをこの場所に招き入れたのは他でもない。


この計画に参画さんかくするに相応しい素養があると

判断されたゆえのこと。


太陽の祝福とシスターの奇跡を

泥濘ぬかるんで腐敗したこの世界に

慈雨じうの如く降らせんため

その愚かさをにえと差し出されよ。


[バッファロー・レヴ]

では聞くが、泥濘んで腐敗させたのはどこの誰だ?

祝福だの奇跡だの……綺麗事はもういい。


俺は貴様らデル・ソルと二大企業の関わりを

世に晒し、ひとりの男の名誉を守る。


俺はそのためにここに立っている。


[マナ・フロアー]

誰かの名のために自らのじつを棄てるか。

愚かにして美しきものよ。


ならばその名を守るため、我らが同胞となれ。


[バッファロー・レヴ]

ほざけ。

貴様ら拝み屋と同じ土俵に上がるつもりはない。

欺瞞ぎまんと不安を固めた積み木でいつまでも遊んでいろ。


[コード・ロメオ]

FA1、NMコネクションに異常発生。

ジェイ、干渉ルートの確認を。


[ジェイ・カプレーティ]

了解。全パーツの通信データを確認。

脚部ユニットのニューロレセプターに

逆方向の信号入力あり。


床よ、床からハッキングされてる!


[マナ・フロアー]

金色こんじきのスカラベ、なんじもまた

長銃の射手と同じく賢明なるものか。


されど時遅し。

すでに深淵は愚者の中へと湧き出でた。


ああ、無情にも時間切れだ。

転換を告げる残骸の声が響く。


[コード・ロメオ]

バッファロー・レヴ、飛べ!飛ぶんだ、床から離れて!


[バッファロー・レヴ]

……クソ、ダメだ。動かん。FAも、俺の手足もだ。


[ジェイ・カプレーティ]

FA1、ブースターの残り稼働時間わずかです。


床への着地を回避するため外に退避してください。


[バッファロー・レヴ]

チャレンジャー、撤退しろ。このままでは二人ともやられる。


[ジェイ・カプレーティ]

FAウェルダン、異常発熱。

内部ユニットがショートしています。


バッファロー・レヴ、緊急脱出を。

こちらからは遠隔操作できません、早く!


[コード・ロメオ]

……何か、何か手があるはずだ。

考えろ、どうすれば……


[バッファロー・レヴ]

聞け、チャレンジャー!


依頼内容を変更する。


手段は問わない。


彼の、メズドラム・エルムドールの名誉を守ってくれ。

それが、俺の願いだ。


もう非常ボタンを叩くこともできん。


あとのことは、頼む。


[マナ・フロアー]

愚者はその愚直さにて壁を砕き

その頭の重さで足元の深淵に沈む。



彼女の奇跡と太陽の祝福を。


[ジェイ・カプレーティ]

FAウェルダン、発火。

通信断絶、パイロットのバイタルサイン確認できません。


FA1、至急撤退を。


[コード・ロメオ]

撤退はしない。


作戦は継続。


FA1、後退する。


[マナ・フロアー]

金色のスカラベ。賢明なるものよ。

我々はいつでもここで貴殿を待っている。


壁を破り、深淵に呑まれた愚者の魂と共に。


警鐘と共に解き放たれた貪欲なるものたちから

逃げ延びることを祈る。


[ジェイ・カプレーティ]

頭の痛くなるようなアラート音。

依頼人が言っていた緊急体制ね。


脱出ポイントまでレーダーで確認できるだけで15の機影。


ロメオ、いける?


[コード・ロメオ]

全武装、運用に問題なし。


繰り返す、作戦は継続。

当機は後退しながら、に突っ込む。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る