ベルゼブブの黄濁
所用人数
男3 女2 不1 計6
サイコビリー / 男
合衆国陸軍FA隊を除隊後、フリーのFAパイロットとして
各国の戦場を飛び回ったベテランパイロット。
ジェイ・カプレーティ / 女
民間軍事会社アルファライト社の元オペレーター。
一身上の理由で社を辞し
サイコビリーと共に独自に諜報活動を始める。
スピリットフィード / 男
卓越した操縦技術と見境のない凶暴性を有する
コステリ地区を根城とする広域指名手配テロリスト。
コード・ロメオ=ライネ・レードルンド/ 不問
作戦中の内規違反により解雇処分となった
アルファライト社の見習いパイロット。
代々傭兵稼業を生業とするレードルンド家の次男。
コード・ホテル(レイマ・レードルンドと二役) / 男
コステリ商業地区哨戒作戦で殉職した
アルファライト社の見習いパイロット。
レイマ・レードルンド(コード・ホテルと二役)/男
レードルンド家長男。成人を待たずして病没。
イリーナ・ゴルベフ / 女
FAコンサルティング企業ブラート社CEO。
同社のスタッフを自らリクルートする姿勢は
彼らとの強い信頼関係を築く。
このページは本作フォーミュラ・アーラのエピソードを
加筆編集し、声劇台本としての機能を高めたものです。
当台本は、性別変換、兼役、そして
音響担当者による積極的な介入を心より歓迎します。
ご自由にお使いください。
記
[ジェイ・カプレーティ]
こちら管理室……じゃなかった
えーと……掘削管理センターオペレーターのジェイです。
メインエレベーターは目標深度に到達。
下降を停止します。
アウロラ鉱山は閉鎖されて十年近く経過してるため
施設の老朽化が予想されます。
十分に注意して、行動してください。
[サイコビリー]
いい加減その喋り方辞めないか。
お互い、晴れて契約解除になったんだ。
もうお前はアルファライト社のオペじゃない。
俺たちは保証もサラリーもない自由気ままなフリーランスだ。
せめて気楽にやろうぜ。
[ジェイ・カプレーティ]
しょうがないじゃない。癖になってるの。
それにしてもまさか廃鉱山でエレベーターガールみたいな
真似をさせられるとは思わなかったわ。
[サイコビリー]
俺だって型遅れの採掘用
乗ることになるとは夢にも思わなかったさ。
まあいい、探索ついでに小遣い稼ぎだ。
[ジェイ・カプレーティ]
あなたまさか窃盗と不法侵入に飽き足らず
盗掘までするつもり?
[サイコビリー]
人聞きが悪いな。ちょっと借りてるだけじゃないか。
それと、不法侵入じゃなくて社会科見学だ。
ここは人類の欲望に食い尽くされた自然の墓標だ。
盗掘っていうのも訂正してくれ。これは……そうだな、フィールドワークだ。
[ジェイ・カプレーティ]
はあ……私を共犯にしないでよね。
それから、あなたが今乗ってる機体には
腕部マニピュレーターの他には
採掘用の錆びたドリルしかついてないの。
もし何かあれば、即座に撤退すると約束を。
[サイコビリー]
わかってるよ。
あくまで、
閉山から十年近く経っているのに
あらゆるインフラが未だに機能してるなんて
大当たりと証明しているようなもんだがね。
確証が得られたらすぐに引き上げる。
ちょっとばかりお土産をもらってな。
おっと……なんだ、この揺れは。
地震、いや、上からか?
[ジェイ・カプレーティ]
レーダーに強い反応。
すぐ上の階層よ、監視カメラを切り替えて
確認するわ……
FAのよう、だけど
カメラが白黒で彩度も低くてハッキリとはわからない。
ただ、イヤな予感がするわ。
[サイコビリー]
同意見だ。
そんでもって悪い知らせだ。
たった今、天井の一部が抜け落ちた。
でっけえネズミがおっこちてくるぞ。
一旦端に退避するが接触の恐れがある。
念のため脱出ルートの確認を頼む。
ほーら、きやがったぞ。
[スピリットフィード]
ハエが……ハエどもが……俺に、たかるな!
どこからともなく湧いてきやがって
この国を腐らせやがって!
そこか!ああああッ!どこだッ!
出てこい!姿を見せろッ!
[サイコビリー]
危ねえ。
なんだあのマッドな野郎は……
見境なしに実弾ぶっ放しやがって。崩壊させる気かよ。
ジェイ、あのイカれたFAの解析を頼む。
メインカメラの情報を転送する。
[ジェイ・カプレーティ]
……この赤いFAは、まさか。
ひどい悪夢を見てる気分だわ。
あのFAは、ファイアスターター。
パイロットはおそらく……スピリットフィード。
[サイコビリー]
スピリットフィード……。
聞いたことがあるな。
ああ、コステリのテロリストか。
ここ最近噂を聞かなかったが、生きてたのか。
Wow……
ジェイ、気分最悪のところ悪いが追加報告だ。
もう一機FAが降ってきやがった。
今度のはお高いシャンパンみたいな 派手な色してら、ハハッ。
[スプリットフィード]
この……感覚、も久しい。初めて、ハエを、
潰した、日を、思い、出す。そう、か。お前が、俺、を。
どう、して、俺た、ちが
……苦しまねばならない!
搾取されなければならない!
俺たちが血を流して、
お前らを肥え太らせなければならないッ!
生まれ育った地を奪わ、れ、な、ければ
なら、ない?
[ジェイ・カプレーティ]
滑舌の緩急をコントロールできない
……オーバーライドによる神経汚染ね。
ほとんど末期症状だわ。
それに、ひどく錯乱してる。
あの頃よりずっと進行してるみたい。
[サイコビリー]
なんだ、ヤツと面識があるのか?
FA乗りにとってオーバーライドシンドロームは
職業病みたいなもんだが
あれほど酷くなるのは、過密勤務の職業軍人くらいだ。
ひょっとすると、俺にとっても遠い知り合いかもな。
[ジェイ・カプレーティ]
かもしれないわね。
でも、だとしたらどうして職業軍人がテロリストなんかに。
[サイコビリー]
誰だって薄皮の上に役を演じてる。
奴がどうしてそうなったか。
或いは、そうなれなかったか。
所詮は、紙一重の差なんだよ。
……
[コード・ロメオ]
ずっとこの日を待っていた。
スピリットフィード、お前に全てを返しに来た。
戦え。全てを賭けて。
[サイコビリー]
はは、あいつら、おっ始めやがった。
今にも崩れそうなこんなボロ山でだ。
シャンパンの方もなかなかキレてる。
[ジェイ・カプレーティ]
今の声は……そんな、まさか。出来過ぎだわ。
[スピリットフィード]
あァ?お前はどこのハエだ?
ここのハエか?あそこのハエか?
潰し過ぎて思い出せんな!
これまでに潰して、きたハエが、頭の、頭に、頭の、
中にまで、頭の……
あああッ!燃えろ!
[サイコビリー]
あのバカ、この狭い穴ぐらで火炎放射器を使いやがった。
やむを得ん、一旦退避する。
オペレーションシステム、緊急モードに移行。
[コード・ロメオ]
キネティックセンサーに反応?
誰だ……あれは、採掘用FAか。
[スピリットフィード]
ハッ!そこにもハエがいたのか?
意地汚く群れやがって。
まとめて消し炭にしてやろう。
[ジェイ・カプレーティ]
まずい、気付かれたわ。
逃げるわよ。
このまま壁沿いに進めば抜けられるわ。
進行方向を反転してブースターを全開に!
[サイコビリー]
了解、アクセルの床が抜けるまで踏み込むぞ。
……っておい、動けよこのポンコツ!
シャレになってねえぞ!
システム切り替えに失敗してフリーズしやがった。
よりによって今かよ、冗談きついぜ。
[ジェイ・カプレーティ]
敵FA急接近。
ビリー、耐ショック姿勢をとって!
://A Few Years Before,
[ジェイ・カプレーティ]
こちら管理室です。
通信テストを行います。
[コード・ロメオ]
こちらFA1、通信に問題ありません。
[ジェイ・カプレーティ]
了解。
[コード・ホテル]
はいはい、バッチリですよ。よ〜く聞こえてます。
[ジェイ・カプレーティ]
作戦は事前ブリーフィングの通り
コステリ商業地区の
ヘッドアップディスプレイに表示される
ルートラインに沿って各々パトロールをお願いします。
この街はすでに無人となって久しいですが
テロリストが潜伏しているという情報もあります。
廃墟や瓦礫の死角には十分に注意してください。
[コード・ロメオ]
了解。FA1、オートクルーズ起動、哨戒を開始します。
[コード・ホテル]
了解。FA2、レーダーの有効範囲を拡大。
俺のルートラインは、ええっと、南だったよな。
……しかし、ひとっこひとりいない。
ゴーストタウンの哨戒ってのも退屈な任務だね。
あんたは……コード・ロメオ……だっけ?
あんただってそう思うだろ。
[コード・ロメオ]
いえ、別にどうも。
[コード・ホテル]
暫定政府の連中、引き継いだ財布がパンパンで
予算が有り余ってるって話よ。
だから、こんなつまんねぇ仕事もわざわざ外注かけてんだろうなァ。
いいもんだねえ、税収ってのは。
俺たち労働者には不労所得なんて縁がないからさ。
キャリア積んでさっさと独立して、FAで稼ぐっきゃないね。
[コード・ロメオ]
静かにしてください。任務中ですよ。
[コード・ホテル]
そうカタいこと言うなよ相棒。
こんなショボい依頼、どーせ会社にとったって小遣い稼ぎみたいなもんだろ。
それとも、俺たちのFA搭乗時間を稼ぐためか?
どのみち戦争稼業なんだから条約なんざ守る必要ねーのにな。
[ジェイ・カプレーティ]
こちら管理室。
コード・ホテル、これ以上私語を続ける場合は
職務放棄とみなし帰投させます。
[コード・ホテル]
チッ…盗み聞きとはいい趣味してるじゃねえか。
こんなつまんねえ仕事、こっちから降りたいくらいだ。
[ジェイ・カプレーティ]
ハァ?
これはこれは、まだバードコードすらないヒヨッコが
随分と威勢良く吠えてくれますね。
作戦通りに任務をこなすことが
生存率を高める第一の条件だと
新人教習で教わりませんでしたか?
実戦経験の乏しいルーキーにとっては
今回の哨戒任務は最適な内容です。
せいぜいフリーズを起こさないよう
しっかりとパトロールしてくださいね。
[コード・ホテル]
へいへい。
……本当に小うるせえ女だ。
[ジェイ・カプレーティ]
新兵さんっ、何か言いましたァ?
[コード・ホテル]
空耳じゃないッスかぁ?
[コード・ロメオ]
……こちらFA1
前方に車列を確認しました。
ガントラックです。視認できる限りで4台。
武装は…ロケットランチャーのようです。
[コード・ホテル]
おお!来た、来た来たァ〜!
こういうのを待ってたんだよ。
で、で、どうすんだ。交戦か?
俺も混ぜろよ!
[ジェイ・カプレーティ]
FA1は対象との距離を固定、
FA2はFA1と合流し
対象との距離が700メートルを切った時点で
威嚇射撃を行ってください。
[コード・ホテル]
おいおい、こちとらFAだぜ?
ガントラックどころか、戦車だろうが
どーってことねえよ。
戦術核でもミサイルでも持ってこいっての!
[スピリットフィード]
お前らのようなハエを潰すのにそんなもの要るか。
[コード・ロメオ]
……今の声は?
[ジェイ・カプレーティ]
FA2、状況を報告してください。
[コード・ホテル]
クソ!なんだこいつは!バカみたいに速ぇ!
こちらFA2、襲撃を受けた!早く、早く援軍を!
さっさと来てくれ!急げ!
[コード・ロメオ]
管理室、指示をください。
[ジェイ・カプレーティ]
こちら管理室。
たった今、中継ヘリが何者かに撃墜されました。
その影響で支援機能に制限が発生しています。
FA1、武装車両は捨て置き、すぐにFA2のルートラインを辿り援護に向かってください。
モニタリング機能が回復次第、追って指示を出します。
[コード・ロメオ]
了解。ただちにFA2の援護に向かいます。
[ジェイ・カプレーティ]
FA2、敵勢力は?被害状況を報告してください。
[コード・ホテル]
あ、赤いFAが1機!
機体の装甲はもうガタガタだ!
ああ、チクショウ!どうしてこっちの弾は当たらねえんだよ!
[ジェイ・カプレーティ]
赤いFA……まさか。
だとしたら、まずい。
FA1、援護急いでください。
[コード・ロメオ]
FA1、間も無く交戦領域に入ります。
[スピリットフィード]
来たか、ハエの片割れ。
2匹目が来るまでこいつを潰すのを待っていたんだ。
[コード・ロメオ]
FA2、応答せよ、FA2。
……お前は?
[スピリットフィード]
これから潰されるハエに名乗る必要はない。
[ジェイ・カプレーティ]
ハエですって?
[スピリットフィード]
そうだ。ハエだ。
わずかな利得のため、国と民の血肉を
そうして積み上げられた死骸にたかる企業。
その集金装置の周りをブンブン唸って
おこぼれ目当てにうろつくだけのハエどもだ。
[コード・ホテル]
ハエでもウジでも構わねえから、なんとかしてくれよ!
このままじゃ戦死しちまう!
[スピリットフィード]
戦死だと。笑わせる。
貴様らハエに名誉の戦死などふさわしくない。
害虫として、こともなく駆除されろ。
[ジェイ・カプレーティ]
FA1メインカメラからの転送データを確認。
敵機体の解析完了。
相手は、広域指名手配テロリスト
スピリットフィードで間違いありません。
作戦を放棄し、速やかに撤退してください。
[コード・ホテル]
撤退だと?
どういうことだ、答えろオペレーター!
援軍が来るんじゃねえのかよ!
[コード・ロメオ]
FA2はすでに脚部大破、戦闘不能どころか
自力での撤退は困難です。
当機が応戦して時間を稼ぎます。
すぐに増援部隊と
[ジェイ・カプレーティ]
FA1はスラスターを逆噴射し即座に敵機との距離を確保。
繰り返します。
速やかに撤退してください。これは命令です。
[スピリットフィード]
ハエの片割れ、聞こえるか。
こっちのハエの手足はもう鉄屑同然だが…
まだ、コックピットだけは残してある。
ただし、お前が退くようであれば
こいつのコックピットを、潰す。
[コード・ロメオ]
……
[ジェイ・カプレーティ]
被害を最小に食い止める必要があります。
速やかに撤退してください。これは命令です。
[コード・ロメオ]
彼を見捨てるということですか。
[ジェイ・カプレーティ]
ビルを踏み台に中空のヘリを叩き落とし
至近距離での砲撃を自在にかわして
戦車中隊を瞬く前に火の海に沈める。
そんな化け物じみたFAを相手に
一体あなたのような新兵が何をできるというのです。
全力で逃げて下さい。
FA2は……助けられません。
[コード・ロメオ]
確かに、当機だけでは無理かもしれません。
しかし援軍がくれば、彼を救出できるかもしれません。
せめて回収艇だけでも派遣してください。
[ジェイ・カプレーティ]
ふん……早いわね、こういう決断だけは。
増援は出せません。回収艇もです。
たった今、当社は任務を放棄し
契約者への違約金の支払いを決定したとの通達が来ました。
すでに本隊は作戦領域からの離脱を始めました。
FA1、これ以上の被害が出る前に速やかに撤退してください。
[コード・ロメオ]
本隊が離脱?どういうことですか。
[ジェイ・カプレーティ]
スピリットフィードとの交戦によって
予想される当社の総被害額が
契約破棄の違約金をはるかに上回ることが
予想された。
こんなところでしょうか。
[コード・ロメオ]
システムを戦闘モードに移行。
レーダー有効範囲を縮小。
メインアームセイフティ解除。
フォーカスをヴァーティカル・シングル・タイプに変更。
[ジェイ・カプレーティ]
FA1、何をしているの。
[スピリットフィード]
黙って聞いていれば、
ハエにしては気骨があるじゃないか。
戦争屋をやるには激情家すぎるがな。
ハエはハエらしく造作もなく潰されるべきだが……
お前は、しっかりと磨り潰してやろう。
[ジェイ・カプレーティ]
FA1、撤退しなさい。我々に勝機はありません。
[コード・ロメオ]
たとえ勝ち目がなくても、
僚機を見捨てて逃げることはしたくないんです。
…うッ!
[スピリットフィード]
まずは左腕だ。
そうか撃ち返してくるか、そうでなくてはな。
だが……狙いが甘い、その位置では当たらん。
お前らは動かないも同然の
そんな射撃では、蚊も墜とせん。
[コード・ロメオ]
FAが……飛んだ?
いや違う、ビルを蹴り上がったのか…。
[スピリットフィード]
いいや、飛んだのさ。
フォーミュラ・アーラには翼がある。
お前らのようなハエにはない、翼がな。
[ジェイ・カプレーティ]
スピリットフィードの駆るFAファイアスターターは
強襲をコンセプトとした
その積載量からして
近づきすぎず、回避を最優先に立ち回ってください。
[コード・ロメオ]
管理室?
[ジェイ・カプレーティ]
FA1オペレーションシステムに
コントロールモードで接続。
これ以降、デュアルモニタリングで指示を出します。
コード・ロメオ、あなたの違反行為に対する懲罰は免れません。
帰還した上で正式に処分を受けてください。
敵機、上です!
間に合わないわ!
[スピリットフィード]
この光は……信号弾か!
フォーカスを外れされた。
なるほど、相棒の方がよほど戦上手だな。
[ジェイ・カプレーティ]
今です!FA2の救出を行ってください。
最悪、コックピットだけでも回収を!
[コード・ロメオ]
了解。両腕の武装をパージ、
救出に向かいます。
[スピリットフィード]
……させるか、ハエどもが。
お前らはここで燃え尽きて死ね。
土の下で眠る連中への
[ジェイ・カプレーティ]
側方に巨大な熱源を確認。
いけない、FA1、
[スピリットフィード]
よく燃えるだろ。
民の血肉をすすり誰かの不幸で飯を食う
ハエどもを焼く地獄の
[コード・ロメオ]
FA2、コード・ホテル、応答せよ。
[ジェイ・カプレーティ]
FA2、再起不能。
コード・ホテルのバイタルサインが消失しました。
……FA1、撤退を。
[スピリットフィード]
はは。
お前がよけなければ、助かったかもしれないな。
[コード・ロメオ]
貴様!
[スピリットフィード]
さあ今度はお前の番だ、いくぞ。
右手……
右足……
最後に左足……
お前も、燃えカスになったあのハエと同じように
手足をもいでから潰してやる。
[ジェイ・カプレーティ]
FA1
これまでです。
[スピリットフィード]
あのハエの代わりに、コックピットごと潰れろ!
……くッ、こんな時に。
[コード・ロメオ]
動きが、止まった?
[スピリットフィード]
動け、う、ご、う……。
[ジェイ・カプレーティ]
まさか、神経障害?
とにかく今なら……FA1、撃って!
何でもいいから!腕がなくても、動けなくても、今なら当てられる!
[コード・ロメオ]
残された武装……落ち着け、標的は動けない。
オートフォーカスがなくても、いける!
[ジェイ・カプレーティ]
……当たった!直撃したッ!
[スピリットフィード]
ウ、ウ……ご……けェッ!
勘…違い…するなよ。
……お前が…当てたんじゃ…ない。
[ジェイ・カプレーティ]
スピリットフィード、あなたには
深刻な神経障害の症状が見られます。
至急、医療機関にて処置を受けることを推奨します。
[スピリットフィード]
ハエの……飼い主風情……が、抜かせ……。
お前らは……必ず…この手……て……で、潰す。
[コード・ロメオ]
……撃退したのか。
[ジェイ・カプレーティ]
ええ、勝ちました。
FA1大破、FA2再起不能、同パイロット1名死亡。
敵機は損傷軽微にて撤退。
実に、立派な戦果です。
[コード・ロメオ]
役に立てず申し訳ございません。
バックアップ、ありがとうございました。
[ジェイ・カプレーティ]
いえ、あの……すみません。
こちらも言い過ぎました。
間も無くそちらに機体回収のためのキャリアーが到着しますが
あなたは同乗できません。別路にて本部へと移送されます。
現地にて
[コード・ロメオ]
了解しました。
いかなる処分もお受けいたします。
あなたの助けがなければ
生き残ることはできませんでした。
改めて御礼申し上げます。
[ジェイ・カプレーティ]
お気遣いなく。
パイロットを生還させることが私の職務ですので。
一つだけ、聞かせてください。
どうして、あなたは命令に反しリスクを冒してまで
コード・ホテルを助けようとしたのです。
正規のバードコードを持たないルーキー同士です。
お互いに面識があったわけでもないでしょう。
[コード・ロメオ]
……ハエなんかじゃないんです。
[ジェイ]
え、今なんて?
[コード・ロメオ]
キャリアーが到着したようです。
コックピットロック解除、
通信を切らせていただきます。
どうも、ありがとうございました。
[ジェイ]
あ、ちょっとまだ話が……。
コード・ロメオか。
とんでもない問題児だったわ。
あーあ、私も面談か……。
違反
はー……再就職先探さなきゃ。
://Contemporary,
[コード・ロメオ]
システムを近接戦闘モードに限定。
レーダー有効範囲を縮小。
メインアームリミッター解除。
フォーカスをセミオートに変更。
[スピリットフィード]
この光は……信号弾か!
目くらましがわりに使うとは、ああ、おかげで思い、出した。
お前は、あの日、俺が、すり潰し、損なった
ハエの片割れ、か。
[ジェイ・カプレーティ]
間違いないわ。
コード・ロメオなのね。
通信を試みます。
……こちら管理室です。
コード・ロメオ、応答してください。
こちらは、ジェイ。
元・アルファライト社所属
オペレーターのジェイ・カプレーティです。
[コード・ロメオ]
アルファライト社のオペレーターだって?
まさか。
コード・ホテル、あなたがここに呼んだのか。
こちらFA1、通信に問題ありません。
[ジェイ・カプレーティ]
コード・ロメオ、お願いします。
戦闘に巻き込まれた民生FAを護衛した上で
敵FAファイアスターターを撃破してください。
[サイコビリー]
なんだ、ひょっとして昔の男か?
お前も案外
[ジェイ・カプレーティ]
ビリー、無事だったのね。
速やかにFAを乗り捨てて直ちに退避を。
[サイコビリー]
オイオイ、勝手なこと言うんじゃねえ。
お前あいつに頼んだんだろ。
FA乗りに依頼したんだろ。
だったら、最後まで預けるのが筋ってもんさ。
それに、こんな場所で出会ったのも何かの
俺は信じてみるぜ。あの金ピカを。
[スピリットフィード]
完全に、思い出した。
ハエよ、やはりお前は、
戦争屋、には、なれなかった、のだな。
あの時造作もなく、お前を潰さなくて……本当によかった。
今度こそ、お前をしっかりと、磨り潰して……うッ。
[コード・ロメオ]
遅い。
左手……
右手……
右足……
最後に左足……。
どうした。
[ジェイ・カプレーティ]
すごい……あの時とは、まるで真逆。
それに、神経汚染のせいで
今のスピリットフィードはもう
ろくに攻撃を当てられない。
FA1、このまま押し切って!
[コード・ロメオ]
胸部バルカン砲起動。
標的、敵機胴体部。
スピリットフィード、言い残すことはあるか。
[スピリットフィード]
そうか、お前が、俺の、ハエの王、なのか。
ならば、俺は、ここで、全てを、終わらせよう。
運動神経系、接続を解除。
[ジェイ・カプレーティ]
スピリットフィード、NMコネクションを解除。
敗北を認めた……?
いや、違う……
[スピリットフィード]
NMコネクション・リマッピング
運動神経系を再接続。
感覚神経系、自律神経系を複合接続。
……ホメオスターシスの成立を確認。
バランサー、スタビライザーを
サブジェネレーター起動。
逆算すると……もって5分というところか。
充分だ。
ハエよ、いやハエの王よ。
ここがお前と俺の墓場だ。行くぞ。
[ジェイ・カプレーティ]
神経汚染と言語障害が消失している。
それに、あれだけ破損しているのに
あらゆる挙動が加速している。
これは一体……。
[サイコビリー]
パイロットの全神経をFAに接続し固定する。
動きも、痛みも、鼓動さえも、人と機械が完全に
ゆえに文字通り、FAの手足が自分のそれとなり
操縦技術云々とは次元の違う
大破した脚部が脳に送り込む激痛に耐えながら
アイツは壁を蹴り上がりこの穴ぐらを飛び回ってる。
敵ながら大したもんだ。
……そして形勢は一気に逆転、シャンパンが完全に押さえ込まれた。
[コード・ロメオ]
フル・コネクティング……。
そうか。
それがお前の答えなのか、スピリットフィード。
ならば、応えよう。
汚染された神経が焼き切れて
お前の全てが燃え尽きるまで。
エクストラブースター作動。
[ジェイ・カプレーティ]
まずいわ、二機の動きが激しすぎて
このままじゃ鉱山の剛性がもたない。
崩壊する。
ビリー、FAを放棄して徒歩で脱出して!
[サイコビリー]
悪いが断る。
俺はこいつらの戦闘を最後まで見届けることにした。
おっと、お説教なら後にしてくれ。
生きて帰れたら今度は最後まで聞くからさ。
すまんな、ミュートする。
[ジェイ・カプレーティ]
ちょっと!ビリー応答して!
……どうしてよ。
どうしてみんなそんなに自分の命を軽く扱えるの。
[コード・ロメオ]
それは違う。誰の命も軽くなんかない。
大切なものを天秤にかけたとき
そこに釣り合うには反対側の受け皿に
同じだけの重さを載せなければいけない。
何かを得ようとするならば、
それ以上の重さを秤にかけなくてはいけない。
戦うもの達は、皆それを経験で理解している。
[ジェイ・カプレーティ]
……あなた達は勝手すぎるわ。
勝手に
何を言っても届かないのならばもう、好きにすればいい。
[スピリットフィード]
話をしている余裕があるのか?
俺を終わらせに来たのだろう。
終わらせに来てくれたのだろう?
ハエの王よ、バアル・ゼブブよ。
俺を失望させるな。俺を絶望させてくれ。
俺が戦い続けた意味を与えてくれ。
そして、奪ってくれ!
[コード・ロメオ]
くッ、流石に速いな。それに正確だ。
スピリットフィード、かつてお前は言った。
フォーミュラ・アーラには翼があると。
今日、その言葉の本当の意味が分かった気がする。
トニトルス、起動。
[スピリットフィード]
アルブ山脈の稲妻のように蒼く、美しい閃きだ。
もうじきに長かった悪い夢も終わるのだろう。
お前を燃やし尽くして俺もすぐ燃え果てよう。
ファイアスターター、機体放熱機能停止。
残弾一斉射出。
[コード・ロメオ]
トニトルス、
[サイコビリー]
かたや爆炎、かたや雷鳴か。
さて、どっちが勝つか。
負けんなよ。どっちも。
[スピリットフィード]
……俺は自分を正しいと思っていた。
故郷に、母国に、民族にたかるハエを
追い払い、人々を救うことを正義だと思っていた。
西のハエを潰して、東のハエを潰して
体制のハエを潰して、反体制のハエを潰して
世に人の在る限り、ハエは生まれ続けることに気づいた。
[コード・ロメオ]
それで。
[スピリットフィード]
それもまた人の
ハエから守ったチョウの
ハエが
ハエを潰し続けたその先に
立場や都合などでは変わらない
明確な答えがあると、期待した。
その期待を何度となく裏切られ続け
いつしか願うようになった。
潰し続けたハエたちの親玉が
復讐にやってきて、答えの無いこの日々を
全て奪うように、終わらせてくれることを。
[コード・ロメオ]
……それで。
[スピリットフィード]
ハエの王よ、聞かせてくれ。
お前は、
[コード・ロメオ]
……胸部バルカン砲起動。
敵機コックピットを捕捉。
[ジェイ・カプレーティ]
FA1、もう決着はついてます。
ファイアスターターは再起不能。
殺害する必要は……。
[サイコビリー]
止めるな。
フル・コネクティングは二度と解除出来ない。
あいつらが知らないわけがない。
終わらせてやるんだ。
[ロメオ]
お前はもうそれを知る必要はない。
眠れ、スピリットフィード。
[スピリットフィード]
ハハッ、やっぱりお前は、ハエの、王だった。
ありがとう。
[ジェイ・カプレーティ]
ファイアスターターのコックピット大破。
スピリットフィード、バイタルサイン消失。
コード・ロメオ、あなたの……勝利です。
://Last Night,
[ジェイ・カプレーティ]
……はい、わかりました。
では予定通り始めさせていただきます。
お気をつけてお越しください。失礼します。
イリーナさんからよ。
道が混んでて少し遅れるから先に始めてって。
[サイコビリー]
そうか、じゃあお言葉に甘えて
飲ませていただくとしよう。
しかし意外だね。社長がこんな店を選ぶとは。
壊れたジュークボックス。
くすんだレザーのソファ。
前世紀のロックバンドのポスター。
なかなかいい趣味だ。
ジェイ、オーダーをまとめてくれ。
俺はよく冷えたバドワイザーをワンパイントと
揚げたてのフレンチフライを。
ケチャップとマスタードはハインツで頼む。
[ジェイ・カプレーティ]
はいはい、相変わらず注文が多いこと。
私は、そうね……キールがいいかな。
食べ物はイリーナさんが来てからでいいわ。
ロメオ、あなたはどうするの?
[コード・ロメオ]
スモークドサーモンとアボカドのサラダ。
ジャーマンポテト。チリビーンズ。
アスパラガスとベーコンのソテー。
Tボーンステーキ16オンス、それから
ヴィシソワーズにチキンウイングと……
[サイコビリー]
待て、ちょっと待て。
ひょっとしてそれ全部一人で食うのか?
[コード・ロメオ]
そうですけど。
ひょっとして、サイコビリーさんも食べたいものがありましたか?
[サイコビリー]
いや、そういうわけじゃないんだが……。
なにせ、ダイナー・フードってのは
みんなでシェアするもんだと教わってきたんでな。
軽いカルチャーショックを受けているところだ。
[ジェイ・カプレーティ]
いっぺんに頼んだら料理が冷めちゃうし
少しずつ追加したらいいんじゃない。
ドリンクは?
[コード・ロメオ]
アイスミルクをお願いします。
[サイコビリー]
なんだか聞いてるだけで
腹が膨らんできた気がするぜ。
ウェイター、そうそう、このテーブルだ。
オーダーを頼めるか。
[イリーナ・ゴルベフ]
私にはギムレットを、ボンベイサファイアで。
[ジェイ・カプレーティ]
ご到着されたのですね。お待ちしてました。
ウェイター、受注の準備は宜しいですか。
ではオーダーを伝達します。
ドリンクは4点。
一つ、バドワイザー・ワンパイント。
よく冷えたグラスでサーヴしてください。
二つ、キール。ワインの良し悪しはよくわかりません。
ハウスワインで結構です。薄めにお願いします。
三つ、アイスミルク。氷を入れすぎると
お腹が痛くなるのでほどほどの量で。
四つ、ギムレットをボンベイサファイアで。
オーダーは以上です。迅速なサーヴを期待します。
[サイコビリー]
酒の注文出すときにさえこういう口調になっちまうのは
オペレーターの職業病なのかねェ。
[コード・ロメオ]
イリーナさん、お疲れ様です。
今日は、ディナーにご招待いただけて
とても嬉しいです。
[イリーナ・ゴルベフ]
こんばんはロメオ。
今日は来てくれてありがとう。
ここは私の知り合いの店なの。
高級レストランではないけど味の方は確かだから安心して。
[ジェイ・カプレーティ]
ちょっとビリーったら隣でタバコ吸わないでよ。
髪と服に匂いがつくじゃない。
[イリーナ・ゴルベフ]
シガレットなんて懐かしいわね。
私にも頂けないかしら。
[ジェイ・カプレーティ]
えっ、社長喫煙されるんですか?
なんだか、予想外です……
[イリーナ・ゴルベフ]
フフ、ごめんなさいね、ジェイ。
一本だけ失礼するわ。
もうずっと、昔の話。
[サイコビリー]
一本と言わず好きなだけ吸ってくれ。
話すことがあるなら朝まで付き合うしな。
[ジェイ・カプレーティ]
全員飲み物は揃いました?
それじゃイリーナさん、お願いします。
[イリーナ・ゴルベフ]
今日は忙しいところ無理を言ってごめんなさい。
来てくれたことに感謝します。
まずは喉の渇きを潤して。乾杯。
[サイコビリー]
ッはー、やっぱりビールはこいつに限る。
それで今日の議題はなんだ。
わざわざ
何か事情があるんだろう。
俺たちのサプライズなフェルウェル・パーティーじゃなければいいんだが。
[イリーナ・ゴルベフ]
あなたたちに謝らなくてはならないことがあるの。
私はきっとこれから会社を、ブラート社を私の個人的な戦いに巻き込むことになる。
そして、あなたたちは
その最前線で戦うことになるかもしれない。
[ジェイ・カプレーティ]
それって、ひょっとして、先日の
排水処理施設の依頼に関することですか?
[サイコビリー]
なあ社長。
あんたがセントラルレッドの関係者
だったことは知っている。
そして、セントラルレッド社と宗教団体デル・ソルとの
関係を必死に追っていることもだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
そうね。
余計な前置きは終わりにしましょう。
ジェイ、すまないけど
同じものをもう一杯頼んでもらえるかしら。
祖国の大学院を出た私は専攻していたFA工学の分野へと進んだ。
セントラルレッド社の
NMコネクション研究所に就職したの。
そして、プロフェッサー・ヤンの
直属の部下として様々な研究に従事したわ。
[ジェイ・カプレーティ]
プロフェッサー・ヤンって、
聞いたことあります。
FAの世界ではすごく有名な……
[コード・ロメオ]
プロフェッサー・ヤンは
FAにおける世界的権威です。
その研究成果により、FAの機動性と操作性は
開発当初と比べて劇的な進化を遂げました。
特にNMコネクションを明確に体系化し
コントロールに適応させることで
多くの機動兵器の難点であった
不安定な状態からの重心回復システムは
二足歩行式機動兵器をフィクションの世界から
現実のものへ昇華させた一つのパラダイムシフト
と言われてます。
その一方で、新技術研究のために
非人道的な実験を再三にわたり
繰り返していてアカデミックな世界からは
非常に不興を買っている人物でもあります。
[サイコビリー]
お前、FAのこととなると結構喋るのな……。
[イリーナ・ゴルベフ]
ロメオが話してくれた通り、
プロフェッサー・ヤンはNMコネクションを
より高次元なものにするために
非道な実験を繰り返したわ。
その中のいくつかには、私も加担した。
ウェイターさん、もう一杯、同じものを。
ジンをもっと強くして。
結局、ある実験が引き金で私は研究所を離れることになったわ。
[コード・ロメオ]
どんな実験だったのですか。
[イリーナ・ゴルベフ]
極限の精神的ストレスがNMコネクションにどのような影響を及ぼすか。
今にして思えばそれは実験というよりも、確認作業だった。
ヤンは最初から予想していたのよ。
どんな感情がNMコネクションに強く干渉するか。
その確認をするためにヤンと私は
ひとりの命とひとつの心を殺した。
紛争に巻き込まれたった二人だけ残された
兄弟の繋がりを、この手で引き裂いたの。
[コード・ロメオ]
イリーナさん、教えてください。
NMコネクションに最も影響を及ぼす感情とは、何だったんですか。
[サイコビリー]
なあ、ロメオ。
お前さん全く飲めない訳じゃないんだろう。
ちょっと付き合えよ。
シラフじゃない方がいいことだってあるんだ。
いいバーボンってのはこういう夜のための酒さ。
ウェイター、ワイルドターキーをボトルで持ってきてくれ。
[ジェイ・カプレーティ]
そんな経緯があったのですね……。
セントラルレッド社を退社した後は、この会社をすぐ起業されたのですか?
[イリーナ・ゴルベフ]
研究所を去って、
昔の人脈を頼って、企業や自治体の
FA運用アドヴァイザーのような真似をして
そして段々と、こう考えるようになった。
FAは所詮戦争の道具でしかないのか?と。
そんな中、型落ちになってお払い箱となった
旧型FAをどうにか有効活用できないかという相談を受けたわ。
なんてことない案件だけど、とても嬉しかった。
私は新しい可能性を見出すためにすぐに小さな会社を起こした。
それがブラート社の始まり。
私にもショットグラスを。
[コード・ロメオ]
ありがとうございます。それじゃ、いただきます。
……なんだか焦げ臭い味がしますね。
オーバーヒートしたときみたいだ。
[ジェイ・カプレーティ]
それで、今の話が社長の個人的な闘争とどう繋がるのですか?
[イリーナ・ゴルベフ]
私が研究所を退所して程なく
プロフェッサー・ヤンも同研究所を去り、同時にセントラルレッド社を退職。
数々の名誉職も全て辞し、ヤンは事実上表舞台から姿を消した。
そして今、奴は宗教団体デル・ソルの中心部にいる。
彼らが取り組んでいる大きなプロジェクトの中心として。
FAの平和的活用の普及を最終目的とし
極力、防衛手段として
FAを行使することを
どんな状況かであれ、あらゆる側面において中立であるべきだわ。
でも私は、ヤンを止めることに執心してしまっている。
そして、会社組織を企業利益と社会貢献のためではなく
私の個人的目的のために、既に動かし始めている。
[サイコビリー]
なるほど。
社長と、そのヤンという奴の間に
浅からぬ因縁があることはわかった。
でも、別にいいんじゃねえか。
会社は会社、社長は社長だ。
[コード・ロメオ]
イリーナさん。
一つだけ聞かせてほしいことがあります。
イリーナさんはヤンを止めたいんですか。
それとも、自分の後悔を埋め合わせたいんですか。
自分の本当の気持ちを仕事や会社のせいにして
[ジェイ・カプレーティ]
ねえロメオ!
前も言ったけどあなたはいつもそうやって薄情で、
他人の気持ちってものを考えたことがないの?
大体ね……ってちょっとビリーなにするのよ。
[サイコビリー]
静かにしてろ。
[イリーナ・ゴルベフ]
……私は、後悔を終わらせたい。
彼を、いいえ彼らを
見殺しにしてしまったことをずっと後悔している。
その後悔は、消すことが出来ないものだから。
きっと、消してはいけないものだから。
だから私は、苦しかった。
ヤンの野望を阻止したところで
彼らは二度と帰ってこない。
それも分かっている。
でも私が、自分の後悔に
もう一度だけ触れることができるのは
今しかないのだと思う。
たとえそれが、間接的で、自己満足で
宛のない
私は、そうしたい。
[コード・ロメオ]
じゃあ、終わらせようとすればいいと思います。
消えない後悔に苦しみながら
何もかも分かった上で
向き合って、触ればいいと思います。
宛がなくても、償えばいいと思います。
二度と帰らない人の名誉のため
散っていった彼のように。
[イリーナ・ゴルベフ]
……フフ。
アリーナであなたを見つけた日を思い出すわ。
あなたは何も滲ませずになんでもないような声で
チャンプを叩き伏せた。
独創的な操縦技術よりもずっとその声が記憶に残っている。
本当に真っ直ぐな声だった。
私、勝手に背負い込んで重い重いと泣いてるだけかしら。
バーボン、もう一杯もらうわね。
[サイコビリー]
お二人さん、盛り上がってるところ悪いが
俺たちにも少し話させてくれよな。
なあジェイ、お前さんはどうして
オペレーターになったんだ?
[ジェイ・カプレーティ]
へっ、私?何よ藪から棒に。
[サイコビリー]
社長が腹を割って話してくれたんだ。
俺たちだって、シャツのボタンの
一つ二つは開けないとフェアじゃないだろ。
[ジェイ・カプレーティ]
ああ、うん……それもそうね。
……私はね、単純に仕事がなかったの。
なんか薄っぺらくて恥ずかしいんだけど。
本当は、キャビン・アテンダントになりたかった。
昔、家族でいった海外旅行でね、
すごい素敵な
それからずっと、彼女みたくなりたかった。
もう民間の飛行機、全然飛べなくなっちゃったし
そもそもキャビン・アテンダントになるには
高いヒール履いても規程身長ギリギリなんだけどさ。
正直、あの紛争さえなければ……って思わなかったことはないよ。
別に今がイヤなわけじゃない。
尊敬できる上司、憎めない同僚に恵まれてる。
そして何より、オペレーターって
パイロットを助ける誇り高い仕事だって思う。
でもね、たまに思い出すの。
あの飛行機の中で忙しく働いて
そして、笑っていた彼女の姿をね。
さあビリー、次はあなたの番よ。
[サイコビリー]
確かに背はちょっと足りないかもしれないが
似合うんじゃねえかな、制服。
もし着たら見せてくれ。
さて、俺か……。
俺は十代の終わりからずっと合衆国の陸軍に居た。
世界各国、号令一つで戦場を行ったり来たりだ。
昇進して、いよいよ現場を離れるかっていうところで、除隊した。
理由?なァに簡単な話だ。
昔っから、カードゲームもボードゲームも好きじゃなかったからさ。
それからはずっとこんな有様だ。
俺はさ、社長が何とどんな理由で戦おうが正直どうでもいいんだ。
その迷いを話してくれただけで俺は社長を信頼できる。
それじゃメインディッシュに行こうか。
顔合わせて酒飲んだ時くらい自分のことを話せよなぁ、ロメオ!
[ジェイ・カプレーティ]
ロメオ?ねえ、ロメオ?
……あんたさ、フツー寝る!?
このタイミングでよ?マジでありえないわコイツ……
[イリーナ・ゴルベフ]
ビリー、ジェイ、それにロメオ。
今日はありがとう。
お陰でつまらない言い訳を飲み干すことができたわ。
私は、私の後悔を終わらせる。
付き合っていただけるかしら。
[サイコビリー]
[ジェイ・カプレーティ]
乾杯。
[イリーナ・ゴルベフ]
さあ、朝まで飲むわよ。
[ジェイ・カプレーティ]
社長、それ何杯目ですか……。
://Dreams After Night,
[レイマ・レードルンド]
おい、起きろ。起きろ、ライネ。
いつまで伸びてるんだ。
立ち上がってさっさと剣を取れ。
[ライネ・レードルンド]
う、ううん……
ねえレイマ、もう休もうよ。
あちこち
[レイマ・レードルンド]
……お前な、この前も父さんに言われたばかりだろ。
『レードルンドの名を継ぐものは、たとえ手足が千切れても、獅子の如く戦え』って。
まだほんの五十も
こんなんじゃ立派な戦士になれないぜ?
[ライネ・レードルンド]
そうだけど……。でも、何回やってもレイマには勝てないよ。
身長も、体重も、運動だって、勉強だって、やっぱりレイマには勝てないよ。
[レイマ・レードルンド]
なぁ、ライネ。
負けるとわかってて勝負するやつがいるか?
んー……まぁいるかもしれない。よし仮に、いたとしよう。
でもさ、そんな奴を父さんが認めると思うか?
[コード・ホテル]
そりゃあ俺だって死にたくなかったぜ、相棒。
もし俺がロボットアニメのヒーローみたいに
理不尽なくらいに強かったなら
あのテロリストを蜂の巣にして
初陣で鬼の首取って高らかに凱旋さ。
でも俺は黒焦げになった。
手も足も出なかったよ。俺が弱かったからか?
教えてくれよ、相棒。
やっぱり、弱いことは悪いことだよな?
[ライネ・レードルンド]
弱いことは、別に悪いことじゃないよ。
でも強くないと、出来ないことがあるって父さんは言っていた。
[コード・ホテル]
そうだよなァ、生き延びるってことは
強くないとできないことなんだよな。
お前の親父が言うには、な。
[ライネ・レードルンド]
うん。
それから、負けるとわかって勝負するやつがいたとしても
父さんはきっと認めないと思う。
[レイマ・レードルンド]
お前何ブツブツ言ってるんだ?
とにかく、続けるぞ。
レードルンドの名を継ぐものは……
ええと、そう、手足が千切れても戦うんだ。
[スピリットフィード]
弱いものは割りを食う。非もなく全てを奪われる。
ただ、弱いというだけで、なにもかも奪われる。
故郷を、家族を、親を、子を、男を、女を、自由を、尊厳を。
俺は弱い奴らを守ることが強くあることの意味だと思っていた。
[ライネ・レードルンド]
誰かのために戦うってことは、とても素晴らしいと思う。
どこかで救われる人がいれば、武器を取るに足る理由になると思うよ。
[レイマ・レードルンド]
ライネ!いい加減に独り言はやめろ。
さあ、早く剣を取れ!もう十本だ。行くぞ。
[ライネ・レードルンド]
レイマ、もうやめようよ。痛いんだ。
手足が動かないんだ。目がよく見えないんだ。
[コード・ホテル]
痛い?手足が動かない?目がよく見えない?
へぇ、イイよなぁお前はさ。
もう俺は痛みなんか分かんねえし、手足どころか目玉だってないぜ。
ぜーんぶ、燃え落ちちまったよ。
なぁ、助けてくれよ。まだ熱いんだよ俺の体が。
とっくに消し炭になったはずの体が熱いんだよ。
もう無いはずの体が。
開かねえんだよ、コックピットが。
なぁ、助けてくれよ相棒。同期のよしみでさァ!
俺はまだ生きたいんだ。死にたくなかったんだよ。
[スピリットフィード]
そうだ、誰だって死にたくない、誰だって死なせたくない。
そうなれば選択肢はもう一つだけだ。
戦い続けろ、負けてはならない。それが誰であってもだ。
それ故に傲慢だ。俺も、お前も。
その傲慢さを貫き通すために
お前はこれまでに、何を賭けたのだ?
[ライネ・レードルンド]
レイマみたいに、強くなれないよ。
痛みが怖いんだ。もし、相手に治らない怪我を負わせてしまったら、
どうやって
[スピリットフィード]
償うだの、贖うだの。
全く、気が早いものだ。
お前のその余裕は一体どこから来る?
心の底から、相手のことを考えずに
ただ一つの椅子を取り合ったことはあるのか?
当たり前のように、相手に打ち勝ったその後のことまで考える。
見習いたいものだよ、その余裕を。
だが覚えておけ。
時としてその配慮が、相手の全てを傷つけることになる。
[コード・ホテル]
こぼれ出たミルクは二度と瓶には戻らない。
相棒、お前は取り返しがつかないことを取り返そうとしてる。
それはルール違反だろう?
それをしたら、浮かばれねえだろう。
それだけは、
諦めろよ。
責任は生き残った奴が負うんだ。
いつか、そいつが、死ぬまでな。
[レイマ・レードルンド]
「レードルンド家は代々傭兵を
その髪が伸びきる頃には、当然のこととしてお前たちはどこかの戦場に行く。」
親父の口癖だった。
見送って欲しかったよ。
[ライネ・レードルンド]
父さん、父さん……いかないで。
まだ無理だよ、父さんがいなきゃダメなんだよ。
一人じゃ……何もできないよ。
[レイマ・レードルンド]
なあライネ。
もっと強くならないといつかお前本当に死んじゃうぞ?
あんまりメソメソするなよ。
そんなんじゃ親父が安心して逝けないだろ。
強くなって、沢山戦果を挙げて、またここに戻ってこようぜ。
大丈夫だよ。親父は、天国からお前を見ていてくれるさ。
[スピリットフィード]
弱いものは強いものの重荷になる。
強いものはこともなく、抱え、担ぎ、歩いていく。
弱いものは重荷になる事で自分を正しめようとする。
意味と価値を無理矢理に生み出そうとする。
赤子が泣くのと同じことだ。
[ライネ・レードルンド]
レイマ。久しぶりだね。調子はどう?
いい知らせがあるよ。新しい薬が認可されたって。
それを使えば、きっと良くなるよ。
さあレイマ、起きて。ご覧よ、窓の外はもう夏だ。
[レイマ・レードルンド]
すまないが肩を貸してくれ。
情けない話だがもう自力で起き上がれないんだ。
ふう。
ここ数日ずっと昔のことを考えていた。
お前、いや俺たちがまだ泣き虫で
どうしょうもないガキだった頃のことだ。
覚えているか、親父の葬式の日のことを。
よく乾いた、とても暑い日だった。
[ライネ・レードルンド]
覚えてるよ。うだるように暑いのにみんな黒い服を着て。
普段有り付けないようなご馳走とお酒を机一杯に並べて。
みんな、困ったような怒ったような顔をしていた。
[レイマ・レードルンド]
はは、悲しんでたじゃないのか?そこは。
なんか、お前らしい言い草だな。
叔母さんから聞いたよ。
仕事決まったんだってな。大手民間軍事会社。
親父、めちゃくちゃ喜んでると思う。
これがレードルンドの血だ!……なんつってさ。
お前がそうなって、俺がこんなで。
分かんないもんだよな、人生って。
[コード・ホテル]
「でもやっぱりレイマには……」
なんて言ってみろ?それこそ本当に最悪だぜ。
相手が望む言葉をかけられないなら
余計なこと言わないで黙ってるってのが
エチケットってもんじゃないんですか。
[ライネ・レードルンド]
……そうだね。
[スピリットフィード]
お前が現れた時、俺の心は踊った。
火を近づければ燃え上がるような純度の高い武力が
混ざって濁ってしまった俺を、終わらせに来てくれたと。
そうだ、それでいい、それでよかった。
どこにも混ざらない。なにも交わさない。
それでよかったんだ。
[レイマ・レードルンド]
ベッドの横の引き出しを開けてくれ。
柄じゃないが、お前にお祝いだ。
[ライネ・レードルンド]
ありがとう。
包みを解いても?
[レイマ・レードルンド]
もちろん。
[ライネ・レードルンド]
懐中時計……綺麗だ。
[レイマ・レードルンド]
このご時世にアナログな時計っていうのも悪くないだろ。
うちの家紋も入っている。
[ライネ・レードルンド]
レイマ、この時計はもしかして……。
[レイマ・レードルンド]
そうだ。
だが、俺にはもう必要のないものだ。
いや、俺にはもう受け取れないものだ。
お前が引き継げ。
[コード・ホテル]
チック・タック・チック・タック。
なあ、お前はこの時、嬉しかったんだよな?
身震いするくらい、嬉しかったんだよな?
一族のシンボルを、名誉を、証明を
目の上のたんこぶみたいなレイマから
直ら差し出させたんだもんな?
ほら、喜べよ。飛び跳ねて喜べよ。
それともまだいじけて言いたいのか?
「レイマにはかなわないよ……」ってよ。
[ライネ・レードルンド]
……違う。
[レイマ・レードルンド]
どうした。
何か、気に障ったか。
[ライネ・レードルンド]
お前らに何がわかる!
[コード・ホテル]
わかるさ。俺はとっくの通りに死んだんだ。
俺はお前の中にしかいない。だから俺じゃない。
お前の中に、お前の頭の中に、
こびりついているだけの俺の
だけどお前は一生引き摺っていく。
後悔か、あるいはそれが何かはわからないが
顔も知らない俺のことをずっと引き摺っていく。
[スピリットフィード]
ハエの王がお前でよかった。
俺が
弱さを固めて出来た虚勢の
引き受けてくれた。
だからお前はどこまでも純度を保て。
思想に、信条に、情動に負けて呑まれぬよう
その苦しみに潰されぬよう、純度を保て。
俺は先に終わる。
そして、濁っていく意識の底でお前をずっと見ていよう。
[コード・ホテル]
そう、だから、わかるんだよ俺たちは……。
お前が喜んでいることを。
レイマ・レードルンドの陰から飛び出れて
心の底から喜んでいることを!
[ライネ・レードルンド]
一度だって、そんなふうに考えたことはないッ!
レイマは、とても、とても大切な……
[レイマ・レードルンド]
どうしたんだよライネ。しっかりしろ。
[ライネ・レードルンド]
レイマ、よく顔を見せておくれ。
なぜか思い出せないんだ。
君の顔をよく思い出せないんだ。
あんなに一緒に過ごしたのに、あんなに一緒に暮らしたのに。
なんでだろう。
君の顔を思い出すことができないんだ。
[レイマ・レードルンド]
落ち着け。何があった?俺はここにいる。
さあ、呼吸を整えるんだ。またそんなに泣きじゃくって……
親父に見つかったら昔みたいに殴られるぞ。
[コード・ホテル]
思い出に浸る時間も、もう終わりだ。
あの口うるさい
デリカシーがあるようで自分のことしか考えてない
お節介で感情の起伏が激しいスピーカーみたいな女が
自分を慰めるためだけに、今日も起きないお前を起こしにくる。
病室には誰も観客がいないことを知りながら
お前の気持ちなんてこれっぽっちも知ろうとしなかったくせに。
出たくないだろう?起きたくないだろう?
色々と、お察しするぜ。
この中はお前に優しいからな。
多方面から圧迫された劣等感に包まれて
ゆりかごのように揺れて、眠っていられる。
[スピリットフィード]
俺たちはお前をずっと見ている。
強烈な動機も悲痛な背景も持たず
手段としてではなく目的として戦うことを選んだ、
そんなお前が、ハエの王として
それともハエにたかられる死骸に朽ちるか。
眠りに逃げるな、助けを求めるな。
俺たちはずっと見ているぞ。
[ライネ・レードルンド]
消えろ!消えてくれ、消えてくれ、頼む。
レイマ、レイマ、君の顔を見せてくれ。
[レイマ・レードルンド]
ライネ。
今お前は悪い夢を見ているんだ。
大丈夫だ。俺の体が病に負けるまで、ここでこうしていよう。
[ライネ・レードルンド]
レイマ、死なないで。逝かないで。
父さんみたいに、居なくならないで。
本当は何がほしいのか、本当は何をしたいのか。
どうか、教えてほしい。
あれから、ずっと隙間が埋まらないままなんだ。
だから、レイマ。
もう置いていかないで。
[レイマ・レードルンド]
ライネ、もう泣くな。
父さんに言われただろう
『レードルンドの名を継ぐものは、たとえ手足が千切れても、獅子の如く戦え』
と。
[ジェイ・カプレーティ]
だからお願い。
起きて。
目を覚まして、ロメオ。
了
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