ベルゼブブの黄濁

所用人数

男3 女2 不1 計6


サイコビリー / 男

合衆国陸軍FA隊を除隊後、フリーのFAパイロットとして

各国の戦場を飛び回ったベテランパイロット。


ジェイ・カプレーティ / 女

民間軍事会社アルファライト社の元オペレーター。

一身上の理由で社を辞し

サイコビリーと共に独自に諜報活動を始める。


スピリットフィード / 男

卓越した操縦技術と見境のない凶暴性を有する

コステリ地区を根城とする広域指名手配テロリスト。



コード・ロメオ=ライネ・レードルンド/ 不問

作戦中の内規違反により解雇処分となった

アルファライト社の見習いパイロット。

代々傭兵稼業を生業とするレードルンド家の次男。


コード・ホテル(レイマ・レードルンドと二役) / 男

コステリ商業地区哨戒作戦で殉職した

アルファライト社の見習いパイロット。


レイマ・レードルンド(コード・ホテルと二役)/男

レードルンド家長男。成人を待たずして病没。


イリーナ・ゴルベフ / 女

FAコンサルティング企業ブラート社CEO。

同社のスタッフを自らリクルートする姿勢は

彼らとの強い信頼関係を築く。



このページは本作フォーミュラ・アーラのエピソードを

加筆編集し、声劇台本としての機能を高めたものです。

当台本は、性別変換、兼役、そして

音響担当者による積極的な介入を心より歓迎します。

ご自由にお使いください。



[ジェイ・カプレーティ]

こちら管理室……じゃなかった

えーと……掘削管理センターオペレーターのジェイです。

メインエレベーターは目標深度に到達。

下降を停止します。


アウロラ鉱山は閉鎖されて十年近く経過してるため

施設の老朽化が予想されます。

十分に注意して、行動してください。


[サイコビリー]

いい加減その喋り方辞めないか。

お互い、晴れて契約解除になったんだ。


もうお前はアルファライト社のオペじゃない。


俺たちは保証もサラリーもない自由気ままなフリーランスだ。

せめて気楽にやろうぜ。


[ジェイ・カプレーティ]

しょうがないじゃない。癖になってるの。


それにしてもまさか廃鉱山でエレベーターガールみたいな

真似をさせられるとは思わなかったわ。


[サイコビリー]

俺だって型遅れの採掘用FAエフエー

乗ることになるとは夢にも思わなかったさ。


まあいい、探索ついでに小遣い稼ぎだ。

愛機ボギーの修理費の足しにしようや。


[ジェイ・カプレーティ]

あなたまさか窃盗と不法侵入に飽き足らず

盗掘までするつもり?


[サイコビリー]

人聞きが悪いな。ちょっと借りてるだけじゃないか。

それと、不法侵入じゃなくて社会科見学だ。

ここは人類の欲望に食い尽くされた自然の墓標だ。


盗掘っていうのも訂正してくれ。これは……そうだな、フィールドワークだ。


[ジェイ・カプレーティ]

はあ……私を共犯にしないでよね。


それから、あなたが今乗ってる機体には

腕部マニピュレーターの他には

採掘用の錆びたドリルしかついてないの。


民生みんせい用FAであることを忘れないで。

もし何かあれば、即座に撤退すると約束を。


[サイコビリー]

わかってるよ。

あくまで、デルソルあっちの動向を探るのが目的だ。


閉山から十年近く経っているのに

あらゆるインフラが未だに機能してるなんて

大当たりと証明しているようなもんだがね。


確証が得られたらすぐに引き上げる。

ちょっとばかりお土産をもらってな。


おっと……なんだ、この揺れは。

地震、いや、上からか?


[ジェイ・カプレーティ]

レーダーに強い反応。

すぐ上の階層よ、監視カメラを切り替えて

確認するわ……


FAのよう、だけど

カメラが白黒で彩度も低くてハッキリとはわからない。


ただ、イヤな予感がするわ。


[サイコビリー]

同意見だ。


そんでもって悪い知らせだ。

たった今、天井の一部が抜け落ちた。

でっけえネズミがおっこちてくるぞ。


一旦端に退避するが接触の恐れがある。

念のため脱出ルートの確認を頼む。


ほーら、きやがったぞ。


[スピリットフィード]

ハエが……ハエどもが……俺に、たかるな!


どこからともなく湧いてきやがって

この国を腐らせやがって!


そこか!ああああッ!どこだッ!

出てこい!姿を見せろッ!


[サイコビリー]

危ねえ。

なんだあのマッドな野郎は……


見境なしに実弾ぶっ放しやがって。崩壊させる気かよ。


ジェイ、あのイカれたFAの解析を頼む。

メインカメラの情報を転送する。


[ジェイ・カプレーティ]

……この赤いFAは、まさか。


ひどい悪夢を見てる気分だわ。


あのFAは、ファイアスターター。

パイロットはおそらく……スピリットフィード。


[サイコビリー]

スピリットフィード……。

聞いたことがあるな。


ああ、コステリのテロリストか。

ここ最近噂を聞かなかったが、生きてたのか。


Wow……bullshitブルシット!


ジェイ、気分最悪のところ悪いが追加報告だ。

もう一機FAが降ってきやがった。


今度のはお高いシャンパンみたいな
派手な色してら、ハハッ。


[スプリットフィード]

この……感覚、も久しい。初めて、ハエを、

潰した、日を、思い、出す。そう、か。お前が、俺、を。


どう、して、俺た、ちが


……苦しまねばならない!

搾取されなければならない!


俺たちが血を流して、

お前らを肥え太らせなければならないッ!


生まれ育った地を奪わ、れ、な、ければ


なら、ない?


[ジェイ・カプレーティ]

滑舌の緩急をコントロールできない

抑揚性言語障害よくようせいげんごしょうがい

……オーバーライドによる神経汚染ね。


ほとんど末期症状だわ。

それに、ひどく錯乱してる。

よりずっと進行してるみたい。


[サイコビリー]

なんだ、ヤツと面識があるのか?


FA乗りにとってオーバーライドシンドロームは

職業病みたいなもんだが

あれほど酷くなるのは、過密勤務の職業軍人くらいだ。


ひょっとすると、俺にとっても遠い知り合いかもな。


[ジェイ・カプレーティ]

かもしれないわね。

でも、だとしたらどうして職業軍人がテロリストなんかに。


[サイコビリー]

誰だって薄皮の上に役を演じてる。


奴がどうしてそうなったか。

或いは、そうなれなかったか。


所詮は、紙一重の差なんだよ。


……金色こんじきのFAが動くぞ。


[コード・ロメオ]

ずっとこの日を待っていた。


スピリットフィード、お前に全てを返しに来た。


戦え。全てを賭けて。


[サイコビリー]

はは、あいつら、おっ始めやがった。

今にも崩れそうなこんなボロ山でだ。


シャンパンの方もなかなかキレてる。


[ジェイ・カプレーティ]

今の声は……そんな、まさか。出来過ぎだわ。


[スピリットフィード]

あァ?お前はどこのハエだ?

ここのハエか?あそこのハエか?

潰し過ぎて思い出せんな!


これまでに潰して、きたハエが、頭の、頭に、頭の、

中にまで、頭の……


あああッ!燃えろ!


[サイコビリー]

あのバカ、この狭い穴ぐらで火炎放射器を使いやがった。

やむを得ん、一旦退避する。


オペレーションシステム、緊急モードに移行。


[コード・ロメオ]

キネティックセンサーに反応?

誰だ……あれは、採掘用FAか。


[スピリットフィード]

ハッ!そこにもハエがいたのか?

意地汚く群れやがって。


まとめて消し炭にしてやろう。


[ジェイ・カプレーティ]

まずい、気付かれたわ。

逃げるわよ。

このまま壁沿いに進めば抜けられるわ。


進行方向を反転してブースターを全開に!


[サイコビリー]

了解、アクセルの床が抜けるまで踏み込むぞ。


……っておい、動けよこのポンコツ!


シャレになってねえぞ!

システム切り替えに失敗してフリーズしやがった。

よりによって今かよ、冗談きついぜ。


[ジェイ・カプレーティ]

敵FA急接近。

ビリー、耐ショック姿勢をとって!



://A Few Years Before,



[ジェイ・カプレーティ]

こちら管理室です。

通信テストを行います。FA1エフエーワン、聞こえますか。


[コード・ロメオ]

こちらFA1、通信に問題ありません。


[ジェイ・カプレーティ]

了解。FA2エフエーツー、聞こえますか。


[コード・ホテル]

はいはい、バッチリですよ。よ〜く聞こえてます。


[ジェイ・カプレーティ]

作戦は事前ブリーフィングの通り

コステリ商業地区の哨戒しょうかいです。


ヘッドアップディスプレイに表示される

ルートラインに沿って各々パトロールをお願いします。


この街はすでに無人となって久しいですが

テロリストが潜伏しているという情報もあります。

廃墟や瓦礫の死角には十分に注意してください。


[コード・ロメオ]

了解。FA1、オートクルーズ起動、哨戒を開始します。


[コード・ホテル]

了解。FA2、レーダーの有効範囲を拡大。

俺のルートラインは、ええっと、南だったよな。


……しかし、ひとっこひとりいない。

ゴーストタウンの哨戒ってのも退屈な任務だね。

あんたは……コード・ロメオ……だっけ?

あんただってそう思うだろ。


[コード・ロメオ]

いえ、別にどうも。


[コード・ホテル]

暫定政府の連中、引き継いだ財布がパンパンで

予算が有り余ってるって話よ。

だから、こんなつまんねぇ仕事もわざわざ外注かけてんだろうなァ。


いいもんだねえ、税収ってのは。


俺たち労働者には不労所得なんて縁がないからさ。

キャリア積んでさっさと独立して、FAで稼ぐっきゃないね。


[コード・ロメオ]

静かにしてください。任務中ですよ。


[コード・ホテル]

そうカタいこと言うなよ相棒。


こんなショボい依頼、どーせ会社にとったって小遣い稼ぎみたいなもんだろ。


それとも、俺たちのFA搭乗時間を稼ぐためか?

どのみち戦争稼業なんだから条約なんざ守る必要ねーのにな。


[ジェイ・カプレーティ]

こちら管理室。

コード・ホテル、これ以上私語を続ける場合は

職務放棄とみなし帰投させます。


[コード・ホテル]

チッ…盗み聞きとはいい趣味してるじゃねえか。

こんなつまんねえ仕事、こっちから降りたいくらいだ。


[ジェイ・カプレーティ]

ハァ?

これはこれは、まだすらないヒヨッコが

随分と威勢良く吠えてくれますね。


作戦通りに任務をこなすことが

生存率を高める第一の条件だと

新人教習で教わりませんでしたか?


実戦経験の乏しいルーキーにとっては

今回の哨戒任務は最適な内容です。


せいぜいフリーズを起こさないよう

しっかりとパトロールしてくださいね。


[コード・ホテル]

へいへい。

……本当に小うるせえ女だ。


[ジェイ・カプレーティ]

新兵さんっ、何か言いましたァ?


[コード・ホテル]

空耳じゃないッスかぁ?


[コード・ロメオ]

……こちらFA1

前方に車列を確認しました。

ガントラックです。視認できる限りで4台。

武装は…ロケットランチャーのようです。


[コード・ホテル]

おお!来た、来た来たァ〜!

こういうのを待ってたんだよ。


で、で、どうすんだ。交戦か?

俺も混ぜろよ!


[ジェイ・カプレーティ]

FA1は対象との距離を固定、

FA2はFA1と合流し

対象との距離が700メートルを切った時点で

威嚇射撃を行ってください。


[コード・ホテル]

おいおい、こちとらFAだぜ?

ガントラックどころか、戦車だろうが

どーってことねえよ。

戦術核でもミサイルでも持ってこいっての!


[スピリットフィード]

お前らのようなハエを潰すのにそんなもの要るか。


[コード・ロメオ]

……今の声は?


[ジェイ・カプレーティ]

FA2、状況を報告してください。


[コード・ホテル]

クソ!なんだこいつは!バカみたいに速ぇ!

こちらFA2、襲撃を受けた!早く、早く援軍を!

さっさと来てくれ!急げ!


[コード・ロメオ]

管理室、指示をください。


[ジェイ・カプレーティ]

こちら管理室。

たった今、中継ヘリが何者かに撃墜されました。

その影響で支援機能に制限が発生しています。

FA1、武装車両は捨て置き、すぐにFA2のルートラインを辿り援護に向かってください。

モニタリング機能が回復次第、追って指示を出します。


[コード・ロメオ]

了解。ただちにFA2の援護に向かいます。


[ジェイ・カプレーティ]

FA2、敵勢力は?被害状況を報告してください。


[コード・ホテル]

あ、赤いFAが1機!

機体の装甲はもうガタガタだ!

ああ、チクショウ!どうしてこっちの弾は当たらねえんだよ!


[ジェイ・カプレーティ]

赤いFA……まさか。


だとしたら、まずい。

FA1、援護急いでください。


[コード・ロメオ]

FA1、間も無く交戦領域に入ります。


[スピリットフィード]

来たか、ハエの片割れ。

2匹目が来るまでこいつを潰すのを待っていたんだ。


[コード・ロメオ]

FA2、応答せよ、FA2。

……お前は?


[スピリットフィード]

これから潰されるハエに名乗る必要はない。


[ジェイ・カプレーティ]

ハエですって?


[スピリットフィード]

そうだ。ハエだ。


わずかな利得のため、国と民の血肉をえぐ

そうして積み上げられた死骸にたかる企業。


その集金装置の周りをブンブン唸って

おこぼれ目当てにうろつくだけのハエどもだ。


[コード・ホテル]

ハエでもウジでも構わねえから、なんとかしてくれよ!

このままじゃ戦死しちまう!


[スピリットフィード]

戦死だと。笑わせる。

貴様らハエに名誉の戦死などふさわしくない。

害虫として、こともなく駆除されろ。


[ジェイ・カプレーティ]

FA1メインカメラからの転送データを確認。

敵機体の解析完了。


相手は、広域指名手配テロリスト

スピリットフィードで間違いありません。


作戦を放棄し、速やかに撤退してください。


[コード・ホテル]

撤退だと?

どういうことだ、答えろオペレーター!

援軍が来るんじゃねえのかよ!


[コード・ロメオ]

FA2はすでに脚部大破、戦闘不能どころか

自力での撤退は困難です。


当機が応戦して時間を稼ぎます。

すぐに増援部隊と回収艇かいしゅうていを派遣してください。


[ジェイ・カプレーティ]

FA1はスラスターを逆噴射し即座に敵機との距離を確保。


繰り返します。

速やかに撤退してください。これは命令です。


[スピリットフィード]

ハエの片割れ、聞こえるか。


こっちのハエの手足はもう鉄屑同然だが…

まだ、コックピットだけは残してある。


ただし、お前が退くようであれば

こいつのコックピットを、潰す。


[コード・ロメオ]

……僚機りょうきを見捨てるということですか?


[ジェイ・カプレーティ]

彼我ひがの戦力差をかんがみた上で

被害を最小に食い止める必要があります。


速やかに撤退してください。これは命令です。


[コード・ロメオ]

彼を見捨てるということですか。


[ジェイ・カプレーティ]

壁面へきめんを駆け上がり

ビルを踏み台に中空のヘリを叩き落とし

至近距離での砲撃を自在にかわして

戦車中隊を瞬く前に火の海に沈める。


そんな化け物じみたFAを相手に

一体あなたのような新兵が何をできるというのです。


全力で逃げて下さい。


FA2は……助けられません。


[コード・ロメオ]

確かに、当機だけでは無理かもしれません。

しかし援軍がくれば、彼を救出できるかもしれません。


せめて回収艇だけでも派遣してください。


[ジェイ・カプレーティ]

ふん……早いわね、こういう決断だけは。


増援は出せません。回収艇もです。


たった今、当社は任務を放棄し

契約者への違約金の支払いを決定したとの通達が来ました。


すでに本隊は作戦領域からの離脱を始めました。

FA1、これ以上の被害が出る前に速やかに撤退してください。


[コード・ロメオ]

本隊が離脱?どういうことですか。


[ジェイ・カプレーティ]

スピリットフィードとの交戦によって

予想される当社の総被害額が

契約破棄の違約金をはるかに上回ることが

予想された。


こんなところでしょうか。



[コード・ロメオ]

システムを戦闘モードに移行。

レーダー有効範囲を縮小。

メインアームセイフティ解除。

フォーカスをヴァーティカル・シングル・タイプに変更。


[ジェイ・カプレーティ]

FA1、何をしているの。


[スピリットフィード]

黙って聞いていれば、

ハエにしては気骨があるじゃないか。

戦争屋をやるには激情家すぎるがな。


ハエはハエらしく造作もなく潰されるべきだが……

お前は、しっかりと磨り潰してやろう。


[ジェイ・カプレーティ]

FA1、撤退しなさい。我々に勝機はありません。


[コード・ロメオ]

たとえ勝ち目がなくても、

僚機を見捨てて逃げることはしたくないんです。

…うッ!


[スピリットフィード]

まずは左腕だ。


そうか撃ち返してくるか、そうでなくてはな。


だが……狙いが甘い、その位置では当たらん。


お前らは動かないも同然の標的まとを相手に訓練されてきた。


そんな射撃では、蚊も墜とせん。


[コード・ロメオ]

FAが……飛んだ?

いや違う、ビルを蹴り上がったのか…。


[スピリットフィード]

いいや、飛んだのさ。


には翼がある。

お前らのようなハエにはない、翼がな。


[ジェイ・カプレーティ]

スピリットフィードの駆るFAファイアスターターは

強襲をコンセプトとした超軽量型ちょうけいりょうがたのFAです。

その積載量からして継戦けいせん能力はまず高くありません。


近づきすぎず、回避を最優先に立ち回ってください。


[コード・ロメオ]

管理室?


[ジェイ・カプレーティ]

FA1オペレーションシステムに

コントロールモードで接続。

これ以降、デュアルモニタリングで指示を出します。


コード・ロメオ、あなたの違反行為に対する懲罰は免れません。

帰還した上で正式に処分を受けてください。


敵機、上です!

間に合わないわ!

肩部けんぶハンガーユニット遠隔起動します!


[スピリットフィード]

この光は……信号弾か!


フォーカスを外れされた。

なるほど、相棒の方がよほど戦上手だな。


[ジェイ・カプレーティ]

今です!FA2の救出を行ってください。

最悪、コックピットだけでも回収を!


[コード・ロメオ]

了解。両腕の武装をパージ、

腕部わんぶマニピュレーションモードに移行。

救出に向かいます。


[スピリットフィード]

……させるか、ハエどもが。

お前らはここで燃え尽きて死ね。

土の下で眠る連中への手向たむけだ。


[ジェイ・カプレーティ]

側方に巨大な熱源を確認。


いけない、FA1、けて!


[スピリットフィード]

よく燃えるだろ。

ファイアスターターこいつの切り札さ。


民の血肉をすすり誰かの不幸で飯を食う

ハエどもを焼く地獄の業火ごうかだ。


[コード・ロメオ]

FA2、コード・ホテル、応答せよ。


[ジェイ・カプレーティ]

FA2、再起不能。

コード・ホテルのバイタルサインが消失しました。


……FA1、撤退を。


[スピリットフィード]

はは。

お前がよけなければ、助かったかもしれないな。


[コード・ロメオ]

貴様!


[スピリットフィード]

やかましい! ハエが吠えるな!


さあ今度はお前の番だ、いくぞ。


右手……


右足……


最後に左足……


お前も、燃えカスになったあのハエと同じように

手足をもいでから潰してやる。


[ジェイ・カプレーティ]

FA1大破たいは、ブースター出力停止。

これまでです。


[スピリットフィード]

あのハエの代わりに、コックピットごと潰れろ!


……くッ、こんな時に。


[コード・ロメオ]

動きが、止まった?


[スピリットフィード]

動け、う、ご、う……。


[ジェイ・カプレーティ]

まさか、神経障害?


とにかく今なら……FA1、撃って!

何でもいいから!腕がなくても、動けなくても、今なら当てられる!


[コード・ロメオ]

残された武装……落ち着け、標的は動けない。

オートフォーカスがなくても、いける!


胸部きょうぶバルカン砲、起動。


[ジェイ・カプレーティ]

……当たった!直撃したッ!


[スピリットフィード]

ウ、ウ……ご……けェッ!


勘…違い…するなよ。

……お前が…当てたんじゃ…ない。


[ジェイ・カプレーティ]

スピリットフィード、あなたには

深刻な神経障害の症状が見られます。

至急、医療機関にて処置を受けることを推奨します。


[スピリットフィード]

ハエの……飼い主風情……が、抜かせ……。

お前らは……必ず…この手……て……で、潰す。


[コード・ロメオ]

……撃退したのか。


[ジェイ・カプレーティ]

ええ、勝ちました。


FA1大破、FA2再起不能、同パイロット1名死亡。

敵機は損傷軽微にて撤退。


実に、立派な戦果です。


[コード・ロメオ]

役に立てず申し訳ございません。

バックアップ、ありがとうございました。


[ジェイ・カプレーティ]

いえ、あの……すみません。

こちらも言い過ぎました。


間も無くそちらに機体回収のためのが到着しますが

あなたは同乗できません。別路にて本部へと移送されます。


現地にて内規違反ないきいはんと命令無視に対する尋問をお受けいただきます。


[コード・ロメオ]

了解しました。

いかなる処分もお受けいたします。


あなたの助けがなければ

生き残ることはできませんでした。

改めて御礼申し上げます。


[ジェイ・カプレーティ]

お気遣いなく。

パイロットを生還させることが私の職務ですので。


一つだけ、聞かせてください。


どうして、あなたは命令に反しリスクを冒してまで

コード・ホテルを助けようとしたのです。


正規のバードコードを持たないルーキー同士です。

お互いに面識があったわけでもないでしょう。


[コード・ロメオ]

……ハエなんかじゃないんです。


[ジェイ]

え、今なんて?


[コード・ロメオ]

キャリアーが到着したようです。


コックピットロック解除、

運動神経系接続うんどうしんけいけいせつぞくを遮断します。


通信を切らせていただきます。

どうも、ありがとうございました。


[ジェイ]

あ、ちょっとまだ話が……。


コード・ロメオか。


とんでもない問題児だったわ。

あーあ、私も面談か……。


違反幇助ほうじょじゃまず懲戒処分よね。

はー……再就職先探さなきゃ。


://Contemporary,


[コード・ロメオ]

システムを近接戦闘モードに限定。

レーダー有効範囲を縮小。

メインアームリミッター解除。

フォーカスをセミオートに変更。


肩部けんぶハンガーユニット、起動。


[スピリットフィード]

えろ、ファイアスターター!


この光は……信号弾か!

目くらましがわりに使うとは、ああ、おかげで思い、出した。


お前は、あの日、俺が、すり潰し、損なった

ハエの片割れ、か。


[ジェイ・カプレーティ]

間違いないわ。

コード・ロメオなのね。


通信を試みます。


……こちら管理室です。

コード・ロメオ、応答してください。


こちらは、ジェイ。

元・アルファライト社所属

オペレーターのジェイ・カプレーティです。


[コード・ロメオ]

アルファライト社のオペレーターだって?

まさか。


コード・ホテル、あなたがここに呼んだのか。


こちらFA1、通信に問題ありません。


[ジェイ・カプレーティ]

コード・ロメオ、お願いします。


戦闘に巻き込まれた民生FAを護衛した上で

敵FAファイアスターターを撃破してください。


[サイコビリー]

なんだ、ひょっとして昔の男か?

お前も案外すみに置けないタイプだな。


[ジェイ・カプレーティ]

ビリー、無事だったのね。

速やかにFAを乗り捨てて直ちに退避を。


[サイコビリー]

オイオイ、勝手なこと言うんじゃねえ。


お前あいつに頼んだんだろ。

FA乗りに依頼したんだろ。

だったら、最後まで預けるのが筋ってもんさ。


それに、こんな場所で出会ったのも何かのえんだ。

俺は信じてみるぜ。あのを。


[スピリットフィード]

完全に、思い出した。


ハエよ、やはりお前は、

戦争屋、には、なれなかった、のだな。


あの時造作もなく、お前を潰さなくて……本当によかった。


今度こそ、お前をしっかりと、磨り潰して……うッ。


[コード・ロメオ]

遅い。


左手……


右手……

右足……


最後に左足……。


どうした。けないのか?


[ジェイ・カプレーティ]

すごい……あの時とは、まるで真逆。


それに、神経汚染のせいで

今のスピリットフィードはもう

ろくに攻撃を当てられない。


FA1、このまま押し切って!


[コード・ロメオ]

胸部バルカン砲起動。

標的、敵機胴体部。


スピリットフィード、言い残すことはあるか。


[スピリットフィード]

そうか、お前が、俺の、ハエの王、なのか。


ならば、俺は、ここで、全てを、終わらせよう。


NMエヌエムコネクション・ターミネイト


運動神経系、接続を解除。


[ジェイ・カプレーティ]

スピリットフィード、NMコネクションを解除。


敗北を認めた……?

いや、違う……再起動リブートだわ!


[スピリットフィード]

NMコネクション・リマッピング

運動神経系を再接続。


感覚神経系、自律神経系を複合接続。


HMエイチエムフィードバックを100パーセントに設定。

……ホメオスターシスの成立を確認。


バランサー、スタビライザーを固有受容器こゆうじゅようき同期リンク

サブジェネレーター起動。


逆算すると……もって5分というところか。


充分だ。


ハエよ、いやハエの王よ。


ここがお前と俺の墓場だ。行くぞ。


[ジェイ・カプレーティ]

神経汚染と言語障害が消失している。


それに、あれだけ破損しているのに

あらゆる挙動が加速している。

これは一体……。


[サイコビリー]

全神経系接続フルコネクティングはFA乗りにとって最後の切り札だ。


パイロットの全神経をFAに接続し固定する。

動きも、痛みも、鼓動さえも、人と機械が完全に同期リンクする。


ゆえに文字通り、FAの手足が自分のそれとなり

操縦技術云々とは次元の違う人馬一体じんばいったいの運動性を得る。


大破した脚部が脳に送り込む激痛に耐えながら

アイツは壁を蹴り上がりこの穴ぐらを飛び回ってる。


敵ながら大したもんだ。


……そして形勢は一気に逆転、シャンパンが完全に押さえ込まれた。


[コード・ロメオ]

フル・コネクティング……。


そうか。

それがお前の答えなのか、スピリットフィード。


ならば、応えよう。


汚染された神経が焼き切れて

お前の全てが燃え尽きるまで。


挙動補正きょどうほせい解除。

エクストラブースター作動。


[ジェイ・カプレーティ]

此の期このごに及んでFA1がさらに加速……


まずいわ、二機の動きが激しすぎて

このままじゃ鉱山の剛性がもたない。


崩壊する。


ビリー、FAを放棄して徒歩で脱出して!


[サイコビリー]

悪いが断る。

俺はこいつらの戦闘を最後まで見届けることにした。


おっと、お説教なら後にしてくれ。

生きて帰れたら今度は最後まで聞くからさ。


すまんな、ミュートする。


[ジェイ・カプレーティ]

ちょっと!ビリー応答して!


……どうしてよ。

どうしてみんなそんなに自分の命を軽く扱えるの。


[コード・ロメオ]

それは違う。誰の命も軽くなんかない。


大切なものを天秤にかけたとき

そこに釣り合うには反対側の受け皿に

同じだけの重さを載せなければいけない。


何かを得ようとするならば、

それ以上の重さを秤にかけなくてはいけない。


戦うもの達は、皆それを経験で理解している。


[ジェイ・カプレーティ]

……あなた達は勝手すぎるわ。


勝手ににらみ合って勝手に戦って勝手に死んでいく。

何を言っても届かないのならばもう、好きにすればいい。


[スピリットフィード]

話をしている余裕があるのか?


俺を終わらせに来たのだろう。

終わらせに来てくれたのだろう?


ハエの王よ、よ。

俺を失望させるな。俺を絶望させてくれ。


俺が戦い続けた意味を与えてくれ。

そして、奪ってくれ!


[コード・ロメオ]

くッ、流石に速いな。それに正確だ。


スピリットフィード、かつてお前は言った。

フォーミュラ・アーラには翼があると。


今日、その言葉の本当の意味が分かった気がする。


、起動。


[スピリットフィード]

腕部わんぶの仕込み武器……成る程それがお前の切り札か。


の稲妻のように蒼く、美しい閃きだ。


もうじきに長かった悪い夢も終わるのだろう。

お前を燃やし尽くして俺もすぐ燃え果てよう。


ファイアスターター、機体放熱機能停止。

残弾一斉射出。


[コード・ロメオ]

トニトルス、はしれッ!


[サイコビリー]

かたや爆炎、かたや雷鳴か。

さて、どっちが勝つか。


負けんなよ。どっちも。




[スピリットフィード]

……俺は自分を正しいと思っていた。


故郷に、母国に、民族にたかるハエを

追い払い、人々を救うことを正義だと思っていた。


西のハエを潰して、東のハエを潰して

体制のハエを潰して、反体制のハエを潰して

世に人の在る限り、ハエは生まれ続けることに気づいた。


[コード・ロメオ]

それで。


[スピリットフィード]

それもまた人のごうと、分かったフリをした。


ハエから守ったチョウのさなぎから

ハエがかえることも世の常である、と。


ハエを潰し続けたその先に

立場や都合などでは変わらない

明確な答えがあると、期待した。


その期待を何度となく裏切られ続け

いつしか願うようになった。


潰し続けたハエたちの親玉が

復讐にやってきて、答えの無いこの日々を

全て奪うように、終わらせてくれることを。


[コード・ロメオ]

……それで。


[スピリットフィード]

ハエの王よ、聞かせてくれ。


お前は、今日きょう、何を成しに来た。


[コード・ロメオ]

……胸部バルカン砲起動。


敵機コックピットを捕捉。


[ジェイ・カプレーティ]

FA1、もう決着はついてます。

ファイアスターターは再起不能。


殺害する必要は……。


[サイコビリー]

止めるな。


フル・コネクティングは二度と解除出来ない。

あいつらが知らないわけがない。


終わらせてやるんだ。


[ロメオ]

お前はもうそれを知る必要はない。


眠れ、スピリットフィード。


[スピリットフィード]

ハハッ、やっぱりお前は、ハエの、王だった。


ありがとう。


[ジェイ・カプレーティ]

ファイアスターターのコックピット大破。

スピリットフィード、バイタルサイン消失。


コード・ロメオ、あなたの……勝利です。


://Last Night,


[ジェイ・カプレーティ]

……はい、わかりました。

では予定通り始めさせていただきます。


お気をつけてお越しください。失礼します。


イリーナさんからよ。

道が混んでて少し遅れるから先に始めてって。


[サイコビリー]

そうか、じゃあお言葉に甘えて

飲ませていただくとしよう。


しかし意外だね。社長がこんな店を選ぶとは。


壊れたジュークボックス。

くすんだレザーのソファ。

前世紀のロックバンドのポスター。

なかなかいい趣味だ。


ジェイ、オーダーをまとめてくれ。


俺はよく冷えたバドワイザーをワンパイントと

揚げたてのフレンチフライを。


ケチャップとマスタードはハインツで頼む。


[ジェイ・カプレーティ]

はいはい、相変わらず注文が多いこと。


私は、そうね……キールがいいかな。

食べ物はイリーナさんが来てからでいいわ。


ロメオ、あなたはどうするの?


[コード・ロメオ]

スモークドサーモンとアボカドのサラダ。

ジャーマンポテト。チリビーンズ。

アスパラガスとベーコンのソテー。

Tボーンステーキ16オンス、それから

ヴィシソワーズにチキンウイングと……


[サイコビリー]

待て、ちょっと待て。

ひょっとしてそれ全部一人で食うのか?


[コード・ロメオ]

そうですけど。


ひょっとして、サイコビリーさんも食べたいものがありましたか?


[サイコビリー]

いや、そういうわけじゃないんだが……。


なにせ、ダイナー・フードってのは

みんなでシェアするもんだと教わってきたんでな。


軽いカルチャーショックを受けているところだ。


[ジェイ・カプレーティ]

いっぺんに頼んだら料理が冷めちゃうし

少しずつ追加したらいいんじゃない。


ドリンクは?


[コード・ロメオ]

アイスミルクをお願いします。


[サイコビリー]

なんだか聞いてるだけで

腹が膨らんできた気がするぜ。


ウェイター、そうそう、このテーブルだ。


オーダーを頼めるか。


[イリーナ・ゴルベフ]

私にはギムレットを、ボンベイサファイアで。


[ジェイ・カプレーティ]

ご到着されたのですね。お待ちしてました。


ウェイター、受注の準備は宜しいですか。

ではオーダーを伝達します。

ドリンクは4点。

一つ、バドワイザー・ワンパイント。

よく冷えたグラスでサーヴしてください。


二つ、キール。ワインの良し悪しはよくわかりません。

ハウスワインで結構です。薄めにお願いします。


三つ、アイスミルク。氷を入れすぎると

お腹が痛くなるのでほどほどの量で。


四つ、ギムレットをボンベイサファイアで。


オーダーは以上です。迅速なサーヴを期待します。


[サイコビリー]

酒の注文出すときにさえこういう口調になっちまうのは

オペレーターの職業病なのかねェ。


[コード・ロメオ]

イリーナさん、お疲れ様です。

今日は、ディナーにご招待いただけて

とても嬉しいです。


[イリーナ・ゴルベフ]

こんばんはロメオ。

今日は来てくれてありがとう。


ここは私の知り合いの店なの。

高級レストランではないけど味の方は確かだから安心して。


[ジェイ・カプレーティ]

ちょっとビリーったら隣でタバコ吸わないでよ。

髪と服に匂いがつくじゃない。


[イリーナ・ゴルベフ]

シガレットなんて懐かしいわね。

私にも頂けないかしら。


[ジェイ・カプレーティ]

えっ、社長喫煙されるんですか?

なんだか、予想外です……


[イリーナ・ゴルベフ]

フフ、ごめんなさいね、ジェイ。

一本だけ失礼するわ。


祖国くににいたときは吸ってたわ。

もうずっと、昔の話。


[サイコビリー]

一本と言わず好きなだけ吸ってくれ。

話すことがあるなら朝まで付き合うしな。


[ジェイ・カプレーティ]

全員飲み物は揃いました?

それじゃイリーナさん、お願いします。


[イリーナ・ゴルベフ]

今日は忙しいところ無理を言ってごめんなさい。


来てくれたことに感謝します。


まずは喉の渇きを潤して。乾杯。


[サイコビリー]

ッはー、やっぱりビールはこいつに限る。


それで今日の議題はなんだ。


わざわざ社外そとで一席設けたくらいだ。

何か事情があるんだろう。


俺たちのサプライズなフェルウェル・パーティーじゃなければいいんだが。


[イリーナ・ゴルベフ]

あなたたちに謝らなくてはならないことがあるの。


私はきっとこれから会社を、を私の個人的な戦いに巻き込むことになる。


そして、あなたたちは

その最前線で戦うことになるかもしれない。


[ジェイ・カプレーティ]

それって、ひょっとして、先日の

排水処理施設の依頼に関することですか?


[サイコビリー]

なあ社長。


あんたがの関係者

だったことは知っている。


そして、セントラルレッド社と宗教団体との

関係を必死に追っていることもだ。


[イリーナ・ゴルベフ]

そうね。

余計な前置きは終わりにしましょう。


ジェイ、すまないけど

同じものをもう一杯頼んでもらえるかしら。


祖国の大学院を出た私は専攻していたFA工学の分野へと進んだ。


セントラルレッド社のようする

NMコネクション研究所に就職したの。


そして、プロフェッサー・ヤンの

直属の部下として様々な研究に従事したわ。


[ジェイ・カプレーティ]

プロフェッサー・ヤンって、

聞いたことあります。

FAの世界ではすごく有名な……


[コード・ロメオ]

プロフェッサー・ヤンは

FAにおける世界的権威です。

その研究成果により、FAの機動性と操作性は

開発当初と比べて劇的な進化を遂げました。


特にNMコネクションを明確に体系化し

コントロールに適応させることで

多くの機動兵器の難点であった

不安定な状態からの重心回復システムは

二足歩行式機動兵器をフィクションの世界から

現実のものへ昇華させた一つのパラダイムシフト

と言われてます。


その一方で、新技術研究のために

非人道的な実験を再三にわたり

繰り返していてアカデミックな世界からは

非常に不興を買っている人物でもあります。


[サイコビリー]

お前、FAのこととなると結構喋るのな……。


[イリーナ・ゴルベフ]

ロメオが話してくれた通り、

プロフェッサー・ヤンはNMコネクションを

より高次元なものにするために

非道な実験を繰り返したわ。


その中のいくつかには、私も加担した。


ウェイターさん、もう一杯、同じものを。

ジンをもっと強くして。


結局、ある実験が引き金で私は研究所を離れることになったわ。


[コード・ロメオ]

どんな実験だったのですか。


[イリーナ・ゴルベフ]

極限の精神的ストレスがNMコネクションにどのような影響を及ぼすか。


今にして思えばそれは実験というよりも、確認作業だった。


ヤンは最初から予想していたのよ。

どんな感情がNMコネクションに強く干渉するか。


その確認をするためにヤンと私は

ひとりの命とひとつの心を殺した。


紛争に巻き込まれたった二人だけ残された

兄弟の繋がりを、この手で引き裂いたの。


[コード・ロメオ]

イリーナさん、教えてください。


NMコネクションに最も影響を及ぼす感情とは、何だったんですか。


[サイコビリー]

なあ、ロメオ。

お前さん全く飲めない訳じゃないんだろう。


ちょっと付き合えよ。

シラフじゃない方がいいことだってあるんだ。


いいバーボンってのはこういう夜のための酒さ。

ウェイター、ワイルドターキーをボトルで持ってきてくれ。


[ジェイ・カプレーティ]

そんな経緯があったのですね……。


セントラルレッド社を退社した後は、この会社をすぐ起業されたのですか?


[イリーナ・ゴルベフ]

研究所を去って、しばらく各地を転々としたわ。

昔の人脈を頼って、企業や自治体の

FA運用アドヴァイザーのような真似をして

糊口ここうをしのいでいた。


そして段々と、こう考えるようになった。

FAは所詮戦争の道具でしかないのか?と。


そんな中、型落ちになってお払い箱となった

旧型FAをどうにか有効活用できないかという相談を受けたわ。


なんてことない案件だけど、とても嬉しかった。


私は新しい可能性を見出すためにすぐに小さな会社を起こした。

それがブラート社の始まり。


私にもショットグラスを。


[コード・ロメオ]

ありがとうございます。それじゃ、いただきます。


……なんだか焦げ臭い味がしますね。

オーバーヒートしたときみたいだ。


[ジェイ・カプレーティ]

それで、今の話が社長の個人的な闘争とどう繋がるのですか?


[イリーナ・ゴルベフ]

私が研究所を退所して程なく

プロフェッサー・ヤンも同研究所を去り、同時にセントラルレッド社を退職。


数々の名誉職も全て辞し、ヤンは事実上表舞台から姿を消した。


そして今、奴は宗教団体デル・ソルの中心部にいる。


彼らが取り組んでいる大きなプロジェクトの中心として。


FAの平和的活用の普及を最終目的とし

極力、防衛手段として

FAを行使することをうたう当社は

どんな状況かであれ、あらゆる側面において中立であるべきだわ。


でも私は、ヤンを止めることに執心してしまっている。


そして、会社組織を企業利益と社会貢献のためではなく

私の個人的目的のために、既に動かし始めている。


[サイコビリー]

なるほど。

社長と、そのヤンという奴の間に

浅からぬ因縁があることはわかった。


でも、別にいいんじゃねえか。

会社は会社、社長は社長だ。


[コード・ロメオ]

イリーナさん。


一つだけ聞かせてほしいことがあります。


イリーナさんはヤンを止めたいんですか。

それとも、自分の後悔を埋め合わせたいんですか。


自分の本当の気持ちを仕事や会社のせいにして

誤魔化ごまかす必要なんてないと思います。


[ジェイ・カプレーティ]

ねえロメオ!

前も言ったけどあなたはいつもそうやって薄情で、

他人の気持ちってものを考えたことがないの?


大体ね……ってちょっとビリーなにするのよ。


[サイコビリー]

静かにしてろ。

荒療治あらりょうじが正解のこともある。


[イリーナ・ゴルベフ]

……私は、後悔を終わらせたい。


彼を、いいえ彼らを

見殺しにしてしまったことをずっと後悔している。


その後悔は、消すことが出来ないものだから。

きっと、消してはいけないものだから。


だから私は、苦しかった。


ヤンの野望を阻止したところで

彼らは二度と帰ってこない。


それも分かっている。


でも私が、自分の後悔に

もう一度だけ触れることができるのは

今しかないのだと思う。


たとえそれが、間接的で、自己満足で

宛のないつぐないであっても

私は、そうしたい。


[コード・ロメオ]

じゃあ、終わらせようとすればいいと思います。


消えない後悔に苦しみながら

何もかも分かった上で

向き合って、触ればいいと思います。


宛がなくても、償えばいいと思います。


二度と帰らない人の名誉のため

散っていった彼のように。


[イリーナ・ゴルベフ]

……フフ。

アリーナであなたを見つけた日を思い出すわ。


あなたは何も滲ませずになんでもないような声で

チャンプを叩き伏せた。


独創的な操縦技術よりもずっとその声が記憶に残っている。

本当に真っ直ぐな声だった。


私、勝手に背負い込んで重い重いと泣いてるだけかしら。


バーボン、もう一杯もらうわね。


[サイコビリー]

お二人さん、盛り上がってるところ悪いが

俺たちにも少し話させてくれよな。


なあジェイ、お前さんはどうして

オペレーターになったんだ?


[ジェイ・カプレーティ]

へっ、私?何よ藪から棒に。


[サイコビリー]

社長が腹を割って話してくれたんだ。

俺たちだって、シャツのボタンの

一つ二つは開けないとフェアじゃないだろ。


[ジェイ・カプレーティ]

ああ、うん……それもそうね。


……私はね、単純に仕事がなかったの。

なんか薄っぺらくて恥ずかしいんだけど。


本当は、キャビン・アテンダントになりたかった。


昔、家族でいった海外旅行でね、

すごい素敵な女性ひとが居て。


それからずっと、彼女みたくなりたかった。


もう民間の飛行機、全然飛べなくなっちゃったし

そもそもキャビン・アテンダントになるには

高いヒール履いても規程身長ギリギリなんだけどさ。


正直、あの紛争さえなければ……って思わなかったことはないよ。


別に今がイヤなわけじゃない。

尊敬できる上司、憎めない同僚に恵まれてる。


そして何より、オペレーターって

パイロットを助ける誇り高い仕事だって思う。


でもね、たまに思い出すの。


あの飛行機の中で忙しく働いて

そして、笑っていた彼女の姿をね。


さあビリー、次はあなたの番よ。


[サイコビリー]

確かに背はちょっと足りないかもしれないが

似合うんじゃねえかな、制服。

もし着たら見せてくれ。


さて、俺か……。


俺は十代の終わりからずっと合衆国の陸軍に居た。


世界各国、号令一つで戦場を行ったり来たりだ。

昇進して、いよいよ現場を離れるかっていうところで、除隊した。


理由?なァに簡単な話だ。

昔っから、カードゲームもボードゲームも好きじゃなかったからさ。


それからはずっとこんな有様だ。


俺はさ、社長が何とどんな理由で戦おうが正直どうでもいいんだ。


その迷いを話してくれただけで俺は社長を信頼できる。


それじゃメインディッシュに行こうか。


顔合わせて酒飲んだ時くらい自分のことを話せよなぁ、ロメオ!


[ジェイ・カプレーティ]

ロメオ?ねえ、ロメオ?


……あんたさ、フツー寝る!?

このタイミングでよ?マジでありえないわコイツ……


[イリーナ・ゴルベフ]

ビリー、ジェイ、それにロメオ。

今日はありがとう。


お陰でつまらない言い訳を飲み干すことができたわ。


私は、私の後悔を終わらせる。


付き合っていただけるかしら。


[サイコビリー]

兄弟ブラートに。


[ジェイ・カプレーティ]

乾杯。


[イリーナ・ゴルベフ]

さあ、朝まで飲むわよ。


[ジェイ・カプレーティ]

社長、それ何杯目ですか……。


://Dreams After Night,


[レイマ・レードルンド]

おい、起きろ。起きろ、ライネ。

いつまで伸びてるんだ。

立ち上がってさっさと剣を取れ。


[ライネ・レードルンド]

う、ううん……

ねえレイマ、もう休もうよ。

あちこちあざだらけで、息をするだけで身体が痛いんだ。


[レイマ・レードルンド]

……お前な、この前も父さんに言われたばかりだろ。

『レードルンドの名を継ぐものは、たとえ手足が千切れても、獅子の如く戦え』って。

まだほんの五十も試合ってないんだ。

こんなんじゃ立派な戦士になれないぜ?


[ライネ・レードルンド]

そうだけど……。でも、何回やってもレイマには勝てないよ。

身長も、体重も、運動だって、勉強だって、やっぱりレイマには勝てないよ。


[レイマ・レードルンド]

なぁ、ライネ。

負けるとわかってて勝負するやつがいるか?

んー……まぁいるかもしれない。よし仮に、いたとしよう。

でもさ、そんな奴を父さんが認めると思うか?


[コード・ホテル]

そりゃあ俺だって死にたくなかったぜ、相棒。


もし俺がロボットアニメのヒーローみたいに

理不尽なくらいに強かったなら

あのテロリストを蜂の巣にして

初陣で鬼の首取って高らかに凱旋さ。


でも俺は黒焦げになった。

手も足も出なかったよ。俺が弱かったからか?


教えてくれよ、相棒。

やっぱり、弱いことは悪いことだよな?


[ライネ・レードルンド]

弱いことは、別に悪いことじゃないよ。

でも強くないと、出来ないことがあるって父さんは言っていた。


[コード・ホテル]

そうだよなァ、生き延びるってことは

強くないとできないことなんだよな。

お前の親父が言うには、な。


[ライネ・レードルンド]

うん。

それから、負けるとわかって勝負するやつがいたとしても

父さんはきっと認めないと思う。


[レイマ・レードルンド]

お前何ブツブツ言ってるんだ?

木剣ぼっけんで頭を叩かれすぎて幻でも見てるのか?


とにかく、続けるぞ。

レードルンドの名を継ぐものは……

ええと、そう、手足が千切れても戦うんだ。


[スピリットフィード]

弱いものは割りを食う。非もなく全てを奪われる。

ただ、弱いというだけで、なにもかも奪われる。


故郷を、家族を、親を、子を、男を、女を、自由を、尊厳を。

俺は弱い奴らを守ることが強くあることの意味だと思っていた。


[ライネ・レードルンド]

誰かのために戦うってことは、とても素晴らしいと思う。

どこかで救われる人がいれば、武器を取るに足る理由になると思うよ。


[レイマ・レードルンド]

ライネ!いい加減に独り言はやめろ。

さあ、早く剣を取れ!もう十本だ。行くぞ。


[ライネ・レードルンド]

レイマ、もうやめようよ。痛いんだ。

手足が動かないんだ。目がよく見えないんだ。


[コード・ホテル]

痛い?手足が動かない?目がよく見えない?


へぇ、イイよなぁお前はさ。

もう俺は痛みなんか分かんねえし、手足どころか目玉だってないぜ。

ぜーんぶ、燃え落ちちまったよ。


なぁ、助けてくれよ。まだ熱いんだよ俺の体が。

とっくに消し炭になったはずの体が熱いんだよ。

もう無いはずの体が。


開かねえんだよ、コックピットが。


なぁ、助けてくれよ相棒。同期のでさァ!

俺はまだ生きたいんだ。死にたくなかったんだよ。


[スピリットフィード]

そうだ、誰だって死にたくない、誰だって死なせたくない。


そうなれば選択肢はもう一つだけだ。

戦い続けろ、負けてはならない。それが誰であってもだ。


それ故に傲慢だ。俺も、お前も。


その傲慢さを貫き通すために

お前はこれまでに、何を賭けたのだ?


[ライネ・レードルンド]

レイマみたいに、強くなれないよ。

痛みが怖いんだ。もし、相手に治らない怪我を負わせてしまったら、

どうやってつぐなっていいか、あがなっていいか、見当がつかないんだ。


[スピリットフィード]

償うだの、贖うだの。

全く、気が早いものだ。


お前のその余裕は一体どこから来る?


心の底から、相手のことを考えずに

ただ一つの椅子を取り合ったことはあるのか?


当たり前のように、相手に打ち勝ったその後のことまで考える。

見習いたいものだよ、その余裕を。


だが覚えておけ。

時としてその配慮が、相手の全てを傷つけることになる。


[コード・ホテル]

こぼれ出たミルクは二度と瓶には戻らない。

相棒、お前は取り返しがつかないことを取り返そうとしてる。


それはルール違反だろう?

それをしたら、浮かばれねえだろう。


それだけは、御法度ごはっとってやつじゃないのかね。


諦めろよ。

責任は生き残った奴が負うんだ。


いつか、そいつが、死ぬまでな。


[レイマ・レードルンド]

「レードルンド家は代々傭兵を生業なりわいとしてきた一族だ。

 その髪が伸びきる頃には、当然のこととしてお前たちはどこかの戦場に行く。」


親父の口癖だった。


見送って欲しかったよ。


[ライネ・レードルンド]

父さん、父さん……いかないで。

まだ無理だよ、父さんがいなきゃダメなんだよ。

一人じゃ……何もできないよ。


[レイマ・レードルンド]

なあライネ。

もっと強くならないといつかお前本当に死んじゃうぞ?


あんまりメソメソするなよ。

そんなんじゃ親父が安心して逝けないだろ。


強くなって、沢山戦果を挙げて、またここに戻ってこようぜ。

大丈夫だよ。親父は、天国からお前を見ていてくれるさ。


[スピリットフィード]

弱いものは強いものの重荷になる。

強いものはこともなく、抱え、担ぎ、歩いていく。


弱いものは重荷になる事で自分を正しめようとする。


意味と価値を無理矢理に生み出そうとする。


赤子が泣くのと同じことだ。


[ライネ・レードルンド]

レイマ。だね。調子はどう?


いい知らせがあるよ。新しい薬が認可されたって。

それを使えば、きっと良くなるよ。


さあレイマ、起きて。ご覧よ、窓の外はもう夏だ。


[レイマ・レードルンド]

すまないが肩を貸してくれ。

情けない話だがもう自力で起き上がれないんだ。


ふう。


ここ数日ずっと昔のことを考えていた。


お前、いや俺たちがまだ泣き虫で

どうしょうもないガキだった頃のことだ。


覚えているか、親父の葬式の日のことを。

よく乾いた、とても暑い日だった。


[ライネ・レードルンド]

覚えてるよ。うだるように暑いのにみんな黒い服を着て。

普段有り付けないようなご馳走とお酒を机一杯に並べて。


みんな、困ったような怒ったような顔をしていた。


[レイマ・レードルンド]

はは、じゃないのか?そこは。

なんか、お前らしい言い草だな。


叔母さんから聞いたよ。

仕事決まったんだってな。大手民間軍事会社。


親父、めちゃくちゃ喜んでると思う。

これがレードルンドの血だ!……なんつってさ。


お前がそうなって、俺がこんなで。

分かんないもんだよな、人生って。


[コード・ホテル]

「でもやっぱりレイマには……」

なんて言ってみろ?それこそ本当に最悪だぜ。


相手が望む言葉をかけられないなら

余計なこと言わないで黙ってるってのが

エチケットってもんじゃないんですか。


[ライネ・レードルンド]

……そうだね。


[スピリットフィード]

お前が現れた時、俺の心は踊った。


火を近づければ燃え上がるような純度の高い武力が

混ざって濁ってしまった俺を、終わらせに来てくれたと。


そうだ、それでいい、それでよかった。


どこにも混ざらない。なにも交わさない。


それでよかったんだ。


[レイマ・レードルンド]

ベッドの横の引き出しを開けてくれ。

柄じゃないが、お前にお祝いだ。


[ライネ・レードルンド]

ありがとう。

包みを解いても?


[レイマ・レードルンド]

もちろん。


[ライネ・レードルンド]

懐中時計……綺麗だ。


[レイマ・レードルンド]

このご時世にアナログな時計っていうのも悪くないだろ。

うちの家紋も入っている。


[ライネ・レードルンド]

レイマ、この時計はもしかして……。


[レイマ・レードルンド]

そうだ。

だが、俺にはもう必要のないものだ。


いや、俺にはもう受け取れないものだ。

お前が引き継げ。


[コード・ホテル]

チック・タック・チック・タック。


なあ、お前はこの時、嬉しかったんだよな?

身震いするくらい、嬉しかったんだよな?


一族のシンボルを、名誉を、証明を

目の上のたんこぶみたいなレイマから

直ら差し出させたんだもんな?


ほら、喜べよ。飛び跳ねて喜べよ。


それともまだいじけて言いたいのか?

「レイマにはかなわないよ……」ってよ。


[ライネ・レードルンド]

……違う。


[レイマ・レードルンド]

どうした。

何か、気に障ったか。


[ライネ・レードルンド]

お前らに何がわかる!


[コード・ホテル]

わかるさ。俺はとっくの通りに死んだんだ。

俺はお前の中にしかいない。だから俺じゃない。


お前の中に、お前の頭の中に、

こびりついているだけの俺の残滓ざんしだよ。


だけどお前は一生引き摺っていく。

後悔か、あるいはそれが何かはわからないが

顔も知らない俺のことをずっと引き摺っていく。


[スピリットフィード]

ハエの王がお前でよかった。

俺が背負せおっていた意味のない重りを、

弱さを固めて出来た虚勢のかたまりを、

引き受けてくれた。


だからお前はどこまでも純度を保て。


思想に、信条に、情動に負けて呑まれぬよう

その苦しみに潰されぬよう、純度を保て。


俺は先に終わる。

そして、濁っていく意識の底でお前をずっと見ていよう。


[コード・ホテル]

そう、だから、わかるんだよ俺たちは……。


お前が喜んでいることを。


レイマ・レードルンドの陰から飛び出れて

心の底から喜んでいることを!


[ライネ・レードルンド]

一度だって、そんなふうに考えたことはないッ!

レイマは、とても、とても大切な……


[レイマ・レードルンド]

どうしたんだよライネ。しっかりしろ。


[ライネ・レードルンド]

レイマ、よく顔を見せておくれ。

なぜか思い出せないんだ。

君の顔をよく思い出せないんだ。


あんなに一緒に過ごしたのに、あんなに一緒に暮らしたのに。


なんでだろう。

君の顔を思い出すことができないんだ。


[レイマ・レードルンド]

落ち着け。何があった?俺はここにいる。


さあ、呼吸を整えるんだ。またそんなに泣きじゃくって……

親父に見つかったら昔みたいに殴られるぞ。


[コード・ホテル]

思い出に浸る時間も、もう終わりだ。

あの口うるさい雌犬ビッチがお前を起こしにくる。


デリカシーがあるようで自分のことしか考えてない

お節介で感情の起伏が激しいスピーカーみたいな女が

自分を慰めるためだけに、今日も起きないお前を起こしにくる。


病室には誰も観客がいないことを知りながら

胡散うさん臭い涙を流しにくる。


お前の気持ちなんてこれっぽっちも知ろうとしなかったくせに。


出たくないだろう?起きたくないだろう?

色々と、お察しするぜ。


はお前に優しいからな。


多方面から圧迫された劣等感に包まれて

ゆりかごのように揺れて、眠っていられる。


[スピリットフィード]

俺たちはお前をずっと見ている。


強烈な動機も悲痛な背景も持たず

手段としてではなく目的として戦うことを選んだ、

そんなお前が、ハエの王としてうなり続けるか、

それともハエにたかられる死骸に朽ちるか。


眠りに逃げるな、助けを求めるな。


俺たちはずっと見ているぞ。


[ライネ・レードルンド]

消えろ!消えてくれ、消えてくれ、頼む。

レイマ、レイマ、君の顔を見せてくれ。


[レイマ・レードルンド]

ライネ。

今お前は悪い夢を見ているんだ。


大丈夫だ。俺の体が病に負けるまで、ここでこうしていよう。


[ライネ・レードルンド]

レイマ、死なないで。逝かないで。


父さんみたいに、居なくならないで。


本当は何がほしいのか、本当は何をしたいのか。

どうか、教えてほしい。


あれから、ずっと隙間が埋まらないままなんだ。


だから、レイマ。


置いていかないで。


[レイマ・レードルンド]

ライネ、もう泣くな。

父さんに言われただろう


『レードルンドの名を継ぐものは、たとえ手足が千切れても、獅子の如く戦え』

と。


[ジェイ・カプレーティ]

だからお願い。


起きて。

目を覚まして、ロメオ。


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